223. 17年と10ヶ月目 それぞれの愛の形【挿絵あり】
バレンタイン回をやってみたくてこうして作ってみました。
性的表現をにおわせている箇所がありますので、苦手な方はご注意ください。
また、後書きにて描いていただいたミノリさんたちのイラストを紹介しています。
「あれ、お姉様何しているんですか? まだ夕飯の準備には早いですよね?」
ある昼下がりのこと。お昼を食べて片づけをし終えた本日のお昼ご飯担当であるシャルが一度自室に戻ってから居間へ戻ってくると、ミノリが台所へ何かの準備を始めている姿がシャルの視界に入った。
夕食の支度をするにはまだ早いと思われる時間なのに色々と準備しているその光景を不思議に思ったシャルは気になって声をかけると……どうやら夕飯とは別の作業だったようだ。
「えっとね、実は手作りチョコを作って明日みんなに渡そうかなーってふと思い立って準備していたんだ」
「チョコですか? それも明日……明日って何かありましたっけ……」
おやつにするのなら別に今日でもいいはずなのに、ミノリが『明日』渡すことが重要であるかのように話したため、再び首を傾げるシャルに、ミノリは続けて『明日』である理由を説明しだした。
「そう、明日である事が重要なんだ。えっとね、私の前世の世界では明日ぐらいの日にバレンタインデーと日があってね、その日は好きな相手にチョコを渡したりするんだよ。まぁ、人によって渡すものはチョコじゃなくてマシュマロだったりクッキーだったりするけどね」
そんな風にバレンタインについてシャルに説明したミノリ。しかしミノリが唐突にバレンタイン用のチョコを作ろうとしだした真の理由は別にあるようで……。
(……まぁ、そう言ったけど、実際はこないだ秋穂の結婚式の帰りに色々買ったんだけどその中にあった製菓用チョコの賞味期限が過ぎてたからで、これを一気に片づけちゃおうかなって……)
真の理由、それは秋穂の結婚式の際に大量に買った食料品の中にあった製菓用チョコの賞味期限が過ぎていたからなのであった。異世界でも食品ロスは減らしたい律儀なミノリなのである。ちなみにミノリは消費期限はだったらダメであるが賞味期限なら2,3日過ぎたとしてもあまり気にしなかったりする。
「へぇ、そういう日があるんですね……お姉様、私も一緒に作っていいですか? お姉様の話を聞いたらネメお嬢様とノゾミちゃんにも私も個人的に送ってみたくなりました」
「うん、いいよ。シャルも一緒に作ろう。私が作り方教えるから」
「ありがとうございます、お姉様。それじゃ早速……」
「待ってかーさま、シャルおねーちゃん。あたしも参加させてー。あたしもトーイラおねーちゃんに作りたい」
「あれ、リラも聞いていたの?」
「うん」
ミノリのバレンタインについての説明。ミノリはシャルしかいないと思ってシャルだけに説明したつもりだったのだが、どうやら室内にはミノリとシャルの視覚に入らない位置にリラもいたようで自分も参加させてほしいとミノリとシャルの元へやってきた。
現在リラは長年の想いが成就してトーイラと恋仲。だからこそミノリとシャルの話を聞いてトーイラに作りたくなったのであろう。ちなみにだが現在トーイラは買い出し、ネメとノゾミは2人で狩りに出かけているため不在で、こうしてサプライでチョコを作るのにある意味絶好のタイミングともいえる。
そうだね、みんなで一緒に作っちゃおうか。私は家族用にみんなに同じ大きさのをつくるから2人は渡したい相手に合う感じの型とか事前に決めておいてね」
「わかりました、お姉様」
「はーい」
こうして、みんなに送るチョコ作りを始めた3人。味を確認しながら湯煎で溶かしたチョコをかき混ぜるなどして準備を進め、いざ型にチョコを入れる時が来た。
「あ、お姉様。月の形の型ってあります?」
「月? ちょっと待ってね。うん、あるよ」
「よかったらそれを個人的に使わせてもらえませんか? ……ネメお嬢様の髪飾りと同じ形のものを送りたいです。ノゾミちゃんには……えっと……」
「ノゾミにはこの型がいいと思うよ、はい」
「? この型ですか?」
「うん、それノゾミが好きな物の形に似ているから」
「なるほど……それじゃこの型を使わせてもらいますね」
伴侶ネメに渡すチョコの型は決まったものの愛娘ノゾミに対してはなかなか決められなかったシャルであったが、そのシャルに助け船を出したミノリが渡したのは、菱型2つを直角に交差させた手裏剣に似た型。忍者に憧れているノゾミには最良の型であろう。
「それじゃリラもトーイラの髪飾りと同じ 太陽の形の型を使う?」
「うん、あたしそれがいい」
こうして3人はそれぞれ思い思いの型にチョコを流し入れてから氷魔法で固めてからラッピングを施してから、ネメとトーイラ、ノゾミに見つからないようにミノリは貯蔵庫の奥に隠した。
「シャルにリラ、お疲れー、それじゃあとは明日、渡す時までここに隠しておくからねー。……さてと、それじゃ3人が帰ってくる前に片づけなくちゃ」
「あはは、そうですね……」
「チョコのにおいもなんとかしないと……」
チョコづくり後の片付けに、ちょっと苦笑いを浮かべるミノリ達なのであった。
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「──というわけでトーイラ、ネメ、ノゾミ。これが私の世界にあったバレンタインデーという好きな人にチョコを送る日があって、それがこのチョコだよ。まぁ私の場合は家族愛という意味で渡すチョコだけどね」
そして翌日のオンヅカ家面々がそろった食卓。いただきますをする前にミノリがこっそり貯蔵庫から取り出したチョコをトーイラ達に色々説明しながらトーイラ達に手渡した。
「あ、ちなみにシャルはシャルでネメとノゾミに、リラはトーイラにそれぞれ私が渡したものとは別に別にチョコを用意しているよ」
「なんと」
「へぇ」
「やったー!」
とても嬉しそうな表情を見せる3人であったが、何故かその直後、トーイラとネメは少しがっかりしたような顔を見せた。
「あれ? 2人とも、チョコ嬉しくなかった?」
その表情が気になったミノリは思わず2人に尋ねたが、どうやらチョコをもらった事自体はは素直に嬉しかったようだ。
「嬉しくないはずがない、お母さんからのこの贈り物は世に数多ある宝飾品にも勝る一品であることは揺るぎなし事実。ただ……一点不満」
「私もネメと同じ気持ち……」
(あー……なんだろう、すごーく嫌な予感がする。重い方面で)
既に2人と家族になって17年も経つミノリ。もうこの時点で2人が何を考えているか察してしまった。そしてその予想は的中する事になる。
「お母さんがそんな尊き行事の存在を長期にわたって秘匿していた事に対してだけは遺憾で若干憤慨。私がその存在を事前把握していれば、今日という素晴らしき日の為に最上級の材料を用意しお母さんへの最大級の愛を込めたチョコを作り献上していた」
「だよねーネメ。 それは私達の背丈ぐらいの……むしろ私たちの型で作ったチョコを……」
「あはは……ごめんね、2人とも。今日マデ忘レテテ……」
そう釈明するミノリであったが、忘れていたというのは勿論嘘である。ミノリはこの17年間ずっと意図的に言わなかったのである。それは何故かというと……。
(だって絶対2人がバレンタインのこと知ったらなんだかとんでもないことになるのが目に見えているんだもの! 既に今話している内容がヤバいし! 模ったチョコは流石に愛が重いよ!!?)
来年度のバレンタインデーが急に恐ろしくなったミノリは内心戸惑っていたものの、それを表情に出さないように2人をなんとか宥めようと試みる。
「えっとね2人とも。これは気持ちの問題であって、大きくてもアンマリ意味ガ無イヨ。自分の体ヲカタドッテモ別ニ意味ナイカラネ……」
「むぅ……お母さんがそう言うなら」
「そっかー。ママが言うんじゃ仕方ないねー」
(よかった……。2人は納得してくれたみたい……)
最低でも2人の姿を模ったチョコを貰う事態だけはなんとしてでも避けたいミノリは片言でそう伝えるのが精一杯なのであった。2人がミノリの説明に本当に納得してくれたかは不明だが……。
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──その日の夜、恋仲になったものの『一線を越えた事をしてはいけない』というミノリからのお達しにより、まだミノリと同室にベッドがあるリラとトーイラは……居間でいちゃいちゃしていた。
「これね、トーイラおねーちゃんのためにつくったんだよ。あとで食べてね」
「ありがとうねリラ。大事に食べるからね」
「うん。……それでそのうちあたしのことも」
「……しー。それはまだ内緒」
「あ……そうだったね。うん」
今、この部屋にミノリがいないことをいいことに 何か怪しい会話そしていた。
この2人、ミノリの言いつけにより一線は越えないと宣言して、それを遵守しているはずなのだが……本当なのだろうか?
ただただ疑問に残る会話をしている2人なのであった。
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「えっと、ネメお嬢様。お姉様と一緒に寝ることにしたノゾミちゃんには先に渡してしまいましたが……こちらはネメお嬢様に作った私からのチョコです」
そしてリラがトーイラにチョコを渡した時間よりもさらに一時間後のシャルとネメの寝室。
こちらではシャルが作ったチョコをネメに見せていた。ちなみにシャルのはベビードールを纏っている。
「ありがとうシャル。私は非情に歓喜。……でも、なんでその格好で?」
「そ、それはですね、このチョコをですね……えい」
「!??」
チョコを渡すだけなら別にベビードールを着る必要はないのだが、シャルは敢えてその格好をしていた。その点を不思議に思ったネメがシャルに尋ねると……なんとシャルは自分の胸の谷間にチョコをはさんだのだ。
そんなシャルの行動に普段表情が変わらないネメも思わず目を見開いた。
「えへへ、月の形のチョコをが私の体温で溶けていって……私の体も染めていくんですよね。……今、すっかりネメお嬢様に染められてしまっているみたいに」
「しゃ、しゃる……」
「えへへ……なんてちょっと恥ずかしいですけど……って、あ、あれ!!? ネメお嬢様……?」
シャルはただ、ネメの事を心から愛しているということをチョコを使って伝えたかっただけのようだったが……どうやらネメは違う解釈をしたようで、シャルはいつの間にかネメに組み敷かれてしまった。そんなネメの行動に戸惑うシャル。
「シャルが今私に対して見せた行動はチョコを私ごと食べてほしいという意味だと私は解釈。シャルなら私は食べ尽くすいろんな意味で。むしろ今すぐ食べたい食べ尽くしたい」
「ネ、ネメお嬢様!? 目が爛々としてますけど!? 私はそういう意味でやろうとしたわけじゃ」
「矛盾。明らかに私の情欲を刺激している。そんな嫁を食べない伴侶はいない」
「あ、あはは……できたらやさしくしてくださいね……?」
どうやら変なスイッチが入ってしまったらしいネメになんとかそう懇願したシャルであったが……その日はいつも以上に何かをされているらしいシャルの声が寝室で眠るミノリの耳に聞こえてきたそうな。
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「あーやっぱりこうなったか……。ノゾミを私と一緒に寝るようにして正解だったよ」
そうポツリとつぶやいてからミノリは軽くため息をついて横でぐっすりと嬉しそうに眠るノゾミの頭を優しくなでてから、静かに瞼を閉じたのであった。




