24. 215日目② 冬の準備と雪遊び、時々触手。
遠くの方でトーイラがおそらく風魔法を使っていると思われるような木の裂ける音を耳にしながら、ミノリとネメは森を抜けていつもの狩り場へとやってきた。
「あ、おね……おかあさん。あそこあそこ。ビミナルラビットがいる」
ネメがミノリの服をくいっくいっと引っ張りながら小声でミノリに伝えた。ビミナルラビットはこのあたりではたまにしか見かけないウサギ型のモンスター。その肉は『ほっぺたが落ちる』を体現したような味わいで、まさに美味なるラビット。
「よく見つけたねネメ。ビミナルラビットは逃げ足早いから、まずあれから狙って」
「ほいきたさっさ。動けないようにする」
ミノリにほめられた事が嬉しいネメはウキウキとしながら植物魔法を唱えるやいなや、アイムラビットの足下からツタが生え、あっという間にビミナルラビットをがんじがらめにされてしまった。
植物魔法が成功して、ムフーッと満足げなネメは、
「それじゃ、あれ倒してくる」
そう言うなり、身動きが取れないビミナルラビットの方へと駆け出していった。そのネメの圧倒的な魔法にミノリは深く感心していた。
「……すごいなぁネメの植物魔法。……ところで何故だか私にまで巻きついてきたせいで私も全く動けないんだけど」
魔法が強すぎたのか、そのツタはミノリにまで巻きついてしまい、ミノリまでもビミナルラビットと同様に身動きが取れなくなってしまっていた。
ビミナルラビットを倒してミノリの方へ戻ってきたネメは、身動きが取れないミノリの姿を見て、顔を真っ青にしながら何度も何度もミノリに謝った。
「ごめんなさい、おね……おかあさん。眼福の触手プレイだったけど今は求めてなかった」
「あはは……、いいよ。これで怪我したってわけじゃないからね」
……ネメの言葉の中にあきらかに耳にしたくない語句が含まれていたが、ミノリは聞かなかったことにした。
その後、一度に干し肉を作るのは厳しいという判断から、ウマミニクジルボアなどをいつもよりちょっと多い程度に狩った段階で、本日は引き上げる事に。しかし……。
「……狩ってから気づいたけど、これどうやって運ぼうか……」
「おね……おかあさんヌけてる」
いつも以上に狩ったために2人では持ちきれないという、しょうもないポカに漸く気づいたミノリだった。
「収納魔法みたいなのがあれば簡単に運べるんだけどそんなの無いしなぁ……」
「世の中そんなに甘くない」
もしかしたら、ネメかトーイラのどちらかが使えたりするかも?とカマをかけたミノリの発言だったのだが、スッパリと言われたあたり、やっぱりそんな魔法は存在しないようだ。
仕方ない、何往復かして運ぼうか……、そうミノリがネメに伝えようとすると、既に薪を作り終えたのかトーイラがやってきた。……リヤカーらしきものを引っ張りながら。
「トーイラ、そのリヤカーどうしたの?」
「んー? これリヤカーっていうの? ママたちがモンスターを沢山狩っても一度に運べないだろうから、さっき作ったんだー」
「ん、トーイラぐっじょぶ」
「ほんとにすごいね。トーイラ、ありがとうね」
「えへへぇ……」
なんて気の利く娘なんだろう、とミノリはトーイラの頭をなでるとなんとも恍惚とした表情を見せた。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか」
「「おー」」
そして3人は、狩ったモンスターをリヤカーに積めるだけ積み、積みきれなかったものは背負ったりするなどしてなんとか一度で家まで運ぶことができた。しかし家までついた直後……。
「あ! シャルに会うのすっかり忘れてた!」
その事がすっかり忘却の彼方だったミノリ、慌ててシャルのもとへ向かうのであった。
ちなみに、当然ながらミノリ単独でシャルに会わせたくないからと、ネメもトーイラも慌ててミノリの後を追いかけていったのは言うまでもない。
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それから一週間ほどかけて、ミノリたちが一冬分を過ごせそうなぐらいの干し肉を作り終える頃には、雪も降り始めてきて、数日もしないうちに雪景色に。
「うわぁすっかり外が真っ白。冬支度間に合ってよかったぁ」
冬支度が間に合ったことにミノリが安堵していると、
「ママー、お外で遊んでもいい?」
「外で? 吹雪いてるわけじゃないから別にいいけど……。何するの?」
「かまくらとか雪だるまとか。町にいる時から一度作ってみたかった」
キテタイハの町にいる頃はほぼ奴隷のような生活をしていた2人。町の子供たちが冬に遊ぶような事をおそらくしたことがなかったに違いない。
「うん、いいよ。あ、私も一緒に作るの混ぜてもらおうかな」
「「やったー!」」
防寒具を身につけると3人は一目散に外へと繰り出し、いそいそと雪玉を転がし始め、日が傾く頃には大きな雪だるまとかまくらが完成したのだった。
「ふぅ、大きいのができたね」
「おっきいね。ママ、手伝ってくれてありがとうー!」
「白い巨人に白の要塞」
そんな雪だるまとかまくらの出来映えに3人は満足。
「あ、そろそろごはん作らなきゃ、2人はそのまま遊んでていいよ。ごはん作ったら呼ぶからね」
「「はーい」」
そう2人に告げるとミノリは家へと戻っていった。その姿が見えなくなるのを確認すると、ネメはかまくらの中に入り、トーイラに一緒に入るよう促す。
トーイラが『どうしたの?』と聞きながらかまくらに入ると、ネメは先日起こしてしまった植物魔法での失敗をトーイラに切り出した。
「トーイラには正直に話す。うっかり使った植物魔法がおね……おかあさんにまでかかった」
「え!? どういう事!?」
「冬支度の狩りをするために、モンスターを動けなくする植物魔法使ったら、範囲が予想以上に広くておね……おかあさんにまで魔法がかかって動けなくなってた」
「それってつまり……!」
「さながら触手プレイ」
「ママの触手プレイ!? なにそれ見たかったー! ネメずるい!!」
「あれは眼福」
……2人のかまくら内での不穏な会話は、家の中にいるミノリに当然届くことはなかった。




