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211. 17年と4ヶ月目② ぶどう飴とバス。

「よかった、まだバスは来てないみたい」


 ミノリの前世である隠塚穂里おんづかみのりの生家から歩くこと15分。一番近くのバス停に到着したミノリが腕時計で現在時刻を確認した上で次に来るバスの時間がいつになるのかとバス停に貼られた時刻表で調べてみたら次にバスが来るのはおよそ10分ほど。

 予定通りバスが定刻通りに来て、その後渋滞や事故などのトラブルが起きなければ30分もすれば結婚式の式場へ無事着くことができそうだ。


 そんなわけでバスが来るまでの間、バス停の側であちこち周りをのんびり見回したり、雑談をしたりするミノリたちであったが……。


「あれ、どうしたのネメ?」


 風が少し収まったことで再びベールを頭にかぶったというのにネメが何故か眉間にしわを寄せているのにミノリは気がついた。

 ちなみにだがネメの機嫌が悪い時に眉間にできるしわは非常に短い線が一本しかできないため、常人の殆どには表情が全く変わっていないように見えるのだがそこは長年ネメの母親として一緒に過ごしてきたミノリ、そんなネメのわずかな表情の変化にもすぐ気づけるのである。


「お母さん、好奇な眼差しに私達が晒されている気配をひしひしと感じる」

「かーさま、あたしもすごく感じる……」


 ネメの機嫌が若干悪くなっていたのは時折通過する通行人や車の中から向けられる視線が原因だったようで、そしてそれはどうやらネメだけでなく人外要素部分が一番多い為に人一倍他人の視線に敏感なリラも同様に感じているようで眉を八の字にしながらその不安を口にした。


「あー……それは仕方ないことだから少しの間だけ我慢してくれるかな2人とも。ここって田舎だから知らない人がいると驚いて『あれは誰だろう、何しに来たんだろう』ってつい視線を向けちゃうんだよね。それだけじゃなくみんなってとても綺麗な顔立ちをしているから見惚みとれているのもあるかも」


 少し申し訳なさそうな顔をしたミノリは何故視線を向けられているのか、その理由を2人に伝えた。


(まぁ、わかっていたことだけど……目立つんだよねやっぱり。だってみんな綺麗なんだもん。そしてこの田舎のバス停とじゃあまりにも親和性に欠けるもんなぁ)


 まるで来日したファッションモデルのような美しい面立ちの集団が、綺麗なドレスを纏って田舎のバス停にたむろしているというチグハグな構図である以上、むしろ二度見しない方がおかしいわけで……。


 そんなミノリの説明を聞いてネメは納得したように周りにいる家族たちを軽く見回しながら小さくため息をついた。


「そういうことなら致し方なし。好奇の視線にさらされるのは既に常態化しているしこっちの世界の視線は、普段私とシャルが買い出しに行く時に向けられる犯罪の気配を感じる悪意込みの視線は全く向けられていないからまだ気楽」

「え、待ってネメ。買い出しに行く時っていつもそんな犯罪に巻き込まれそうな視線を感じているの?」


「私一人の時はそんなだけどシャルといる時は余計に。シャルは私のかわいい伴侶だからつい贔屓目ひいきめに考えてしまうけどそれを抜きにしてもシャルが美人なのは間違いないし、あの体つきは他人を籠絡ろうらくさせる傾城けいせいの魔性そのもの。

 そのせいでシャルにはよくかどわかして愛妾にでもしようか娼婦として売り払おうかという薄汚れた欲望塗れの視線が常日頃向けられていて、実際に行動に起こそうとする輩もいるからその都度すぐに蹴散らしている。シャルは絶対に渡さない」


「いや…多分それ、ネメもまとめてさらってしまおうって意味も入ってると思うよ? 2人揃っていると相乗効果で美しさに拍車がかかるわけだし……」


「そんなまさか。こんな無表情半目女である私を攫おうなどと考えるのは好事家にも程がある。私に向けられているのは珍獣を見る時の視線」


「……いやネメ、流石にそれは無いからね? かなりかわいい顔立ちしているからね?」


 基本的に無表情であるネメだが母親という立場を抜きにして見てもミノリから見てネメは確実に美形の部類に入る。

 それどころか人形のようなその無表情なところもまたネメを美しく見せている要素の一つだとミノリは考えているのだが、どういうわけだかネメは自分がその対象になるとは相変わらず微塵にも思っているような様子はない。


(この子ってば自分が美人であるという自覚、全然無いんだよなぁ。家の中を全裸で闊歩かっぽしても平気な顔しているのも自分が路傍ろぼうの石だという考えから来ているみたいだし……せめて美人であるという自覚はしなくてもいいから全裸でいることに対しての羞恥心だけでも芽生えてほしいけど……無理だろうなぁ、もう17年もこの子全裸でいても平気だもんなぁ……)


 少し頭を抱えたくなってしまったミノリではあったが、そういうミノリも先程視線を感じると言っていたネメとリラに話した際に使った『みんな』という部分に、自分もその注目の的の一端を担っている美形の部類に入るというのにミノリ自身はその言葉に自分を含まずに考えてしまっていて、ある意味似たもの同士なのである。


 その上ミノリは悪意を含んだ視線に対して非常に鈍感であり、結局のところ家族の中で誰よりも危ない状態であるということを自覚しておらず、ある意味その自覚のなさが原因で娘たちが過保護の過激派になってしまったわけだが……それに気づく日は来ることはなさそうである。



 ******



「ねぇママ、バスってそろそろ来る?」

「うーん、そろそろだと思うけど……あ、あれかな」


 バス停で待ち始めてから十分ほどが経過。バスが到着する時間になったためトーイラに尋ねられたミノリがバスのやってくる方の道路に視線を向けるとちょうど曲がり角からミノリたちが乗る予定のバスが姿を現した。


「みんな、バスが来たから集まってー」


 ミノリの呼びかけを聞いて少し離れた場所にいた家族たちがバス停に集まってくると、バスの運転手がぎょっとしたような顔をしたのにミノリは気がついた。


(わぁ、運転手さんがすっごく驚いた顔してる……まぁ、観光できるような場所がそんなに無い上に普段から乗る人も少ないような路線に私たちみたいな見慣れない集団がいたらそりゃ驚くよね、驚かせてごめんなさい運転手さん)


 ほんの少しだけ運転手さんに申し訳ない気持ちになりながら、ミノリが『中乗り前降り後払い方式バス』バスの真ん中にある扉が開くのを確認してからバス乗り口の整理券発券機に取り付けられたバスカード挿入口にバスカードを通してみると、事前に秋穂が話してくれたようにバスカードの残高は6人で数往復しても余裕なほどに残高が残っていた。


 これなら降りる際に現金で精算しなければならない状況になることも無さそうだ


「バスカードの残額もよし。みんなも乗ってきていいよー」


 外で待っていた家族に呼びかけてからミノリが席に座るとみんなも後に続いて次々とバスに乗っていく。

 ちなみにだがミノリがこちらの世界で死んでから既に17年経っている為、世間的にはICカードが普及してタッチ一つで乗れるようになってはいるのだが、ここは地方都市の閑散路線。

 まだICカードが普及しておらず、現金と定期券以外だとプリペイド方式のバスカードが主な乗車方法なのである。


 それはともかくミノリの近くに家族全員が着席するとバスはゆっくりと走り出す。そしてやはりといえばやはりなのだが乗客が少ない路線だけあって今このバスに乗っている乗客はミノリたちだけであった。


「結構揺れるって聞いていましたけど思ったより揺れませんねぇネメお嬢様」

首肯しゅこう首肯しゅこう。多分『揺れる』と聞いて私たちがつい乗り合い馬車を基準に考えてしまった事が要因。このバスという乗り物は馬車に比べたら全然揺れないし座席の座り心地は非常に快適。私たちの世界にもバスを一台供給希望したいぐらい」


 ミノリ後方の2人用席に座るネメとシャルが初めて乗ったバスの感想を話しているのがミノリの耳に入ってきた。知識としてはこの2週間でみっちりつけたネメたちだったが、サスペンションのない馬車とは違ってお尻が痛くならないバスは好印象らしい。


「おばーちゃんおばーちゃん」

「んー、どうしたのノゾミ?」


 2人の感想をもう少し聞いていたかったがミノリの隣に座ったノゾミが呼びかけてきたのでミノリはノゾミの方に顔を向けた。


「アキホおばちゃんからお菓子もらったんだよね? ノゾ、そのお菓子食べてみたいなー……」

「ぶどう飴? そういえばさっきバス停にいたのに食べなかったね。えっとー……うん、いいよ。私たち以外誰も乗ってないし」


 どうしたのかとミノリは思ったがどうやらノゾミは秋穂が置いていったおやつが気になっていたらしく、バスに乗るなりミノリに食べたいとおねだりしてきたのだ。

 他に乗客がいるのなら気を遣うのだが、ここは乗車率の少ない路線で現在バスに乗っているのもミノリたちだけ。


 次のバス停で誰かが乗ってくる可能性もあるにはあったが、すぐに食べきれるお菓子であることと匂いも出ないようなお菓子なのでミノリは取り出したぶどう飴をノゾミに手渡した。


「はい、どうぞ。だけどバスの中で食べていいのはこの一つだけだよ。結婚式でも豪華な食事が出るからそっちが食べられないのいやでしょ?」

「うん! わかった!」


 ミノリからぶどう飴を受け取ったノゾミは嬉しそうに包み紙を開けて早速とばかりにぶどう飴にかじりついた。


「おいしい~」

「よかったぁ。おいしいと言ってくれて。私も好きだったんだよねこれ。……私も食べようかな」


 ほっぺたを押さえながら満面の笑顔になるノゾミにつられるようにミノリも懐かしさからぶどう飴を食べようと包み紙に手を掛けかけたのだが……。


(……いや、私は後で食べることにしよう。だって、きっとぶどう飴を食べられるのはこれでもう最後になるだろうし……それをここで食べてしまうのはちょっと……ね)


 ミノリがそもそもこちらの世界へやって来たのはミノリの前世での妹である秋穂の結婚式に出席するためで、事前に秋穂とはこちらの世界に来るのは今日が最後と約束をしていた。


 だからこそこちらの世界の思い出になるものは大事にしたいとミノリは考え、ぶどう飴を食べずにそのまま手持ちのバッグにしまった。


(それに……今日で見納めになるこの景色……最後ぐらいはじっくり眺めていたいしね)


 もう見られなくなる見覚えのある景色たちを眺めているうちに、湧き出してくる寂しさでほんの少し胸が痛むミノリを乗せたバスはそのまま目的地に向かって走っていく。

 その間、バスの車内放送はいくつかのバス停の名前を告げていたのだが、誰かが乗ってくることもなく順調にバスは進み続けていて、この調子なら予定通りに結婚式の会場に着くことができそうだ。


「リラ、羽蒸れたりしない?」

「うん、平気だよトーイラおねーちゃん。トーイラおねーちゃんこそ具合悪くなったりしていない? バスって酔いやすいって本に書いてたけど……」

「私も問題ないかなー。むしろ快適だよー」


 ミノリの前の席に座るのはトーイラとリラ。

 お互いがお互いの体調を気遣いあうこの2人は血はつながってないどころか種族すらも違うわけだが、誰がどう見ても仲のよい姉妹にしか見えないだろう。


(そしてある意味、今日がリラにとっての正念場になるかも……がんばってね。……あれ、そういえばノゾミが妙に静か。こういう時っていつも騒ぐと思っていたんだけど……)


 ミノリがリラのことを心の中で応援したその時、隣に座る元気な孫ノゾミが妙に大人しいのに気づき隣の席に視線を向けると、ノゾミは食べかけのぶどう飴を手にしながらとろんとした目で船をこぎかけていた。

 ドロンする術で家族全員を連れてきたことで魔力をそれなりに消費したことの疲れが今出てしまったのだろうか。


「ノゾミ、もしかして眠い?」

「うん……。この時間、ノゾはよくお昼寝してるから」

「あ、そういえばそうだったね。……ごめんねノゾミ。無理させちゃって」

「ううん、平気だよおばーちゃん。それにノゾもね、アキホおばーちゃんの結婚式、来たかったから……」


 いくら体は5歳児並に大きくてもノゾミはまだ2歳。昼寝は大事な年頃だ。そのためミノリはノゾミに少しの間だけでも眠るように促した。


「ノゾミ、バスが着いたらちゃんと起こすからそれまでゆっくり眠ってても大丈夫だよ。多分ドロンする術でいっぱい魔力使っちゃったのも原因の一つだろうからバスから降りたら魔力回復薬あげるからね」

「わかった。ありがとおばーちゃん。それじゃノゾはちょっと眠るね。あとバスがつく前のボ……むにゃ」


 何かを言おうとしていたノゾミだったが、それを言いきる前にまるで電池が切れたかのようにミノリにもたれ掛かるように眠りについてしまった。そんなノゾミの頭を優しくなでながらミノリは再び車窓を流れていく見覚えのある景色をみやった。


(そういえばまだこっちの世界で生きていた頃は、こうやってバスからの車窓を何度も見てきたんだよね。

 あそこが秋穂がチョコバナナを落とした夏祭りをやっていた公民館で、あれが私が通っていた小学校……。あ、でも小さい頃よく通っていた駄菓子屋は建物も何もなくなっちゃっているし、秋穂がうっかりヨウシュヤマゴボウ食べてしまった時に落ちた用水路近くにあった大木も無くなっているし……それに遠くに見えるあれは……高速道路かな。昔から通す計画だけあるのは知っていたけど……いつの間にかできていたんだね)


 新しい道が整備されていたり、記憶にあったお店や大木や田んぼがなくなっていたりと、自分が死んでしまってからの歳月は思いのほかミノリが思い描いていた故郷の記憶から大きく姿を変えていた。


(山の稜線が変わることはまず無いけど細かく見てみると大分様変わりしていて……もうここは自分が住んでいた頃の町ではなくなったみたい……)


 17年前に時が止まってしまった自分には、様変わりしたこの町はもう自分の居るべき場所ではないのかもしれないと考えるミノリの思いをよそにバスは町の中心部へと入っていき、やがてミノリたちが降りる1つ前のバス停を通過した。



「ママ、ママ。降りるバス停って次でいいんだよね?」

「……あ、ごめんトーイラ。うん、それで大丈夫だよ」


「それじゃー……私たちでボタン押しちゃってもいい?」

「へ? 別にかまわないけど……」」


 前に座っていたトーイラが振り向いて、降りるバス停について尋ねてきたのでミノリは考えを一旦断ち切ってからそう答えるとトーイラは隣に座っていたリラに声をかけた。


「ほらリラ、次のバス停で降りるみたいだから、音声が流れたら降車ボタン押していいよ? 気になっていたみたいだもんね」

「トーイラおねーちゃん、いいの?」


──ピンポーン。次は、新町通り、新町通り。お降りの方はボタンを押してお知らせください。──


「うん、いいよー」

「ありがと、トーイラおねーちゃん……それじゃ押すね」


 ボタンを押すようトーイラがリラを促しているとタイミングよく次のバス停の案内音声が流れてきたのでそれを聞いたリラがおそるおそる降車ボタンを押してみると『ピンポーン』という音とともに流れてきた『次、まります』という案内音声がバス車内に響く。


「わぁ……すごい。本当に音が鳴ったし声もした……」


 おそらくもう二度と経験する事の出来ないであろうバスのボタンを押す経験に感動したように目を大きく開くリラであったが……その時であった。


「……あ、ボタン! ……あぁぁああ!!!! ボタン押したかったのにぃい!! ぁああああーーーーぁぁあああああーーーー!!! ぁあああああぇっぇえええああああ!!!」


 今まで眠っていたはずのノゾミがピンポーンという音と案内音声を聞いた途端に目を開けたのだが……どうやらバスの降車ボタンを自分が押したかったようで先にリラに押されてしまったことに気づいてショックを受けたのか大泣きしだしてしまったのだ。


(し、しまった! そういえばさっきノゾミが眠る直前に『ボ』って言っていたけど、あれってバスのボタンだったんだね!? そういえばバスについて教えていた時もノゾミは押しボタンに妙に食いついていたんだった! というかそうだよね! 子供ってこういうボタンとか押すの大好きなんだよね!? 秋穂もそうだったし!)


 こういうボタンを押したがるのはこちらの世界でもあちらの世界でも変わらないものだということにミノリは気づかされながら、なんとかノゾミをあやそうとするがノゾミは珍しく年相応に泣き止もうとしない。


「ごめん、ごめんねノゾミ! 帰り、帰りはノゾミが押していいからね!?」

「うぅうぅ、おばーちゃんのばかばかばかー!!」

「あっ、あっ、ちょ、ひゃ、や、やめて、やめてね!? 怒りながらすごい早さでおへそあたりを指でひたすらツンツンするのやめてね!? 私のお臍は押しボタンじゃないからやめてね!! というか変な声出ちゃうから!!」


 それどころか怒りの矛先を全てミノリのおへそに向けて放っていると言っても差し支えないほどノゾミは『ズドドド』と聞こえてきそうな1秒16連射レベルの早さでミノリのおへそのあるあたりを指で連打し続けている。


 基本的に暴走が平常運転である事の印象が強いために、影が薄いのだがノゾミは元々『ミノリのおへそ大好きネメ』の英才教育によってミノリのお臍を手中に収めたいという考えを持つようになってしまっていた『ミノリのおへそ信者過激派』で、その英才教育の成果がまさに今ここで発揮されてしまったのである。


「流石私の愛娘まなむすめノゾミ。お母さんのおへその位置を服で隠れて見えない状態からでも的確に攻めている」

「いやちょっとネメ感心してないでノゾミを止めて!? バスがもうすぐ止まるから私運転手さんに話にいかないといけないし!」

「了解」


  ミノリの後方の席でまるで師範代のような反応を見せる母親の一人で、且つノゾミに妙な思想を植え付けた元凶でもあるネメを軽くたしなめたミノリは、泣きじゃくるノゾミをなんとかネメに託してから6人分の代金を一度で払うことを運転手さんに申告しなければならなかったため、ちょうどバスが停まって、前方の降り口ドアが開いたところでミノリは深呼吸して気持ちを落ち着かせてから運転手さんにその事情を話そうと声を掛けた。


「う、運転手さんすみません。このバスカードで料金は6人分でお願いします。それとうるさくしてすみません……」


 バス後方からまだ聞こえてくるノゾミの泣き声をバックにミノリが若干気まずそうにしながら運転手さんにその旨を伝えるとミノリに話しかられる直前まで何故か緊張していた面持ちだった運転手さんが急に安堵した表情を見せながらポツリと口にした。


「よかった……日本語話せるんだ……。いや別にいいよ。他に誰も乗ってないし子供はあれが普通だから」


(あ、もしかして外国の人で言葉が通じないのかもと思ったのかな? さっきまでずっと喋っていたけど私たちは後ろの方に座っていたからエンジン音で聞こえていなかっただろうし)


 前世での感覚でバスに乗っていたが今のミノリは褐色肌で、明らかに日本人の大半を占める大和民族の容姿ではない。そしてほかの家族たちも明らかに日本人とは思えない顔立ちだったので思わずそうつぶやいたのだろう。


「それで6人の内訳なんですが……」

「えっと、大人3人に子ども3人でいいんだよね?」


「……大人5人と子ども1人です」


 運転手さんはおそらく、13歳ということでこちらの世界でなら中学生で大人料金になるはずであろうリラが年の割にあまり大きくないことで子どもだと勘違いしたのだろうが……それなら大人4人に子ども2人でいいはずである。


 それを踏まえると、スラッとした体型で背丈も大人の女性なみにあるネメ、童顔ではあるものの明らかに子供とは思えない抜群の容姿をもつシャル、ネメとシャルのいいとこどりをしたかのようなモデル体型のトーイラ、そして身長は145cm前後と小学六年生女子平均身長にも届かず、胸部も小ぶりで17年変わることのない卵肌の持ち主ミノリ。


 この4人のうちの誰か1人が子ども判定を受けたことになるのは間違いないのだが……ミノリはそれ以上考えないことにした。




 考えたら悲しくなるだけから。ミノリ自身が。



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