番外編2-17. 恋愛ど下手緑髪魔女スーフェの憂鬱。
番外編2の最後はミノリたちが見逃した緑髪魔女ことスーフェのその後で、当初1回予定でしたが全3回になりそうです。
また、R15表現がありますので苦手な方ご注意ください。
リラを保護したミノリとネメが、北の大陸から出ている船の中でモンスターだとばれないようにフードを必死に被って早く船旅が終わってほしいと願い、トーイラとシャルもクロムカと共に光の神殿で修行に明け暮れていた頃、遠く離れた名も無き森の中では、緑色の髪をした女性が木の幹に座って一人ため息をつきながら暗い顔をしていた。
「はぁ、何度も挑戦したけど全敗。……やっぱりダメなのかしら、私みたいなモンスターが誰かと恋をするなんて。モンスターとしての本能が出ない今しかチャンスがないと思ったのに……」
彼女の名前はスーフェ。騙されて結んでしまった契約魔法によって、リラ共々北にある城から一生逃れることができない運命であったにもかかわらず、ネメ達によってその契約魔法が無効化され、さらにミノリとネメの関係をうらやましがった事をポツリとつぶやいたことが幸いして見逃してもらえ、こうして運良く生き存えることができた魔女型モンスターである。
そんな彼女がため息をついた理由、それは誰かと恋をして結ばれようとしたのにうまくいかなかった事にある。
スーフェが勇気を出して人間に声をかけても、モンスターである彼女の姿を見た途端、全ての人間が血相を変えて逃げ出したり、攻撃を仕掛けられてしまったりした挙げ句に討伐依頼まで出されてしまったりと結果は惨憺たるものであった。
それでもめげずに何度も挑戦しては失敗し、討伐依頼が出されてしまったら逃げるように居場所を転々とするという生活を繰り返し、こうして周りに生息するモンスターはおろか、周辺の村に住む人間までもが非常に弱いという、最初に挑戦した場所からかけ離れた地域にまで逃げ落ちるまでになった結果、すっかりスーフェの心は淡い期待から焦燥、そして諦観へと変化してしまっていた。
「……もう森の奥に引きこもって何もしない方がいいのかしら。……幸いこの辺りのモンスターは弱い上に食にも適しているからご飯には困らないし、近くにある村の人間も貧弱な装備と初級レベルの魔法しか使えないみたいだから、いくら襲撃を受けてもなんとかなりそうだし……」
すっかり自信を失くしてしまっているスーフェは一人そうつぶやいた。
ちなみにスーフェだが、シャルの種族の上位種だからかシャルと同様に相手の性別関係なく子供を授かることができる体質であった為、恋をする事ができるなら相手の性別は関係なく、人間かモンスターかについてもどちらでも良いと考えているなど、恋愛対象範囲が非常に広い。
しかし恋愛観や性的な行為に対する考えの違いから一部の人間やモンスターはその範囲外で、リラを北の城に連れて行く際に同行していた動物顔のモンスターこそ実はその筆頭だったりする。
何故スーフェにとってあのモンスターが範囲外だったかというと……彼が恋愛感情すっぽ抜けで下半身直結型思考の持ち主だったからで、リラを北の城に連行する最中彼がリラに対して行おうとした行動で彼に対して嫌悪感が出た事で、恋愛対象範囲外となったのだ。
「だけど私、恋愛したいとは言ってもあいつみたいなのは本当にイヤ……。だってあいつ……えっと、あの子は確かリラって名前だったっけ。
あの子を北の城に連れて行く時に、眠っちゃったあの子を捌け口にしようとしたのか足を開かせて服まで脱がそうとしたのは流石にドン引きして止めたのよね……まぁその後で私はいっぱいあいつに殴られたけど……」
リラが眠ってる間の出来事だったため、幸いにもリラは知らなかったのだが、リラを連行していた際にスーフェと行動を共にして、リラに悪態をついたり暴力を振るうなどやりたい放題であったあの動物顔モンスターは、実はリラのことを性的に襲おうとした事があり、それをスーフェが必死に阻止していた。
いくら同じモンスターでもそっちの本能が直結しているのは流石にいただけなかったスーフェにとって、その瞬間、あの動物顔モンスターが恋愛の範囲外となり、それ以降はうわべだけの付き合いを貫いた。
そして、その行動が原因であの動物顔に悪印象を持たれてしまったスーフェは、彼がひそかに考えていた『魔導書は渡さないがリラを北の城まで連れていったらスーフェにかけられていた隷属魔法ぐらいは解除してやろう』という方針から『隷属魔法は一生解かず、スーフェには北の城で死ぬまでリラの監視役を背負わせる』という報復を受けてしまったのだが、幸いにもその隷属魔法が無効化されたこともあり、スーフェはリラを守るために起こした行動に対して全く後悔していない。
「もしもあの時、あいつの下半身直結思考を止めてなかったとしたら、小さいあの子が襲われて泣き叫ぶ場面を見る事になっていただろうし、その事を確実にあの子はネメとミノリに話しただろうから……うん、やっぱり殴られてでも止めて正解だったわ。絶対に私も加害者の一人扱いされて殺されていたに違いないもの……まぁいいか、今日はもう帰ろう……」
つくづく、自分はただただ運が良かっただけなのだろうと改めて思い知ったスーフェだったが、今日はもうここにいても仕方ないと考えたようで、木の幹から地面に降り立つと、そのまま現在根城にしている森の中の洞窟へ引き返そうとした。
しかしその時……。
「……あれ、何の音かしら?」
スーフェの少し離れた場所から聞こえてくる物音。その音の正体を確認しようとしたスーフェが耳を澄ませてみると、草がこすれる音と共に聞こえてきたのは女の子のすすり泣く声。
(これは……人間の女の子の声? こんなモンスターが普通に出るような森の中に? 迷子かしら……)
別に放っておいても良かったのだが、何故かその声の主が気になったスーフェは、洞窟に引き返さず、声の主を探しに音が聞こえる方へと歩き出した。
それはスーフェにとって本当にただの気まぐれだった。しかし、この行動が彼女の運命を大きく変えることになるなど、この時のスーフェはまだ知らない。
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「──えっと、確か声が聞こえてきたのはこっちの方よね……あ、あの子かしら?」
森の中の生い茂る草むらをかきわけてスーフェが声の主を探していると、スーフェの予想通り、道に迷ってしまったらしい少女が泣きながらどんどん森の奥へ向かっていくのをスーフェは見つける事できた。
(どうしよう……声、かけた方いいわよね。怖がられそうだけど……)
今日までずっとイヤと言うほど味わってきた声をかけただけで怖がられる悲しみ。
仲良くしたいと思って声をかけているからこそ、その拒絶するような反応が心のダメージとしてじわじわと蓄積されていた事もあって声をかけるのに躊躇しかけてしまうスーフェではあったが、それでも自分を奮い立たせると、上擦りそうになる声をなんとかごまかしながら少女に声をかけた。
「そこの子、どうしたの? ダメよー、あなたみたいなちっちゃな女の子がこんな森の中をうろついては。危ないわよ」
「え、だれ……ひっ!!!」
少女が振り返ってスーフェを視界に入れた途端、恐怖で顔をこわばらせた。
「えっと、別に怖がらなくてもだいじょうb」
「も、モンスター……! やだ、やだ、おねがい、こないで……ころさないで……!!」
「……」
怯える少女を落ち着かせようと優しい声色で話しかけたスーフェだったが、返ってくるのは恐怖一色となった表情と命乞いで……スーフェは心に傷がまた一つ増えたような気持ちになる。
(……やっぱり怖がられちゃった……今回はこの子を助けたいという気持ちだけで出てきたのに相変わらずこの反応……モンスターとして生まれた時点でここまで人間に拒絶されるなんて……本当につらい……でも仕方ないか)
めげそうな気持ちになるスーフェであるが、少女がそんな反応を示すのも仕方ない事も薄々わかっていた。なにせスーフェは魔女型モンスターの種族ではシャルより上位の種族……どころか最上位種で能力的に弱い部類に入るモンスターしか生息していない地域にスーフェがいる事自体おかしいのだから。
そして当然ながら魔女系モンスターでは最上位種であるスーフェは、まだ幼い子供である少女が適う相手であるはずもなく、自分はもう死ぬかもしれないと悟った少女はそれでも生き延びられる僅かな可能性にかけたいとばかりにその場に蹲ると、体を震わせながらもスーフェに対して命乞いをしだした。
「……安心して。私はあなたに危害を加えたりしないわ。村の近くまで送ってあげるから一緒に森の外へ行きましょ?」
元から少女を殺す気など無かったスーフェはその命乞いを聞き入れ、それどころか森の外まで少女を連れていくと宣言した。
「え……? 私のこと、殺さないの?」
「もちろん、だからもう泣かないでいいのよ。ほら、顔を上げて?」
「うん……」
スーフェの行動は少女にとって予想外だったようで、顔を上げると意外そうに目をぱちくりとしながらスーフェの顔を凝視してくる。
見つめられたスーフェもその少女の顔を改めて確認すると、その少女は水色の髪とややつり目気味の凜々しさがある綺麗な顔立ちで、大きくなったらさらに綺麗になりそうだという印象を受けたが、別に自分には関係ないかと気持ちを切り替えると、少女に手を差し伸べながら言葉を続けた。
「さあ、私が一緒にいるからにはもう安心していいわよ。森から出て村の近くまで送り届けるまで、あなたの事は絶対に私が守ってあげるから」
スーフェから伸ばされた手に対して、躊躇するかのように一瞬ビクッと体を震わせた少女だったが、やがて意を決したかのようにその手をしっかりと掴んだ。
……こうして魔女スーフェと名も知らない少女との、村までの短い旅が始まった。
そういえば今日でミノリさんの投稿を開始してから丸二年みたいです。
完結まであと少しなので頑張ります。




