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199. 17年と3ヶ月目②-7 泣き虫姉妹と家の中の……。

「信じてくれてありがとう秋穂……だけどそんなに大泣きしなくても」


 ミノリは自分が秋穂の姉で17年前に土砂崩れで死んでしまった穂里ミノリが転生した身である事を告げ、無事信じてもらえる事ができたのだが、先程から自分に抱きつきながら号泣する秋穂にミノリは困惑の色を隠せない。


 その為、ついミノリはそうつぶやいてしまったのだが、秋穂はその事に対し、泣きながら怒ったような声で抗議する。


「大泣きするに決まってるでしょ!! だって、会いたくてももう会う事ができないと思っていたお姉ちゃんにこうして会えたんだよ? それで泣かないはずないじゃないのさ! お姉ちゃんのバカ!!」


「あ、そうだよね……」


 その言葉を聞いてミノリは転生後に、今の秋穂のように泣いてしまった事が何度もあった事を思い返し、うっかりそんな発言をしてしまった事を悔いてしまった。


(そういえば私も……秋穂みたいに死んじゃったからもうみんなと会えないとわかって泣いてしまった事、何度もあったよね……ここへやってきたのもみんなに泣いてるところを見られたからだし……)


 たとえばまだ幼かった娘たちを連れて紹介するという、絶対に叶わないはずだった夢を見た時、たとえば娘たちが打ち上げてくれた打ち上げ花火型の魔法などでもう会えない秋穂たちに思いを馳せ、自分の供養の花火みたいだと思って泣いてしまった時。


 そして今日、ノゾミがタカネからもらってきゲーム雑誌に挟まれていた手紙を読んで秋穂が結婚すると知った時。


 ミノリは事あるごとに今の秋穂と同じように泣いていた。


(……それを考えたら、ちょっと私、無神経だったかも)


 その事を思い返したミノリはすぐ秋穂に謝る。


「ごめん、ごめんね秋穂……、私もみんなと会えない事で泣いたこといっぱいあったのに……無神経だったよ。

 それにしても大きくなったね秋穂……あんなに子供っぽかったのに今ではすっかり大人らしくなっちゃって」

「うん……許してあげる、お姉ちゃん。お姉ちゃんが死んでから17年だもん……私、もうすぐ30になっちゃうんだよ、そりゃ成長ぐらいするよ」


 秋穂がすぐに許してくれたことに安堵したミノリは、心も体も立派に成長した妹に感慨深い気持ちになりながら秋穂を抱き返しながら彼女の背中をさすっていると……。


「よかったね、おばーちゃん。信じてもらえて」


 そんなミノリと秋穂を少し離れた場所からにっこりと見つめるノゾミ。どうやら無事自分の役目を果たせ、ミノリもうれしそうにしている事がノゾミにもご満悦な様子であったが、その声を聞いた秋穂は今になってその小さな少女の存在を思い出したようで、ノゾミを一度見やると、不思議そうな顔になりながらミノリを抱きしめながらミノリに尋ねた。


「あれ、……ねぇ、おねぇちゃん、そういえばこの子は? ……もしかしてお姉ちゃんの娘? でもさっき『おばあちゃん』って言ったような……私の聞き間違いかな」


 ノゾミが『おばーちゃん』と口にしたのを自身の聞き間違いだと判断し、娘かとミノリに尋ねる秋穂。

 確かに5歳児ぐらいの幼い見た目や、ミノリがこの世界で存命だったら33歳になっているはずだった事を踏まえれば、秋穂がそう判断するのも妥当なのかもしれないが……勿論ノゾミはミノリの娘ではない。


「ううん、聞き間違いじゃないよ。この子はノゾ……希生ノゾミといって、私の孫だから……秋穂にとっては大姪になるのかな?」

「そうだよ、ノゾはおばーちゃんの孫だよ」


 ミノリはノゾミだけでなく、オンヅカ家の面々の誰とも血が繋がっていない為、血のつながりとして見た場合、祖母と孫の関係とは呼べないのかもしれない。しかし、血の繋がりなど些事も同然であるという考えのミノリにとってノゾミは孫であり、ノゾミにとってもミノリは祖母である。


 だからこそミノリはそのように説明したが……秋穂はその説明で余計混乱してしまったようだ。


「!? 待って待って待って……孫!? 本当に孫!?」


 混乱したような表情を見せる秋穂をよそにミノリは自分の娘たちについて秋穂に続けて説明する。


「うん、そうだよ。えっと、私には娘が3人いて、そのうちの次女がノゾミの母親なんだ。ちなみに長女と次女は双子で23歳、三女は13歳。そして孫のノゾミは2歳だよ」


「2歳!? 5歳か6歳ぐらいかなと思ったら2歳!? 大きすぎない!? なんでそんなにハキハキしゃべってるの!?

 というかちょっと待って!? お姉ちゃんの言ってる事に理解できないところがいくつかあるけど33なんだよねお姉ちゃん? なんで私と5つしか違わない娘がいるの!?」


 しかしミノリの説明は余計に秋穂を混乱の渦へと陥れてしまったらしい。


「あー……ごめん、そういえばそこ説明してなかったね。えっと、娘は全員養女だよ。町から追放されたり、幽閉されていた場所から逃げ出した子を保護して育ててきたんだ。今ではみんな立派に大きく成長してくれて、次女のネメはお嫁さんも娶ってこうして孫のノゾミも生まれてくれたし」

「あ、そういうことなんだね……なるほど、養女という事ならそんなに年が離れていない娘がいても……いや待ってごめんおねえちゃん子供を3人養女にしたって事はわかったけど後半は何を言ってるのかサッパリわからない」


 どうやら秋穂も理解してくれ……たのは前半だけで後半のノゾミの出生についてはやっぱり理解できなかったようだ。

 確かに、女性同士で子供まで生まれてくるというこちらの世界では単性生殖を行う一部の動植物を除いて実現できてない事が起こってしまっているのだからそりゃ意味もわからないだろう。


「えー…えーと……お姉ちゃんが今いる世界では、女の人同士が結婚できるだけじゃなくて、子供も作れて、えーと……いやそれよりも家の前で立ち話しすぎない方がいいか……」


 混乱しながらもなんとかミノリの説明を理解しようと秋穂はこめかみに指を当てて必死に考えこんでいたのだが、ここが屋外だったことを思い出したようでハッとした顔になる。


「と、とりあえずうちに入って詳しく聞かせてお姉ちゃん! こないだこの家を出たばかりの私はともかく、今のお姉ちゃんの姿は完全に不審者そのものだしここ田舎だからご近所さんに通報されるかもしれないし」


 田舎の中でも観光地ですらない場所へ人が訪れる事はあまりない。その為、基本的に顔なじみであろう場所に見慣れない以外の人物がうろついていたら当然怪しまれ、最悪通報されてしまう。


 それに輪をかけて今のミノリはパッと見ではコスプレをした外国人であるため余計怪しまれてしまうし、既にこの世界では死亡したという扱いになっているため戸籍などの面においても非常にまずい存在であり、もし警察などが職務質問などをしにやってきたとなれば『死んだ人物の名をかたるトンチキな外国からの不法入国者』という扱いにされかねない。


 そのことに気づいた秋穂はミノリとノゾミを家にあげようとうながした。


「まぁ私はもう家を出ちゃっていて今日は荷物を取りに来ただけなんだけどお母さんが勝手に入っていいって言ってたから。私も別にこのあと用事があるわけでもないからじっくり話を聞かせてよ」


「え、でも秋穂、家を出ているならもう家の鍵を持っていないんじゃ……」

「大丈夫大丈夫。鍵を持っていなくてもちゃんと入れるようになってるから……ほら、ここに」


 そう言いながらミノリから離れて庭の方に向かって歩き出し、花壇を囲むように置かれた小さなブロックのうち一つを秋穂が持ち上げると、その下に鍵が一つ。どうやらそれが家の鍵のようだが……ミノリは微妙に困惑したような表情をしている。


「今更だけど……それって防犯的にどうなのかなって思うんだよね。私が死ぬ前の建て替え前の家からこんな風に隠してあったけど……」

「大丈夫だって。ほら、入って入って」


 よそ者には警戒するのに鍵はずぼら。田舎あるあるである。


 だからこそ鍵に関しては全く気にしていない様子の秋穂は笑いながら家の鍵を開けるとそのままミノリとノゾミを招き入れたのであった。



 ******



「ちょっとここで待っててねお姉ちゃん、今お茶淹れてくるから」

「ありがとうね秋穂。それにしても……私が住んでたはずの所なのに、やっぱり全く知らない家……当たり前なんだけど少し寂しいな……」


 秋穂に家へ招き入れられてからノゾミと共に居間へと通されたミノリは、秋穂がお茶を淹れに少し離れたのを見計らってからポツリとつぶやく。建て替えられたから当たり前なのだが、当然ミノリが生前だった頃の記憶と重なる場所はどこにもない。


 そのことでほんの少し寂しい気持ちになるミノリをよそにノゾミは初めて見るこちらの世界の物に興味津々な様子で居間に通された途端、部屋中をうろつき回っている。


「なにこれなにこれ、変なのいっぱい!」

「あ、ノゾミ、あんまり歩き回ったり触ったりしちゃだめだよ。簡単に壊れちゃうものもあるから」


「うん、わかったー! あ、ねえおばーちゃん、あれなーに?」

「んー? 何を見つけたのノゾミ……って、あ、仏壇だ……」


 ほんの少しだけ開いていた隣の部屋に続く引き戸の先に何かを見つけたらしいノゾミがミノリに尋ねる。ノゾミが見つけたものが何かを知っていれば教えようとしたミノリがノゾミと共にその隙間から隣の部屋を覗いてみると、そこには仏壇が一つ。


「ブツダン?」


 聞き慣れない様子のノゾミがミノリの方を見ながら首をかしげる。


「うん、死んじゃった家族の事を忘れないために置かれたほこら……と言えばいいのかな?」


 自分たちが今いる世界では通じないであろう『位牌』などの言葉を使わずに、まだ幼いノゾミにもわかるようにざっくりと説明するミノリ。


「ふーん、そうなんだね。じゃあ今あそこのほこらにいるのはブツダンの前にある写真の人たち?」

「うん、そうだよ、ってあの写真……」


 ノゾミの質問に答えながら仏壇に飾られている写真に視線を向けたミノリはその中の1枚に視線が釘付けになってしまった。


「お姉ちゃん、お茶淹れてきたよー、ノゾミちゃんにはカピルスでいいよねって、あー……そっちの部屋見ちゃった?」


 そのタイミングでお茶を淹れてきたらしい秋穂が今へと戻ってきたが、隣の部屋に続く引き戸の前で佇むミノリたちに気づくと、少し気まずそうに言葉を発した


「うん、ごめんね、なんだか少しだけ開いてたから……ねえ秋穂、あそこにある写真、もしかして……」

「……うん、お姉ちゃんの遺影。……目の前に本人がいるってのに遺影って言うのすっごく失礼な気がするけど……」


「仕方ないし気にしてないよ秋穂。だって私、こっちの世界では実際に死んじゃったんだもの。あの写真、ちょっとこっちに持ってきてもいい?」

「うん、いいよ」


 秋穂の承諾を受けて隣の部屋に入るミノリ。


 隙間から覗いた際には気づかなかったが、ミノリの遺品も一緒に保管されていたようで、土砂崩れによって、歪んでいたり、ボロボロになっているものが多い中、その中にたった一つだけ無傷の状態で袋に包まれた非常に長い代物を視界に入れた途端、それが生前、自身が弓道部だった頃に使用していた弓だと瞬時にミノリは気がついた。


(あ……私の弓……無傷で残っていたんだ。……手に取りたいけど今は写真の方……)


 自分の思い出の品は土砂崩れとともに全て無くなってしまったと思っていたばかりに、ほんの少し目頭が熱くなりかけたミノリはすぐにでもその弓を手に取りたくなったのだが、今は写真の方が優先と、その衝動を抑えて仏壇に飾られていた写真を手に取って居間へ戻り、ノゾミに写真を見せながらその人物が自分であることを説明しだした。


「ほらノゾミ、この写真に写っているのがこの世界で生きていた頃の私だよ。確か弓道の大会で入賞した時のだったかな」

「そうなの!? 見せて見せて!! わぁ~、耳や髪が今よりも短くて、髪とかの色も違うけど今のおばーちゃんとあんまり変わんない! お腹が服で隠れてて見えないけどきっとこの頃のおばーちゃんもノゾの好きなおへそだったんだろうなー」

「あはは……なんでそこでおへそにこだわるかなノゾミは……。まぁそれがノゾミらしくていいんだけどね」


 殆ど知らないであろうこの世界に転移したというのに、ミノリと一緒で安心しきっているのか非常にマイペースな行動と発言をするノゾミに若干、困った顔をするミノリであったが、先程視界に入った弓の事を思い出し、秋穂に尋ねる


「それにしても私が使っていた弓、まだ保管してくれていたんだ。というかよく無事に残っていたね、汚れも全くなかったみたいだし」


「当たり前でしょ、だってあれお姉ちゃんの数少ない遺品だもの……いや目の前にいるのに遺品っていうのもおかしいけど。壊れたりしなかったのはあの弓がたまたま物置に置かれてあったから無事だっただけだよ。それ以外のは土砂崩れに巻き込まれて壊れたり無くなったりで……」

「そっか……」


 家に入れようとしたけど長すぎるから玄関につっかえてしまうので面倒だったのか、それともすぐに使うつもりだったのか、今ではその理由も覚えていないが、土砂崩れの難を逃れた元牛舎の物置に保管していたのが幸いして弓は無傷のままで残っていたようだ。


「それでお姉ちゃん、そろそろ私もお姉ちゃんに色々聞きたいことあるんだけど……」

「あ、うん。いいよ。ノゾミも座って秋穂の話、一緒に聞いてね」

「うん! …これ飲んでいいの?」


 穂里みのり時代のミノリの遺影を持ちながら再び室内を興味深そうにうろうろしながら眺めていたノゾミはミノリに促されると素直にミノリの元へやってきて、ミノリの隣に腰掛ける。


 そして秋穂に用意してもらったカピルスを口に入れると、初めて感じるおいしさにに目を丸くしたのもつかの間、一気に飲み干す姿を見届けてから秋穂がおもむろにミノリに尋ねた。



「えっと、お姉ちゃん……今更だけどその姿って一体何? ゲームとかファンタジー小説に出てきそうなダークエルフって感じはするんだけど……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] はっ…逆にたまに遊びにいくだけではなく、これは世界に招けるのでは
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