185. 17年と1ヶ月目 クロムカのお腹と過去。
「クーちゃん、ザルちゃんこんにちは! ノゾ、遊びに来たよ!!」
「あ、ごしゅ……ノゾミさまこんにちはですの」
「やあノゾミちゃん、相変わらず元気でいいね」
オンヅカ家の面々が朝食を終えてそれぞれの家事を始めた頃、ノゾミは家から徒歩で15秒の位置にあるザルソバとクロムカの家へと上がり込んだ……ノックもせずに。
「ちょ、ノゾミちゃんダメですよいきなり入っちゃ!! ごめんなさい2人とも。ノゾミちゃんがいつも勝手に上がり込んで……」
ノゾミに遅れること十数秒、ノゾミがいきなり上がり込んだ事をシャルが謝りながら2人の家へとやってきた。
流石に弾丸ロケットのようなスピードで走って2人の家へ駆け込んだノゾミには後衛ポジションのシャルではノゾミが上がり込む前に制止させることなどできるはずがなく、こうして遅れて謝るのがシャルの日課となっていた。
「いや気にしなくていいんだよシャルさん。私たちもノゾミちゃんが来てくれる事が嬉しいんだから」
「そうですの。ごしゅ……ノゾミさまだったらワタシいつでもうぇるかむですの」
ミノリ達とザルソバ達は当然ながら一つの家族では無いため、親しい間柄であるとはいえ、いきなり家の中に上がり込むのは非常識そのものなのだが、ザルソバとクロムカはノゾミには自由に来てもらいたいと考えているようで、クロムカとザルソバも快く承諾してくれたのが幸いして、ノゾミはこうして頻繁にクロムカの元を訪れていたのだ。
「でも2人にも生活があってそこには秘密にしておきたいこととかも……」
「大丈夫ですの! ごしゅ……ノゾミさまにはなんでもお見せしたい所存ですの!」
ノゾミがクロムカをペットにしていた時間などたった数時間だったのにもかかわらずクロムカは先程からノゾミのことをご主人様と言いかけている。それほどにノゾミの影響が強かったのだろう。
ちなみに当初はノゾミが訪れる度にクロムカがへそ天をしようとしたがったが、流石に身重のクロムカにその体勢を取らせるのはよくないとノゾミなりに思ったようで、へそ天禁止令をクロムカに施行している。
「それにしてもクーちゃんのお腹、とってもおっきくなったね!! クーちゃんはリラおねーちゃんぐらいの大きさしかないからクーちゃんの体、ちょっと心配だけど……」
見た目は12歳のまま変わらないが、既に18……いや、先日誕生日を迎えたそうなので19歳となったクロムカはノゾミの言葉を聞いて嬉しそうにお腹をさすった。
「ごしゅ……ノゾミさま、ありがとうございます。ワタシ、体だけは頑丈だから大丈夫ですの。それにこの子、普段はワタシの体を気遣っているのかとっても大人しくてあまり動かないんですけど、ノゾミさまが遊びに来てくれると不思議とこの子も共鳴するように動き出すんですの。きっとこの子もノゾミさまが来てくれることを喜んでいるんですの」
そして優しげな瞳と言葉遣いでノゾミにそう伝えた。
「うん、この子はホントに喜んでいるよ。だってクーちゃんのお腹の中にいる子、ノゾと遊びたいって言ってるの、ノゾわかるもん」
ノゾミはネメとシャルの魔力が合わさって生まれた魔法生物のような存在だが、ザルソバとクロムカの子もそれと同様だ。一応同じ種族という扱いになるノゾミと2人のお腹の子はお互いに何かを感じ取っているのかもしれない。
「ごしゅ……ノゾミさまだったらこの子はきっとすぐ仲良くなれますの。その時は一緒に遊んであげてほしいんですの」
「うんっ!! ザルちゃん、クーちゃんの事、ちゃんと大切にしてあげてね!」
「勿論そうさせてもらうさノゾミさん。クロムカとお腹の子は、私にとっても掛け替えのない存在だからね。大切にずっと守り抜くとノゾミさんに誓わせてもらうよ。
……本当にありがとうノゾミさん。あなたがクロムカを見つけていなかったら、きっと私はクロムカと再会することもこうしてクロムカを伴侶にして共に歩む事もできなかったよ」
「ワタシからも言わせてほしいんですの。本当にありがとうございましたごしゅ……ノゾミさま」
ザルソバはノゾミに誓いを立てると共に、クロムカを見つけ出してくれた事に改めて感謝の言葉を述べると、クロムカも続けてノゾミにお礼を述べた。
「……にゃへぇ」
まさか2人から一度にお礼を言われると思っても無かったらしいノゾミは、変な声を上げながら照れだした。
「よかったですね、ノゾミちゃん、あなたは本当に立派なお姉ちゃんで、私も誇らしいです」
「!?!?」
さらにシャルまでノゾミを褒めだした。3人からこうしてお礼を述べられたり褒められたりされていると、どうやら『嬉しい』という気持ちよりも『照れる』という気持ちの方が強くなってしまったようで、
「もー! シャルママまで一緒になって褒めないでよー! ノゾが照れてることわかっててシャルママも言ったんでしょ!!」
「うふふ、ごめんなさいノゾミちゃん。だけど本当に誇らしいんですから仕方ないですよ」
「むーむー!! だからやめてってばー!! ますます照れちゃうよシャルママのいけず!!」
ノゾミは照れ隠しでプンプンと怒る仕種を見せたが……それすらもかわいく見えるのがまだ2歳児のノゾミ。逆に微笑ましい姿として3人の目に映っている。
それからしばらくの間、機嫌を損ねたのかプイッと顔を背けたままのノゾミだったが、一つクロムカのことで気になったことがあったのを思いだしたようで、もう一度クロムカの方をむき直してからそれを尋ねた。
「そういえばクーちゃんは子供が生まれそうなこと、クーちゃんは、クーちゃんのおとーさんとかおかーさんには話したりしたの?」
ノゾミの両親はネメとシャルで、ネメの親はミノリである。
一方、ザルソバとクロムカについては2人の口から彼女たちの親については一度も聞いたことが無かった。それがノゾミには不思議だったようで気になり、ついクロムカに尋ねたのだが……。
「あ、えっと……」
しかしクロムカにしては珍しく、何故か歯切れが悪いような顔で何かを言いづらそうにしている。
「どうしたのクーちゃん?」
クロムカは暫くの間、迷ったような顔をしていたが、ノゾミになら話してもいいと判断したようで、少し遅れてからその理由をノゾミに打ち明けた。
「……実はワタシ、孤児なんですの。両親ともワタシが9歳の時にモンスターに襲われてそれが原因で死んじゃって……。ザルソバさまと出逢ってから、強くなろうと旅に出るまでの間、ずっと孤児院で過ごしていたんですの」
「あ……」
それを聞いた途端、気まずそうな顔を見せるノゾミ。
「!! ご、ごめんなさいクーちゃん……ノゾ、悪いこと聞いちゃった……?」
「いえいえ、ごしゅ……ノゾミさまは何も悪いことは言ってないですの。もう10年も前のことですし……。それに……今ワタシ、とっても幸せですの」
クロムカはノゾミのそんな顔を見た瞬間、慌てたように大丈夫だと弁明した後、再び優しそうな顔に戻しながら言葉を続けた。
「確かにワタシの両親が死んでしまった事は悲しかったですけど、今はこうして愛したザルソバさまと結ばれて、子供も授かることもできて……。
だからワタシ、天国で両親に会えたら『モンスターになってしまったけれど、ワタシ、生まれてこられて本当に幸せですの。だから、パパ、ママ。ワタシを生んでくれて本当にありがとう』って笑顔で言うつもりなんですの」
そう言いながら、ザルソバの手を取って、お腹をさするクロムカ。
両親の話をしたことで過去を思い出したのだろうか、彼女は瞳にうっすらと涙が浮かべていた。
そして、その後もなんだかんだクロムカたちとおしゃべりをして過ごしたノゾミだったが……。
「──っと、ノゾミちゃん、そろそろおうちに帰りましょう。多分お姉様……ミノリおばーちゃんも家事が終わってノゾミちゃんが帰ってくるのを待っていることでしょうから。確か今日ミノリおばーちゃんから読み聞かせをしてもらうつもりだったんですよね?」
「いけない、そうだった! ごめんねクーちゃん、ザルちゃん。ノゾ、帰るね!!」
今日はミノリに読み聞かせをしてもらうつもりだったノゾミは、シャルの言葉でそれを思い出し、急いでミノリが待つ家へと帰る準備を始めた。
「ええ、またいつでも来てくださいねごしゅ……ノゾミちゃん」
「私たちはいつでも歓迎するよ」
「うん……あ! いけない!ノゾ、クーちゃんたちに聞きたいことあったんだ!」
家へ帰るために玄関に向かおうとしたノゾミだったが、最後の最後でまだ聞きたかったことがあったのを思いだし、振り返ると2人に本日最後の質問を投げかけた。
「そういえばクーちゃんのお腹にいる子の名前はもう決まっているの?」
ノゾミが聞きたかった事、それはザルソバとクロムカ、2人の子供の名前だった。
「いや、まだなんだ……そろそろ考えなくてはと思ってはいるのだが……」
「ですねザルソバさま。女の子だという事は決まっていますし、早く決めた方がいいんですの。……そろそろ『お腹の』とか『この子』じゃなくて、名前で呼んであげたいんですの」
「む……わかった。それじゃなるべく早めにこの子の名前を決めよう。一緒に考えてくれるかい、クロムカ」
「はいですの♪」
どうやらまだ名前は決まってはいなかったようだが、クロムカも早く名前で呼んであげたいようで、お願いするような上目遣いでザルソバを見ると、クロムカに激甘のザルソバはすぐに決めようと考えたようでクロムカにそう約束した。
……どうやら近いうちに2人の子の名前も無事決まりそうだ。
「決まったら教えてね! ノゾもこの子の名前知りたい!」
「もちろんだノゾミさん。名前を決めたら君にもミノリさんたちにもすぐに報告させてもらうよ」
「うん!!」
元気よく返事をしたノゾミは、最後にもう一度クロムカの近づくとそのお腹を優しくなで始めた。そして……。
「……早く生まれてきてね。……ノゾは、あなたと友達になりたい。だから、生まれてくれるのをノゾ、待ってるからね」
いつも破天荒で暴走機関車になるノゾミにしては珍しく、優しい瞳をしながらクロムカのお腹に耳をあてて中の声を聞くかのようにしながら、クロムカのお腹の中にいる子に向けて優しく声をかけたのであった。
(ノゾミちゃん、……立派にお姉ちゃんになりましたね)
そして、それを傍らで眺めていたシャルは、ノゾミが年齢だけじゃ無く、精神的にも立派に成長していることを改めて感じ、感慨深く思うのであった。
書き溜めていたストックが尽きてしまいました。明日の分、もしくは明後日までの分はなんとかいつもの時間に間に合わせたいと思いますがそれ以降は少し間が開くと思います。お待ちいただけると幸いです。




