番外編2-2. 私達の決意とイタズラ心。【並行世界ミノリ視点】
あっちの世界のミノリ達から『リラ』と『クロムカ』の2人を助けるようお願いされた私とネメ。その事でトーイラにも相談しようと探していたんだけど……。
「……えーっと……」
……ええ、それからすぐに居間でくつろぐトーイラを見つけたのよ。……だけど私はただいま目の前に広がっている光景に思わず絶句中。トーイラは普通に椅子に腰かけてお茶を飲んでいるだけなんだけどその、目の前のテーブルが……トーイラの取り巻きみたいになっているシャルって子で……。
(あれ、もしかしてこんな風に誰かのテーブルになる事って人間たちの間では仲の良い間柄では普通にやることで、私はモンスターだからこの光景をおかしいと感じてしまっているのかしら……?)
元人間のミノリの記憶を引き継いでいるとはいえ、こちらの世界の人間の価値観は当然ながら私には欠けている。ミノリも町で暮らしていたわけじゃなく、森の中で家族と暮らしているだけだったし。
だからこそ今トーイラが目の前で行っている謎の行動はもしかしたらこれがこの世界の人間にとっては当たり前の行動なのかもと一瞬思いかけたのだけれど……私の横にいたネメも同じように絶句していたのでどうやら私の価値観がおかしいわけではないみたい。
「……えーっと、トーイラ。それは一体どういう状況なの?」
そしてそれを証明するかのように、ネメが困惑した様子でトーイラに尋ねた。
「あ、ネメ、それにミノリさん。どういう状況って……ただお茶を飲んでいるだけだけど……? 2人してどうしたの? もしかして何か困った事でもあったの?」
「え、ええ、そうだけど、トーイラにとっても大事な話だからとりあえずその子……えっと、シャルも普通に座らせてあげてもいい?」
「うん、別に構わないよ。ほらシャル、もうテーブルにならなくていいから私の横に座りなさい」
「はいぃ、トーイラさまぁ♡ あ、でも私はこのままでいいです♡」
「……あ、そう。なら好きになさい」
……結構酷い扱いを受けてるのに♡をつけて返事をしたらしいシャルについては敢えて触れないようにしながら、私はネメと共に今日あった出来事についてトーイラたちに話し始めた。
その際、ネメと情報を擦り合わせながらとなったんだけど、ミノリからお願いされた事で私の方では不足していた情報の大半はネメの方で伝えられていたみたいできっちり補完してくれた。特にリラが今は2歳で、4歳になった時に捕まって北の城に幽閉されるという情報をネメが持っていたのは大助かりだった。もしその情報が無かったら私たちはずっと北の城あたりで張り込みしなくちゃいけなくなるところだったもの。
(全くもうミノリってば、情報はもっと多くよこしなさいよね……あとで困るのは私たちの方なんだから)
心の中で私はあっちの世界のミノリに文句を言いつつ、取りあえず今まで出てきた情報をまとめてみた。
ひとまず、リラについては吸血鬼なのに光属性という特異体質の持ち主で現時点で2歳で誕生日は春ごろ。4歳で捕まって北の城に連れていかれるまではどこかに一人で隠れていて、幽閉されてからは早く助けないと片目をつぶされてしまい、さらに10歳までに光の祝福を与えないと特異体質で死んでしまう。
一方のクロムカは光属性を持った金髪の回復術師の少女で今は9歳でまだ人間としてズエクゴジで暮らしている。両親が存命か孤児になってしまっているかは不明で、キテタイハに入ってしまうとモンスター化して死霊使いとなってしまうのでそうなる前に保護し、絶対にキテタイハに近づけさせてはならない。
「──と、私達が持っている情報をまとめるとこんな感じだけど、他に言い忘れてる事ない、ネメ?」
「ええ、それで全部のはず。……それで2人を助けに行くのは4人一緒にじゃなくて二手に分かれた方が効率がいいと思うのだけれど……編成は……その、えっと……」
確かにネメが言うように二手に分かれて助けに行った方が良いのは間違いない。そしてクロムカがまだ人間である以上、リラを助けに行くのは私の方が適任であるはずで、それを踏まえると私と同行すべきなのはシャルがベストなのだろうけど……シャルってそもそも私への好意は大して無いのよね。
そして私の方もミノリから引き継いだ記憶で、こっちの世界のシャルへの印象がいまいち良くないし、あの子もトーイラと常に一緒にいたがっている事を考えると私はネメと、トーイラはシャルというように分かれるのがいいはず。
だけどそれが意味しているのは、再会したばかりのネメとトーイラが再び離れ離れになる事を意味しているし、それを片割れであるネメの方が切り出す事になってしまうわけで……だからこそ、ネメは言い淀んだのかもしれない。
「ふーん、そっかぁ。……それじゃぁまた暫く私はネメとお別れになっちゃうのね。まぁ仕方ないか。どうやら光の祝福も覚えなくちゃいけないみたいだし」
トーイラはネメの言葉の真意を汲み取ってそう答えた。
「ごめんねトーイラ……折角ネメと再会する事ができたっていうのに私のわがままで……」
私は思わずトーイラにそう謝ったのだけれど……。
「あ、大丈夫だよミノリさん、別にわがままだなんて思ってないよ、きっと必要な事なんだと思うし。ネメにも変に気を使わせちゃってごめんね。私は気にしてないから安心して」
そう口にするトーイラの表情を窺ってみると、確かにあっけらかんと全く気にしていない表情だった。……だけどどうして平気な顔をしていられるのかしら……ちょっと気になった私はそれをトーイラに尋ねることにした。
「トーイラごめん、私がお願いした上でこれを聞くのは変だし怒らせてしまうかもしれないけど……折角6年ぶりに再会できたわけなのに、トーイラはなんで平気な顔していられるの?」
私に問いに対して、トーイラは『うーん……』と顎に指を当てて、少し言いづらそうにしながら口を開いた。
「えっと、実はミノリさんとネメには話していなかったんだけど……こないだ、私達で光と闇それぞれの追っ手を返り討ちにした数日後に、光の使いがまたやってきて私に『光の祝福を覚えて、そのうち出てくるであろう光の祝福を授かる資格のある者に与えるだけでいいからどうかそれだけ覚えてください』って泣きついてきたんだ。
まぁその時も追い返しちゃったんだけど、2人の話を聞いたら私は光の祝福を覚える必要がやっぱりあったみたいだし、折角だから私は覚える事にしようって思ったんだ。あと少しで覚えられそうだったしね」
どうやら私とネメが知らないうちに、トーイラは微妙な事に巻き込まれていたようで、私達の話で光の祝福を覚える決意が出たみたい。そして、覚えてくれるだけで私たちとしてはリラを助けられるから嬉しかったのだけれど、トーイラはそれ以外にも私たちの為に行動しようと考えてくれたみたいで……。
「……そして方角的に光の神殿ってズエクゴジと同じ方向だから私、光の祝福を覚えるついでにクロムカって子がいないか見てくれば丁度いいんじゃないかなって思ったわけ。どう、ミノリさん、ネメ。私がイヤな顔しなかった理由分かった? 確かにネメと離れるのは寂しいと思うよ。だけど、私にもその申し出はちょうど都合が良かったんだ」
クロムカを助ける事についてもトーイラの方から進んで申し出てくれた。それが私達にとっては本当に願ったり叶ったりな事で、私は隣で話を聞いていたネメと一緒にトーイラへ頭を下げた。
「ありがとうトーイラ、それじゃ私、トーイラのその言葉に甘えて、私はネメと一緒にリラを助けに行こうと思うわ。ネメもそれでいいわよね?」
「ええ、ミノリ。それで大丈夫。……本当にありがとう、トーイラ」
そして、ネメは改めてトーイラにお礼を述べた。
「いいよネメ。だって私……あなたの姉だもの。妹のお願いを無碍になんてしたくないもの」
「……うん、ありがと」
ほっぺを掻きながら照れ隠しをしてそう答えるトーイラに、ネメもまた嬉しそうにお礼を述べた。
……そういえばあっちの世界のミノリの記憶によると、向こうの世界のネメとトーイラはどちらが姉でどちらが妹かで一度だけ大喧嘩をした事があるみたいだけど、こっちでは6歳の時点で、トーイラが姉でネメが妹であると2人とも自覚していたみたい。だからこそ地面が抉れるような大喧嘩もしていないようで……ちょっと大喧嘩するところ見てみたかったかも、なんて不意に思っていると……。
「さてと、それじゃ私はもう向かうね。こういった事は早く行った方がいいと思うし」
「え、もう行くの!?」
なんと、トーイラはもう行く気だったみたいであまりの行動の早さに私は思わず驚いてしまった。そして私の隣にいたネメも私と同じよう目を丸くしていたけれど、トーイラの言葉に納得はしているみたい。
「トーイラ……うん、それじゃ光の祝福とクロムカの事、お願いするわ。私とミノリは戻ってくるのは早くても2年後になると思うから……また逢えるのは2年以上後になっちゃうね」
「うん、こういうのはすぐに行動した方がいいに決まっているもの。ほらシャル、あなたは私を乗せて飛ぶの。いい?」
「は、はい!! トーイラさま!!」
「わっ! いきなり立つんじゃないこのバカ!」
「あひぃっ! ふへへ……」
今までずっと同じ場にいたもののトーイラのテーブル代わりになっていた為に一切発言する事のなかったシャルがトーイラからそう言われた途端、目を輝かせながら立ち上がった。
シャルが突然立ち上がったことに私達は思わず驚いた上、トーイラに至ってはお仕置きとばかりにシャルのお尻を叩いたのだけれど……シャル喜んでない? それお仕置き? 本当に?
「ねぇトーイラ……そいつ喜んでるから叩いちゃダメだと思うわよ……?」
ネメもそれに気づいて指摘したけど、トーイラにとってはそれで構わないみたい。
「い、いいのネメ! この子にはこれで! と、とにかく!! シャル、わかったのなら早く準備しなさい!」
……微妙にトーイラが慌ててる気もするけど……私の気のせいかしら。
「は、はい、トーイラさま!! それと、今日も私のおねだり聞いてくださいね!」
「ちょ、ば、バカ! 今それを言うんじゃ……!」
そして突然変な事を言い出したシャル。その言葉の意味がよくわからなかった私とネメは頭に疑問符を浮かべながら思わず顔を見合わせた。
「? なんの話?」
そしてネメがその言葉の意味をシャルに尋ねようとしたのだけれど、何故かトーイラは慌てながら手をワタワタとさせてその質問を遮った。
「なんでもないよネメ!? ミノリさんも聞かなかったことにして!」
「へ? え、ええ……わかったけど……」
なんだろう……まぁいいかしら。あんまり詮索するのは良くない気がするし。
「さてと、そうと決めたら早速行かなくちゃ! ほら、シャル行くよ! ……ネメ、またね。折角6年越しに再会したばかりだけど、永遠の別れになるんじゃないよ。これが終ったら今度こそ私達、一緒にいられるからね」
「うん……またね、トーイラ」
先程までの慌てたり、声を若干荒げていたりしたのから一転、優しい声色でトーイラがネメに語り掛けると、ネメもそれに応じるように軽く微笑みながら言葉を返した。
そして、その返事を聞いたトーイラは背中を向けるとシャルを引き連れながら部屋から出て行った。
部屋に残された私とネメは二人の足音が遠ざかっていくのを聞きながら顔を見合わせて、
改めて私たちも決意するかのようにお互い口を開いた。
「……また逢えるのは2年以上あと……。私たちも頑張らないとね、ネメ」
「ええ……それはそうとなんだかんだあの2人も仲良しよね?」
「うん、そう思う。意外とお似合いかも」
……ちなみにあの2人がお似合いどころか既に仲良しを通り越してそれ以上の関係を持っていて、さっきシャルがトーイラにしたおねだりというのはその類の事で、
『私の体内にトーイラ様の魔力を注いでください』というものだったのを知ったのはもう少し後の話。
トーイラの魔力は光でシャルの魔力は火だけど肉体は闇。肉体と相反する魔力が注がれていて、あちらの世界のリラの場合は具合が悪くなった原因でもあったみたいだけど、どうやらシャルの場合は、光属性の魔力が注がれるたびに自分の体が作り替えられていくような不思議な感覚があってそれが不思議と快感なのだとか。変質者だもの。
まぁ、どちらにしろ私達がそのおねだりの意味を知るのはもう少し先になるのだけれど……まぁ今はいいか。それよりもね……リラとクロムカの事ですっかり引っ込んでしまっていたけれど、私に告白する準備をしていたはずなのにネメってばあまりにも私へ何もしてくれないのよね。
……だから私は先に手を打つことに決めたわ。これはちょっとした私のいたずら心。
「そういえばネメ、私ね、今ここでネメに一つ聞きたいことあるのよ」
「なに、ミノリ」
「いつになったら私に告白してくれるの?」
「!?!?!? げほげほっ」
わぁ、私がそう言った途端、ネメの顔が真っ赤になっちゃった。その上むせちゃってるし。 慌てるネメってばかわいい……あぁ、そんなネメの顔を見て思わず嬉しく思えてしまったのを考えると……やっぱり私、ネメの事、好きになっちゃったのね……。
「ミ、ミノリ!」
「あはは、ごめんってばネ……んんっ!?」
ちょっと怒ったような、慌てたようにそう言ったネメに対して謝ろうと思いながら笑って振り向いた私に待っていたのは、私の唇にあたる、柔らかくて温かいネメの唇。
……私はそれを拒否する事無く、無意識のままそれを受け入れていた。
その口づけは、お互いを求めて貪ったりするような荒々しいものではなく、唇同士が磁石のようにくっついているだけのような大人しいものだったけれど……ネメは私に対して無理強いしているわけではなく、優しくしたいというネメの気持ちが現れているみたいで……。
なんとなく言葉や記憶だけで知ったような感覚になっていたけれど、これが誰かを愛するって事なんだなと理解した瞬間、私の体が一気に火照ったような感覚になり、身体に急に力が入らなくなってその場に崩れ落ちそうになったけれど、それを支えるようにネメは私の体を抱きしめてくれた。
「ん……」
「ぁむ……んぅ」
口付けしているネメの口から吐息が私の方へ流れてくるたびに頭の中がくらくらしてしまう……。
できるならもっとこのままネメの柔らかい唇とつなぎ合ったままでいたかったけれど暫くするとネメの唇は私の唇から離れていき、名残惜しそうに唇にネメの体温だけが残った。
「どうミノリ……これで満足? ……今度は私から言うわね、ミノリ。
……ミノリが6年もかけて私たちを探して助けてくれた事がわかってから、私は家族としてミノリと一緒にいたいという気持ちだけでなく、一人の女性としていつしか愛するようになっていました。同性で種族も違うけれど……私はミノリと恋人になりたいです。だから、どうか……私と恋人になってくださいミノリさん」
いつもの口調と異なる、敬語で私へ愛の告白をするネメ。普段と違う言葉遣い、その上『ミノリさん』とさん付け。そんな風に告白されてしまった私はもう心がドキドキしっぱなしで……当然ながらその答えに首を横に振るわけもなく……。
「……うん、ありがとうネメ。私も、あなたたちを絶対に探し出すとあっちのミノリに誓ってからあなた達を探し求めているうちに、いつしか家族としての愛情以上の気持ちを持つようになっていたの。
トーイラはもう特定の相手がいるっぽいし、それを無理に奪おうという気持ちは無いけれど……ネメ、私はあなたの事が欲しい。なので、あなたのお願いを受けて、恋人になりたい。……そして私の方からも……よろしくね、ネメ」
私はネメの告白を受け入れた……けれど実は私、あっちの世界のミノリから記憶を引き継いでいる為にある大きな問題もあって……それが何かって言うとね……。
「ミノリ……!!」
気持ちを受け入れた私の答えを聞いて、暴走しかけたのか私の肩を掴んで押し倒そうとしたらしいネメに対して私はその『ミノリから引き継いだ記憶』が原因で思わずそれを制止させてしまった。
「だ、だけどネメが人間基準の成人になるまではキスだけでそれ以上は……ダメ!! 私が引き継いだミノリの倫理観がそれ以上の事をしようとするのを邪魔するの!!!」
……そう、私はモンスターのくせして変に倫理観が人間並みだったの。そのせいでキス以上の事はまだダメだと叫ぶと……ネメが口を半開きにしてポカンとした顔を私に見せた。
(うわぁ……すっごい。ネメがそんな顔するの初めて見た)
あまりにも突飛なお願いだったからか、それを聞いて暫しフリーズしていたネメだったけれど、やがて優しく微笑んで……。
「クスッ、ミノリってば何よそれっ。人間である私の方はいつでもOKなのに、本来そういった事は一切関係ないモンスターであるミノリの方がそれを気にするの?」
「だ、だってぇ……」
ちょっと拗ねたような口調で私がそう言ってみると……ネメは優しげな表情をしたまま再び私の顔に近づけてきた。
「……うん、それじゃ私もそれまでは待つ事にするわ。だけどこれからは……恋人という事でお願いね、ミノリ」
……そして私の耳元で優しく囁くネメ。ただでさえ聞こえがいいエルフ耳を持つ私なのに耳元で大好きなネメにそんな声に囁かれてしまったら思わずぞくぞくっとした私は顔を真っ赤になっちゃって……。
「う、うん……。それよりも私たちも行こうか、トーイラたちに先に行かせておいて私達が行かないのも変な話だし」
少し混乱していた私はそれぐらいしか言えなかったけど……それから私とネメは、お互いに笑いあいながら最後にもう一度口づけを交わして……。
この日、私達にとっては、リラとクロムカを助ける為に決意をした日であると同時に、私とネメは家族でありながら恋人でもあるという関係になった大切な一日になったのであった。




