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219. 17年と4ヶ月目⑩ 大団円……?

「──帰ってきた……んだよね?」

「そうみたいだよー、ママ」


 ノゾミがドロンする術を使った後、真っ暗な場所を歩いた末にミノリたちが辿り着いたのは見慣れた我が家の前。そしてみんなの腕や背中にはあちらの世界で大量に買ったスーパーの品物に車椅子。


 ミノリ達は無事に帰ってくる事が出来たようだ。


「はぁ、なんだか色々あって疲れたけど……私、すごく満足できたよ。みんなはあっちの世界へ行ってみてどう思った?」


 ミノリが今日の結婚式などであちらの世界に行った感想をみんなに尋ねると、全員が嬉しそうな顔でミノリの問いに答えた。


「面白かったよー」

「貴重な経験に感無量」

「あたしも。緊張したけどアキホさんの為にフラワーエンジェル成功して良かった……」

「私も楽しかったです」

「ノゾも!」


「そっかぁ、みんなが喜んでくれてよかったよ。私もこうして秋穂やお母さん、お父さんたちに自分が穂里だと理解してもらえて、その上みんなと一緒に写真に移る事が出来て、とっても嬉し……あ」


 そこまでミノリが話した瞬間、ミノリはかつて見た夢の事を思い出した。それは確かトーイラやネメたちが10歳を迎えた頃に見た夢で……。


(そういえば……随分前の事だけで、私って夢であっちの世界の家族に私の娘たちを会わせる夢を見た事があったっけ。……まさかあの夢が正夢になっちゃうなんて思っても見なかったなぁ)


「お母さん、どしたの? 何か考え事?」

「あ、いや大した事じゃないよ。……昔にね、秋穂達とネメ達、みんなで勢ぞろい出来たらいいな、なんて思ったり、夢で見た事があったんだけど、それが叶って、とっても嬉しいんだ」


 ミノリもまた、先程どころか今日一日中ことあるごとに泣いていたのが嘘のように一番の笑顔を家族に向けてみせてから、タカネに手渡された今日撮った最初で最後となった家族全員の記念写真を見返す。

 

「だけどもう、こんな写真を撮る機会なんてもう無いんだよね。もうあっちの世界に行かないって決めていたし、ノゾミが置いてきた私の形の人形もちゃんと回収してきたし……ってあれ?ちょっと待って、人形が1体足りないんだけど……」


 まさか持ってくるつもりでまた置き忘れてきたのかと慌てたミノリは誰か持ってないかと家族全員の顔を見渡すと……ノゾミが不自然に目を反らした。


 明らかに何かを知っている反応だ。


「えーっと……ノゾミ?」

「…………」


 何も言わずにミノリから目を反らし続けるノゾミ。もうこれで何を知っているか確定だろうと思っていると……。


「えっとかーさま……実はかーさまがおばーさまと話している間にアキホさんにノゾミちゃんがこっそり手渡していたよ」

「ふーん……やっぱりそうなんだね、ノゾミ」

「あ! リラおねーちゃんなんで言っちゃうのー!!」


 リラの証言によって秋穂に渡したことが確定してしまった。もうあちらの世界に行かない以上、回収はもう不可能であるが、ドロンする術が使える以上ノゾミはミノリ人形を目印に行けてしまう。しかしもう行ってはいけないとミノリはノゾミに注意を促す。


「全くもう……渡してしまったものはしょうがないけど、もうあっちの世界には行っちゃだめだからね」

「はーい」


 明らかに適当に受け流した返事であった。これはまた近いうちにノゾミはあっちの世界に遊びに行く(転移する)つもりだなとミノリはじとーっと見ているが、ノゾミはイタズラがばれてよそ見をする犬のように全くミノリの視線を合わせようとしない。


 そんなノゾミの反応に仕方ないなぁなんてミノリが思っていると……トーイラがミノリの隣にやってきて少し緊張した表情で話しかけてきた。


「……ねぇママ、今日の結婚式でも思ったけど、やっぱりママって自分の幸せより……家族の幸せが優先なんだね」

「……うん、勿論だよ。だって私にとっての幸せって、家族みんなが幸せになる事だもの。これは前世から変わらない信条だよ」


「……そうなんだよね。ママの前世での妹だったアキホさんのために今日結婚式に出たってことを考えると……やっぱり私がいくらママを振り向かせようと頑張っても家族としての立場優先だから厳しいんだよね……」


 そこまで言い切ると、先程まで思い冷たいようなトーイラの表情が一変して晴れ晴れとしたものに変わった。どうやら何かに対して吹っ切れたようで、ミノリの隣から離れるとトーイラは今度はリラへ近づく。


「リラ……えっと……大役お疲れ様。とっても綺麗だったよ」

「あ……うん、ありがと、トーイラおねーちゃん……」


 大好きな姉に褒められてうれしいリラが、にこやかに微笑むとトーイラはリラの手を取って、真剣な表情でリラにその想いを伝えた。


「今日のリラ、すっごく綺麗で……神々しくて、私にはもったいないくらい……素敵だったよ。……私、そんなリラに愛されていて、恋人になりたいって思われているんだよね。リラ……今までずっと我慢させてごめんね。そして待ってくれてありがとうね。私、決心がついたよ。私、あなたの想いに応えて、リラの恋人になるよ」

「!! いいの、トーイラおねーちゃん……? まだあたし、16歳になってないよ? ……約束の日までまだあるけど……」


「うん、確かに期限はまだまだあるけど、今日の結婚式を見て考えが固まったんだ。私、リラのこと幸せにしてあげたい」


 トーイラからリラへの一世一代の告白。それを聞いた途端、リラは瞳を潤ませたかと思うと喜びの涙を流し始めた。


「あ……ありがと、ありがとトーイラおねーちゃん。あたしの気持ち、受け取ってくれて……うれしい……」


 3年間ずっと想い続けたトーイラがようやく首を縦に振ってくれたのだ。泣かないはずがない。そしてそんなリラを祝福するようにミノリは2人に言葉を掛けた。


「よかったねリラ。夢が叶って。……トーイラ、今日からリラがあなたの恋人になったんだから、絶対にリラのことを幸せにしてあげてね」

「もちろんだよママ!」


 3年もの間、リラのトーイラへの想いがついに結ばれたことで、この場にいた家族たちからも祝福するような空気が流れたのだが、その中で唯一、ノゾミだけが不敵な笑みを浮かべながらミノリに抱きついた。


「おばーちゃん!!」

「わっ、と……どうしたのノゾミ?」

「トーイラおねーちゃんがリラおねーちゃんとくっついたって事はー……ノゾがおばーちゃんを独占できるって事だよね!? やった!おばーちゃんのおへそとおばーちゃんはノゾのもの!!」

「待ってノゾミ!? 何もかもがおかしいしそもそも私のおへそがノゾミのものになることは絶対に無いって思ってるからね!? 第一ノゾミにはホプルちゃんがいるでしょ!?」

「おばーちゃんのおへそは別枠だもん! だからノゾはホプルちゃんと結婚しておばーちゃんのおへそとも結婚するんだもん!!」


「何言ってるのか全然わからないよノゾミ!? というか私のおへそをおやつか何かみたいな扱いにするのやめてね!? 」


 トーイラの告白が発端となってノゾミまでもが暴走して収拾がつかなくなりかけている現場。

 そしてここにきてまさかシャルがさらなる爆弾発言をしかけてくるなど……誰もが予想できなかった。


「あ、でもノゾミちゃんの発言は言い得て妙だと思いますよ。だって、私もそうですけどお姉様は元がモンスターである以上、この国の法律に縛られてはいないのですから重婚しようが何しようが全然関係なくて、それどころかお姉様が首を縦に振れば皆さんと結婚可能な状態なんですよね。

 強いていえば私たちの中で結婚できないのって実の姉妹関係であるトーイラお嬢様とネメお嬢様の組み合わせだけでほかは結婚できない以外は全員できるはずです。ノゾミちゃんはモンスターの私と人間のネメお嬢様との子供なので扱いとしてはちょっと微妙……ですけど」

「「「!!!」」」


 シャルのとんでもない発言によって、大きく目を見開くミノリとトーイラ、そしてネメ。しかし表情は様々でミノリは驚愕を受けたような顔だったのに対してトーイラとネメはその瞳の生気をみなぎらせた。


「え? なにそれ本当なのシャルさん!?」

「なんと。驚愕の事実に驚きを隠せない私の心魂しんこん

「ちょ、シャル!? それが事実だとしてもなんでこの場で言っちゃうの!!?」


「あ、すみませんお姉様。ノゾミちゃんの発言が非常にこの場に適していたので思わず……。そして今の発言は本当です」


 シャルの発言が真実であるとわかったその瞬間、不敵な笑みを浮かべながらミノリの方へ振り返ったネメとシャル。


「シャル、いいこと教えてくれてありがとう。それはつまり私がシャルを嫁にしながら私もまたおかあさんの嫁になる資格を未だ有しているという事実」

「そっかぁ……ネメがそれをできるってことはつまり私もリラをお嫁さんにして上で、ネメと同じようにそれができるんだね? えへへ……そうなんだねぇママ……」


 まるで獲物を狙う狼のような目つきへと変貌する長女と次女。それはまだミノリを恋人にしようと淡々と狙っていた頃の目つき以上にギラギラしていて、思わずミノリは後ずさった。


「よしネメ、私たち協力してママをお嫁さんにしない?」

「名案。おかあさんは私たちの伴侶として据え、永遠に敬い崇める対象として祀り上げるべし」


 ミノリと絶対に結婚するという強い意志と欲望がネメとトーイラからひしひしと感じてしまったミノリは、顔を引きつらせながらさらに後ずさりを続け、そしてこの中で一番自分の味方になってくれそうなリラに助けを求めるつもりで声をかけた。


「リ、リラ! あなたの愛するトーイラおねーちゃんが変な事しようとしてるから止めて!? 恋人になったばかりで浮気とかだめだと思うでしょ?!」


 おそらくこの隠塚家の面々の中では特にまともに物事を判断できる良心的存在のリラに救いを求めたが、リラから返ってきたのは……ミノリにとってあまりに非情で哀しい答えであった。


「んー……あたしね、トーイラおねぇちゃん大好きで、さっき恋人にしてもらえて嬉しい気持ちでいっぱいなんだけど、トーイラおねぇちゃんがかーさまとも結婚することでもっと幸せな気持ちになれるのなら、それもいいかなって……。

 実はあたし、前に重婚できるってシャルおねーちゃんから既に聞いていたからトーイラおねーちゃんがそうしたいならあたしは第二夫人でもいいいかなって前から思っていたの。

 あたしもかーさまの事、大好きだし、トーイラおねーちゃんがあたしの気持ちに応えてくれた時点でもう満たされたからトーイラおねーちゃんが重婚するの、大歓迎だよ」


 残念ミノリさん! 三女はあまりにも寛容だった!! それどころか自分の想いが結実したためにすっかり舞い上がっておかしなことを宣っている!!


「それじゃおかあさん」

「ママ、私たちね」

「「これからも振り向いてもらえるように頑張るからね」」


「あ、あはは……」


 母の立場を崩さずにいたいミノリと、重婚という制約が消えた為に再びミノリと恋人になりたい想いが再び萌芽した娘たちとの真剣な攻防戦。ミノリの気苦労はまだまだこれからも続きそうである。




(なんでいっつもこうなるのかなー!!?)



……ミノリは一人、心の中で叫んだそうな。

次回エピローグ的な内容の最終話です。今日の18時投稿予定になります。

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