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180. 16年と10ヶ月目① ノゾミを連れて。

「ノゾミ、どこにいるのー?」

「かーさまどうしたの? とりあえずノゾミちゃんはこっちにはいないよ」


 最近勉強をするのが楽しいリラが一人で勉強をしていると、ノゾミを探しているらしいミノリの声。リラは席を立つとここにはいない事をミノリに伝えた。


「そっちにはいないんだね、リラ、教えてくれてありがとうね。さっきまでシャルがノゾミに読み聞かせをしているのを見かけていて、それが終わったみたいだからノゾミを探していたんだけど……どこに行ったのかなぁ。今日はあそこへ連れて行こうと思ったんだけど……」

「……あそこ?」


 ミノリは、もうすぐ2歳になるノゾミをそろそろ()()()に連れて行こうかと考えはじめていて、それで探していたのだが……どこにも見当たらない。なお連れて行く場所の具体名を言わないのは今話している相手がリラだからで、その理由は後で判明する。


 ノゾミの靴は玄関にあるので、ドロンと消える術を使っていない限り、少なくとも屋内にいるのは間違いない。それではどこにいるのかとミノリがあごに手を当てて思いつく場所を考えていると……。


「おばーちゃん呼んだー?」

「わっ!?」

「え、ノゾミちゃんどこから降りてきたの?」


 突然ノゾミが天井から降りてきた。先日、ネメが天井に張り付いてきた時と同じような行動だったため、もしかして忍者になる修行の一環としてノゾミも天井に張り付いていたのだろうか。


「もしかしてノゾミも天井に張り付いていたの!?」

「ちがうよおばーちゃん、ネメママにお願いして天井にからくりを作ってもらって、天井をくるくる回転するようにしてもらったの。だからノゾはさっきまで屋根裏にいて、おばーちゃんたちがノゾの事探してたみたいだからそこを通って降りてきたんだよ」

「からくり!? ネメってばまた私が知らない間に家を改造したの!?」


 どうやら天井に張り付いていたわけではなかったようだが……知らぬ間にネメによって家をまた魔改造されていたようだ。ミノリがその事を知って、いきなり心因性からくる頭痛が起き始めたかと思うと……。


「そう、私がやった」


 ノゾミが降りてきた付近の天井の板が一枚回転したかと思うとそこからリフォームの匠であるネメが顔を出した。


「ネメもそこにいたの!?」

「いえす。ノゾミの夢を叶える為に、よかれと思って。ちなみに回転する壁とかはあるけど落とし穴や罠は無いから安心してほしい」


「いや、相談ぐらいしてよ!? ……って待って、今『とか』って言ったよね!? 危険なものが無いのはわかったけど回転する壁以外にもまだまだ仕掛けがどこかにあるの!?」

「……」


 ミノリの問い詰めをかわすようにネメが目をそらした。……もうその反応だけでまだまだからくりを仕込んでいる事がまるわかりである。


「はぁ……まぁいいや、落とし穴さえ無ければ……それでノゾミ、今日はこの後私と一緒におでかけしようか」

「おでかけ!? やった!! おばーちゃんとおでかけっ、おでかけっ!! 何処に行くの!?」


「ここから一番近い町だよ 多分ノゾミもクロムカを連れてくる時に近くを通ったと思うけど……」


 ミノリが連れて行こうとしているのはキテタイハである。今までミノリがそうしてきたように、キテタイハの町長であるハタメ・イーワックに会わせてノゾミがミノリの身内だと示しておいた方が後々役立つと考えたからだ。


 それならもっと早いほうがとも思われるかもしれないが、あの老婆に会わせるのが早すぎるとノゾミの心身に悪影響を及ぼすのは間違いないとミノリは考えていて、それが理由でノゾミを一切キテタイハへ近づかせないようにしていたのだ。

 しかし、ノゾミはあと数ヶ月で2歳。精神的にも肉体的にもノゾミは年齢以上に成長しているのでそろそろ問題ないとミノリは判断し、今日連れていくことにしたのだが……。


「なんと。おかあさんがあの魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこし、百鬼夜行ひゃっきやぎょうが行き交う怪異の町へノゾミを連れていくと……無謀者ちゃれんじゃー……」


 キテタイハへ連れて行くことに対してネメがキテタイハに対して暴言ともとれる発言をとった。

 まだ6歳の頃に追放されてから17年近く経ち、時々買い物に行くこともある。その上、ネメ自身もミノリのおかげで神の御使い扱いをされているのだが、やはり町の印象としては良くないままなのがその発言でミノリにも伝わった。


「いやネメ……あの町にいい印象が無いのはわかるけどネメもそこ出身でしょ……? まぁ、仕方ないと言えば仕方ないんだけど……」


 ミノリがネメの言葉に対して、理解を示していると、ミノリとネメが恐れていた事態が起きてしまった。


「ここから一番近くにある町ってもしかしてキテタイハ? そういえば、ノゾまだ入ったことなかった」

「「あ」」


 先程から意図的に『キテタイハ』の名前を出さずに会話をしていたミノリとネメであったが、何か事情がある事を知らないノゾミがその名を口にすると、ミノリたちの会話を横で聞いていたリラの顔色が突然蒼白となってしまった。


「キテタイハ……こわいこわい……」


 急に瞳からハイライトを無くし頭を抱えながらその場にうずくまってしまったリラ。過去に訪れた際の恐怖感がリラの心の中で深いトラウマとなっているようで、そのためにリラの前ではミノリたちは『キテタイハ』という語句を禁止ワードにしていたのだ。


「リラおねーちゃんどうしたの、大丈夫?」

「あー……ノゾミ、リラはしばらくそっとしといてあげてね。……大丈夫だよノゾミ、私が絶対ノゾミの事守ってあげるからね……」

「……おばーちゃん、一体ノゾをどんなこわいとこへ連れてくの……?」



 ミノリたちの反応の方がちょっと怖いと感じてしまった幼き孫なのであった。



 *******



 うずくまって動かなくなってしまったままのリラをネメに預けて、公園デビューならぬキテタイハデビューをするノゾミを連れて森を抜けたミノリはキテタイハへ向かって歩いていた。


「おばーちゃん、キテタイハって何があるの? ノゾが楽しめそうな場所ってあるー?」

「えーっとそうだなぁ……無いかも……」


 ミノリはノゾミから聞かれて、娯楽となり得る施設がキテタイハにあるか考えてみたのだが……全く思い出せない。


 そもそもハタメ・イーワックのインパクトが毎回強烈すぎて、それ以外のキテタイハに関する情報が何もかも頭に入ってこないのだ。


「なんだそっかあ。つまんなさそうな町!」

「気持ちはわかるけど言い方はちょっと考えようねノゾミ!?」


 歯に衣を全く着せない正直すぎるノゾミ。そして、その後もミノリとノゾミの仲良し祖母&孫コンビが色々雑談を交わしながら進んでいくと、あっという間にキテタイハの入口についてしまった。


「……さて、ノゾミ。それじゃ町の中に入るよ」

「う、うん……」


 緊張した面持ちでまずミノリがキテタイハの町へ一歩踏み出したのだが……いつもと様子が違う事にミノリはすぐに気がついた。


「あれ……今日はいつもの『待ってましたぞ臍神様コール』が無い?」


 普段ならば町に入る前から出撃してくる怪異こと、この町の町長『ハタメ・イーワック』が一向に姿を見せないのだ。


(なんだろう……これはこれで逆に緊張してくる……)


 思わず拍子抜けしかけたミノリであったが、全く出てこないのもこれはこれで不気味だと感じ、むしろ町の中で何か異変が起きているのではないかと考えてしまい、余計に緊張しながら町の中へどんどん進んでいくと予想外の人物との邂逅によりその緊張は崩れ去ってしまった。


「あら~、ミノリさんですよね~、お待ちしていました~」

「?! その声ってもしかして……」


 どこかで聞いたことのある間延びした声。突然の呼びかけに驚いたミノリがノゾミと共にその声の主の方を見やると……。


「タガメリアさん!? なんでここに!?」


 ミノリにとっては5年ぶりの再会となる、ハタメ・イーワックの娘で、つ、ここから馬車で6時間ほど離れた寂れた村『ワンヘマキア』の教会で司祭を務めるタガメリア・イーワックが何故か町の入口で優雅にお茶を飲んでいたのだ……なんだか見覚えのある羽の生えた少女を椅子代わりにしながら。


「はいー、ミノリさんお久しぶりです~タガメリアですよ~。実は臍神さまのミノリさんが来るのを待っていたんですよ~。普段ならお母さんがミノリさんを出迎えしているんですけど、今日は運悪く町議会と重なってしまったので泣く泣く私に託したんですよ~」

「そ、そうだったんですね……」



 タガメリアから事情を受けて、一人納得したように頷くミノリ。内心『あの老婆、ちゃんと町長の仕事もこなしていたのか』と微妙に失礼な事を考えているミノリはタガメリアの方を向いていたのだが、その視線はタガメリアよりも少し上を見るようにしてなるべくタガメリアの下を見ないようにしていた。


(私は何も見てない、あの椅子もどきについては何も見えない、触れたくない)


 迂闊うかつにタガメリアを視界全体に入れてしまうと、先程からタガメリアの椅子代わりになっている羽の生えた少女まで視界に入ってしまい、視界に入れたが最後、ツッコまざるを得なくなるからだと、自身の本能が警鐘を鳴らしていると感じたのだ。


 だからこそミノリは、視界を下に剥けないようにしていたのだが……。


「ねーねー!その椅子はどうしたのー?」


 しかしそんなミノリの決意など知るはずもない天真爛漫でナゼナゼ期絶賛突入中のノゾミが不思議そうな顔で、ミノリがあえて触れなかった「椅子に成り果てている羽の生えた少女こと『光の使いラリルレ』」について、尋ねてしまったのだ。


「うふふ~、お母さんから話だけは聞いていましたけど、あなたがミノリさんのおうちに新しく生まれたお孫さんですね~かわいいですね~。それでこの椅子は『誠意』って名前なんですよ~。

 呼ばれたらすぐにかけつけるという約束を破ったそうなので、そんな悪い子にはこうして誠意を覚えさせているんです。ちなみにお尻を叩くと良い声で鳴くんですよ、え~い☆」

「あひぃっ!!!」


「……」

「おばーちゃん、なんでノゾの耳をふさぐの?」


 どうやらリラがまだ特異体質で苦しんでいた時にトーイラが呼びだしたのに約束を破って逃げた事を指しているのだろう……とミノリは考えようとした矢先、タガメリアと触れてはいけない何かが突然謎の奇行に走ったために思考する事を阻まれてしまった。


 しかしそれでも、ノゾミの教育にだけは絶対に悪い事だけは間違いないと瞬時に判断できたため、咄嗟とっさにノゾミの耳を塞いで聞こえないようにしたのだが……あまり意味は無かったようで、それどころか……。


「ねーねーおばーちゃんおばーちゃん、ノゾ、あの変な声で鳴く椅子ほs」

「ダメです。絶対ダメです。あれは絶対に許可しません」

「えー!!」


 変なものを欲しがる悪癖のあるノゾミに対して、ミノリは早撃ちが得意なガンマンですら裸足で逃げ出すほどの早さでそれを拒絶してなんとかその願いを拒んだのであった。



 ノゾミちゃん、残念!

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