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202. 17年と3ヶ月目②-10 最後の約束。

「──じゃあ今日お姉ちゃんがこっちの世界に来た時のように、このお姉ちゃん人形を目印にして結婚式当日に来るということでいいよね?そう考えるとこの人形は元の位置に戻しておいた方が良さそうだから戻しておくよ」

「待って秋穂。その人形だけどノゾミが持ってきた方の人形と交換してもらっていいかな? 私はよくわからないけど、その人形に込められた魔力が少し薄くなっているみたいなんだって」

「あ、そうなんだ。じゃあこっちの方を代わりに元の場所に戻しておくね」


 2週間後に開かれる前世で妹であった秋穂の結婚式に家族全員で参加することに決めたミノリ。異世界から来ることもあって、あらかじめ綿密に段取りを決めておいた方がいいとミノリと秋穂は移動時間の目安や乗る予定のバス時刻、アレルギーや苦手な食べ物の有無、バス降車後の会場への道筋など色々話し合っていたのだが……。


「あ、そうだ。これ先に渡しておかなくちゃ。はい、お姉ちゃん。これ、バスカードとご祝儀と予備費、それと会場までの地図とバスの時間をまとめた紙。こっちに来る時、絶対に忘れないようにしてね」

「うん、忘れないようにするね。……イヤほんとごめん秋穂。何から何まで任せちゃって……特にお金関係……」


打ち合わせが大詰めという段階まで来たところでミノリは頻りに申し訳なさそうな顔をしている。

 というのも今ミノリが口にしたように、ご祝儀をはじめとしたお金がその原因で、今では別の世界に住んでいる以上当たり前な話だがミノリはこちらの世界のお金を全く持っていないからであった。


 その為、秋穂がミノリとその家族たち6人分の交通費をはじめとした全ての費用を負担する事で、ミノリはそんな顔なってしまったわけなのだが……秋穂はそれを全く気にした様子はない。


「気にしないでお姉ちゃん、バスカードは私が引っ越した事で使わなくなったものだし、ご祝儀用のお金だって家族で入っていた災害保険でお姉ちゃんが死んだことで家に入ったお金を家族で分割した時に使わずに取っていたものだもの。言っちゃえばそのお金お姉ちゃんのお金だよ」

「そ、そうなんだ……」


 秋穂の話を聞く限りでは、秋穂が今住んでいる地域はバスカードから交通系ICカードに代わった為不要となったもので、ご祝儀代に用いる費用の出所もミノリが死亡したことで得た保険金から捻出したものだそうだ。


 前者はともかくとして、後者の金の出所を知ったミノリはなんとも言えない表情に。


「……自分にかけられた保険金を自分で使うことになるのってかなり謎だけど……まぁいいか」


 一瞬、脳裏に『保険金詐欺』という言葉が浮かんでしまったが為に、妙な気分になりかけたミノリであったが、実際に自分は土砂崩れで死んだのだからこれは詐欺には当たらないと自分に言い聞かせながら、まだ決めていなかった当日の打ち合わせを続ける。


「出席者名簿の名前は『Onduca』みたいな適当なローマ字書きでいいかな? 『大学で出会った、ファミリーネームが同じ読みで親しくなった留学生の友達とその家族』いう設定で」

「うん、それで大丈夫だよ。あとこれが私の家族の名前ね。みんなのローマ字のつづりは秋穂に任せるね」


 ミノリはそう口にしながら結婚式に参加する家族全員の名前も書いていくと、秋穂は確認するようにミノリの居間の家族たちの名前を確認するように復唱していく。


「えっと、確か金髪の子がトーイラさんで、黒髪の子がネメさん。ピンク髪で胸の大きい子がシャルさんで、白髪で飛べる羽が生えていて吸血するけど吸血鬼ヴァンパイアじゃない子がリラちゃんで、今日お姉ちゃんと来たのがノゾミちゃんだったよね。よし、ちゃんとしっかり覚えたよ」

「いや、だからリラはちゃんと吸血鬼ヴァンパイアなんだって……」


 血を吸う以外の吸血鬼の特徴全てが当てはまらないせいでいくらミノリがリラは吸血鬼だと伝えても秋穂は全く信じないので一応訂正は試みているが内心ミノリは諦めモードなのであった。


「と、これで予め決めておきたいことは全部かな。それじゃお姉ちゃんが結婚式に来てくれるの……私、待ってるからね」

「うん、絶対に出席するからね……だけど何でだろうなぁ、私、来る前よりも荷物増えちゃっているんだけど……」


 若干疑問形になりながらそうつぶやくミノリの横には大きなリュックサック。こちらの世界へ来た時に持ってきたのは招待状の入った手紙だけだったというのにまるで買い出しに来たかのようにどういうわけだか何十倍にも荷物が増えてしまったのだ。

 そしてこれらは全て秋穂がミノリにある理由から持たせたものである。


「仕方ないじゃん、お姉ちゃんはともかく、今のお姉ちゃんの娘さん達はみんなこっちの世界の事よく知らないんでしょ? 車を見て馬の化け物とか言いながら騒いで襲いかかったり、バス内の案内放送を聞いて精神干渉魔法だって騒いだり、テレビを見て壁に人が閉じ込められてるとか喚いたりしないように、あらかじめ知識はつけておいた方がいいに決まってるもん! そうした方がトラブル起こりにくくなるだろうし」


 秋穂が大量の荷物を持たせたのは、こちらの世界の常識をミノリの娘たちに予め身につけさせるためであった。それは単純に『恥をかかせたくないから』だけでなく『こちらの世界の常識を知らないが故に騒動を起こして結婚式に出られなくなる』可能性をできるだけ排除したいがためで、その理由を知ったミノリも納得したように首を縦に振る。


「うん……そうだね。私が教えなかったばっかりに娘たちがこっちの世界の常識を知らないでみんなに恥をかかせたくないから。

 気を利かせてくれてありがとうね、秋穂。確かに実物や見本を見せなかったら車についての説明とかバスの乗り方をうまく言えなかったかも。だけど……」


 そう言いつつ若干困り顔のミノリは秋穂が持たせてくれた『家の近くを走っているバスの形を模したミニカー』を手に取ってそれを見つめる。何故ミノリが困り顔なのかと言うとそのミニカーがミノリの父のコレクションの一つであったからであった。


「確かに説明しやすくなるけどいいのかなぁ……これお父さんのコレクションだよね……? 私がちっちゃい頃にこのミニカーをお父さんが部屋に飾っていたの見たことあるよ……?」

「大丈夫だよお姉ちゃん。お姉ちゃんに渡すことになったのは偶然だったけどこのミニカーはお父さんからもらうって話はもうつけていたんだよ」

「そうなの?」


 父の大切なコレクションを異世界に持っていくという事にミノリは当然ながら躊躇していたのだが、秋穂はどうやら譲り受ける約束をしていたようだ。


「うん、私が結婚したら将来生まれてくる私の子供の為にこのミニカーをあげてもいいって約束していたの。だから大丈夫なんだ。……まぁ血の涙を流したかのような表情だったけど」


「それお父さんすごく名残惜しんでない!? それはダメだってば秋穂! このミニカー、絶対に忘れずに持って帰ってくるからお父さんに返してあげてね!? 多分お父さんあとで絶対後悔して返してって言ってくるから……」

「あはは、やっぱりそうだよねー。うん、お姉ちゃんの言う通りになりそうだからちゃんと返しておくよ」


 きっと父は口が滑ってうっかりそう言ってしまったに違いないとなんとなく察したミノリが秋穂にそれとなくお願いすると秋穂もその事はわかっていたようで、あっさり頷く。


「よし、それじゃ決める事は全部決めたし。そろそろ帰る事にするね」

「あ……うん、わかったよお姉ちゃん」


 そして打ち合わせもほぼ終了した為、ミノリが家に帰る準備をするべく立ち上がると秋穂はほんの少しだけ名残惜しそうな顔を見せたが、すぐにミノリに向けて笑顔を作って見せ、そして……。


「……それと、さっきお願いした()()()()()()()、忘れずにね」

「わかってるよ秋穂。ちゃんとリラに聞いてみてそれができるかどうか確認しておくから」


 結婚式に出席する打ち合わせの中で、リラの容姿を見てある事を思いついた秋穂は『リラに結婚式である事をしてほしい』とミノリに提案したらしく、その事を忘れずに聞くよう念押しするかのようにミノリに伝えた。

 ミノリもその秋穂の提案に対してイヤな素振りを見せずに頷いたので、リラに迷惑が掛かったり、危害が加わるような事ではないようだが……。


「さてと……ノゾミー。そろそろみんなが待ってるおうちに帰るからドロンする術、お願いね」

「あ、もういいの? わかったよおばーちゃん!」


 ミノリの言葉を聞いて先程から手にしていたおもちゃで黙々と遊んでいたノゾミが椅子から降りてミノリに歩み寄る。その手には今の今まで遊んでいたおもちゃを掴んだままでどうやら持ち帰る気満々のようだ。


「……ノゾミ、そのおもちゃは秋穂に返してあげてね? それ、秋穂が今日ここへ取りに来たものの一つみたいだから」

「えー!!」


 ノゾミが手にしているのはミノリと秋穂が打ち合わせをしている間、ノゾミを退屈させないようにと秋穂が渡してくれたおもちゃで、水と複数の小さな輪っか、そして細長い棒が入った容器に付けられたボタンを押して水流を発生させることで輪っかを動かして棒にわっかを通していくという、いわゆる水中輪投げゲームのおもちゃである。


 そのおもちゃを渡されて遊びだした途端、まるで取り憑かれたように無心でノゾミは遊び続けていた為、普段ならば年相応に騒ぐノゾミがミノリに声を掛けられるまで静かだったのだ。


「……どうしても、駄目……?」

「うん、それはちゃんと返そうね」


 みんなにいろいろ教えるためにあれこれ持ち帰る事にはしていたが、このおもちゃのようにただ遊ぶためだけのものは持ち帰らないと決めていたミノリが、ノゾミにそう伝えるとノゾミはひどくがっかりしたような様子を見せる。


 そこへ救いの手を差し伸べたのは秋穂で、秋穂は持って行ってもかまわないとミノリたちに言葉をかけた。


「あー、お姉ちゃんいいよいいよー。それ私が子供を産んだ時に子供に使わせようと思って今日取りに来たものの一つだったけどノゾミちゃんにあげて構わないよ。百円ショップでおんなじようなの売ってるし」

「やった!! ありがとうアキホおばちゃん!!」


 嬉しさのあまり、何の気なしに秋穂の事を『おばちゃん』と呼びながらお礼を述べるノゾミ。人によっては『おばちゃん』と呼ばれる事に対して嫌がる場合もあるのだが、意外にも秋穂は嬉しそうな顔を見せた。


「新鮮だなぁ……お姉ちゃん以外に兄弟姉妹いないし、よく会う親戚の中にもノゾミちゃんみたいな子供はいないからこうしておばちゃんって言われることは当分ないと思っていたから……ちょっと嬉しいや……っていけない。お姉ちゃんたち、もう帰るんだったよね?」


 帰ると言っていたのに2人を長く引き留めてしまった事に気づいた秋穂は、少し寂しそうにミノリとノゾミに小さく手を振ると、それに呼応するかのようにミノリとノゾミも秋穂に向けて手を振る。


「うん、それじゃ秋穂……2週間後にまた来るからね」

「アキホおばちゃん、おもちゃありがと! バイバーイ!」


「……お姉ちゃん! ノゾミちゃん! 私、お姉ちゃんたちが結婚式に来てくれるの、待ってるからね!!!」


 2週間後に再会できるとはいえ、間もなくこの世界から完全に消えてなってしまう2人に感極まってしまったのか、秋穂は再びうっすら涙を浮かべながら最後に今の想いを伝えた直後、ノゾミが言い放った『ドロン!』の声と同時に突然噴き出た煙と入れ替わるようにミノリとノゾミの姿は跡形もなく消えてしまった。



「約束……だからね」



 そして……2人が消えて秋穂だけになってしまったこの部屋に、ミノリたちに向けられた秋穂の小さなつぶやきは届くことなく静寂へと吸い込まれていったのであった。



 ******



「……あー、やっと戻れたー……」

「そうだねおばーちゃん。ノゾも疲れちゃった」


 往路と同じようにノゾミのドロンとする術で黒一色の世界を通り抜けて、無事に元の世界へミノリ達が帰ってくると、2人が帰ってくるのを待ち侘びていた娘たちとシャルがミノリとノゾミへ駆け寄ってくる。


「あ! ママ、ノゾミちゃんおかえり!!」

「お母さんとノゾミの帰還に歓喜」

「よかった……2人が無事に帰ってきてくれて……」

「お姉様! ノゾミちゃん! 無事に戻ってきてくれて嬉しいです! ……あれ、随分大荷物ですね、どうしたんですかそれ?」


 娘たちとシャルはミノリを快く見送ったものの、やはり心のどこかで『もしかしたらミノリがもうこの世界には帰ってこないかもしれない』という想いが少なからずあったようで、帰ってきたミノリたちを視界に入れるや否や駆け寄ってきたその表情にも『安堵』の想いが大きく込められている事にミノリもすぐに気がついた。


「みんな、遅くなってごめんね。……ただいま」


 帰りが遅くなったことを謝ってから『ただいま』と口にすると、その言葉で娘たちとシャルがとても嬉しそうに顔をほころばせたので、ミノリは改めてこの場所が『自分の帰る場所なんだ』と自覚した。


「さてと……帰って早々だけどみんなに相談したいことがあるんだ……いいかな?」


 そしてミノリは秋穂と話したことを伝えるべく、すぐに家族会議を開くことにした。議題は勿論、秋穂の結婚式についてである。



 ******



「──というわけで、無事に妹の秋穂におめでとうと伝えることができたわけだけど、実は妹の結婚式は2週間後に延期になっていて、そっちにも参加しようと決めて、またあっちの世界に行くことに決めたんだ。今日は私とノゾミだけだったけど、今度はみんな一緒に。

 ……みんなには全く相談もせずに私の独断で勝手に約束しちゃってごめん。でも私、みんなにも私の妹の結婚式に出てもらいたかったんだ」


 ミノリは結婚式が2週間後になっていたことと、承諾なしに全員で参加すると伝えてしまった事を正直に打ち明ける。


「それでみんなはどう……? 妹の結婚式のために2週間後、私と一緒にあっちの世界に行って結婚式に出席してもらえる……かな?」


 もしかしたら行きたくないと答えるかもしれないという不安が脳裏をよぎったミノリだったが……どうやらミノリの杞憂だったようで、真っ先にネメとトーイラが目を輝かせながら身を乗り出してきた。元々ミノリの前世の世界に興味はあったものの、今回は断念した経緯があった2人はミノリからの話にどうやら相当乗り気らしい。


「私は行きたい。箱庭の外が知りたい」

「私も行きたいなー。ママがどんなところで暮らしていたのかやっぱり気になるもの」


 続けてシャルも手を上げながら行きたいと主張する。


「で、できたら私も行きたいですお姉様! ……でも私も行ってもいいんでしょうか? 私、人間じゃなくてモンスターですけど……」


 最初は勢いよく行きたいと口にしたものの、やはり自分が見た目は人間に近くてもモンスターだという自覚があるからなのか、その不安で言葉尻が徐々に弱くなっていくシャル。

 しかしその問題はあくまでこの世界だけでの話。ミノリが元いた世界では全く問題でないことをミノリはシャルに伝えた。


「安心してシャル、私の前世の世界にはモンスターはいなかったから、こっちの世界と違ってシャルぐらいの見た目なら誰もあなたを人間じゃないって思わないよ」

「そ、そうなんですか……? なら安心です」


 シャルの悩みも解決した事でまだ自分の意思を表明していないのはあと一人。それはミノリが家族全員で結婚式に出席すると言ってからずっと不安そうな顔をしたままだった三女のリラであった。


「かーさま……あたしも行っていいの? あたし、羽も角もあるよ……? 一番見た目、人間じゃないよ?」


 やはりリラもシャルと同様に、自分が人間じゃない事を気にしているようで、とりわけリラはこうもりのような羽や角があるせいでオンヅカ家の中では人外度が高い。


 しかしそれでもミノリからしてみれば問題ないという考えであった。


「大丈夫だよリラ。ケープやヘッドドレスで十分羽と角は隠せるし、万が一見られたとしても誰も背中の羽や角が本物だと気づかないと思うよ。それどころかそういうコスp……オシャレだと思うだろうから問題ないよ。それに隠さなくちゃいけない箇所があるのは私の長耳も一緒だしね」


「うん……だけど……」


ミノリの言葉を聞いてもどうやらリラはまだ不安を払拭しきれないらしい。恐らくミノリに保護される以前の、特異体質が原因で他種族からだけでなく同族からもいとわれてきた過去を未だに引きずっていて、それが想起されてしまった事が原因のようだが……。


「……うん、リラが不安になるのも仕方ないと思うんだ。でも、できることなら私はリラにも来てもらいたいな。だってあなたも私の大事な娘なんだから置いていきたくないもの。……それともリラは……行きたくなかったりする?」


 するとリラは否定するように首を懸命に横に振る。


「ううん、そんな事ないよ、かーさま。あたしも行きたい……けど……やっぱりちょっと怖くて……」


 行きたい気持ちと怖い気持ちの板挟みに悩んでいる様子のリラであったが、そんなリラの不安を払拭するかのように横にいたトーイラがリラに話しかける。


「大丈夫だよリラ。私達と家族になる前のリラだったら一人でその不安を背負っていたかもしれないけど、今は私たちがいるもの。だから安心して。何か起きても、私たちが絶対リラのこと守ってあげるから」


「トーイラおねーちゃん……そうだね。あたし、もう一人じゃないもんね。決めたよ、かーさま。あたしも行く。だからお願い、あたしも連れてって。羽はなんとかごまかすから……。

 そういえばこれってある意味旅行になるんだよね? 前にかーさま達が行った時はあたしはまだかーさまの娘じゃなかったから……そっかぁ、旅行かぁ……あたし、楽しみ……」


 トーイラの後押しの甲斐あって、リラもようやくミノリ達と一緒に行く決意を固めたようだ。さらにこれがリラの初家族旅行にもなる事にも同時に気づいた事で、リラは目を細めながら初めての家族旅行に想いを馳せ始める。


 こうしてミノリをはじめとしたオンヅカ家の面々は全員、秋穂の結婚式に出席する事で一致した。


 そうなればあとは準備を進めるだけだ。


「よーし、みんなが行くって決めたのなら、これから2週間みんなでがんばって結婚式に出席するための衣装を揃えたり、あっちの世界に行ったとき失敗しないように私が色々教えるからね! ちょっと大変かもしれないけれどみんな頑張ろうね!」


「了」

「わかったよママ!!」

「了解ですお姉様!」

「う、うん」

「はーい!!」


 扇ぎ立てるかのようなミノリの言葉を合図に決意の言葉を返すオンヅカ家の面々たち。


 こういった場面であれば普通なら全員が『おー!』と声を揃え、綺麗に締まるのがお約束なのだが……返ってきたのは全員が全員バラバラな言葉。ちなみに順番にネメ、トーイラ、シャル、リラ、ノゾミである。


 まぁ、こんな風に妙なところで微妙に足並みが揃わないのもまたオンヅカ家の面々らしくあるのだが、それはともかくとしてこうしてミノリたちは2週間後の結婚式に出席するべく、準備を始める事となったのであった。




 ……そして、ミノリが転生前の世界に行ってきたり、家族全員で結婚式に出席すると決たりしていたこの日、ミノリたちの家から歩いて30秒の位置にあるお隣さんのザルソバ・クロムカの家では、ある事が起きていた事をミノリたちは後日知ることとなる。

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