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208. 17年と3ヶ月4週目⑥ 助けた理由。

ミノリさんたちが店から出て行ったあとのスーフェとメーイの話です。

──ミノリたちが店を出てから数分後。



「スーフェー、今戻ったよー。ミノリさんたちはもう帰っちゃったかな……ってどうした? そんなにぐったりした顔しちゃって」


 用事を済ませてお店へ戻ってきたメーイの視界に真っ先に入ったのは体力を消耗しきったように机に突っ伏しているスーフェの姿であった。


「あ……メーイおかえり。緊張したわよ全くもう……」

「いやどうしたのさ、本当に」


 メーイの声を聞いたスーフェは顔を上げて事の顛末てんまつを話し始めた。


「……以前話した事があるけど、私がずっと負い目を感じていた女の子ってミノリさんの娘のリラちゃんだったのよ。私のせいでひどい目に遭ったっていうのに、それでもリラちゃんは私のことを許してくれて……」


 許してくれるどころか恋の応援までしてくれた。

 流石にそこまではスーフェの想い人当人であるメーイに話すことはできず、話が尻すぼみになってしまうスーフェであったが、メーイはその事についてはあまり気にせず、スーフェの気持ちに寄り添うように言葉を続けた。


「そっか。ミノリさんの娘さんがそうだったんだね……でも、よかったねスーフェ。まだスーフェと友達になってそんなに経ってないけれどスーフェがずっと悔やんでいる姿を見てきたから私もホッとしたよ」


「うん……ありがとうねメーイ。そういえば私、あなたに聞きたいことがあるんだけど……今更だけど初めて会った時なんで私のことを助けてくれたの? 私がモンスターだってすぐに気づいていたのよね……?」

「えっと……うーん、ただ助けたいと思ったからと言えばそれまでなんだけど……ミノリさんたちとも面識できたみたいだし、順を追って話すね」


 そしてスーフェはミノリたちと話をしていた時に疑問を覚えた点について続けてメーイに尋ねると、メーイはどう説明すればよいのか熟考しながらその理由を話し始める。


「えっと、まずはスーフェは今日会ったミノリさんが実はモンスターだったということには気づいた? 今は違うらしいし、私もお母さんに言われるまで全く気づかなかったけど」

「え、そうだったの? ダークエルフみたいな人間側の種族じゃなくてモンスターだったの?」


「うん、どうやらそうらしいんだよね。お母さんとミノリさんが初めて会ったのは今から17年も前でほかのモンスターに襲われていたところを助けた時みたいで、その頃はまだモンスターだって一目でわかったみたい」


 メーイの母親であるキテタイハ町長ハタメ・イーワックはすぐに気づいてメーイが気づかなかった理由、それは2人がミノリと出会った時期が、ハタメ・イーワックは仲間フラグ切替前のモンスター状態、メーイと出会ったのが切替後だったからであるが、この世界がゲームの世界であるという事情を当然メーイたちが知るはずもなく、メーイは話を続ける。


 そしてそれはメーイがこの町を出てカツマリカウモにいた理由でもあり、さらにはミノリの長女と次女であるトーイラとネメがこの町で過ごしていた頃の話でもあった。


「それで、ミノリさんがモンスターだったという事情を踏まえた上で聞いてほしいんだけど……今日は三女のリラちゃんしか来ていなかったけどミノリさんの上の娘2人ってこの町出身で確かお姉さんの方が光属性、妹の方が闇属性という正反対の属性の珍しい双子だったんだ。 

だけど昔この町では光属性と闇属性それぞれを持った双子が生まれてくるとそれを『光と闇の混沌』という言い伝えがあって『町に不幸をもたらす不吉な存在』として忌み嫌っていた。

 それを知っていて少しでも生みの親が2人に対する愛着でもあればよその町に2人を連れて逃げるなんてこともできたはずだけど……生みの親は全く2人に対して全く愛着がなかったのか2人を孤児院に置きざりにしてどこかへ逃げた。最悪な生みの親だよね」

「……」


 その出来事を話しながら苦々しげな表情へとなっていくメーイに対して、スーフェは言葉を返すことができなかったが……メーイは話を続ける。


「それで、言い伝えがあるとはいえ生まれたばかりの子供を始末するのは流石に避けたかったのか2人が立って歩けて話せるようになるまでは孤児院で育てられて、町を追放される6歳になる時までずっと奴隷みたいな扱いを2人は受けていたんだ。

 そんな幼い子によくそんなひどいことができるなって私は幼いなりに思って何度か手伝ったり助けようとしたんだけど……その前に周りの大人たちに止められて、挙げ句殴られたりしたよ。お母さんはその言い伝えを信じていない少数派だったからお母さんに怒られたり、なんてことはなかったけどお母さんも『自分は無力であの2人助けてあげられない』って嘆いていたっけ……。

 そしてあの子たちが本当に6歳になった日に町を追放されたのを見てこの町が本当にイヤになった。助けてあげられなかった自分にも。

 それに元々キテタイハの町の人の多くはよそ者を警戒する人柄だったんだけど、2人を追放する日は余計にそれが顕著になってたまたまその日に町に来ていただけの旅人に対しても非常に拒絶するような、冷たくあしらう現場も2人が追放される直前に目撃してて……こんな排他的な町、絶対出て行ってやるって私はそれから数年後にキテタイハの町を飛び出した」


 ちなみにだがメーイが目撃したという『その日たまたま町に来ていた旅人』というのは実はフードをかぶって正体を隠したミノリなのだが……当然ながらそれをメーイが知るはずもない。


「それで、キテタイハを飛び出してから10年後ぐらいだったかなぁ、私が初めてミノリさんたちに会ったのは。カツマリカウモで宿の店員として働いていたら、ミノリさんが2人の子供を連れて泊まりに来たんだ。

 その時のミノリさんのことを『褐色肌のダークエルフさんが人間の子供を養子にしているなんて珍しいなあ』ぐらいにしか思っていなかったし、記帳された名前を見ても偶然仮名ぐらいにしか思っていなかったんだけど、後でお母さんにミノリさんがモンスターで、子供2人もこの町を追放された双子だったって聞いてすごく驚いたよ。

『同じ人間に町から追放された2人の女の子が『人間に敵対して、人間に危害を加えるはずのモンスター』のはずのミノリさんに保護されて育てられたというんだよ。

 それを知ったらあの時何もできなかった自分が……すごく情けなくなったんだよね」


 自虐するように軽く笑いながら話すメーイ。そして話はメーイが町に戻ってきた時期の話へと移った。


「その後なんだか色々あって仕事を無くしから渋々キテタイハに戻ってきたんだけど……キテタイハに帰ってきたら町が一変していて何事と思っちゃったよ。双子に対する悪習が無くなっていて普通に双子が町で暮らしているし、弱気だったはずのお母さんが別人になったかのように性格が変貌してすごくアグレッシブになっていていて何故だか町長になっていたし、ミノリさん女神としてを崇めているしで……あまりの変化っぷりにわけが全くわからなかったというのが本音」


「そうね……聞いている私も意味がわからないわ、特に最後」


 メーイだけでなくスーフェまでもわけがわからないという顔をしているが、確かによそ者に対して排他的で、さらに古い言い伝えを信じて子供を追放するようなろくでもない町へ十数年ぶりに帰ってきたら臍女神を崇める謎の町に変貌していたらそんな顔もするだろう。


「……それを踏まえた上でスーフェを助けた理由に移るんだけど……スーフェはもう生命力も魔力も無い状態で森の中で狩りをしていた私のそばまで飛んできて倒れたのは覚えてる?」

「……ええ。でも意識が途切れ途切れだったからハッキリとは……」


「最初私もモンスターが急襲してきたと思って身構えたけど、スーフェは意識が朦朧としていたみたいでその場に倒れ込んだかと思うと私に向かって『助けて』って懇願するように手を伸ばしてきたんだよ、モンスターであるスーフェが人間の私に。

 足が膝から下がないのもその時見えていたし、それ以上にひどい怪我であと数分放置すれば多分私が手を出さなくても死ぬような感じで……それでも『生きたい』って思っているように見えて……それを見たらさっき話したミノリさんたちの事を思い出したんだよ。

 人間と敵対するモンスターのはずだったミノリさんが人間の子供を助けたのに、それを私ができないはずがないって。

 それに気づいた時には私はもう『この子のこと、助けてあげよう』っていう考えしか無くて持っていたありったけの回復薬をスーフェに飲ませていたんだ。無力な子供だったせいでミノリさんの娘さんたちを助けてあげられなかったことへの罪滅ぼしみたいな……ね。とまぁ、私がスーフェのことを助けた理由はこんな感じ。少し後ろ向きな理由な気もするけどね」


 メーイがスーフェのことを助けたのは元を辿たどればミノリの存在があったからで、自分一人だけではきっと助けようと動けなかったかもしれない、と自虐するかのように眉を八の字にしながら笑って理由を話したのに対し、スーフェは首を軽く横に振りながらメーイの手に自分の手を添えた。


「ううん、そんなことないわよメーイ。確かに話を聞けばメーイが私を助けるきっかけになったのはミノリさんのおかげかもしれない……だけど私のことを実際に助けてくれたのはメーイ、あなたよ。

 あなたがいなかったら私は確実に死んでいたし、それにメーイと一緒に過ごすようになってから私がモンスターとしての本能を抑えきれなくてあなたに対して何度も攻撃をしかけたりしたのにメーイは私のことを討伐することなく本能が収まるまで受け止めてくれた。

 それを考えるとね、私は何度もあなたに助けられていたんだって改めて気づいて、それが本当に嬉しいの……今更だけど改めて言うわね。

 私のこと助けてくれて、友達になってくれてありがとう、メーイ。私、あなたのこと……大好き」


「あはは、そう言ってもらえるの、本当に嬉しいね。私もスーフェのこと大切に想っているよ」


 メーイは自分を助けてくれた理由を聞いて感情が高まってしまったスーフェはお礼を述べると、先ほど恋を叶えたシャルに感化されたのかメーイに抱いていた想いを伝えてみたのだが……メーイから帰ってきたのは女友達としか思っていないような反応だった。


(うぅ……やっぱり友達としか思っていないような感じ……どうしたらメーイに恋心を抱いているって気づいてもらえるのかしら……)


 表情には出さないようにしながらスーフェは内心でがっかりしたのだが……。


(あぁもう……助けた時はある意味衝動的だったからなんとも思っていなかったのに、今改めて見るとスーフェってば笑顔が本当にかわいくてつい見惚みとれちゃいそうになるんだよなぁ……っていけないいけない、スーフェの好意は私が助けてくれたことに対するもので、恋愛感情じゃない……そこにつけこむのは絶対だめ……我慢我慢……)



 メーイはメーイで、スーフェに対して友情以上の好意を持っていた。

 そんなこととは知らずにお互い悶々としたり我慢したりしている状態なのだが……少し不器用なこの二人が両思いになる日はそう遠くないのかもしれない。



「あ、そういえばメーイのお姉さんのタガメリアさんも町を離れた時期があるって聞いた事があったけど、そっちもこの町に嫌気がさして?」


 姉妹なのだから同じ考えで町を出たのかもしれないとスーフェは思ってメーイに聞いたのだが、どういうわけだかメーイは真顔になってしまった。


「……いや、お姉ちゃんは妹の私もドン引きするぐらいの変態なだけだよ。今はキテタイハに戻ってきているけどワンヘマキアの教会で女司祭をやっているのも、元はといえばあのとんでもない性的嗜好を矯正するために遠くの修道院に入れられていた延長にすぎないし。

 そういえば奴隷状態になっていた頃のミノリさんの娘さんたちが町の人に縛られたり鞭を振るわれているのを見てそういう性的嗜好に目覚めたとか昔言ってたような……」


「そ、そう……」


 メーイからの予想外の返答にスーフェは二の句を告げずただ曖昧に相槌を返す事しかできなかった。

次回も明日更新予定です。

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