187. 17年と2ヶ月目② 6年ぶりの再会と情報交換。
若干R15に該当するような発言をしている箇所があります。
苦手な方はご注意ください。
「…………あれ、ここどこ? 見た事無いはずなんだけどなんだか知っているような感じがする部屋……」
ミノリがふと気がつくと、いつの間にやってきたのか全く知らないどこかの家の居間らしき部屋に佇んでいた。そして先程『知らない部屋』とミノリは口にしたものの、内心ではその表現もしっくり来ていない。
というのも確かに家具や装飾品は全くと言っていいほど違う、だというのにミノリが今住んでいる家の間取りと殆ど同じように見え、違う点があるとすればネメが増築した部分がないくらいだ。
「いや、これ夢か。だって私、昨日の夜ベッドに入った記憶がちゃんとあるもの。
だけど夢のわりにはなんだか……意識もはっきりしているし、物にも触れるし……あとほっぺをつねるとちゃんと痛いし……」
今ミノリが口にしたように、確かにミノリは先程まで眠っていたはずだ。その為ミノリはすぐにこれは夢だと思いかけたようなのだが……触覚や痛覚がある事からそれも恐らく正解ではないと判断した。
「もしかしてこれ……昔私が迷い込んだ並行世界にある私たちが住んでいる家……? それで私の意識がそっちにまた飛んじゃったとか……?」
ミノリが少しずつ、今ミノリが置かれている状況について整理をし始め、並行世界の方に迷い込んだのかもしれないと結論付けようとしたまさにその時だった。その考えが確信となる人物がこの部屋に入ってきたのだ。
「うーん……今日もネメは私に告白してくれなかったわね……もう私の事が好きなんだってバレてるんだから早く告白してくれてもいいのに……って、誰そこに座ってるの……って私!? ……あ、そうか。あなたは本来のミノリよね? 久しぶり、6年ぶりかしら?」
「え? ということは……あの時のもう一人の私?」
……それは過去に分離したもう一人の自分との約6年ぶりの再会であった。
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「私、再びミノリがこっちの世界に関与してくるとは露にも思わなかったわよ……微妙に透けているのは魂だけが来ている感じなのかしら」
「……あ、本当だ、よく見たら私の体少し透けてる……。あはは……うん、私もそう。またこっちに来られるとは思ってなかった……」
お互いに予想外だったように顔を見合わせながら言葉を交わすミノリと並行世界ミノリ。
そして体が透けている事から、ミノリは眠っている間のみ魂だけが平行世界に来ている状態のようで恐らく元の世界で目を覚ましたらミノリも自分の世界に帰れるだろう。
そんな風にミノリが考えていると、並行世界ミノリがミノリの全身を見澄ましていた。
「どうしたの? そんなにまじまじと……」
「あの時は時間に余裕が無かったからわからなかったんだけど……個体差あるのよね、意外と。目つきなんてミノリは私と違って随分穏やかそうだし」
「あ、本当だ。あなたはツリ目なんだね。そのせいで私よりも凛々しく見えるよ」
そもそもミノリの容姿は没メインキャラから流用された『ダークアーチャー』という種族名のザコモンスターで、ゲームでは出現率は異様に低いとはいえど何度も出現する汎用型という区分だ。
それを踏まえるとミノリと並行世界のミノリは見た目も全く同じになるはずなのだが、どうやら完全に一致というわけでは無く若干の個体差があるようで、ミノリが平行世界のミノリとの姿の差異が他にも無いか見比べていると……。
「どうそっちは。うまくやれてる?」
並行世界のミノリが尋ねてきた。ミノリから分離して以来6年間一度も会っていなかったので情報交換がしたかったのだろう。
ミノリもまた並行世界ではどんな風になっているのか知りたかったので、すぐさま現在の状況を並行世界ミノリへ伝えることにした。
「そうだね、色々ドジしちゃってるけどうまくやれていると思うよ。もうトーイラもネメも23歳だし、リラも……あ、そっかリラについてはまだ話してなかったね。リラは三女として迎えた吸血鬼の女の子でこないだ13歳になったばかりだよ」
ミノリはこの6年の間に新たに娘として育てているリラについて説明すると、並行世界ミノリは相槌を打ちながらそれを聞き、ミノリが話の区切りを一旦つけたのを確認してから、今度は現在の自分の状況についてミノリの世界との差異を交えながら切り出した。
「なるほどねぇ。ちなみにこっちのネメとトーイラは12歳よ。ミノリは2人を保護したのが6歳の頃だったから、すぐに母と娘という関係として順応できたんだろうけど、私が2人を助け出したのはついこないだ。
助け出すのに6年もかかっちゃったせいで、2人とはもう母と娘という関係にはなるのはできなかったけれど『2人と一緒にいたい』というミノリの意志だけでも引き継ごうと、今で2人とは『友達みたいな家族』という関係になってるわよ。
私はミノリそのものじゃないから、今のミノリのようには完璧にできたわけじゃなかったけれど……私たちは私たちなりに幸せよ」
そこまで流暢に話していた並行世界ミノリだったが、突然歯切れが悪くなったように顔を赤く染め、照れたような表情を見せながら話を続けた。
「ま、まぁ友だちという関係ももうそろそろ終わりそうなのよね。……こないだネメがトーイラを練習相手に私へ告白しようとしている姿を見かけちゃったし……私ね、ネメに告白されたらそれを受けるつもりなの」
「え、ネメと!?」
どうやら並行世界のミノリはネメと恋人になる選択肢を選んだようで、思わず驚きの声を上げるミノリ。
「そうよ……というか正直なところあなたのせいだからねミノリ。あなたのその『ネメとトーイラを想う感情』が私の中に潜在意識としてずっとこびりついていたせいで結果的に私、6年もネメ達を探し続けたんだから。そんなわけだから絶対に2人を見つけるという感情がいつしか愛情に置き換わっていたのよ。
……あ、どうしてトーイラじゃなくてネメなのかって言うと、トーイラは私が探している間に出会ったシャルってモンスターの女の子と主従関係を結んだ後、歪んだ愛情へとその意識が変貌したみたいだからよ」
少し怒ったような口調になる並行世界ミノリだったが、そのわりに表情は柔らかである。
(そっか……並行世界の方でもシャルは私たちの関係者になれたんだね。……ネメじゃなく、トーイラに、というのがちょっと面白いけど、それはともかく『歪んだ愛情』かー……トーイラはそういう風になりやすい性格なのかな……)
平行世界ミノリと分離した当時、シャルはまだネメと結婚しておらず、どちらかというと変人という区分だった為、シャルについては内心『平行世界ではもう倒されてしまって、いないかも』と思っていたのだが、どうやら並行世界でもミノリたちと繋がりを持てたようで、それを聞いて『一部を除いて』ミノリが安堵するなか、平行世界ミノリは言葉を続ける。
「……だけどね、私、ネメが告白してくれたらすぐに恋人になるって決めてるのに、ネメはまだ12歳だからキス以上の事をしたいと考えると『ネメが16歳になるまでそれ以上の事はしちゃダメ』とってミノリから引き継いだ意志の一つの『倫理観』が邪魔してくるせいで恋人になれてもそれ以上の事がまだできないのよ……。
……私、ミノリと違って純粋にモンスターという意識の方が強いから自分の欲の赴くままにネメとあれこれしたいのに!! わりと自分の好き勝手に生きたいのにミノリの変な倫理観が邪魔してきて!! ネメが16歳になるまでできないじゃないのセッk」
「あはは……なんかごめん」
まさか前世の自分の倫理観について、並行世界の自分から苦情を言われるとは思っていなかったミノリは話を遮るように謝った。
そして並行世界ミノリもそれは仕方ない事とわかっていたようで、
「……まぁ、あとたった4年だし、それまで我慢すればいいだけの話なんだけどね。ミノリのガバガバ倫理観の隙を突くようなギリギリを攻めてその4年間を切り抜ければいいわけだし……それでミノリは? もしかしてミノリも娘の誰かと恋人になったりしたの?」
今度は並行世界ミノリから、今のミノリの恋愛事情について尋ねられたのだが……。
「え? いや、私は特に……。それにまだ子育て期間中だし……あ、ちなみに私の世界ではネメはシャルと結婚して2年前に孫が生まれたよ」
自身の恋愛についてこの17年間、全くと言っていいほど思考の範囲外であったミノリは子育て中である事を伝えてその質問を躱し、ついでにネメの現況についても教えた。
「あぁそっか、そういえばリラって子も保護したってさっき言ってたものね……というかネメがシャルと結婚して孫まで生まれたって本当なの?
あの凄いどMっぷりで昨日もトーイラに色々やられて善がっていたあのシャルが!? ろうそくと鞭とヒールで涎を垂らして喜ぶあのシャルが!!??」
「待って待って待って、変な情報が突然入ってきて頭の整理が追い付かない……」
「それはこっちもよ!?」
お互いに予想外の情報が入った事で混乱した表情を見せるミノリと平行世界ミノリ。
2人は一旦、一呼吸ついて気持ちを落ち着けてから、改めてその話をすり合わせ始めた。
「……えぇっと、つまりそっちの世界ではあなたとネメが近いうちに恋人同士になる予定で、トーイラとシャルは主従の関係だけどなんだかんだ仲が良くてそういうプレイに勤しんでいる……と」
ミノリが並行世界ミノリの状況についてそう解釈し、それを肯定した平行世界ミノリもまた、ミノリの状況について解釈した事を話し出したのだが……。
「そうよ、それで大体あっているわ。それでミノリの方はネメとシャルが恋人……じゃなくてふうふになって孫もいる。そして昔は2人ともミノリに対して恋慕があった。
トーイラはミノリに片思い中でリラって子はトーイラに片思い中の三角関係もどき状態、トーイラはそんなリラに思われて気持ちが揺らいでいるところ……っと。そしてミノリは誰ともくっついていないぼっちね」
……微妙に毒のある言い方をする並行世界ミノリ。
「そんな感じだけど……なんだか微妙に言い方が刺々しくない……?」
「当たり前よ! 私だったら想われた時点で全員と恋人になりたいわよ!! ……まぁそういう思考になるのはミノリと違ってモンスターとしての自覚がある私には『人型モンスターが生き延びるための生存本能』から発生した『誰かと結ばれたい』という意識があるからで、ミノリを攻めるのはお門違いなんだろうけどね……ってあれ? ミノリ、さっきよりも体が透けてない?」
「え? あ、本当だ。大分話し込んじゃっていたから……きっとそろそろ目が覚める時間……なのかな」
どうやらミノリが平行世界にいられるタイムリミットが迫っている合図だったようで、それに気づいた途端、平行世界のミノリは名残惜しそうな表情を見せた。
ミノリから分離した意志という、ある意味では『一番近い関係』のはずなのに平行世界という普段ではまず会うことのできない『一番遠い関係』でもある寂しさの表れだったのかもしれない。
「そっか……。ミノリはそろそろ元の世界へ戻る時間なのね。……次会えるのはいつかわからないけれど、今のところぼっちのミノリもミノリなりの幸せを見つけなさいよ。
……それはそうと、もしもミノリがまた私に何かお願いしたことがあるのなら急いで教えて! 多分それは私もやらなければいけないはずの事だから。取りあえずリラって子は絶対に助けなくちゃいけないはずだからリラの詳細についても」
「!!」
並行世界のミノリが再びミノリの意思を再び継いでくれる事を伝えた途端、これ以上お願いするのは無理だろうと内心では諦めかけていたミノリは驚きのあまり顔を紅潮させた。
リラは助けてくれると約束してくれたので取りあえず一安心だが、ミノリの中ではあと一人、どうしても助けてあげてほしい人物がいるのだ。
だからこそミノリは半ば駆足気味に並行世界ミノリへお願いしたい事を話し始めた。
「そ、それじゃリラとあともう一人……『クロムカ』って子を助けてあげてほしいんだ。リラはさっきも話した私のもう一人の娘なんだけどクロムカは……私の義理の妹みたいなものだよ」
……流石に『孫の元ペット』とは言えなかったミノリはちょっとごまかしながら平行世界のミノリに伝えてから、それぞれの詳細について矢継ぎ早に説明する。
「リラって子は北の城に捕らわれていたところを逃げ出してきた白い髪が特徴で日光に対して完全耐性のある吸血鬼の女の子で、あなたの世界ではまだ2,3歳で捕まっていないでどこかに隠れ住んでいるか、既に北の城に幽閉されているかのどっちかのはず……。リラは特異体質のせいで光の祝福を受けないと10歳で死んじゃう運命にあるから急いでほしいんだ。私にとっては今ではその子も大切な娘の一人だから……。
あと、クロムカはキテタイハに近づくまでは『人間の女の子のまま』で、キテタイハの町に近づいてしまった後は『モンスター化した人間』となってキテタイハ近くにあるダンジョンに隠れ住んでいるはずなんだけど、できたらキテタイハに来る前に保護してほしくて……多分そっちの世界では今8か9歳ぐらいでズエクゴジにいるはず」
ミノリが駆け足で詳細を話し終えると、それを黙って聞いていた並行世界ミノリはその情報を反芻するかのように何度も頷き、そして……。
「やる事結構あるじゃないの。……全くもう、ミノリってば『私使い』が荒いんだから……まぁいいわ。きっとそうした方がみんな幸せになれるのよね。なら構わないわ。その子たちの事は任せなさい。
……ただ、これだけは断っておくわよ。私は確かにミノリの記憶を引き継いでネメやトーイラを助け出したわけだけど……ミノリと違って私はモンスターという意識がある事には変わらないから、おそらくミノリみたいにうまくできるとは思っていないわ。リラって子は吸血鬼だからまだいいとしてクロムカって子は私が助け出す時はまだ人間なんでしょ?
もしもクロムカって子が攻撃をしかけてきたら……悪いけど私はミノリのお願いでもその子を殺すから」
最初は苦笑しながら話していた並行世界ミノリだったが、クロムカの件について話し出した瞬間、彼女の瞳からハイライトが消えた。その事から並行世界ミノリが『場合によってはクロムカは殺す』と言ったのは本心からだというのがミノリにも伝わった。
「うん……そればかりは私は文句を言えないよ。多分クロムカを助けられなくても、きっとあなたの世界のクロムカはそういう運命だったという事だから……あ、もう時間が……」
「……もう大丈夫よミノリ。あなたがお願いしたい事は全てわかったから。あとは私に任せなさい」
平行世界ミノリがなんとか最後にそれを伝えると、ミノリの姿は完全に見えなくなってしまった。
どうやら元の世界へと戻っていったらしい。
そしてミノリが平行世界から元の世界へと帰っていった後……平行世界ミノリは、頭を掻いて面倒ごとを頼まれたなぁという態度を見せつつも、ミノリとの約束を果たそうと決意するかのように独り言ちり始めた。
「……ま、さっきは『場合によっては殺す』って言ったけどそれは最終手段。なんとか2人とも救って見せるからねミノリ。
……それにしても『光の祝福』も関係しているって事はトーイラをもう一度『光の神殿』だったかに乗り込ませないといけないって意味になるのよね。……トーイラ聞いてくれるかしら……はぁ、荷が重いなぁ……。まあでもやってやるわよ。あっちのミノリにできて私ができないはずなんてないんだから。まずは2人に相談をしなくちゃ」
彼女は決心したように、ネメとトーイラを探しに別の部屋へ向かったのであった。
──ちなみにこの同時刻、平行世界のネメこと通称黒ネメもまた、ミノリの世界のネメと会っていたのだが……それを並行世界ミノリが知るのは数十分後の事であった。
17年と2ヶ月目は③まで続き、ちょうどそこで4-1章が終わるので間に合えば明日公開する予定です。
それ以降の話については少しお時間をいただき、再開は早くても4/25以降とさせていただきます。
お待たせしてしまい申し訳ないですが、それまでお待ちいただけると幸いです。
また、ミノリさんの話自体が完結に近づいていて、番外編と4-2章、最終章で書く内容も決まっているので、もしも「こういった話が読みたい」というのがあれば、感想などで4月16日あたりまでに教えてもらえると、IFの話や今後の展開に矛盾が生じる話の場合は難しいかもしれませんが、それ以外ですとおまけ話として書くかもしれません。




