番外編2-12. だって離れたくないから。【トーイラ視点】
本日2更新目で、番外編トーイラ・シャルルートの最後です。
前回分未読の方は1つ前からお読みください。
「えへへー、トーイラししょー……」
「もう、あんまり甘えないでったらクロムカ。ここ上空だからバランス崩したら危ないよ」
「あ、ごめんなさいですのししょー。嬉しくてつい……だって家族を失くしたはずのワタシにおねーちゃんみたいなししょーができたから……」
「そう……」
旅立って初日にして、クロムカを見つけさらに連れて行くことに成功した私は、現在シャルが使う飛空魔法の箒に同乗して光の神殿に向かっていた。
そして先程からクロムカがベッタリと嬉しそうに私の腰にしがみつきながら体をすり寄せているわけで。私に対して心を許しているからこそこうして甘えているんだろうと思うけど……これはこれでいいと私もつい満更でもないという思いになってしまっている。
だってクロムカの甘え方が『もしも私に私に親愛の情を向けてくる年下の妹がいたら』を体現したかのような甘え方をしてくるんだもの。
そんなあっさりとクロムカに対してあっさりと心を許し、ニヤけそうになる顔を我慢している私の前にいるのは、表情はわからないけど明らかに不満そうな気配を出しているのがわかるシャル。
「せっかくトーイラさまとの2人旅ができると思ったのに初日で既にその夢が崩壊……むー……」
多分独り言なのだろうけど、不満を持っている事がすぐにわかる拗ねたような口ぶりだった。
「あれシャル、もしかして妬いてる?」
「あたりまえですよトーイラさま」
ちょっとからかい気味に私はシャルにそう尋ねると、シャルから返ってきたのは妬いている事を素直に認めた発言。
こういった時って普通『そんなわけない』とか言い出すのが普通だと思うけど、やっぱりこの子そういった感情に対しては素直なんだよね。
「ごめんね、でも今は我慢してねシャル。……今日の夜、いっぱい甘えさせてあげるから」
「!! は、はい……」
クロムカに聞こえないぐらい小さな声でシャルにこっそり伝えると、シャルは途端に耳を真っ赤にさせた。
……あぁ、本当にシャルってばかわいい……そういう所も好きだよ私。
*****
──その後、イケイーエウの上空を通り過ぎて、あっという間に光の神殿がある山の頂に降り立った私達が神殿の方に向かって歩き出すと、私達がやってくる気配を察していたのか、神殿の方角から羽の生えた少女が文字通り飛んできた。
「トーイラ様―!!戻ってきてくれたんですね!! 私ラリルレ、これでトーイラ様が帰ってこない事で上司に毎日毎日叱責されたストレスが原因で胃痛を起こさなくて済みますよー!!!」
その少女はある意味私とネメを引き離した元凶でもある光の使い。
思わず全力で殴りつけたくなるぐらい憎らしい満面の笑顔でわが身可愛さ故の発言をするので余計に腹が立つ。
……というかあなたそんな名前だったんだ、私を連れ去ってから6年経って初めて名前知ったよ。
まぁ今は殴っても仕方ないから話は合わせてあげるか。どこかのタイミングで殴るつもりだけど。
「えぇ、私がすべきことって光の祝福を覚えたら資格のある英雄に光の祝福を与えるぐらいなんでしょ?
私を妹から引き離したことは絶対に許さないし後で一発殴るけど、それぐらいはやってあげようと思ったんだ。ただし条件ありで」
「殴らないでください!! あれ、というか待ってください、じょ、条件ですか……え、無条件じゃなくて?」
「当たり前でしょ、私あなたの事憎くて仕方ないんだから」
ラリルレは私が『世界平和の為に考えを改め、無条件で光の巫女となって光の祝福を覚えて資格のある英雄に与える』と都合のいい解釈を勝手にしたみたいで、私がそう話した途端に緊張した面持ちになった。
「そ、それで条件とはなんでしょうか……トーイラ様……」
「この子達にも光の祝福を覚えさせたいの」
おずおずと、その条件は何かと尋ねたラリルレに対して、私はそう答えながらクロムカとシャルを指さした……何故だかシャルが『私も!? 聞いてないんですけど!!』という顔をしてるけど気にしない。
そして私の条件を聞いたラリルレはまるで値踏みするかのようにまずはクロムカの方をまじまじと見つめた。
「は、はぁなるほど……。確かにそっちの金髪ロングの子は強い光属性の魔力を感じますから光の祝福を覚える可能性がありますね……そしてこっちの……って、ちょっ、ちょっと待ってください!!」
しかしラリルレはシャルの方に視線を向けた途端、その態度を一変させた。
「あのトーイラ様!? そっちの金髪の少女はわかりますよ? 強い光属性の魔力持ちですから覚える可能性がは十分にあるって事は!
だけどそっちの下品なピンク髪の女は駄目です!! 感じるのはおどろおどろしい闇属性としょぼい火属性だけですしそもそもそいつは私達神族が慈悲なく滅殺すべきと考えているモンスターじゃないですか!!
一体何を考えてそんなの連れてきたんですかトーイラ様!! そんな汚らわしい存在をこの神聖な神殿に連れてきた事自体大きな誤りです!!」
イラッ。
『そんなの』扱いされたシャルは『ほらやっぱり』と微妙に悲しそうな顔をしているけど私にはそんなの関係ない。
シャルを『汚らわしい』だとか『そんなの』呼ばわりした事が唯々ムカついた。
シャルを馬鹿にするな。そんなの扱いするな。私が好意を持っている子に対して汚らわしいだなんて言うな。
「……あっそ。じゃあ私、光の巫女になる事はもちろん光の祝福を覚えるのもやめるよ。帰るよクロムカ、シャル。クロムカには個別で私が光魔法を教えてあげるから」
そう言って私は踵を返した。あーあ、こんな不快な思いするんだったらやっぱりこんな所来るんじゃなかったよ。いくらネメたちのお願いだからと言って、私が好きな子を貶されるのは不愉快すぎるもの。
「ええぇえちょっと待ってくださいトーイラ様!!? 何でですか!? その不浄な存在だけ入れなければいいだけでs……ぐぇっ!? ……ひぇっ……」
それでもなお執拗く私に追い縋ろうとしてくるラリルレの胸座を、つい私は反射的に掴んでそのまま持ち上げていた。
その際にラリルレがひどく怯えた表情を見せたことから、多分、私の視線が相当冷たいものになっていたのだと思うけどそんなの知ったこっちゃない、そのまま失禁するぐらい怯えればいいよ。
「……私はね、私にとって大事にしたいと思っている子をそんな風に不当に扱われるのが嫌いなんだよ。それぐらい自分で気づいたらどう?
この子は私の大切な部下で、友達で、そして……『 』……と、とにかく絶対に手放す気は無いんだから!! あーもうすごく不愉快!! クロムカ、シャル、やっぱり帰ろう!!」
すぐそばに本人がいるせいで『そして好きな子』を口パクでしか言えなかった私……うん、ちょっと情けない……なんだろう、もしかして私、自覚が全くないけど好きな子に対して本心を伝える事すらできないようなヘタレだったりするのかな……。
ま、まぁ今はそれはいいや。とりあえず不快指数がうなぎ登りなのは間違いないわけだし。
ともかくそんなわけでシャルとクロムカを連れてここから去ろうととしていると、ラリルレはそれでもなお私の足下に縋るようにしがみついてきた。
「うえぇぇ、待って、待ってくださぁいトーイラ様ぁぁ……これでトーイラ様がまたいなくなってしまったら私また怒られちゃうぅぅ……今度はげんこつどころじゃないんです。うぅぅ……」
あくまで自分の保身が目当てなもんだからこのラリルレってほんっとうに腹立つ。……さてと、それじゃさっきシャルから聞いた切り札でも出そうかな。
私はその切り札をラリルレに告げる事にした。
「……ねえラリルレ。私、知っているんだよ?」
「ひぇっ、な、何を知っているというんですか……?」
私がそれを切り出した途端、ラリルレは再び怯えたような表情を見せた。多分そんな表情になってしまったのは、私があまりにも悪意に満ちた黒い笑顔をラリルレに見せたから。
私はその表情のまま言葉を続けた。
「私が知っているのはね……あなたが『光の巫女候補を連れてくるの楽だから』って理由だけで、敵対勢力の存在である闇の使いと繋がって、キテタイハ周辺では共同で光と闇それぞれの巫女候補探しをしていたって事」
そんなあなたのその私利私欲のせいで私はネメと6年も引き離されたんだよ。
「!?!?! ナ、ナンノコトヤラ」
私がそう指摘した途端、目が泳いだ上に片言になるラリルレ。ここまでバレバレな態度するのにまだ認めないとは……。こいつやっぱり腹立つなぁ……。
「しらばっくれても無駄だよ。まぁそれでもなお認めないっていうのなら、あなたの上司にそれを告げ口しておくけど構わないよね? それが原因で追放されるのも悪くないでしょ?」
「ふぐっ!? ……ふぇ、ふぇぇ……、わ、わかりましたぁトーイラ様!! そのモンスターも神殿の中に入っていいです、いいですからお願いしますトーイラ様、光の巫女になってください! そして光の祝福覚えて英雄候補に祝福を与えてください!!
だから上司にだけは、上司にだけは言わないでください!!! 追放いやです!! 今ここで追放されたらどこかの寂れた村のかかし狂シスターと爛れた関係になっていろんな意味で汚されそうな気がするんです!!」
「全くもう、最初から素直にそう言えばいいのに……」
私が切り札を持ち出すとあっさりとシャルを神殿に入れることを承諾したラリルレ……というか何そのシスター、本当にそんな風変わりでトンチキなシスターが世界のどこかにいたりするの? いるんだったらむしろ逆に見てみたいよ。
まぁそんな想像の産物については置いておくとして、これでシャルも離ればなれにならずに一緒に神殿には入れる事ができたので良しとしよう……『うわぁんあとで始末書だぁ……』という嘆きが聞こえてきたような気がするけれど多分気のせいだろうし、本当に聞こえていたとしても私には全然関係ない。
私はただ光の巫女になって、この先現れる英雄候補に光の祝福を与えるだけだから。
「それじゃクロムカ、シャル。一緒に修行頑張りましょう。二人とも一からで大変だと思うけどあなたたちならきっと大丈夫だから」
「わ、わかりましたですのししょー。ワタシ、頑張っておねえさまと同じ光の巫女になって、光魔法と光の祝福を覚えられるようがんばりますの!!」
私が2人に激励の言葉を伝えると、とてもいい返事をしてから掌をぐっと胸元で握りしめて決意表明するクロムカとは反対に、シャルはちょっと困惑したように眉を八の字にしている。
「私までいいのかなぁ……モンスターである以上闇属性なのはどうしようもないですし、そもそも私モンスターなのに……本来モンスターである私にとっては秘密情報そのものの光魔法をこうして知る事ができるのはウィッチ本来の習性である個人的研究材料として最高ではあるんですけど覚えられる気がしないから教えられても無駄に終わる気も……むぎょ」
まだ何か言っているシャルのほっぺを私は自分の両手で優しく挟んでそれ以上しゃべらせないようにした。それはうるさいからと言う理由ではなく、私の本心を今こそシャルに伝えようとした為に。
……私は一呼吸置いて、気持ちを落ち着けてから、シャルの瞳をまっすぐ見つめて静かに口を開いた。
「シャル、これ以上ごちゃごちゃ言わないの。……一回しか言わないから、ちゃんと聞いててね。……私はね、シャル、あなたと一緒にいたい、離れたくない。だから、あなたも私から離れようとしちゃダメ。あなたは……これからもずっと私と共に生きていくんだから」
……『好き』とか『愛してる』ということを面と向かって言えない微妙にヘタレっぽい気もしたけど、それでも私は初めてシャルに自分が思っている好意をシャルに伝えることができた。
「!!?? は、はい、トーイラさま!! 私も、トーイラさまの事、ずっとお慕いしています!! あわあわあわ……」
するとシャルは私の言葉の意図を理解した途端、顔を真っ赤にして混乱したような表情になったり、嬉しそうな表情になったりと明らかに混乱したような顔を私に向けてきた。
……多分、シャルはシャルで不安に思っていたのかもね、私がシャルへの好意に対して今まで一度も言葉にしていなかったから。
シャルとの出会いは最悪だったけれど……私ってば、ずっと好意を私に向けてきていたシャルの事、本当に心の底から好き……というか愛してしまっていたんだね。
「……ししょーとシャルさま、本当にお似合いで見ているアタシの方がその姿に癒やされてしまいますの。……ところでししょーとシャルさまはキスしないんですの? 既に恋人関係みたいですし、お2人の甘いキス、アタシ見てみたいんですの」
「「!?」」
しまった! クロムカが見ていることをすっかり忘れてうっかりシャルと見つめ合う事に夢中になってた!! というかクロムカはクロムカでなんだか恋に恋する乙女みたいな視線で私達のことを見てるし!
光の使いは幸いにもまだ始末書ショックで立ち直れていないのか地面に頭をくっつけたまま動いてないから多分聞いてないのだろうけど……私よりちっちゃいクロムカがいる前で言ってしまったのはまずかったかも。
「ちょ、ちょっとクロムカ! まだ9歳のあなたの前でそれを見せるのはほんの少しだけ早い思うんだ私は!!」
「え、でもししょーもアタシと歳はそんなに変わらないですの……それにキスする子ぐらい、アタシの歳ぐらいでは周りにもいたですのに……」
「それはほっぺにでしょ!? あなたが言ってるのって口づけっぽいじゃない!! やっぱりそんなの見せられないというかそもそもキスする所なんて人前では絶対に私はしないよ!! 恥ずかしいもん!! そんな事より2人とも早く神殿の中に入ろう! これからみっちり修行することになるんだから今日は早めに休まないと!!」
「わ、わかりましたトーイラさま! ……どこまでもご一緒します」
「あ、待ってくださいですのししょー! ……むぅ、ししょーとシャルさまのキス見たかったですの……」
……と最後に謎のいざこざはあったけど、いうわけで旅立って初日にして光の祝福を覚える以外の目的は達成する事ができてしまった私達。だけどこれからが本番。
私だけじゃなく、クロムカも光の祝福が覚えられるように私もがんばらないと。そして実はそれとは別にシャルに対してのある目標もあったけど今はまだ秘密。
私だけなら比較的早めに光の祝福を覚えられると思うけどクロムカが光の祝福を使えるようになるまでは何ヶ月、何年かかるかわからない。だけどなるべく早く我が家に帰るからね。
だからそれまで待っていてネメ、ミノリさん。私たち、頑張るから!
……ちなみに後で知ったんだけど私達が修行をしている間、ネメたちもネメたちで時間を持て余していたみたいでリラって子を保護するまでの間、ずっと狩猟生活を満喫しながらイチャイチャしていたそうで……まぁそうなるよね。あの2人私が旅立つ前からお互いに好き合っていたのはわかりきっていたし。
ま、まぁもしかしたらあっちはあっちで私とシャルが家を出る前から既に一線を越えた関係だってバレバレだったかもしれないけども……まぁいっか。
次回は番外編の合流編で、あと2~3回で番外編は終了する予定です。
またちょっと間が開くかもしれませんがお待ちいただけると幸いです。




