番外編2-3. 助けたい理由。【黒ネメ視点】
……なんだろう、たった数時間の間に起きた事が余りにも内容が濃すぎて、私はちょっと気持ちの整理をしたい気分になっていた。
まず、私が会った事のある『別世界で大人になっている変な言葉遣いの私』が何故かこっちの世界に迷い込んできて、暫く会話をして託されたのは、別世界で家族や友人として暮らしているというリラとクロムカを救出するというお願い。
このお願いは、どうやらミノリも『別世界のミノリ』からも同様にお願いされたみたいなので、ミノリと一緒にトーイラへこの事を相談してみると、トーイラはすぐに行動に移してクロムカの救出と光の祝福を覚える為にシャルと一緒に部屋を出て行った。
……そういえばあっちの世界だとあのシャルが私とふうふなのだそうだけれど、今のところあの子が私に懐く様子は特になく、それどころかトーイラにべったり。
同一人物であっても、世界線が違うのだから人間関係も変わってしまうのは当然の事かも……というかあの様子からすると絶対にあの2人、ヤる事ヤってる気がする……またトーイラと合流したらそれとなく聞いてみようかしら。
それはともかくとして、トーイラ達が出て行った後で私はミノリと2人きりになったのだけれど、ここでまさかのミノリから私への『いつ私に告白するのか』という直球すぎる質問。これは私がトーイラを相手に告白の練習をしていたのがバレていたからこそできたミノリのイタズラで、そのすったもんだの末、私は無事にミノリと結ばれる事が出来た……キス以上の事できないけど!! 残念すぎるけど!!
……でも恋人になったことは間違いないから……我慢しよう、私が16歳になるその日まで。
……あ、ちなみにミノリには話していないけれど私が16歳になってキス以上の事もいいとミノリが言ってくれたら、私は丸2日ミノリを寝かさないつもり。ふへへ。
精神的には何千何万回かもわからないぐらいに人生を繰り返してきた中で、姉であるトーイラからの愛以外知る事のできなかった私が初めて見つけることの出来たトーイラ以外からの愛。
それを手放す気なんて絶対に無いし、ミノリも私の事を家族としてだけじゃなく、恋人として愛してくれている。だからそれぐらいしても……いいわよね? まぁ、ミノリが怒らなければだけど……。
……と、いけないいけない。すっかり話が反れてしまったわ。今はとにかくリラを助ける事が私たちの最優先事項だったわ。とりあえず、今のところは口づけで満足した私とミノリは、これからどうするかについて改めて話しあう事にした。
「ねぇミノリ……私思うんだけど、リラを助けるにしても、これから闇雲に探すのってかなり無謀な気がするんだけど……」
「……ええ、私もそう思う」
リラを助けようと考えた際に出てくる一番の問題点。それが『リラがこの世界のどこに隠れているのか全く分からない』事だった。
確かにリラはまだ2歳ぐらいでかなり小さいらしいのだけれど、吸血鬼は、体自体は幼くても1歳の時点で既に自我がハッキリしている種族で、知性も理性もちゃんとある上、闇に潜む特性があるからか隠れるのも得意。
特異体質で闇属性ではなく光属性である為に普通の吸血鬼よりもそういった能力が劣っているとはいえ、それでも吸血鬼ではない私たちがリラを見つけ出すというのはほぼ不可能なわけで……。
「この世界に一匹しか居ない上にどこに潜んでいるかも全くわからないと言われる幻のモンスター『ウマミヒャクバイボア』を探すのと同じぐらいに無理な事なのよね、隠れているリラを見つける事って」
ミノリが困ったように視線を宙に向けながら口にした呟きを聞いた私は、自分の考えていた救出案をミノリに話すことにした。
「えっと、ミノリ。私なりに考えたんだけど、とりあえず闇雲に探しても無理だろうから、リラが捕まって連行される北の城周辺で張ろうかと思うのだけどどうかしら?
2年後にリラはモンスターに捕まって北の城へ連行される事は確実なわけだから、北の城あたりを根城にして索敵魔法を張って待ち伏せして、光属性の気配を関知したら北の城に入られてしまう前に救出に向かう……みたいに」
一応『どうかしら』と提案するように言ったのだけれど、正直な所これしか方法が無いと私は思っている。ちなみに北の城に入られてしまう前に、と言ったのは入られてしまうと無数のモンスターや魔物相手に戦わなくちゃいけないかもしれず、できたら余計な体力や魔力をつかいたくないから。
「そっか、ネメは索敵魔法が使えるのよね。それを考えるとそれが一番良いかもしれないわね」
そしてミノリもこの私の案がいいと思ったみたいで、納得したように頷いてみせた。
「……本当は、可能であればそれよりも先に助けてあげたいんだけどね……」
ミノリが私の案に乗ってくれた後で、ホッとした私は、無意識のうちに心の奥底で思っていたことをポツリと独り言として呟いてしまった直後、少し不思議そうな顔を私に見せるミノリ。
……しまったわ、ミノリってエルフみたいな長い耳だから私たち人間なんかよりも遥かに聞こえが良いわけで、そんな私の小声の独り言すらバッチリ聞かれてしまったみたい。
そしてその事を証明するかのように、ミノリが私に一つの疑問を投げかけてきた。
「……それにしても不思議に思うのだけれど、ネメからは私以上にリラって子を助けたいという強い意思……というよりも執念に近いものを感じるのだけれど何か理由があるの? できたら教えて欲しいわ。助けてあげたいという気持ちは私も同じで、きっと私もネメの力になれるから」
恋人になったばかりの相手が他の女の子の事を気にしてる、というような嫉妬心からではなく、純粋に疑問に思っただけだったようで私はとりあえずその事だけは安堵しながらその疑問に答える事にした。
「うん……私はあの娘、リラの事を助けてから、どうしても謝りたいの。私たちが今いるこの世界では、確かに今のところ接点は全くないわけだからあの娘が覚えているはずは無いけれど……それでも私はリラに謝らなくちゃいけないの。
私が闇の祝福をあの娘に与えたことで、あの娘は結果的に何度も痛がって、苦しんで、泣き叫んで、死んでしまったのだから。だからこそ私は今度こそ、リラを死なせるんじゃなく、助けてあげたい」
私が何千何万回と、生まれ直して『闇の巫女ネメ』をやって最終的に死んできたという事は、そんな『闇の巫女ネメ』から闇の祝福を与えられたリラもまた、私と同じ苦しみの果てに死んできた事を意味する。
特異体質でもともと10歳を超えて生きられないとはいえ、間接的にリラを死なせるように誘導しているのは私。
それこそが、私がずっと犯し続けていた、リラへの最大の罪だった。
「……そっか。そして、その抜け出せないはずだった鎖からやっと解き放たれるチャンスがついに巡ってきたんだものね。ならなんとしてでもリラのことを助けてあげなくっちゃ」
「うん……ありがとミノリ」
私の言葉を静かに聞いていたミノリは、私が話し終えるのを待ってから、優しく微笑みながらそう言ってくれた。
「さて、と……ネメ、それじゃ私たちもそろそろ行きましょうか。トーイラに先に行かせておいて私たちがのんびりしてたなんて知られたら、再会した時にトーイラに怒られちゃうもの」
「あはは、確かにそうよね、ミノリ」
待っててねリラ。私は絶対に、今度こそ、あなたの事も助けてみせるから!
「……まぁ、私たちはシャルみたいに飛ぶことができないから、かなりの距離を歩いて行くことになるし、道中もかなり大変だと思うけど……がんばりましょネメ」
「う、うん…………あぁ、しまった。シャルに浮遊魔法を教われば良かった……」
……この微妙に締まらない決心。私はほんのちょっとだけ、シャルから浮遊魔法を教わらなかった事を後悔したのだけれど……。
「……でも、恋人になったばかりのネメとこれから二人きりで長い旅をする事ができると考えたら……意外とそれも悪くないかもね」
「!! そっか、……それを聞くと悪くないかも……」
そのミノリの言葉を聞いた私は、先ほどまで胸中にあった後悔が瞬時に吹き飛んでしまったのであった。
……えぇ、私はミノリからの言葉に対しては驚くほどにチョロいわよ、何か文句ある?
「ウマミヒャクバイボア」は本編の方のミノリたちが南東の森へキャンプに行った時にネメとトーイラが見つけて、のちにザルソバが倒した光輝くボアです。




