番外編2-5. 保護対象と始末対象。【黒ネメ視点】
索敵魔法で光属性の存在を感知した私たちが反応のあった場所にたどり着くと、確かに複数の人影が確認できる。
そいつらに見つからないように、近くにあった大岩に隠れて私たちは様子を窺い見ると二本足で歩く動物の顔をしたモンスターとシャルの色違いみたいな緑髪の魔女型モンスター、そしてそいつらに連れられた一人の少女。
その少女は犯罪奴隷のように手には枷を、羽も飛べないように粗雑に縛られていたけれど、私はその姿が視界に入った瞬間、それがリラだと気づくことができた。
真っ白な髪と雪のように白い肌にこうもりみたいな羽、そして少し離れた場所からでも分かる光属性の気配。記憶の中にあるリラと完全に一致している。違う点があるとすれば左目を縦断するようにあった顔の裂傷が無く、ちゃんと左目も見えていそうな事ぐらい……そっか、連行されてきたばかりの頃のリラはちゃんと左目も見えていたんだね。
私の記憶にあったのは既に左目が潰されてしまった後のリラ。繰り返してきた人生の中で、私はリラの怯える姿を気に留めようともせず何度も何度も闇の祝福をリラに与えて異形の者へと変貌させては苦しませ、狂わせ、破滅へと追い込んできた。
あの時のリラたちにはもう二度と謝ることもできないから実際には贖罪にもなっていないし、ただの私の自己満足なのかもしれない。だけど私はこの繰り返しに今度こそ終止符を打って、ちゃんとリラに謝りたい!
「ミノリ、あの子がリラで間違いないよ」
「えっと……あぁ、確かに『あっちの世界のミノリ』から聞いた外見の情報と合致するわね。それに光の魔力をまとっているのもなんとなくだけどわかるわ。それじゃ、早速助けに……」
「待ってミノリ」
「?」
私も本当ならミノリの考えと同じですぐにでも飛び出してリラを助け出したかったのだけれど……私はその衝動を抑えた。リラをここまで連れてきたモンスター達の処遇をどうするかをまずは決めたかったから。
「私もすぐに助けに行きたいけれど、まずはリラと一緒にいるあいつらの反応をちょっと見てみたいの」
「反応を見てから? んー、私としてはリラ以外の2匹は口封じとしてさっさと殺しちゃった方がいいと思うんだけど……まぁネメがそう言うのならそれに従うわ」
「くす、ミノリってば私たち以外には結構ドライよね。でもミノリのそんなところも私は大好きなんだけどね」
まぁ私も処遇をどうするか決めたらあの2匹は口封じで殺すつもりだけど。でも、もしもあの2匹がリラに対して同情的な反応を示すのであればなるべく苦しまないように殺してあげたいし、もしもその逆だったら……向こうから『殺してくれ』と懇願しても殺さない程度に執拗に苦しませてから死なせたい。
……多分私も相当ドライ……いや、むしろ私の場合は悪辣なのかもと思うけど、とりあえずミノリの了解も取れたことなので私はモンスター達の会話を聞いてからどうするか決めるべく聞き耳を立てることにした。
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「──あぁ、あと少しでやっと城に着く……全くこのクソガキめ、捕獲するのにこんなに手間取らせやがって!! ……それにしても本当に近くにいるだけで不快すぎるな光属性の魔物ってのは……一発殴りてぇ……」
「あんたねぇ、私たちモンスターにとっては光属性の魔物が生理的に不快なのは確かにわかるけどこんなちっちゃな子にそんな悪意をぶつけたって仕方ないでしょ。第一この子が光属性なのは生まれつきであってこの子自身が悪いわけじゃないし」
複数の動物を混ぜ合わせたような顔をしたモンスターが忌々しげにリラを睨み付ける一方、相方と思われる魔女型モンスターは光属性のリラの事を種族上、不快に思ってはいそうだったがまだリラに同情的な立場を見せている。
(あれ、あの魔女型モンスターってなんだか……)
だけど私はそれ以上にあの魔女型モンスターの容姿である事が気になり、隣で同じように様子を見ていたミノリに小声で話しかけた。
(ねぇミノリ、あの魔女ってシャルに似てない? 姉妹かしら?)
(へ? あぁ、言われてみれば確かに。ちょっと待って……えっと、『あっちの世界のミノリ』の記憶によると、あれはシャルの『色違いモンスター』という上位種族だそうで、だからこそ姿が近いんだと思うわ。だけどよく見てみると色々なところが違うわよ。たとえばあの胸部)
(なるほど、言われてみれば確かに細部が結構違うわね……その差異があのモンスターなりの個性なのかしら)
魔女型モンスターをじっくりと観察してから記憶にあるシャルの姿を思い返しながら比較してみると……確かに。
たとえばシャルは吊り目気味で、髪がきれいに整っているのに対して私たちの目の前に今いる魔女型モンスターは垂れ目で髪もぼさっとしていてなんだかもっさりとした印象を受ける。その上シャルと同じようなゆったりとした服を来ているにもかかわらず、服越しからも一目で分かるほどにあの魔女型モンスターは豊満な体つきをしている、といったようにいくら色違い程度の種族差でも細部では色々異なっているのがよくわかる。
(それに性格もシャルとは全然違うみたいね)
そして先ほどからの彼女の反応も見るに、モンスターにしては根もそこまで悪くない事も伝わってきた。
(……とりあえず動物の顔をしたモンスターは既に私の中では評価が悪いからそれなりに苦しませて、魔女の方はそこまで悪くないから苦しませないようにサクッと殺す感じかな……あれ? そういえばあの動物顔どこかで……って、あ、そうか……私知ってるわあいつ……)
そこまで私が脳内で考えていると、ふいにあの動物顔モンスターの事が記憶にある事に今になって気がついた。
(……前世までの私が闇の巫女になった時に司祭の近くにいた奴で、今世でも私が闇の巫女にさせられる為に囚われていた時も見た記憶がある。なんだか陰険なやつだった印象があるけれど……まぁ今の私には全く関係ない話かな、どちらにしろあいつも今の私にとってはただの殺害対象なだけだし。さて、どうやってあいつらを殺……!?)
そんな風にぼんやり思い返しながら、どうやって殺そうか考えようとしたまさにその時だった。
「あぁああ!もう我慢できんわこのクソガキ!!! 不快で不快で仕方ないんだよ!!」
「いたっ!」
「ちょっと!? 何してんのさあんた!! こんな小さな子をいきなり殴りつけるなんて! ねぇ大丈夫……って気絶してる……」
なんと私たちが見ているのを知ってか知らずか、動物顔のモンスターがいきなりリラの顔を殴りつけ、リラは殴られた勢いでその場に倒れ込んでしまった。その行動は魔女にとっても予想外だったようで慌てたようにリラに駆け寄り、抱き起こしたけれど、リラはその反動で気を失ってしまったみたい。
リラは魔物という特性上、確かに人間よりも体はかなり頑丈だけれど……それでもリラはまだ4歳なのに!
そんな幼いリラを殴りつけるあたり、リラの特異体質が不快で不快で仕方ないのかもしれないけれど……そんなの私には関係ない。ただただ私はリラを殴ったあの動物顔モンスターに対して、怒り心頭であった。
(よし、あの動物顔は苦しみの果てに殺す。地獄に落ちた方がまし、早く殺してと願ってしまうぐらいに苦しませてから殺す。リラを殴りつけた時点でお前はもう絶対に許さない)
リラを殴り、気を失わせた事への怒りをなんとか静めながら動物顔の処分方法を決めた私は、次に魔女の処遇を確定させることにした。
その魔女はというと、抱きかかていたリラを優しく地面に寝かせてから、相方の動物顔モンスターに詰め寄っているけど……動物顔は全く悪びれた様子はない。
「信じらんない! 何かしたわけでもなく気絶するような勢いでいきなり殴りつけるなんて……この子があんたに何かしたの!?」
「ギャンギャンうるせえ魔女なぁ……ただの八つ当たりに決まってるじゃないか!! お前だって不快で不快で仕方ないんだろうそのガキがさ!! どうだ、お前も殴れよ。少しはスッキリするぜ」
「確かに光属性の魔物がここまで私たちにとって不快なものだとは思ってなかったわよ! だけどたったそれだけの理由でこの子を殴って良い理由にはならないってば! さっきも言ったけどこの子だって好きで光属性に生まれてきたわけじゃないんだし、そもそも私たちの役目は城に連れて行くまででおしまいでしょ? あと少しなんだからそれぐらい我慢しなさいよ!」
魔女はそう反論したけど……その反論に対して動物顔が鼻で笑ったのを私は見逃さなかった。
「あぁ? お前何も聞いてないのか? お前は城へ連れて行ったら褒賞としてそのまま城の中であのガキの見張り番をする事が決まっているんだぞ?」
「は!? 何それ聞いてないわよ!? 私が約束していたのはこの子を連れて行ったら秘蔵の魔導書をもらうという事だけで連れて行った時点でお役御免のはず……って、ちょっと待って。私がそれを契約した時あんたも近くにいたわよね? ならその話をちゃんと聞いていたはず……なんであんた違う事言ってるの……?」
どうやら魔女は違う理由でリラを連れてくる約束を交わしていたようで、動物顔もそばにいたと記憶しているみたいだったけれど……それが全くの嘘で魔女はすっかりだまされていたことを動物顔が発した次の言葉で魔女は漸く気がついたらしい。
「ぎゃはははは! まんまとだまされたんだなお前! お前みたいな野良モンスターってのはしょせん使い捨てなんだ。それなのに秘蔵の魔導書を渡すだなんてそんな好条件での契約がされるはずないだろう。最初に連れてこいと言われた時に紙で契約しなかったか?
あの紙には仕掛けがあって、確かにお前が言ったような文言が書かれていたように見えたんだろうが、あの紙にはお前みたいな魔法に特化したモンスターでも見抜けない幻惑の魔法が施してあって、ただそう見せかけていただけなんだよ。
あの紙に本当に書かれていたのは隷属契約の魔法で、お前が俺かそのガキからある程度離れた瞬間にお前は契約を反故にしたとみなされて代償としてお前は死ぬ。つまりお前はあの紙に契約した時点で一生このガキから離れられない運命にあったんだよ」
「ま、待って……じゃ、じゃああんたは何なのさ……あの子を連れていったらあんただってあの子の見張りになるはずじゃ……あんたも何かしら契約してるんでしょ……?」
うろたえながら動物顔に対してそう口にする魔女に対して、その顔を面白そうにニヤニヤ眺めながら言葉を続ける動物顔。
……あぁ、そうだ、あのニヤケ顔を見て思い出した。あいつは誰かが苦しんだり絶望した表情をすると、それを見てはゲラゲラ笑う陰湿な奴だったはずだ。だからきっと次にあの動物顔が言う言葉は……。
「あれれぇ、言ってなかったかなぁ? お前みたいな薄汚ぇ野良モンスターと違って、俺は元々あの城に棲む高貴なモンスターで、城の中でも重要な地位に就いているんだよ。
そんな俺がわざわざお前みたいな奴と一緒にいたのはお前が約束を破らないかの見張りで、だからこそお前が契約した紙は俺が持っていたりするわけ。
お前が約束を破って逃げだそうとした瞬間、俺は隷属魔法が反故にされた時の効果を発動させて、お前が死ぬのを見届けたらそれを上に報告して次の野良モンスターにそのガキを探させる役目を負わせる為のな。
あーあ、約束を反故にして無様に死ぬさまを見たくてわざわざそのことを黙っていたのに、律儀にちゃんとここまで連れてくるんだもんなぁお前。あーあ、つまらなかったな」
「え、ちょ、ちょっと待って……そんな理由であんたは私と一緒に来てたの? 私が死ぬのを楽しみにして……? ……やだ、その紙返して!! 隷属魔法解除してよ!! そんなことで私一生終えたくない! ……ぎげっ」
「蝿みたいにうるせえ野良モンスターだなぁ。あぁ弱ぇ弱ぇ。魔法特化型は本当に物理で攻撃する力もねぇし装甲も貧弱で本当に役立たずだなぁ。
ひひひ、それにしてもかわいそうだよなぁ? いくら俺の事が憎くても攻撃魔法はモンスターが唱えると必ず人間に、人間が唱えると必ずモンスターに向かうから、お前が俺に対して攻撃魔法を仕掛けようとしても同じモンスターである俺には絶対届かないもんなぁ?」
魔女は契約書をなんとか動物顔から奪おうとしたらしいけれど、魔法特化型の魔女では当然ながら物理攻撃型の動物顔に敵うはずもなく、腹部を強打されると声にならない声を上げながらその場に倒れ込んでしまった。まだ死んではいないようだけれどかなりの大ダメージが入ってしまったのが遠巻きに見ている私にもわかった。
……なんだろう、私としてはどちらも口封じのために殺す対象なのは変わらないんだけど、それでもあの魔女に対しては私ですら同情的な感情が沸いてしまった。
(……ミノリ、あのモンスター達の処遇について決めたわ)
──そして、それは同時に動物顔と魔女の処遇を私がどうするか決めた瞬間でもあった。
続きも10分後くらいに投稿予定です。




