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188. 17年と2ヶ月目③ 願いは同じ。

 ミノリが並行世界へ意識が飛んでいた頃、ネメとシャルの寝室で2人はまだ起きていた。

しかし2人とも全裸から下着をつけている最中であった事から、何かをし終わった所だったようだ。ちなみにネメは相変わらず全裸になろうと頭のローブだけはつけたままである。


「シャル……今日もくたくたにさせてごめん」


 ネメがシャルに謝ったのは先程まで2人がしていた行為の事。2人の愛娘であるノゾミの願いを受けて女性同士でも子供を作れる体質であるシャルにネメが魔力を注いでいたのだが、どうやらいつもよりも過剰に魔力を注いでしまったようでシャルがへとへとになってしまっていたのだ。


「えへへ、いいんですよネメお嬢様。もう一人子供が欲しいのは、ノゾミちゃんのお願いでもあるんですけど私だって欲しいんですから。……それにこうしてネメお嬢様に抱かれながら魔力を入れてもらっている時、いつも以上にネメお嬢様に愛されているって感じられるから嬉しいんです」


 先程までぐったりしていたのにもかかわらず、シャルはにっこりと微笑みながらそう言葉を返したので少し安堵あんどするネメ。


「……そっか。でも辛い時はちゃんと言って。おしおきの時以外なら善処する」

「はい……ネメお嬢様のそういう優しい所が私は好きなんですよ私。……お仕置きが激しい時もそれはそれで好きですけどね」


 後半、シャルが何やら小声で言ったようだがネメには聞き取る事が出来なかったので、とりあえずあいまいにうなづき、そして……。


「それじゃ着替え終わったし、もう寝よう、シャルおいで」

「はい……ネメお嬢様」


 先程まで魔力を注ぐ行為をする為に抱き合っていた2人ではあるが、それとは関係なく基本的にノゾミがいない時は抱き合いながら眠るのがこの夫婦の日課となっていて、ベッドに入った2人はお互いを抱きしめるとそのまま静かに目を閉じた。



………。

……。

…。



「──あれ、ここは何処いずこ? 確か私はシャルとあれこれした後で、寝入ったはずなのに。ということはこれは夢? その割に感じる触感……現実?」


 ミノリの時と同様に、ネメも先程眠ったばかりという記憶があるようでこれはすぐに夢だと判断したが、不思議と現実感があるせいでネメの表情には戸惑いが出始めていた。

 そしてネメが戸惑ったのはそれだけが理由ではなく……。


「初見なのに既視感があって、私の中に異常なまでの違和感を検知」


 やはりネメも部屋の間取りに見覚えがあるようで、自分が知っている部屋の家具や装飾品が違う事に気づき、妙な感覚に陥っていると……先程のミノリの時と同様に丁度のタイミングである人物がその部屋に入ってきて、ネメに気づくと声を掛けてきた。


「あら……久しぶりねネメ。元気だった?」


 声がした方へネメが振り返ると、そこにはネメよりも少し小さく、真っ黒なローブを纏ったどことなく神官のような雰囲気が漂う一人の少女。ネメはその少女の顔と姿を見た途端、それが誰なのか一瞬で気がついてしまった。


(あ、この子少し幼いけど『私じゃない別の私』だ。『久しぶり』だと発言した事から前に会った事のある黒ネメなのかもだけど、本当にそれで合っているのか不明……あの時と雰囲気が全然違うし、背丈も違うし……一応確認)


 今目の前にいるのは並行世界のネメこと通称黒ネメだと判断したが、ネメの記憶の中で身長や雰囲気が全く異なるので、念のためそれで本当に合っているかと確認するかのようにネメは口を開いた。


「……あなたはもしや何年も前に数字や見た事のない字が上下左右で羅列された変な場所で会った事のあるまっくろクロスケットの私?」

「あは、私の事をそんな変な呼び方をするって事はやっぱりあの時のネメね……6年ぶりかしら。覚えてくれててありがとう。そうよ、私はあの時のネメよ」


「なるほど黒ネメ。お久。元気そうでよかった……それにしても、前会った時と印象全然違う」


 そう、あの時会った黒ネメは既にモンスター化していた上、瞳からハイライトが消え失せていて、全ての事に絶望したような顔をしていたのだ。


 しかし今ネメの目の前にいる黒ネメはとても柔らかな表情をしている。黒ネメが再びネメとして生きる過程で何かがあったのだろうとネメが思っていると、その通りらしい言葉を黒ネメが口にした。


「だって私、あの後でミノリさんに助けてもらったんだもの。あなたと違って助けてもらったのは6年後だったけれど……今はトーイラと一緒にミノリさんと家族として暮らしているわ。といってもあなたたちみたいに親子としてじゃなく、友達みたいな感覚だけどね」

「なんと、おかあさんがそっちでも……」


 並行世界でもミノリが自分とトーイラを助け出してくれた、その事を知ったネメは口角を無意識に少し上げていた。

 世界が異なっていてもミノリは自分たちにとって大好きなミノリだったからだ。


 そして、黒ネメの様子が以前あった時と違うのはこの後ミノリに対してする予定があったからで、それも打ち明けてくれた。


「ふふふ……それにね、私はこの後ミノリに愛の告白をしようと決意した所なのよ。どういう返事が返ってくるかわからないけれど、普段の生活からまんざらでもないって顔をしてたからきっと……この恋は叶うわ」


 先程までの真面目な雰囲気から一転、家族以外からは無表情だと思われてしまうネメならば絶対にしないようなふにゃりとした表情を見せる黒ネメ。

 話に聞くと黒ネメは6年もかけて自分たちを救出しに来てくれたミノリに対して恋をし、ミノリもまた6年かけて助け出したことで義務感から愛情へと意識が変化していたそうなのだ。それならば黒ネメがそんな表情になるのも理解できる。


 しかし黒ネメがミノリとくっつくという事は……ネメが嫁とした種族がウィッチの少女は一体どうなったのか。

 それが気になったネメは浮かれ気分の黒ネメに尋ねる事にした。


「なんと……それじゃシャルは……?」


 もしかしたら黒ネメはシャルの存在すら知らないかもしれない。

 シャルはミノリと違いそこらにいっぱいいる普通のモンスターの一個体でもう誰かに倒されたかもしれないし、もしかしたら黒ネメが倒した可能性もあるのだが……その不安は杞憂に終わる。黒ネメの次の発言によってシャルはちゃんと生きているとわかったから。


「シャル? ……ってあぁ、トーイラの腰巾着で、トーイラと相性ばっちりで好き好きオーラ出まくりのあの女モンスターの事。そっちにもいるのあの変人……っていうかあんなのがネメと結婚しているって事なの!? えーやだなぁ……」


 黒ネメの世界ではシャルはトーイラと主従関係にあり、さらにシャルはトーイラに恋をしているようだ。しかし……ネメにとってはそれ以上にシャルを馬鹿にされた事がちょっと不愉快で……。


「シャルは一途でずっと私の事を愛してくれていて、その上とてもかわいい私の寵愛の対象。それ以上バカにすると私は明日切ろうかと考えていた微妙に長くなった爪で黒ネメの顔を引掻ひっかく」


 黒ネメを軽く威嚇した。


「あは、悪かったってば、そんなに怒らないでよ。まぁでもあっちはあっちでなんだかんだ楽しそうよ」

「……そっか」


 ネメとミノリが間もなく恋人になろうとしていて、ネメの伴侶であるシャルはトーイラと関係を持っているという、今の自分とは明らかに違う関係を気づいている並行世界の自分たち。

 ミノリと恋人になりそうな黒ネメの事をいいなと思う気持ちもネメには確かにあったのだが……ネメとしてはシャルが自分の嫁として寄り添ってくれている今が大事であり、その事で黒ネメの事をうらやんだりはしない。


「だけど黒ネメもなんだかんだ幸せそうで良かった。前に会った時に黒ネメが私の手を取らなかったのは、きっと黒ネメがつかむべき幸せが別にあったという事で、現に黒ネメはその幸せを手にする事が出来たわけだから」

「……かもね。ありがとうネメ。実は私、あの時あなたが差し伸べてくれた手を取らなかった事、悪いなって思っていたのよ」


 黒ネメは前回会った際に差し伸べてくれた手を取らなかった事を後悔していたようだが、

ネメは全く意に介していない。


「気にしなくていい。黒ネメが幸せになれた事、私も嬉しいから」


 ネメがそう言葉を返してから、お互いに柔和な表情でしばらくの間、微笑ほほえみあっていたのだが……。


「ん……なんとなくだけどそろそろここから離れる時間かも」


どうやらこの世界に滞在できるのはあと僅かだとネメは察したようだ。


「あら、もう時間なのね。……ネメ、最後になっちゃうけど、私に何かお願いしたい事ってある? きっと私がもっと幸せになるためにはあなたの世界と同じように同じ人を助けなくちゃいけない気がするのよ」


 並行世界のミノリと同様の事を黒ネメも考えていたようでネメにそれを尋ねると……やはり親子なのだろう、ネメはミノリと同じ人物の名前を挙げた。


「ある。リラとクロムカを助けてあげて欲しい。私の妹と友達」

「リラとクロムカ?」


 ネメが助けて欲しいと懇願した2人は確かに今のネメとはそういう関係になっているが……ネメにとって2人をどうしても助け出さなければならない理由がミノリとは別にあったのだ。


「うん、リラは私の妹になった全体的に真っ白な吸血鬼の女の子。 ……ループする世界を繰り返した上に記憶も引き継いでいる黒ネメならそれが誰だかわかるはず。多分今はまだ2歳か3歳ぐらいだけど……」

「あ……そっか。多分あの子ね。闇の祝福を与えることになった子……」


 リラもネメと同じようにループし続ける世界を生きているとしたらその原因を作っている張本人は間違いなくネメだ。だからこそネメは自分はそのループから抜け出したというのに、リラをそのままそのループする世界に放っておく真似など到底できなかったのだ。


 だからこそのお願いだったのだが、黒ネメもそのネメの意思を感じ取ったようで……。


「そうよね。私とこっちの世界のトーイラもループし続ける世界から抜け出せたみたいだけど……あの子もきっと誰かの助けを待っているって事になるのよね」


 リラについて、救出してくれることを黒ネメは約束してくれた。


「無理にとは言わない。……だけど……助けて欲しい。ずっと隠れているからどこにいるのかはわからないけどそっちの世界だと2年後……になるとおもうけど4歳になったら北の城に連れてかれるから……あとクロムカの事も」

「あっと、そうだった……もう一人いたんだったわよね。それでクロムカって誰なの?」


 黒ネメはクロムカが誰なのかを知らないがそれも仕方のない事だ。なにせ、ゲーム上では『闇の巫女ネメ』はキテタイハへモンスターの大軍を侵攻させて滅ぼした後すぐに立ち去ってしまうからで、その直後にやってくるクロムカの事を知るすべはない。


 その事をこっそりとミノリから聞かされていたネメは間接的に自分に責任があると感じ、こうして黒ネメに改めて助けるよう願った。


「クロムカは『本来の私たち』がキテタイハにモンスターを襲撃させた後にうっかりキテタイハへやってきてしまった為に、無数の死霊に取り憑かれて意識を崩壊させられて、モンスター化して死霊使いになってしまう哀れな女の子で今は私の友達。そしてその子もきっと世界のループから抜け出すために必要」


「うわぁ、結局はその子も私が原因でループから抜け出せないって事じゃないの。はぁー……なんだかやること多いなぁ……折角トーイラと再会できて、ミノリとも恋人になろうかと告白の練習をしている最中だって言うのに……でも、そうしないと私たちは幸せになれないんでしょ? ならやってあげるわよ」

「恩に着る……あ、もう時間切れかも……」


 黒ネメがため息をつきながらも強く決意したと一目でわかる握り拳を作るとネメも彼女の決意にお礼を述べた瞬間、自分の意識が段々薄れ始めて来たのを感じるネメ。


 どうやらもうここを去る時間になったようで、黒ネメもそれに気づいたようでネメに対して微笑みながら小さく手を振り、最後に……。


「そっか……それじゃあねもう一人の私。もう会えるかわからないけれど……私はちゃんとあなたの願いを叶えるよう頑張るからね──」


 そう、伝えたのであった。


 ******



「……戻ってこれたみたい」


 目を覚ましたネメの視界には見慣れた天井。どうやら無事に並行世界から帰還できたようで、そんなネメの隣ではシャルが幸せそうにネメに抱きつきながら眠る姿。


「シャル……い」


 そんなシャルの頭を起こさないようにネメはそっと優しくなでる。


(おかあさんと結ばれた世界か……確かに羨ましいけど……私はやっぱりもうシャル以外の誰かは考えられない。シャルは私だけの嫁)


 ネメはそう思いながらシャルが起きるまでの間、シャルをもう一度抱きなおしたのであった。



 ******



「──昨晩の事、一応おかあさんにも話しておこう。きっとおかあさんなら理解してくれるはずだから」


 朝食を食べた後、ネメは今日は意識が並行世界に飛んでいた事をミノリに報告しようと探していた。ミノリは元々ネメにこの世界が箱庭のようなものと打ち明けたのですぐに理解してくれると判断したからで、その後ネメは屋外の椅子に座っているミノリをすぐに見つける事が出来た。



「……私の幸せ……かぁ、一体なんだろう。誰かと結ばれる事……?  うーん……こないだトーイラに土俵に立つって話はしたんだけど……やっぱりあんまりしっくりこないんだよなぁなんだか……」


 ネメが近づいてみると、ミノリは先程から何かひとり言らしき言葉をぶつぶつとつぶやいている。

 どうやら自分から分離したもう一人の自分の言葉が引っかかったようで、それを考えていたようなのだが、その事情を知らないネメはそのままミノリに声を掛けた。


「……おかあさん、今いい?」

「……っと、ネメ、どうしたの?」


「この世界が箱庭みたいなものだと知ってるおかあさんには話しておいた方がいいと思った。実は夢で……」


 それからネメは並行世界の黒ネメに会い、話したことを包み隠さずミノリに打ち明けた。その間、ネメの話を黙って聞いていたミノリだったが、ネメが話し終えると全てを理解したような顔をネメに見せた。


「そっか、ネメもそっちの世界を見ていたんだね」

「も? ということは……」

「うん、あれは夢なのか意識が飛んでいただけなのかは正直わからないけれど、私も昨日、平行世界の私と夢を見ている間に会っていたんだ。

 そしてネメの話を聞く限りでは多分同じ世界の子。向こうの私も向こうのネメが告白する練習しているって言っていたし、トーイラとシャルが関係を持っていると話していたから」


 どうやらミノリもネメと同じように意識が並行世界に飛んでいたようで、ネメの証言からネメとミノリがいた並行世界は同一の世界であるとミノリは判断したようだ。


「といっても……私たちにできることはこれ以上何も無いだろうけれど……あっちの子たちならきっと2人を助け出してくれるに違いないよね。だってあの子たちも()()なんだもの」

「同意」


 ミノリとネメはそう言葉を交わすと、並行世界の2人がこちらの世界と同じように並行世界リラとクロムカを救ってくれる事を願うかのように一緒に空を見上げたのであった。

次回からは並行世界のミノリと黒ネメたちによる番外編になりますが、

前日の後書きで書いたように暫くの間投稿をお休みし、2週間後をめどに再開する予定です。


少し期間が開いてしまいますがそれまでの間、お待ちいただけると幸いです。

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[気になる点] 行かせていただきます! >その事をこっそりとミノリか聞かされていた ミノリから、ですかね?
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