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186. 17年と2ヶ月目① 写真を撮るたびに。

 ザルソバとクロムカがミノリ達の住む家のほぼ隣に住むようになってから半年が経過し、その時に妊娠が発覚したクロムカもあと1、2か月もすればその子が生まれてきそうな程にお腹がすっかり大きくなったある穏やかな昼下がりのこと……。


「何かあったら私たちも協力するって話はしてあるし、無事生まれてくれると嬉しいなぁ。……うん、ちょっとあれをまた見たくなってきちゃった」


 先程までクロムカと会い、そのように話していたミノリがそう独りちながら向かうのは自分専用の机がある部屋。ミノリはその引き出しにしまっている大事なあるものを見返したくなっていたのだ。その大事なあるものはというと……。


「確かここに……あったあった。えっと、これはネメとシャルが結婚式を挙げた日にトーイラがこっそり撮っていた写真で、こっちはリラが家に来て私の娘になった時ので、そしてこっちはノゾミが生まれてしばらくした時の……」


 今まで撮ってきたオンヅカ家の面々が写る写真だった。


 ミノリは時々こうして過去に取った写真を並べてそれらを見返して当時の思い出を振り返る事があり、その傾向が特に顕著けんちょになるのは家族が増えたり、娘が成長したと実感できた時などで、今回はザルソバとクロムカの間に子供が生まれそうだった為である。


 本来、ザルソバとクロムカはミノリたちの家族ではない。しかし一時的とはいえクロムカを保護して家へ迎え入れたり、ノゾミが頻繁に遊びに行ったりという家族ぐるみとしての付き合いも非常に大きかった為に、家族の枠組みには入らなくてもザルソバたちも大切な仲間という認識が強く、こうして写真を見返したくなったわけだ。


「それにしても、こうして昔の写真を改めて見直すと、ずっと一緒にいるから気づきにくいけど、立派な成長記録のように思わせてくれるから、本当にみんな大きくなったって改めて実感できるから母親としてとても嬉しくなっちゃうんだよね。

 現にトーイラもネメもリラも最初に取った写真は痩せてちっちゃく見えるのに2枚目になるととても健康的に成長してくれているんだもの」


 ミノリにとってはあっという間の事のようについ思ってしまうのだが、ミノリがこの世界に転生して、トーイラとネメを保護して娘として育てた日から既に17年が経過している。2人が大人になったのは当然として三女のリラもミノリが元いた世界でならもう中学生になっているような年齢だ。

 その事に改めて気づいたミノリが感慨深く写真を見返していくと、その中に一枚だけあったボロボロになった写真が視界に入るとそっと手に取った。


「……それにしても、あの時私がネメとトーイラに出会ってそれを助けていなかったら、今みたいなこんな幸せな気持ちになる事なんて、きっと無かったんだろうなぁ……それどころか既に死んでたかも」


 そうつぶやきながらミノリが手に取ったのは、トーイラとネメが8歳の時にシャルに初めて撮ってもらった思い出の写真。

 まだモンスター扱いだった頃にお守りとしてミノリが持ち歩いていた時に、どこぞの冒険者風の男たちに襲われてしまったせいでボロボロになってしまった上、月日の流れでさらにボロボロになってしまっていたが……ミノリにとって絶対に手放したくない大切な一枚だ。


 その写真を暫く眺めたのち、他の写真と共にミノリが再び引き出しにしまうと……、


「……なんだか写真を眺めていたらまた撮ってもらいたくなっちゃった。ちょっとシャルにお願いしようかな」


 どうやらミノリの中の『家族全員で写真を撮りたい欲』が湧いてきたようで、写真を撮ってもらう為にシャルの事を探し始めた。

 写真を撮ってもらうためにシャルを探す必要があるのは、別にミノリが機械音痴だからというわけではなく、この世界の写真器は機械ではなく魔力が必要な代物だからで、魔力が一切無いミノリには撮る事が出来ないからである。


 言ってしまえばミノリ以外なら誰でも写真器を扱う事ができるのだが、シャルが特に写真器を扱う事が多かったのでオンヅカ家では写真を撮るのはシャルの役目という考えが定着していたのだ。


 ちなみに魔力があれば誰でも写真を撮れるので2歳になったばかりのノゾミも勿論使えるのだが……ノゾミの場合は魔力の加減がわからずに写真器を爆発させてしまいそうな気配を本能的にミノリは察知しているので、シャル以外に頼むとしてもノゾミだけはその選択肢から除外している。


「確か今日シャルは買い出しに行ってないはずだから家にいるはずで……あ、シャル見つけ……あれ?」


 ミノリはすぐにシャルを見つける事が出来たのだが……シャルはノゾミと一緒にいながら何か話をしていたので声をかけるタイミングを計ろうと一旦何をしているのか確認する事にした。


(シャルが手に持っているのは……ぬいぐるみ?)


 どうやらシャルは何やらノゾミを膝に座らせながら両手に何かの動物らしきぬいぐるみを持ちながら言葉を発している。

 一体何をしているのか気になったミノリがほんの少し近づいてみると……。


「わぁ、大変です。ウマミニクジルボアのウマミーくんが顔を真っ赤にして向かってきました。ウマミーくんはこの辺りでは一番の暴れん坊であり、どんなことにもとりあえず怒るのでみんなは近寄ろうとしません。だけど今日はいつもと違いました。怖がりですぐに逃げたがるムスヤクニルドリのチキンハートくんが心臓をバクバクさせながら……」


 どうやらシャルは人形劇をノゾミに披露しているところだったようだ。


(すごい……シャルってば人形劇までするようになったんだ。……それにしても今シャルがノゾミに聞かせているお話、聞いた事のない話だけど、もしかしてシャルが一人で考えたのかな?)


 この世界に転生してから17年が経つミノリ。娘たちに読み聞かせをする為にこの世界の童話も色々調べていたのだが、今までそんな童話が出てきた事は一度もなかった。

 その為ミノリは、今シャルがノゾミに聞かせているお話は、シャルが一人で頑張って考えたお話なのだろうと判断したのだ。


(きっと私が前世で知った読み聞かせに向いてるような話をノゾミに読み聞かせているうちに、自分で考えてみたくなったのだろうなぁ。シャルってば本当にすっかり母親らしくなったね)


 娘たちだけでなく、シャルも母親としてますます成長している事に思わずほっこりとしたミノリではあったが……。


(……まぁ、内容は兎も角……)


 ほんの少しミノリは眉間に皺を寄せた。……その理由はシャルが考えたらしきお話に問題があったからである。


「話し合いで解決しようとしたムスヤクニルドリのチキンハートくんでしたが、聞く耳を持つ気がさらさらなかったウマミーくんはチキンハートくんにタックルをお見舞いし、チキンハートくんを粉々にしてしまいました。あわれ変な正義感を持ってしまった為にチキンハートくんはウマミーくんにボリボリ食べられ、あっという間に骨になってしまいました。

 チキンハートくんは匂いからしておいしい食べ物そのものだったので、ウマミー君には食べ物が向こうからやってきた程度にしか思われなかったのでした。めでたしめでたし」


 元々シャルは根っからのモンスターであり、知的好奇心を満たすために本を読むことはあれど自分で創作するために本を読むという事をした事が無いはずだ。だからこそ話を創作した時点ですごいと捉えるべきだろう。


「ど、どうでしたかノゾミちゃん? 私、がんばってお話を考えてみたんですけど……」

「んー……30点!! ウマミーくんがチキンハートくんをおいしそうに食べただけで話が盛り上がってない!!」


「え、えー……30点かぁ……うーん、次はもっといい点が取れるようにがんばってお話考えますね」

「うん! 楽しみにしてるねシャルママ!! ……あ、おばーちゃんだ!」


「え? あれ、お姉様もいたんですか? ということはさっきのお話聞かれちゃいましたか? 初めての創作を聞かれたのでちょっと恥ずかしいです……」


 2人の会話を途切れるのを待っていたミノリだったが、それよりも先にノゾミに見つかってしまった。ミノリは少しバツが悪そうにしながらシャルに話しかけた。


「うん、実は少し前から……。ごめんね、シャルがノゾミに一体どんな人形劇を披露しているのか気になって……」

「少し恥ずかしいですけれど大丈夫ですよ。それでお姉様どうしたんですか?」


 ミノリは改めてシャルに用件を伝えた。


「えっと、久しぶりにみんなで写真撮りたいなと思って……大丈夫かな?」

「なるほど……そうですね、ノゾミが2歳になってからはまだ撮っていませんでしたし、良い機会かもしれませんね」

「やった! ノゾ写真撮ってもらうの楽しみ!!」


 丁度シャルも写真を撮るいいタイミングだと思ったようだ。となると話は早いようで、早速シャルが写真を撮る為に写真器を取りに行こうとすると……。


「それで、折角だからザルソバさんとクロムカさんも一緒に……なんて思ったけどどうかな」

「いいですね、あの2人も一緒ならきっとノゾミが喜びますし……」


 シャルもミノリの考えに賛成のようだが……。



(……それに、多分あの2人、将来的にノゾミの義理の親になりそうですし……)



 シャルがそこまで考えていたのはミノリも流石に気がつかなかったのであった。



 ******



「──本当にいいのかい私たちまで一緒で……」

「ありがたいお話ですけど……いいんですの?」


「もちろん構わないよ。お隣同士だし、それにノゾミのおかげで2人とは垣根をあんまり感じないのもあるし」


 その後、ミノリがザルソバとクロムカに声をかけると、2人も写真を撮ってもらうのが嬉しいようで二つ返事で了承してくれたのでミノリが2人を連れてくれると、シャルが既にネメ達に声をかけていたようでトーイラとリラもその場に集まっていた。


「あれ、トーイラとネメとリラももう来ていたんだね。もしかしてみんなも写真を撮るの、楽しみだったの?」


 ミノリが先に来ていた娘たちに声をかけると、どうやらみんな写真を撮るのが楽しみだったようで、


「そうだよー。たまにしか撮らないから嬉しくて」

「私ももちのろんろん。こうして写真を撮る機会、いまかいまかと待ちび」

「あたしも……前に撮った時よりもきっと大きくなってるはずだから……どれだけトーイラおねーちゃんくらいの背の高さに近づけたか気になって」


 と、それぞれ嬉しそうに言葉を返した。ちなみにリラの終わりの言葉は小声だったのでおそらくトーイラには聞こえていないがミノリにはばっちり聞こえている。


「そっかぁ、という事はみんなには随分お待たせしちゃったね。それで、これから写真を撮るわけなんだけど……ザルソバさんとクロムカさんも一緒でいいかな?」


 今日の写真は本来家族ではない2人も一緒に入るのでそれでも問題ないかと、念のためにミノリが確認すると全く問題ないようで、3人とも首を縦に振っている。

 その姿を見たミノリは、写真器の前に立って準備をしているシャルに声を掛けた。


「よし……それじゃシャル。みんなの了解をもらったからあとはシャルお願いねー」

「わかりましたお姉様! ……それじゃ皆さん、写真器の前に並んで撮りたいポーズを取ったらあとは動かないでくださいねー。あ、ネメお嬢様。私、写真器のボタンを押したら急いでネメお嬢様に抱きつきにいきますのでバランスを崩さないようにしてくださいね」

「了解。ノゾミを肩車しながらシャルが私の腕に勢いよく抱き着いてきても私は盤石」


 シャルの言葉に従って、それぞれどう写真に写るかを決めてから全員が動かなくなったのを確認してからシャルは写真器のスイッチを切って駆け足でネメの腕に抱き着いてから暫くしてから聞こえてくるシャッターの切れる音。

 その音を確認してからシャルはネメから離れて写真器に向かった。どうやら無事に撮れたかを確認しているらしい。


「えーっと、はい、オッケーです。ちゃんと撮れてますよ」


 どうやら無事に写真を撮る事が出来たようだ。


「それじゃザルソバさん、クロムカさん、写真ができたらあと2人の分、渡しますね」

「ありがとうミノリさん、こうして一枚の写真に一緒に写させてもらっていると仲間という感じがしてくるよ」

「ワタシもですの! 本当にありがとうございますですのミノリさま」


 改めて2人からお礼を述べられるミノリは……。


「お礼なんていらないですよ。だって私にとってザルソバさんもクロムカさんも大切な人たちですから」


 微笑ながらそう言葉を返した。


「む……」

「ほわぁ……ミノリさま、素敵な笑顔……」


 そのミノリの笑顔は、この森が続編の世界で『女神の森』と冠するのも頷けるほどに、とても素敵な笑顔で、ザルソバとクロムカふうふも思わずそのミノリの笑顔に見とれてしまうほどであったそうな。



 ******



──その日の夜、ミノリは今日撮った写真を改めて眺めていた。


 今日撮った写真の一番右側ではノゾミを肩車したネメにシャルが抱き着き、その隣ではトーイラとリラは手を繋いでいる。その隣ではミノリがまっすぐ写真器を見つめ、一番左側では椅子に座ったお腹の大きくなったクロムカをザルソバが軽く抱きしめている、というみんなが思い思いにしたいような格好の写真となっていた。


「うん、今日の写真もいい写真。……そして今気づいたけど私たちが写真を撮る度に移る人数が増えていってるんだよね」


 ミノリが最初に撮ってもらった写真はミノリとまだ8歳になった頃トーイラ、ネメの3人。で、二枚目はトーイラがこっそり撮っていたシャルが加わった4人の写真。

 三枚目はリラが娘となってから撮った5人の写真で、四枚目はノゾミが生まれての6人の写真。

 そして今日撮った五枚目の写真はザルソバとクロムカも加わった8人での写真で、ミノリが口にしたように撮るたびに写真に写る人数が増えていく。


「こうして写真を順番に眺めていると、この世界に転生してからこの森とその周囲だけという非常に狭い範囲でしか行動してこなかったけれど、私はそれでも色々な人と繋がりを持つことができたんだと改めて実感するなぁ……。

 写真には当然映ってないけれど、キテタイハの町長さんとか、タガメリアさんにメーイさんとえーとあとはラリルレ……は私は特に関わってないからカウントしないとして……」


 哀れなりラリルレ……まぁラリルレの事は地の文ですらどうでもいいと思っているのでそれは兎も角として……色々な人たちの縁で結ばれた事で『今』の彩られた自分がいるのだとミノリは改めて実感した。


「私、この世界に転生して、色々大変な事もあったけれど、それでもやっぱり、この世界に転生できて本当に良かった。今日撮った写真も大切に引き出しへしまって……あれ?」


 写真をしまおうとしたミノリが引き出しを開けた瞬間、ミノリは誰かを忘れているような気がして、その手を止めた。


「そういえばまだ私と縁がある人がいたような……。

 あ、そうだ。夢で会ったもう一人の私がいたんだ……あっちの私にはすごい迷惑かけちゃったままだったけれどあっちの私、あれからどうなったのかな……」


 ミノリが忘れていたのは、もう一人のミノリ……『トーイラとネメを保護できなかった時の夢という名の並行世界』に意識が飛んでいた際に、こちらの世界へ戻るタイミングでミノリから分離した、ミノリであってミノリでない、もう一人の自分だった。


「あれから6年立ってるけど、あっちの私も無事にネメとトーイラを見つけ出せたのかな……。気になるけど、もうあそこへは行けないだろうし……ちゃんとやっているに違いないよね。……さてと、私もそろそろ寝ようかな」


 ミノリは一人でそう結論付けてから寝室へと向かうと、そこではミノリが普段寝るベッドの隣でノゾミが、そのまた隣ではトーイラとリラが仲良く隣り合って眠って……いや、違う。

 トーイラが明らかな寝息を立てているのに対し、リラののどが唾液を飲み込むような動きを見せた事から目をつぶって狸寝入りをしているのだとミノリは判断した。


(ははーん……これはあれだな。きっと私も眠った後でこっそり起きて、トーイラにキスをする算段だな)


 それをわざわざ指摘するようなゲスではないミノリはリラの好きにさせようと敢えてそれには触れず、先に眠っていたノゾミの隣へ来て安らかな気持ちのままベッドに入ったのだが……その日ミノリが見た夢はまさに先程まで考えていた、もう一人の自分ミノリとの再会を果たす夢であった。

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