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190. 17年と3ヶ月目①-2 ザルソバ・クロムカふうふの一日(昼前)。

本日2更新目です。

前回未読の方は前回からお読みください。

 無我夢中でザルソバの衣類を嗅ぐことに夢中になりすぎていたクロムカが我に返って、慌てながら洗濯物を抱えて向かったのは歩いて15秒ほどに位置する川。


 この川はクロムカ達の家とミノリ達の家とちょうど中間に位置している事からどちらの家でもこの川を洗濯に利用しており、クロムカはここでよくオンヅカ家の誰かと顔を合わせる。


 そして今日もクロムカはその瞳に誰かが洗濯をしている姿を捉えた。


「あ、こんにちはですのトーイラさま」

「クロムカこんにちはー。今日もまた同じタイミングだったねー」


 今日のオンヅカ家洗濯担当はどうやらトーイラだったようだ。といってもトーイラは元々オンヅカ家の中では洗濯を担当する事が多いのである意味必然と言えば必然かもしれない。


「さてと、ワタシも洗濯をしないと……それにしてもトーイラさまの方はやっぱり6人分だけあって量がとても多いですのね……」


「そうだね。だけどシャルさんがネメのお嫁さんになった後やリラが私達の妹になった頃でもいくらかは増えてはいたけどあまり増えたって感じはしなかったんだよね。

 だけどノゾミちゃんが生まれてから特に増えたって思ったんだよね。ノゾミちゃんは本当に元気いっぱいで遊び相手を務めると大抵泥だらけになっちゃってその分着替える事になるから、洗い物も増えちゃっているって事なんだだよねー。まぁ元気なのはいいことだけど」

「やっぱり子どもができると洗い物が増えるんですのね、ワタシもがんばらないと……」


 トーイラと話す傍ら、生活魔法で洗濯を始めたクロムカがこれから生まれてくる自身の子の事を考えて意気込んだが、トーイラはクロムカ達の子供ならノゾミのように洗濯物が増えそうにないと考えているようだ。


「うーん、多分クロムカさんの子ならそんなに洗濯物増えないんじゃないかな。おとなしいみたいだし。ノゾミはシャルさんのお腹にいた頃から活発で傍目から見ててお腹を突き破りそうなぐらい激しく暴れ回っていたから今の状況は必然って感じもするんだよね」


 シャルのお腹にまだノゾミがいた頃を思い返すようにトーイラはクロムカのお腹を見つめながらそう口にした。


 確かにクロムカのお腹にいる子どもはノゾミと違って驚くほどに動かない。あまりにも動かないので死産ではとザルソバもクロムカも一時疑ったりしたのだが、ノゾミが遊びに来た時だけ喜ぶように少しだけ動くことから、どうやら大人しいを通り越して動く事すら面倒なだけだと2人は結論付けていた。


「それはともかく、もうすぐ生まれるんだよね赤ちゃん。クロムカさんは体が小さいから生むの大変かもしれないけど、親友として応援するよ、頑張ってね」

「ありがとうですの、トーイラさま。ワタシ、がんばって母子ともに健康を目指しますの」


 トーイラからの応援に対し、素直にお礼を述べながらクロムカは両手を胸元で握りしめる。

 2人は洗濯で顔を合わせる機会が多くなった事で、今では色恋沙汰を一切含まない親友という関係となっていて、ある意味ミノリを中心とした人物の中では非常に健全な間柄なのであった。


 そのような感じで洗濯が終わるまでの間は仲良く雑談するのがおなじみとなっている2人は次の話題へと移る。


「そういえばふと思ったんだけどー、クロムカさんって何か苦手なものあるの?」

「苦手なもの……ですの?」


「そう、あんまり聞いたことなかったなーっと思って」

「うーん……苦手なもの……」


 その話題を振られたクロムカは腕を組んで考え込んでしまった。その表情は思い出そうと考えているよりも『これを言ってしまっていいのか』と考えているようにトーイラは見えたらしく……。


「あれ……もしかして聞いちゃダメだった? それだったらごめんね、今の質問は忘れていいから」

「あ、大丈夫ですのトーイラさま。聞いても構わなかったんですの。ただ……」

「ただ……?」


 謝りながらそうクロムカに伝えたが、どうやらクロムカが悩んでいたのは別の理由があったらしい。


「誤解があっちゃダメですので先に断っておくですの。今から話すのは昔、苦手だったもので今はそうじゃなくなったという事を前提で話させてもらうですの」

「うん、わかった。……それで苦手だったものはなんだったの?」


「……実はワタシ、眼帯が苦手だったんですの」

「へ、眼帯?」


 普通苦手なものといえば生き物や食べ物を挙げることが多いのに、クロムカが苦手だったのはまさかの装飾品だった為、トーイラは不思議そうな顔をしながらその理由を尋ねた。


「結構意外なものが苦手でちょっと驚いたけど……それって何か理由があったりするの?」

「まぁ……理由を知らないとわからないのが普通ですの。それじゃ教えるですの。ちょっとこの話を聞くと不快に思うかもしれないですけど……」


 確かに眼帯が苦手だったと言われても意味がわからないだろうと自覚していたクロムカはその理由をトーイラに話し始めた。


「ノゾミさまや他の方からワタシが孤児だった話は聞いているかもしれないですけど、実はワタシ、孤児になるまでは商売が軌道に乗っていて裕福な商家の娘だったんですの。

 でも、ワタシが8歳の時に、欲に目がくらんだ親戚の罠にはめられたワタシの両親は、おびき出されたモンスターによって殺されたですの。

 そうなると本来ならワタシは8歳にして家の跡継ぎになるはずだったですが、既に裏で色々手を回していた親戚によって家を乗っ取られてしまったですの。

 その上ワタシの存在自体が目障りだった親戚はワタシを家を追い出そうとしたですが当然ワタシは抵抗したですの。自分の家なのになんでって。絶対にこの家は自分が守るって。

 だけど親戚はこうなる事がわかっていたみたいで、ワタシを追い出すために暴漢みたいな人たちを雇っていたですの。幼かったワタシは当然そんな相手に敵うわけも無く色々殴られたり蹴られたり……それ以外にも色々されて孤児院に追いやられてしまったんですの。その人たちが全員眼帯をつけていたから、それがトラウマになって頭から離れなかったせいでずっと苦手だったんですの」


「……そういう事があったんだね」


 かなり辛い出来事のはずなのに淡々とそれを口にしたクロムカだったが、一度も話を区切る事をせずに話し続けたのはなるべくなら思い出したくなかったからなのかもしれない。


 そしてトーイラもその事をなんとなく感じてしまったが、モンスター化しただけでなく幼い頃から悲惨な人生を歩んでいた事を今初めて知ったトーイラは、どうクロムカに言葉を返せばいいのか浮かばなかったらしくそう言うのがやっとであった。


 しかし、クロムカの話の中である事を疑問に思ったようで、続けてクロムカに尋ねた。


「……あれ? 眼帯が苦手だったということは……もしかしてリラの眼帯も苦手だった?」

「あ、違うですの。違うですのトーイラさま」


 しかしクロムカはその問いに対して慌てたように首を横に振って否定し、その事についても話し始めた。


「えっと、リラちゃんの眼帯は大丈夫なんですの。というのも、その出来事があった日からもう十年以上経ってるですし、それ以上に辛い境遇にさらされたせいもあって、今ではそのトラウマが呼び起こされる事が無くなっていたですの。

 それに気づけたのはまさにリラちゃんと会った時なんですの。リラちゃんのつけてる眼帯を初めて見ても、全くトラウマが起きずに、ファッションなんだと思えた瞬間、きっとそのトラウマを克服できたんだと思うですの。だからこそワタシは、その事を教えてくれたリラちゃんには感謝したい気持ちでいっぱいなんですの」


 そう話すクロムカの表情は穏やかなもので、辛いことが多かったけれど今はとても幸せという気持ちの現れでもあった。


「そっか……クロムカは色々と辛かった出来事をこうして乗り越えて、ザルソバさんとふうふになるという幸せをつかめたんだね。親友として嬉しく思うよ」

「ちなみにワタシ、一人っ子だったですから妹がいたらリラちゃんみたいな妹が欲しかったなーなんて思ったりするんですの。リラちゃんはとてもいい子ですから……」


「ふふん、そこは親友の言葉であっても譲るわけにはいかないねー。私にとって、リラはかわいい妹だもん……って何クロムカさんその表情?」


 リラがかわいいと言われ、何故か誇らしげにしたトーイラがリラを渡さない宣言をクロムカにつきつけたが、クロムカはそれに対して特に動揺した様子は無い。それどころかなんとも暖かい視線をトーイラに向けている。


「えへへ、わかっているですのトーイラさま。ワタシ、リラちゃんを取ったりしないですの。だって、トーイラさまにとってリラちゃんは妹であると同時に恋人だって事もわかっているですの」

「!? ちょ、ちょっと待ってクロムカさん!! ちがうよ! 勘違いだよそれ!! リラとワタシは恋人じゃないよ!! ……まだ……」


 リラに惹かれているものの、まだ義母であるミノリと恋仲になりたいトーイラは慌てながらそれを否定したが……『まだ』の部分が小声であった事から、その決意が今では大きく揺らいでリラと恋人になってもいいという想いが大きくなっている事を示唆しさしているかのようであった。


「あれ、違ったんですの? ……こないだリラちゃんとトーイラさまが腕を組みながら森の中を歩いてるのを見たですので……」

「うぇ!? 見られていたの!!?」


 幸いにもクロムカには『まだ』の部分は聞かれなかったようで、それについて触れられなかった事については安堵したトーイラだったが、それ以上に見られては困る姿をクロムカに目撃されていた事で、頭を抱えてしまった。


「はいですの。だからワタシ、てっきりお二人はもう恋人なのかなと思ったのですけど……」

「ち、違うよ、ほんと。私とリラは仲が良いってだけで、腕を組んでいたのも狩りに行く時たまたまそうなっただけだよ! ほんと!!

 ……いや、本当はわかってるんだ、私自身がリラに惹かれている事もリラの気持ちにも応えたい事も……。だけど……まだママを諦め切れてないから……」


 恋人である事を否定する発言が徐々に尻すぼみになっていくトーイラ。リラから向けられ続ける一途な想いに気持ちが揺らいでいるものの、まだミノリのことは諦めきれていないからこその反応であった。


「……リラちゃんの手を取るか、ミノリ様を諦めずにその気持ちを貫くか。どちらに転んでも、きっとトーイラさまのいいようになるですの。だからワタシ、トーイラさまの恋心を応援させてもらうですの」

「うん……ありがとう、クロムカ」


 自分よりも年下だが既に自身の恋を叶え、さらに子どもまで授かる事ができたクロムカの言葉がトーイラにはとても頼りに思えたらしく、クロムカの言葉をトーイラは素直に受け止めた。


「……私ね、相当なヘタレだって自覚はもうあるけど、それでも、私は私なりにこの自分の気持ちに決着をつけるよ……あ、洗濯が終わったから私はそろそろ家に戻るね。

 それと、多分この後ノゾミがクロムカさんのところへ遊びに行くと思うよ。朝からすごく行きたがっていて、行きたいあまりにまだ全然お昼の時間じゃないって言うのに私が洗濯する前からもうお昼ご飯食べてたから」

「あ、そうなんですのね。わかったですの、ワタシの方もそろそろ洗濯が終わりそうだったからきっと良いタイミングだったですの」



 トーイラが洗濯物をもって家へ引き返していくのをクロムカが見送ると、クロムカの方の洗濯も終わったようで、洗い終わった洗濯物を洗濯かごに詰めて家へ引き返すと……。


「ちょ、ちょっと待ってくれノゾミちゃん……流石に腕を掴んでそのまま空中に放り投げる遊びってのは私にはできないので別の遊びにしてくれないか……そもそもミノリさんの大事なお孫さんに怪我をさせたら申し訳が立たないし……」

「えー、そっかぁ残念。ザルちゃんならネメママよりも遠くに放り投げてくれそうな気がしたのに……あ! クーちゃん!!」


 ザルソバと戯れるノゾミの姿がクロムカの視線に入った。どうやらクロムカの気づかないうちにノゾミは遊びに来ていたようで、洗い終えた洗濯物を持って引き返してくるクロムカの姿を見つけると、ノゾミはとても嬉しそうな顔で、クロムカに向けて手を振りながら駆け寄ってきたのであった。

ザルソバ・クロムカふうふの日常回はあと1回分です。

近日中に投稿できるようにがんばります。

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