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192. 17年と3ヶ月目①-4 ザルソバ・クロムカふうふの一日(昼~夜)。

本日2更新目です。前回分を未読の方は先に前回からお読みください。

また、R15寄りの内容を含んでいますので苦手な方はご注意ください。

「ごちそうさまでしたクーちゃん! クーちゃんのごはんおいしかった!」

「ふふ、どういたしましてですの」


 そしてお昼を食べ終えた3人。ノゾミが満足そうな顔をしていると、その横でザルソバが出かける準備をしだした。


「さてと……それじゃクロムカ、私はキテタイハまで買い出しに行ってくるよ。必要なのはこのリストに書いている物で全部かい?」

「はいですのザルソバさま。それじゃ宜しくお願いしますですの」


 午前中は稽古などをしているザルソバだが、午後はキテタイハまで買い出しに行くのが日課となっていた。

 元々は2人で買い出しに出かけていたのだが、身重のクロムカを連れて行くのは厳しいだろう今ではザルソバが一人で担当している。

いくら家事全般がポンコツのザルソバといえども、買い出しだけならなんとかできるのだ。


 ザルソバはクロムカにリストの抜けが無いかを確認するとそのまま出かけていくので、ここからがノゾミとクロムカが仲良く遊ぶ時間となっている。そして……。


「それでごしゅじんさま、今日はなにをするんですの?」

「あ! もう、クーちゃんだめでしょ! クーちゃんはもうノゾのペットじゃないからごしゅじんさま呼びはダメなの。おばーちゃんに怒られちゃうもん」


 ザルソバがいなくなった途端に、クロムカは自身がノゾミのペットだった時のような行動をし出すのだがノゾミにそれを制されてしまう。

 クロムカにとっては洞窟に隠れていた自分を見つけ、連れ出してきてくれた事に対して恩義を感じている事からご主人様と呼びたい一心なのだが、ノゾミはクロムカに『ご主人様』と呼ばせることをミノリから禁止されてしまっている。


 その為、ノゾミはクロムカに『ご主人様』と呼ばせないようにしているのだが、それでもクロムカはノゾミの事を『ご主人様』と呼びたいようで、ここぞとばかりに『ご主人様』と呼ぶのだがそれを言い切る度にノゾミにダメだと訂正されてしまっている。


「やっぱりダメなんですの?……ワタシ、ノゾミさまの事はごしゅじんさまって呼びたいですのに……」


 犬耳が頭についていたら確実にしゅんと項垂うなだれているような表情を見せるクロムカだが、ノゾミは頑としてその姿勢を崩さない。


「だめなものはだめなのクーちゃん! ……あ、それでねクーちゃん、ノゾ今日はクーちゃんに聞きたいことあったの」

「聞きたいこと……ですの?」


 聞きたいことがあると言われ、がっかりした表情を切り替えて首を傾げるクロムカ。


「うん、クーちゃんは読み聞かせできるようなお話なにか知ってる? ノゾね、読み聞かせいっぱい大好きなんだけど、おばーちゃんの覚えてる話がそろそろ無くなってきたみたいなの。ネメママやトーイラおねーちゃん、リラおねーちゃんが知ってるお話はおばーちゃんが知ってるお話だけだったから、もしクーちゃんが知ってる話が合ったら知りたいなーって。

 シャルママもおばーちゃんの代わりにがんばってお話考えてくれてるけど……シャルママはまだお話作りが下手なの」


 自分の母親に対して随分ひどい言いぐさであるが、シャルが作ってノゾミに聞かせたお話は『ウマミニクジルボアのウマミーくん』である。……シャルの処女作といえど確かにその話ではダメだろう。


 そしてトーイラ、ネメ、リラの3人はミノリのもとで育てられてきた事もあって、ミノリが読み聞かせてきた話が知っている話の全てであった。一応シャルが買い出しに行っていた頃に持ってきた本によって、他の町に伝わるお話や知識を色々と知る事はできたもののは当然ミノリもその本を読んでいる為、結果的に3人が知っているお話は全てミノリも知っているという状況にあった。


 その為ノゾミは第三者であるクロムカに尋ねたわけなのだが……クロムカは少し考えてから、自身の故郷に伝わるお話をノゾミに話し始めた。


「えっと、それじゃワタシの生まれ故郷のズエクゴジに伝わるお話は知っていますの? 『謝りすぎた男』ってお話ですけど……」

「その話知らない! どんな話なのそれ、ノゾ聞きたい!」


 今まで聞いたことの無い話がクロムカの口から飛び出したことでノゾミは目を輝かせた。


「えーっと……その昔、ズエクゴジに土下座が非常に得意な男がいたんですの。その男は人と会えば僅か一秒という早さで頭に地面をこすりつけるほどの土下座をし、後ろから声を掛けらればバク宙しながら土下座と、なにごとにもまずは土下座から始まる男だったんですの」

「うんうん」


「そして土下座で地面に頭をこすりつける度にその男は圧倒的な土下座力を身につけていって、それと同時におでこまでどんどん堅くなっていったんですの。

 それを繰り返していく度におでこはどんどん堅くなっていって、ひとたび土下座をすれば地面がめりこんだりひびが入るぐらいのおでこの堅さを身につけてしまったんですの。この時にその男はやめておけばよかったですけど、決してやめようとせず、その男はこれが自分の誠意の表れだと言って聞かなかったんですの……だけどそれがあだとなっんですの。」

「ど、どうなったのクーちゃん……?」


「その男は知らず知らずのうちに非常に堅いおでこになってしまっていたんですの。そしてある日、声を掛けられたのでいつものように土下座をするとそのあまりのおでこの堅さで地面が割れてしまい、その男はそのまま地の底へ吸い込まれていって二度と戻ってこなかったんですの。それ以来、地面にひびが入るぐらいで抑えなさいと言ういい伝えがズエクゴジにあるんですの……ってどうしたですのノゾミさま?」

「……」


 珍しくノゾミがだんまりをしている。一体どうしたのだろうとクロムカが首を傾げていると……。


「……あのねクーちゃん、ノゾ、まだ2歳だけどわかるよ。普通地面にひびが入るぐらい頭を地面にこすりつけないって事と土下座ぐらいじゃ地面が割れないことぐらい」


 まさかの正論がノゾミの口から飛び出した。


「そ、そうなんですの!? さすがノゾミさま、その年で博学なんですの……」

「それ博学関係なくってその男が頭がおかしいだけだと思うの」


 いつの間にして冷静に言葉を返すノゾミに対して、少し困惑した表情で言葉を続けるクロムカ。


「だけどワタシの故郷では頭に地面をこすりつけて土下座するのが普通で……」

「それはクーちゃんの故郷がおかしいの!! そもそも土下座すること自体あんまり無いの!! お話は面白かったけど!」


 先程からツッコミばかり入れてしまうノゾミであるが、それはそれとして話自体は割と気に入ったらしい。


「うーんそうだったんですのね……でも言われてみれば確かに今まで旅をしてきてズエクゴジの人みたいに土下座をする人を一度も見た事が無かったですの。なるほど、ワタシの故郷がおかしかったとは考えもしなかったですの」


 まるで目からうろこが落ちたかのようにしきりに納得したような表情で頷くクロムカ。そしてノゾミにお話を聞かせたことで、クロムカもまた何か思うことがあったようだ。


「それにしても……ノゾミさまに読み聞かせの話は無いかと言われた事で、今になってワタシも気づいたんですの。『この子』が生まれてきたら当然育児をするわけですけど、そうすると読み聞かせをする必要があるんですの。そうすると今のワタシでは『この子に』満足してもらえる程のお話を聞かせてあげられないんですの。だからミノリさまにご本を借りたり直接勉強させてもらいたいと思うですの。あとでミノリさまにお願いしに行かせてもらうですの」


 今回が初めての育児で不安な気持ちも実は抱えているクロムカなのだが、すぐそばに頼れる育児の先輩であるミノリがいる。それならば頼らない手は無いのだ。


「うん、わかったよクーちゃん、ノゾからもおばーちゃんにも話しておくね……あ、そうだ!。ノゾ、他にもクーちゃんに聞きたいことあったの! えっとね、『サムト』ってどこにあるのか知ってる?」

「……サムト……ですの?」


 ノゾミの口から出てきた地名と思しき『サムト』と聞いて首を傾げるクロムカに対し、ノゾミは言葉を続ける。


「うん、おばーちゃんがよく読み聞かせをしてくれるお話に『トーノ物語』の『サムトの婆』って話があるんだけど、そのサムトが何処なのか地図にも載ってなくてよくわからないの。

 前におばーちゃんにも聞いたけど『サムトってトーノ物語になった時に元とは違う名前だっからそういった場所は無いんだよ』としか言ってくれなくて結局それが何処なのかわかんなかったの。リラおねーちゃんに聞いたことあったけどリラおねーちゃんも知らなくて。だからもしかしたらクーちゃんなら知ってるかなーって思って」


 ノゾミから続けて出てきた言葉を聞いても腕を組んで考えたままだったクロムカであったが、やがて申し訳なさそうな顔をしながらノゾミに伝えた。


「ごめんなさいですのノゾミさま。そもそもワタシ、サムトの婆ってお話……どころかトーノ物語自体聞いた事がないですの。以前トーイラさまと雑談している時に聞いた事があるですけど、ミノリさまが読み聞かせしているお話は、元々ミノリさましか知らなかったお話だって聞いたことがあるですの」


 全く心当たりが無いクロムカは、わからない事を正直に伝えると、ノゾミは疑問に思っていることが結局解決できなかったので残念そうな顔を一瞬見せたのだが……。


「そっかー。クーちゃんも知らないんだね。でもトーイラおねーちゃんがそう言ってたのは知らなかった! あ、そしたらネメママなら知ってるかも。おばーちゃんってなんだか色々秘密があるみたいだけど、ネメママはその秘密を少しだけ知ってるみたいだもん」


 それでもクロムカの言葉に解決の糸口は見つけたようで、ノゾミはほんの少し嬉しそうな顔を見せたのであった。


 その後もクロムカとノゾミはおやつを食べたり、お腹の子に語りかけたり、おやつを食べたり、手遊びをしたり……なんだかおやつ食べ過ぎであるがそんな風に楽しく過ごしていると次第に窓から見える空の色が赤みを帯び始めてきているに2人は気づいた。どうやらいつの間にか夕方になっていたようで、ノゾミは立ち上がるといそいそと帰り支度を始めた。


「もう夕方になっちゃった。それじゃノゾ、そろそろおうちに帰るね」

「あ、もうそんな時間ですのね。わかったですの……あ、そういえば今日はまだへそ天してなかったですの」

「だめ! 前も言ったでしょクーちゃん! 今のクーちゃんは絶対へそ天しちゃダメ!!!」


 ノゾミのペットである考えが抜ける気配の無いクロムカが、服従の印のようなへそ天をノゾミに見せようと仰向けになりかけたが、ノゾミは全力でクロムカのへそ天を拒否した。


「そういえば、なんでへそ天だめなんですのノゾミさま? ワタシ、体丈夫ですし『この子』への負担もそう大きくは無いと思うですけど……」


 へそ天を拒否されたことで若干しょんぼりとしながら反論するクロムカであるが、ノゾミにはノゾミなりの考えがあるらしい。


「クーちゃんは元々ノゾのペットだったからへそ天したくなるのわかるけどお腹の子はノゾのペットじゃなくて友達になってお嫁さんになる子だもん!

 クーちゃんが今それやったらお腹の子もノゾのペット候補になっちゃう!! この子が生まれた後ならいっぱいしてもノゾにへそ天見せてもいいから今は我慢してねクーちゃん」


 ノゾミが全力でクロムカのへそ天を拒否するのはクロムカのお腹の中にいる子が理由だったようで、お腹にいる子とは対等な関係でいたいという考えからだったようだ。


「なるほど……わかったですのノゾミさま。それならしばらくへそ天はお預けにするですの。それじゃ玄関までお見送りするですの」

「うん!」


 ノゾミが話す理由を聞いて、素直に応じてへそ天のポーズをやめ、ノゾミと共に玄関に向かうクロムカ。


「それじゃまたねクーちゃん、ばいばーい!!」

「またですのー。……あ、そういえばまだ洗濯物取り込んでいなかったですの」


 そしてミノリ達の家へと帰っていくノゾミを見送りながら、まだ洗濯物を干したままだったことに気づいたクロムカが洗濯物を取り込みに向かおうとすると……。


「ただいまクロムカ。すまない、ちょっと遅くなったよ……」

「あ、おかえりなさいですのザルソバさま……どうしたですの?」


 ちょうどザルソバが買い出しから帰ってきたのだが……何故かザルソバは妙に疲れた顔をしている。何かあったのだろうかとクロムカが不思議そうにザルソバを見ていると、ぐったりした様子でザルソバは口を開いた。


「……えっと、買い出し自体は比較的すぐ終わったんだ。だけどその後キテタイハの町長さんに捕まって……ミノリさんの㊙情報が何か無いか根掘り葉掘り尋ねられたよ……一旦あの人に捕まると簡単には抜け出せなくて……」

「あはは……おつかれさまですの」


……ただ単にミノリ(ヘソ神)狂信者ことキテタイハ町長のハタメ・イーワックの平常運転に巻き込まれていただけらしい。ミノリの関係者に対してことごとくダメージを与えるあの町長、世界を救った英雄すら満身創痍まんしんそういにさせてしまうあたり、もしかしたら精神的な面ではこの世界で最強の存在なのかもしれない。



 ******



──その後、洗濯物も取り込み終えたクロムカが夕飯の準備を進めていると……朝と同じようにザルソバが傍へやってきた。


「えっとクロムカ、お願いがあるのだが……私にも何か一品だけでも料理を作らせてもらえないだろうか?」


 朝に続いて夕飯でもザルソバは何かしら手伝いをしたいらしい。


「うーん……でも……」


 そして朝と同じように難色を示すクロムカだが今度はザルソバも退こうとはしない。


「確かにクロムカの気持ちもわかるよ、私は確かに家事全般がダメだというのは。だけどいつまでも君に頼り切りではいけないと常々思っているんだ。だからお願いだクロムカ、一品だけでもいいから私に作らせてほしい」


 真剣な眼差しで訴えるザルソバ。まるで世界の命運をかけたような言い方だが、ただ単に夕飯を一品作らせて欲しいというただそれだけの発言である。


「……わかったですの。でもワタシがダメだと判断した時点で点で終了なんですの」


 珍しくクロムカが折れ、条件付きではあったがザルソバが一品作る事を了解した。


「本当かクロムカ! よし、それなら私は全身全霊で頑張って料理を作らせてもらうよ!」

「がんばるですの、ザルソバさま!」


 ザルソバ、久方ぶりの料理に挑戦である。ちなみにクロムカとふうふになってから現在まで53回、食事作りに挑戦しているのだが現在まで0勝53敗である。


「ああ! 絶対にクロムカの期待に応えさせてもらうよ。それじゃまずはこの卵を……あ」


 卵を割ろうと手に持ったザルソバであったが……緊張して力んでしまったのだろうか卵を握りつぶしてしまった。


「えっとクロムカ……これはたまたまで次こそは……」

「……」


 手に卵白卵黄がしたたるザルソバの姿を見て、聖母のような眼差しを向けるクロムカ。 

 その表情からまだ続行してもいいのではと淡い期待をしたザルソバであったが……現実は非情である。


「ザルソバさま、残念ですけど終了ですの。……ザルソバさまはまず力加減を覚えて欲しいですの」

「うぅ……すまないクロムカ……」


 開始から僅か10秒で試合終了のザルソバであった。これでざるそばの料理チャレンジは通算0勝54敗、果たして1勝できる日は来るのであろうか……。


「……ザルソバさま、こんな風に力加減なしでいぢめていいのは頑丈なワタシの体だけですの。ワタシ、ザルソバさまにならいくら乱暴にされても大丈夫ですから卵は優しく扱うですの」

「!?! く、クロムカ!! 君はもう少し言葉を……!!」


 妖艶ようえんな笑みを浮かべながらからかうクロムカに対し、顔を赤面させながら大慌てのザルソバなのであった。



 ******



 その後、夕飯を一緒に食べ終えてからお風呂にも仲良く入るザルソバとクロムカ。2人が一緒に入るのは仲が良いからだけでなく、クロムカが溺れたりしないように気遣ってである。


 そして湯船から出た後でザルソバはパジャマに着替えると先に寝室へと向かった為、脱衣場にはクロムカただ一人。

 クロムカは下着を着た後でパジャマを手に持ったまま何か考え事をしている。


「……よし、今日はザルソバさまを……」


何か決意した顔になりながらクロムカはそう独りちるとパジャマとは別に持ってきたあるものに着替え、寝室へと向かった。




 先に寝室のベッドに座ってクロムカが来るのを待つザルソバ。2人は基本的に寝る時も同じタイミングだったため、こうして2人が揃ってからベッドに入るのだが、どういうわけだか今日はいつもならすぐ来るはずのクロムカがなかなか寝室へやってこない。


「どうしたんだろうクロムカ……いつもならここまで着替えに時間はかからないはずなんだが……」

「お待たせしましたですの、ザルソバさま」


 なかなかやってこないクロムカの事をザルソバが心配しだしたその時、クロムカも着替えが終わったようで寝室へ入ってきた。だが……。


「あ、クロムカ。今日は少し遅……ってどうしたんだその格好は!?」

「ザルソバさま……今日は……『して』ほしいんですの」


 クロムカの姿を視界に入れた途端、ザルソバは大きく目を見開いた。というのも、普段クロムカが寝る時はパジャマだったのに、今日は珍しくベビードールを着ていたからだ。

 そしてクロムカは潤んだ瞳でザルソバに何かを期待するかのようなおねだりを始めたのだが……当のザルソバは扇情的な姿のクロムカを見て赤面はしたもののあまり気乗りしないような反応だった。


「クロムカ……、えっと、今の君の姿はとても美しくて、できることなら私だって君の望むようにしてあげたいよ。……だけど今のクロムカは君一人だけの体じゃないから、その、あまり負担を掛けてしまう事は……」


 ザルソバが気乗りでなかったのはクロムカが身重だったからのようで、その体を気遣った上での事だったのだが、クロムカもそれでもまだ引こうとはしない。


「平気ですの、夕飯前にも言ったですけどワタシの体はもうやわな人間の体じゃない頑丈なモンスターの体なんですの。

 それに『この子』が一番欲しがっている栄養はザルソバさまの魔力なんですの。…… だからワタシ、今ザルソバさまの魔力が欲しいんですの……」

「……!!」


 上気したかのように顔を紅潮させながらザルソバの隣に座り、上目遣いでザルソバを見つめる見た目13歳、中身は19歳のクロムカ。その顔は見た目相応の少女のものではなく……『何かを求める女の顔』であった。


 愛するクロムカのそんな表情を見た瞬間、ザルソバは思わず肩を掴んで押し倒したくなる衝動に襲われ、実際にクロムカの肩に手を掛けたのだが……最後の最後で理性の方が勝ったようで、肩に手を置くだけにとどめながら優しい声色でクロムカに話し始めた。


「クロムカ、君の体がが頑丈なのは私もわかっているよ。だけど、それでも私はクロムカの事を大事に扱わせてほしいんだ。私は絶対にクロムカの事を傷つけたりしないと、あの時、誘拐されかけたあの日から心に誓ったから。

 ……だからこの子を無事に産むまでは……キスだけで我慢してくれないだろうか」


「……わかったですの、ザルソバさま……。それならキス、お願いするですの……」


 再びのおねだりも不調に終わってしまい、ほんの少しだけ残念そうな顔をしたクロムカであったが、ザルソバから掛けられた優しい言葉が嬉しかった事には変わらないようで、ザルソバからの口づけを待ち侘びるかのように瞳を閉じた。


「わかったよクロムカ……」


 そして、お互いの唇が触れた瞬間から訪れる僅かな静寂しじま。それは実際には10秒にも満たない時間だったのだが、クロムカもザルソバもお互いにその時間を存分に堪能したかのようなうっとりとした表情になりながらゆっくりと唇を離した。


「えへへ……本当はキス以上の事をしてほしかったですけど、それでもザルソバさまにキスをされるだけでワタシ、幸せな気持ちになれますの。……ザルソバさま、今はキスだけで我慢するですけど、この子が生まれた後は……ワタシの事、またいっぱい可愛がってくださいですの……」

「ああ、もちろんだよクロムカ。私が愛したのは君だけなんだから……」


 2人は最後にもう一度だけ抱き合ってからベッドに入ると肩を並べながら静かに眠りにつく。



──こうしてクロムカとザルソバの一日は幕を閉じるのであった。

というわけで日常回は今回が最後で次回から最終章の本編に入りますが、次回もクロムカとザルソバの日常から始まります。


ちなみにキテタイハ町長のハタメ・イーワックはもう出てこない予定です。


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