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人型モンスター転生少女『ミノリさん』の義娘子育て記録【本編完結済】  作者: OPK
番外編2 もう一人のミノリの家族計画。
204/251

番外編2-10. 見た目は可憐、されど物騒。【トーイラ視点】

本日2更新目です。前回未読の方は1つ前に戻ってからお読みください。

「シャル、光属性の気配は誰から感じる?」

「えーっと……今戦ってる女の子からですね。光属性の魔力が少し離れたここからでも感じられます」


 シャルをかっ飛ばせて戦闘が繰り広げられている場所まで近づいてみると、大きめの熊型モンスターを相手に、一人の女の子が武器を手に戦っている姿が私の視界に入った。

 ……だけど明らかに女の子の方は劣勢で、体のあちこちに傷をつくっているどころか血まで流れているのにもかかわらず戦う姿勢を崩そうとしていない。


 そしてその背後には女の子よりも小さな子供たち数人と母親……いや、違う、シスター服を着ているから多分孤児院の先生だと思う。


 多分、応援が来るまでの時間稼ぎをしているだけだろうと最初は思ったのだけれど……女の子の瞳から感じるのは憎悪という感情一点だけ。

 女の子とあのモンスターとの間にはなにかしらの因縁があるのかもしれないけれど、それ以上に気になるのは……。


「というか何あのモンスター、見た目すごく気持ち悪いんだけど」


 女の子が戦っているモンスターはパッと見は熊みたいなモンスターで、手にはおおきな爪が備わっているのだけれど、さっきから見ている限りそれを用いて戦う様子はなく、使っているのは自身の口から出した数メートルはあろうかという異常に長い舌。それを鞭のように器用に扱いながら女の子に攻撃を浴びせている。


「えーっと、あのモンスターは確かナメトリレロベアですね。長い舌を武器にして攻撃してくるんです。舌は普段は乾いているんですが、獲物を近くに引き寄せようとした時には粘着性のある唾液を自由に分泌ぶんぴつさせて、それで捕らえるそうです」

「特徴まで気持ち悪っ、変態じゃん」


 シャルが熊みたいなモンスターについての詳細を教えててくれたんだけど……何その変態みたいなモンスター。キテタイハ周辺にも衣服だけ溶かしてくるシンシスライムってのがいるけどそれと同レベルだよね。


 まぁあんな変態熊はどうでもいいとして、改めて女の子の容姿を確認してみると、長い金髪にもみあげ縦ロールでどことなく可憐な印象を受ける。

 その特徴はネメたちから聞いていたクロムカの外見の特徴と完全に一致するので、やっぱりあの子こそが探し求めていたクロムカで間違いないんだろうけど……私一人で断定するのも不安だから最後にもう一度確認してみよう。


「ねぇシャル、今懸命に戦っている金髪の子、9歳ぐらいに見えるよね?」

「はい、そう見えますね。そしてあの子が光属性の魔力持ちですね。トーイラさまには劣りますけどそれなりに強い光の魔力ですよ」

「そう……わかった。やっぱりあの子がクロムカであってそうだね。シャル、地上に降りてくれる?」


 やっぱりあの子がクロムカで間違いない。ならばこの窮地きゅうちを助けてあげねばと、シャルに地上へ降りるようお願いしたまさにその瞬間……。


「きゃああっ!!!!」


 クロムカが私たちの方めがけて吹っ飛ばされてきた。


 どうやらナメトリレロベアの舌が直撃した事で上空へ高く飛ばされたみたいで、このまま地面に落下したら大怪我してしまうと私は咄嗟にクロムカを受け止めた。


「大丈夫?」

「へ、あ、あれ? お、お姉さん誰ですの!? いつの間にいたのかわからないですけど……受け止めてくれてありがとうございますですの。多分、地面にぶつかってたら大怪我していたんですの……ってあれ、浮いてるんですの!?」

「うん、確かに地面に激突したら大怪我していたと思うけど……既にあなた満身創痍だよね……? もう無理しない方がいいよ? とりあえず地上に降ろしてから私が代わりにあのモンスターを倒……」

「だ、ダメですの!!!!」


 受け止めたクロムカを抱きしめたまま地上へ降りた私とシャルに対して律儀にお礼を述べるクロムカ……変なしゃべり方も特徴の一つと聞いていたからやっぱりこの子はクロムカだ。

 そして、大怪我はしていないとはいえあちこち血だらけ傷だらけだから、私が代わりにこの変態熊を倒してあげると言おうとしたのだけれど……何故かクロムカはそれをキッパリと拒絶した。


「あ、ごめんなさいですの、助けてくれたのに大声出しちゃって……だけどあいつはワタシ、ワタシの手で倒さないと……ミンチになるぐらいにグチャグチャにぶっ殺さないといけないんですの……」


……幼いながらも可憐な見た目をしているクロムカが、その外見からは想像もできないような物騒な事を口走ったような気がしたけど私の気のせいかな? うん、気のせい気のせい……。


「倒したい想いが強いのはわかったけどあなたもう既に傷だらけじゃない。さっきから何度もあれから攻撃受けていたみたいだし、肋骨の一本や二本、もう折れていたりするんじゃない? 無理しない方がいいよ」


 連れて行く前にここでクロムカに死なれてしまったら元も子もないので私はそう言ったのだけれど……クロムカの意思は揺らがない。


「それでも、それおでもワタシがやらなくちゃいけないんですの!! あいつはワタシのパパとママの……両親のかたきなんですの!! 殺してやる!! 絶対殺してやるんですのあのクソ熊!!!」


やっぱり私の聞き間違いじゃなかった!! クロムカってばかわいらしい顔立ちに似合わず発言がすごく物騒!!

 まぁでも両親のかたきなら口が悪くなってしまうのも仕方ないのかも。といってもそう判断する私は自分の本当の両親の顔も名前も知らないけど。


 だけどこれじゃらちが開かないから……よし、こうしよう。


「ねえシャル、私の魔力があなたの体内に残っているのなら、攻撃する必要は無いから暫くあの変態熊の時間稼ぎをお願い。あなたならこの辺りのモンスターの攻撃をよけるぐらい余裕なんでしょ?」

「はい、私より少し格下のモンスターなのでよけるのは大丈夫ですし、魔力は昨夜トーイラさまがおしおきと称して魔力を私の体内に……」


「そこまで具体的に言わなくていいから。とりあえず残っている状態なら私達が攻撃魔法を使ってもシャルに被害は及ばないはずだから、攻撃魔法使っても大丈夫だよね?」

「ま、まぁ大丈夫ですが……」


 昨夜シャル相手に『あれ』な事しておいて良かったよ。私の魔力がシャルの体内にたまっていると言うことは、一時的にシャルは人間扱いされているという事だから、人間である私達が攻撃魔法を使ってもシャルが喰らうことはない。よし、これで攻撃魔法を自由に使える。


「それを聞いて安心したよ、それじゃ時間稼ぎお願いね」

「は、はい…でも手短にお願いしますね……」

「わかってるわかってる」


 私の指示に従ったシャルがナメトリレロベア相手に時間稼ぎを始めたのを確認してから、私はクロムカの説得を始めた。といってもそれは敵討ちを諦めさせる事ではなく、私が敵討ちの手伝いをするために。


「えっと、あなたの名前まだ聞いてなかったよね。私はトーイラ、そしてあっちで時間稼ぎしているのはシャルだよ」

「あ、ワタシはクロムカ……クロムカ・バネシスって言うんですの」


 そしてついでに名前も聞き出すことに。いや、ワタシは既にクロムカの名前は知っているけどこの子にとって私は初対面な訳だしいきなり名前を呼ばれたら不審すぎるからね。


「そう、クロムカって言うんだね。……ねえクロムカ、あなたの両親のかたきだからあのモンスターを自分の手で倒したいっていう気持ちは理解できるよ。

 だけどこのままじゃかたきつ前にあなたが死んでしまう可能性しかないぐらい実力差があるのも内心わかっているんだよね?」

「……はいですの……でも、でも……やっぱりワタシは……」


 やっぱりクロムカ自身もあの変態熊相手に敵わない事はわかってはいるみたい。だけどクロムカは諦めようとはせず、涙目ながらに手にしていた武器を再び強く握りしめた……っていうかクロムカが手にしている武器って果物ナイフじゃないの。そんな殺傷能力の低い武器でよくあの巨体なナメトリレロベアー相手に立ち向かって、劣勢ながらもここまで粘っていたよね、逆にすごいと思う。


 でも、このままじゃどちらにしろクロムカに勝ち目が無いのは明らかだし、私が手助けに入らなくてもさっき救援を呼びに行った子供が町から応援を連れてきたらどちらにしろクロムカは両親の仇を討つことはできない。


……自分の手で倒したいと行っていたけど、私がサポートに入るぐらいだったら大丈夫だよね…?


「ねぇクロムカ。あなたが手にしている果物ナイフじゃ絶対に勝つことはできないけど、あなたにあの熊を倒せる方法が一つだけあって、それを私が知っているとしたら……あなたはどうする?」

「……え、あるんですの……?」


 よし、クロムカが私の話に食いついてきた! これはいけるかもしれない。


「そう、一つだけ方法があるの。それは光魔法で、あなたは光魔法を扱える素質があるみたいだから、同じ光魔法の使い手である私がそれを教えたらきっとすぐに光属性の攻撃魔法が使えるようになるからそれであの熊を倒せるに違いないよ」


 これできっとクロムカは私から光魔法を教わりたいと言ってくるはず。そして光魔法で倒すことができたらきっと私のことを信頼して、私が光の神殿へ行く際も着いてきてくれるに違いない。

 そういった打算も含めた提案だったのだけど……何故かクロムカは顔をきょとんとさせ、そして……。


「……ワタシ、光魔法属性なんですの?」


なんとクロムカ、自分が光属性だという事すら知らなかった!


「え? ちょっと待って。あなた、自分が光魔法属性だって事自体知らなかったの!?」

「初耳なんですの……ワタシ、魔法自体使ったことが無かったから知る機会も無くて……」


 そっかー、魔法を使ったことが無いんじゃ気づいてなかったかー。ということは当然他の呪文と共通するような詠唱すらも何もかも知らないに違いないよね……よし、私が教えてあげるか。


「それじゃ私が詠唱を教えるからあなたは私の言葉を聞いて復唱して。本当は発動の言葉以外念じるだけで十分だけど、あなたは初めてだからその方法でいくよ」

「わ、わかったんですの」


クロムカの初めての魔法、成功させてあげないと……。そんな想いを持ちながら私が呪文の言葉をゆっくり唱え始めると、クロムカは私の言葉を復唱するかのように言葉を紡ぎ始めた。

 するとそれから間もなくしてクロムカの体から光属性の魔力が溢れ出してくるのを人間の私ですら感知できるようになった。……というかかなり強い魔力。これならもしかしたらあの変態熊を一撃で倒せるかも……。


「わっ、クロムカの魔力量すごく多い……よし、クロムカあとは発動の言葉を口にするだけ。『撃て』でも『滅せよ』でも何でもいいからあのモンスターを攻撃できそうな言葉ならだいじょ……」

「パパとママの仇のあのクソ熊をブチ殺せですのーーー!!! 原型をとどめないぐらい粉々のメジョンパビョンビニェにしてやれですの!!!」


やっぱり物騒この子!! 最後何言ってんだか全っ然わからないけど語感からグロテスクな状態になれって意味合いで言ってるのは間違いない。

 だけどそのクロムカの想いは非常に強かったようで、一瞬にして上空が厚雲あつぐもに覆われたかと思うと、その隙間を縫うように次々と上空からビームのような光線がナメトリレロベアに向かって無数に放たれ、次々とその体を打ち抜いていくのが見えた。


……そしてよく見たらナメトリレロベアだけじゃなく、遠くの方にもビームが次々と上空から放たれているのも見えるから、多分あれナメトリレロベアだけじゃなくここら一帯のモンスター全て一掃しちゃうぐらいの強力な光魔法になっちゃったんじゃないかな……。


「……この子、実はすごい光魔法の使い手になれるんじゃ……」



あまりにもすごい才能を前に、思わず私はポツリとつぶやいてしまったのであった。

時間は不定ですが、次回は明日更新予定です。

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