25. 256日目① 冬の行事。
しんしんと降り積もる雪。少し風も出てきたのでこの後、吹雪く可能性も十分にありそうだ。
そんな外の光景を窓から眺めながらミノリは、転生前なら『今ぐらいに行われるある行事』について思い返していた。
「転生前だったらこの時期、クリスマスにお正月に大忙しだったんだけど……こっちはどんな祭りがあるかさっぱりだものなぁ……」
何かにかこつけて2人にごちそうを作りたいのだが、いかんせんこっちの世界での行事についてはさっぱりである。ゲーム中でも特に触れられていないのだから何も無い可能性だってある。
ネメとトーイラに聞くのも難しいだろう。2人は町では酷い扱いだった為、恐らくそういった行事には何一つ参加させてもらえてなかっただろうから、何も知らない可能性だって十分にある。
そのまま暫くの間悩んでいたミノリだったが、今日は別の用事があることを思い出した。
「あ、そういえば今日はシャルの宅配の日だった」
冬の間は宅配をお願いしないつもりで考えていたのだったが、冬支度の際に、そのことを伝えられたシャルが作画崩壊にも程がある顔をして泣き崩れてしまったのである。
「お姉様の麗しきご尊顔を春まで拝めないなんてあんまりです!! ……ハッ!? これが聞くところによる放置プレイってやつでは!? でもお姉様のいけずぅ! せめて月1回だけでもそのご尊顔をぉ……」
相変わらず訳の分からない事ばかり言うシャルにドン引きしたミノリ。そして結局春までの間は月に1回宅配をお願いするという事で話をつけたのだった。
「それじゃ2人とも、私、宅配受け取ってくるからお留守番宜しくね」
シャルとミノリを2人きりにさせたくないネメとトーイラだったが、天気が悪化する可能性もあるから、同行することを断念してもらった。しかし……。
「気をつけてね、ママ。あの泥棒猫には」
「あの顔に ピンときたら 五寸釘」
シャルの事がとことん嫌いなのか、どす黒いオーラが漂う2人。
「ふ、2人とも落ち着いてね? ただ宅配を受け取ってくるだけだから……」
そう2人に伝えるとミノリはそそくさと家を後にし、シャルから宅配を受け取るいつもの場所へと向かうのだった。
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ミノリが森の出口あたりの受取場所に着くと、既にシャルが先に来ていたようでミノリに向かってブンブンと手を振っている。
「あ、お姉様ぁーー!」
(こう傍から見るだけならただのかわいらしい女の子なんだけど……、どうしてここまで残念な子に変貌しちゃったんだろう……)
心の中でこっそり思うミノリ。
「ごめんね、シャル。待たせちゃった?」
「そんな事ないですよお姉様!! 私、お姉様の為なら巨大ガエルの口の中にだって喜んで入って、お姉様の事を待ちますもの!」
「これからも頼まないわそんなん」
段々とシャルの扱いに慣れてきたのか、ぞんざいに扱う事が多くなってきたミノリ。
「あひぃ……お姉様の冷めた視線が突き刺さるぅ……。今日も会えた甲斐があったわぁ……」
(うーん……どうしたらいいんだろうこれ……。もうほっとこう)
変なものはスルー。それがミノリの信念なのだ。
「今日の宅配はこれだよね。いつもありがとうねシャル……あ」
「どうしましたお姉様?」
(そうだ、折角だからシャルに聞いてみよう。変装して町によく赴いているらしいから、人間の町の行事についても何か知っているかもしれない)
そのように思ったミノリは、シャルに尋ねることにした。
「えっとシャル、実はね……」
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「んー……人間の行事……ですか」
ミノリの話を聞いて、顎に手を置いて考え始めるシャル。
「そう、そしてできたら今ぐらいの時期の行事を知りたいんだけど……」
「あ、それならあれはどうです? イケイーエウの村の行事」
(イケイーエウの村……確かゲーム序盤にあった村だったような……でも宿屋と道具屋以外何もなくて殆ど立ち寄らなかった気がするなぁ……)
前世の記憶からゲーム知識を呼び起こすミノリ。
「それで、その村ではどんな行事があるの?」
「えっと、この時期ならメシナッゲの祭りがありますね」
「メシナッゲ?」
ゲームには出てこない聞き慣れない行事名なので一体どういう行事なのだろうとミノリが思っていると、シャルがその祭について説明をしてくれた。
「みんなで作って持ち寄った食べ物を、空に向かって投げて落ちてきたら当たらないように避ける行事です」
「そういう奇祭を聞きたいんじゃない」
即座にツッコミを入れるミノリだった。
「えー、わりと伝統ある行事なんですけど……」
「そんな祭りに伝統がある方が恐ろしいよ……。他にはどんな行事がある……?」
段々と期待できなくなっているような表情になっていくミノリ。
「あぁ、ではあれならどうです? ズエクゴジの町で今ぐらいの時期に行われている、積もった雪に頭から様々なポーズで突っ込んで、その深さと芸術度で点数を……」
「いや……もういい……」
この世界には奇祭しかないのだろうか……。げんなりとしてしまってすっかり聞く気を無くしてしまったミノリであった。




