205. 17年と3ヶ月4週目③ お店にて。
すみません、続きを投稿するのがだいぶ遅れてしまいました。
「私が来てもあの人がやってこないだなんて珍しいこともあるもんだね。何かあったのかと思えてしまって逆に怖い気持ちもあるけど……」
「そうだねかーさま。……でもあたしはホッとしたよ、だってあのひとこわいもん」
普段ならばまるで自分たちの動向を完全に把握しているかのようにミノリたちがこの町に近づいただけですっ飛んでくる恐怖の象徴である町長の老婆ことハタメ・イーワックが姿を見せなかった為逆に戸惑うミノリたち。
「あれ、ミノリさん? 来ていたんですね。少し戸惑っている様子みたいですけどどうしたんですか?」
「へ? あ、メーイさんこんにちは」
するとそこへやってきたのはハタメ・イーワックの娘の一人で数少ない常識人であるメーイ。彼女の反応からするとメーイも別に張っていたわけではなく、たまたまミノリの姿が視界に入ったので声をかけただけらしい。
このメーイ、ミノリの事を女神と崇めすぐに暴走してしまうハタメとミノリがいようがいまいが関係なく思考回路が桃色一色に染まりきっている事でミノリにも間接的に迷惑をかける存在となってしまっている姉のタガメリアを制止する役割を一身に担っているというキテタイハの住民の中で数少ない良心的存在であるのでミノリも彼女に対してなら心を落ち着けて話すことができる。
「えっと、これをメーイさんに話してもいいものかちょっと迷うけれど……いつもなら私が来た時点で超能力的な何かを有しているかのように察して飛んでくるハタメさんが珍しく今日は飛んでこなかったので少し困惑を……タガメリアさんもいないですし」
「あー……ほんっとうにごめんなさいミノリさん。いっつもいっつもうちの母と姉がミノリさんたちには迷惑かけちゃって。それで、今日母と姉がいない理由なんだけど、母の方は今の時間は町議会に出席しているから来なかったんだと思うよ。
そして姉の方もワンヘマキアへ帰る準備を昨日からしていたから同じくここにいないんだと思うよ……何に使うんだか知らないけど融点の低いろうそくに荒縄を大量に買っていたみたいだけど……何しでかす気なんだろうあの姉は……」
「……ソーデスカー」
メーイの発言から、タガメリアが事あるごとに口走っていた『ラリルレちゃんの痴態ショー』を実現させようとしていると察してしまったが、敢えてそれには触れないようにするミノリ。
「あの人今日は来ないの? ……よかった……」
そしてハタメ・イーワックが来ない事が確定した事で安堵した表情を見せるリラ。苦手を克服するために頑張ってここまで来たには来たが、やはり苦手なものは苦手らしい。
「それで今日はどうしたんですか? ミノリさんたちが苦手な母と姉がいるこの町まで無理して出向いくということは緊急の用事がある時ぐらいだと思ったんだけど」
「やっぱりバレちゃってる……えっと実は……」
ミノリだけでなく家族のほぼ全員がハタメとタガメリアに苦手意識を持っていることはメーイにもバレバレであったようだが、メーイになら今日ここへやってきた理由を話しても問題ないだろうと判断したミノリは結婚式でリラが使う『あるもの』が作れそうなお店とホプルが使う赤ちゃん向け用品があるお店がないか尋ねることにした。
「──というわけでこのあたりでそういった装飾品を作れそうなお店、それと赤ちゃん向けの雑貨を置いている店を探してるんですけどご存知ですか?」
「なるほどねー。それだったら私がその2つを扱っていそうなお店まで案内するよ」
「いいんですか?」
「いいよいいよ。いつもミノリさんたちには迷惑かけているからそれぐらいはね……」
「それならお願いします。みんな行くよー」
心当たりがあるらしいメーイが案内役を買って出てくれたので、ミノリは素直に応じることにした。
「それでお店はどのあたりですか?」
「どっちもすぐ近くにあるよ。……といっても装飾品を作れそうなお店ってのは私が始めたばかりのお店なんだけどね」
「え、メーイさんの?」
「うん。カツマリカウモの宿をクビになって実家へ戻ってきてからはずっとアルバイトをしていたんだけどいい加減なんとかしないなーと思って友達と一緒に最近被服店を始めたんだ。
オープンしたばかりで結構暇だから今店番している友達に頼めばすぐにオーダーメイドを受け付けてくれると思うよ。私の裁縫の腕は微妙だけど相方の裁縫の腕前は確かだからそこは安心して」
「うん、メーイさんの言う事なら大丈夫そうですね」
この町においてミノリが唯一信頼しているメーイの言葉だったので素直に信じるミノリ。
そのままメーイの先導で歩く事数分、ある店の前でメーイが立ち止まるとそのままある店の方に向けて指を指した。
「えっとほら、赤ちゃん用品を扱ってるお店はドアの前にゆりかごを置いているあそこの店だよ。それでこっちが私と私の友達で始めた服飾店」
「ここなんですね、ありがとうございますメーイさん。それじゃシャル、多分私達の方が時間かかるからそっちの用事が済んだらこっちの店に来てくれる?」
「わかりましたお姉様。あとで私たちも用事を済ませてから合流しますね」
そう話してからシャル達が赤ちゃん用品を買い求めに向かうのを見届けてからミノリ達がメーイのお店に入ろうとすると、メーイが何故か少し気まずそうにしながらミノリたちを引き留めた。
「あ、ちょっと待ってミノリさん。えっと、私の友達って実は大きな怪我をした事が原因で歩く事ができなくて。そのうえ顔にも大きな傷があるせいで、それを隠すために常にフードを被ったままなんだけど……気を悪くしないでね」
「大丈夫だよメーイさん。教えてくれてありがとう。それじゃリラ、入ろっか」
「うん。メーイさん案内してくれてありがと」
「いいよいいよ、それじゃ私も用事があるからこれにて。まぁ用事を済ませたらお店に戻ってくるけどね。ごゆっくりどうぞ」
メーイがそう話したメーイがその場から立ち去ってからミノリは雑貨屋の扉を開けた。
「すみませーん」
「あ、はい……お客さんですか?」
ドアに吊るされたベルがミノリの来訪を報せると同時に、店内に向かってミノリが声をかけると、店の奥にいたフード付きのローブで顔の上半分を隠した緑髪の女性がミノリを顔を上げながら返事する。
メーイから話を聞いていた通り、顔にある傷を見られたくないのか目深にフードを被った彼女の顔は口元のあたりしか見ることができない。
その事情をメーイからしっかり聞いていたミノリたちではあったが、ほんの少しの静寂があった事から彼女はフードを取ろうとせず、出迎えようともしない事をミノリが不審がっていると勘違いしてしまったようで、彼女からもその事情について話し出し始めた。
「あ、えっと、ごめんなさい。私は顔に大きな傷があってそれを見られたくないのと大怪我で両足とも膝から下が無くて歩くことが難しいのでここから失礼するわね。何かご用かしら?」
「大丈夫です、メーイさんにもそう話を聞いていたので。えっと、メーイさんに紹介されたんですけど、ここで布を使った小道具みたいなものを作ってもらえると」
メーイの名前を出すと信頼の置ける人物だと判断したようで店員さんが安堵したように胸をなでおろすと、声のトーンを少し明るくしながらミノリの問いに答える。
「なんだ、メーイの紹介だったのね。小道具みたいなものかしら? それなら多分大丈夫よ。ただ、モノにもよっては私でも作れないかもしれないけど。ちなみにどんなものを作りたいの?」
「えっと、私の後ろにいるこの子の羽を覆うカバーみたいなものを作ってもらいたいんだけどできますか?」
「え? 羽?」
店員さんに聞かれたミノリが作ってもらいたいものについて説明すると、何故か店員さんが不思議そうな顔を見せた。
「人間に羽ってどういう……って、あぁ、なるほどね。あなたのその長い耳と褐色の肌とお臍はメーイが言っていたこの町を守護する女神様のミノリ様ね。それで羽が生えた子はあなたの眷属さんの一人で合っているわよね。
ごめんなさい、私まだこの町に住み始めてから長くないせいで町の事情とかよくわからなくて。……それと隠れてちゃどんな羽を作っていいかわからないから姿をハッキリ見せてもらえないかしら」
「私別にこの町を守護しているつもり微塵も無いんだけど何その広まりよう……あとなんで臍にこだわるのかな皆して……っていけないいけない、それで作ってもらいたいのはこの子の羽です。ほらリラ、前に出て」
「うん」
「あ」
女神ではない事を何度も訂正したのにこの町では一向に改めてもらえないせいでもう訂正する気力が微塵も残っていないミノリが軽くぼやきつつもなんとかそれを聞き流してから背後に隠れていたリラの前面に押してみると、リラの姿を視界に入れた緑髪の店員さんは驚いたように小さく声を漏らしながら不自然に固まってしまった。
その不自然な動きはリラも不思議に思ったらしく、リラは店員さんをまじまじと見つめ続けていると何かに気づいたようで店員さんに尋ねた。
「……おねーさん、あたしと会ったことあるよね?」
「え、えと……し、知らないわ……人違いじゃないかしら?」
返ってきた否定の言葉にリラが『違うの?』と首を傾げるが、この店員さんはごまかすのが相当下手なようで明らかに動揺しているのが傍から見ていたミノリもすぐ気づいてしまう。
「そっか。あたしの勘違いかも、ごめんなさい店員さん」
「いえ、い、いいのよ……」
しかしリラはその言葉を素直に受け止めたようで勘違いだと結論付けるとすぐさま店員さんに謝った。しかしそれはリラの勘違いでは無かった事がこの後すぐ明らかとなる。
「ありがとうですのシャルさま。おかげでホプルちゃんに必要なものそろえることができたですの」
「あんがとーのんちゃんのママさんー」
「えへへぇいいですよ。これからもママ友として、そしてノゾミちゃんとのよき友達として仲良くしてもらえたら。あ、おねえさまー、こっちは買い終えましたのであとは……ってあれ!? あなたスーフェじゃないですか!? 生きてたんですか!? というか人間の町で暮らしてて大丈夫なんですか!?」
近くのお店でホプル用の品を買い終えてミノリたちと合流しようとおしゃべりしながら店に入ってきたシャルがすぐに店員さんがシャルの友達で、さらに幼かった頃のリラを捕まえて北の城へ連行した張本人の一人でもあるスーフェだとすぐ気づいてしまったのだ。
番外編の方に登場していたスーフェさん、最終章にて本編初登場。




