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168. 16年と6ヶ月目 いつかみんなが出て行く日。

「おかあさん、明日は私とシャルとノゾミの3人でお出かけするからお昼いらないけど大丈夫?」

「へ、そうなの?」


 それは家族みんなで夕食を摂り終えた頃。本日の家事当番であるネメが片付けをしながら、明日の食事当番であるミノリにそれを伝えた。


「うん。シャルが住んでいた北の大陸にある洞窟まで出かけようと。昨日ノゾミから、シャルが私と一緒に住むまでは何処に住んでいたのか聞かれてそれを答えたら行きたがって。シャルにそれを話したらノゾミももう1歳半になったことだし行こうかという話になったから、サンドイッチか何かを作って持っていって、足りなければ周囲にあるイオトルハやイムサエゲスとかで何か買って食べようと」


 どうやら、ノゾミに聞かれたことがきっかけとなってシャルはノゾミに自分が長年住んでいた場所を見せたいという気持ちが湧き出して、結果的にそのような話になったのだろう。


「なるほどね、うん、全然構わないよ。……まぁ、もう私に伺いを立てる必要もあんまり無いんだけどね。ネメはもう大人になって結婚してノゾミの親にもなったんだから、自分たちで自由に決めても大丈夫なんだよ」


 そうミノリは話したのだが、ネメはそれが少し不服だったらしく首を横に振った。


「でもやっぱりここが私たちのマイホームである事は変わらないから、やっぱりおかあさんには一言言っておきたい。ホウ()レン()ソウ()の重要性」

「そっか。……まぁネメがそうしたいならそれでも大丈夫だよ」



 ネメは親離れできているのかと聞かれたら少し返答に困るけれど、なんだかんだ娘に慕われている事は、やはり親として嬉しいミノリなのであった。


 ******



「というわけで明日のお昼、ネメたちは不在だけど、トーイラとリラはなにか食べたいものある?」


 後片付けを終えたミノリが居間でくつろぎながら、食後のおやつ代わりに吸血中だったリラとトーイラにお昼のリクエストがあるか尋ねると、2人は『あれっ』という顔をミノリに見せた。


 その反応を不思議に思ったミノリが、首をかしげながら2人を見ているとトーイラがほんの少しだけ弱ったような表情を見せながら口を開いた。


「ネメたちも出かける予定だったの? 実は私とリラも明日は近くにある湖までピクニックに出かけようかなーって話していたんだよ。現地で捕った魚とかを食べようかなと思ってて……」

「え、そうなの? それならそれで私は構わないけど……リラは大丈夫なの?」


 リラは吸血中だったトーイラの腕から口を離すと決心したような瞳でミノリを見つめながらその質問に答えた。


「大丈夫だよかーさま。……あたし、狩りができるくらいに強くなったもの。……トーイラおねーちゃんも守るって言ってくれてるから、あたしがんばる」

「そっか……トーイラ、リラの事、しっかり守ってあげてね」

「もちろんだよママ! 絶対にリラの事守り抜いてみせるから」


……何だか命の危機が及びそうな会話をする親子3人だが、あくまで近くの湖へピクニックに行くだけである。まぁモンスターは確かに岀るが……トーイラがいる時点で無双なのは間違いないだろう。


「むしろママを一人にさせるとは思ってなかったから……どうしよう。ママも一緒に来る?」

「い、いやぁ私はここに残ることにするよ……2人で楽しんできて」


 ミノリはやんわりとお断りをした。先月キテタイハへおもむき、ハタメ・イーワックと接した事による精神疲労が回復しきっておらず、あまり遠出をしたい気分にはならなかったのだ。


「うー……うん、わかった! それじゃママが安全に過ごせるように防犯魔法や隠蔽魔法、それ以外にもママを守るために役立ちそうな魔法をたくさんかけておくね! ネメにもかけられる限りの補助魔法をママにかけてもらうのお願いしておく!」

「う、うん……」


 ……相変わらずミノリに対して過保護な娘たちなのであった。



 ******



──翌日、朝食を食べてそれぞれに決められた家事を済ませると、ネメ・シャル・ノゾミは3人で、トーイラ・リラも2人で出かけていった。



 そして昨日話していたように、トーイラはミノリの身に危険が及ばないよう防犯魔法やら隠蔽魔法やらその他ミノリを守るためのあらゆる魔法を家中にかけていったようだ。

 ネメもまた、準じるようにミノリの身体能力が向上するような無数の補助魔法をミノリにかけてから出かけたらしく、これによって、万に一つ泥棒やモンスターなどの悪意ある存在がこの家にやってこようともミノリの身の安全は確実に保証される。


……そもそもこの森自体、家族以外の誰も入る事ができないのでかける意味はあまりないのだが……まぁ念には念をということである。



 ******



 自分以外誰もいない事もあって、しんと静まりかえった家。その室内に設置されたソファに一人腰掛けるミノリ。


「……一人かぁ。考えてみればこの家に住むようになって、ネメとトーイラを保護してからは初めてだったかも、一人になるのは」


 そうミノリは独りちだが、その言葉に言葉を返す者は今この場には誰もおらず、自分の声が響くだけ。


 そして長年暮らしてきたこの家に一人しかいないという環境に慣れていないからなのか、ミノリはつい、いつものように誰かがいる時の動作をそのままおこなってしまう。

 例えば、家の掃除をする際も誰もいない部屋をノックして、戸を開けてから誰もいないことに気づいたり、昼食を作ろうとした際も、つい一人分以上の食材を取ろうとして『あ、そういえば今日は一人だったんだ……』と改めて気づき……一人しかいない事を実感するたびに、ミノリの胸中には寂しいという感情がつのり始めていた。


 過去に一度、ネメとトーイラを保護できなかった場合の夢を見たことがあったミノリは、あの時も寂しさに打ちひしがれていたのだが、あれは夢という名の平行世界での出来事であったし、夢から去る時も自分から分離したもう一人のミノリがその後を引き継いでがんばると約束してくれた。

 その為、ミノリとしてはその夢を見た後では『一人になる』という事に対してあまり現実味が湧かなかったのだが……今まさにミノリはその事を実感し始め、昼食を食べ終えて片付けまで済んだ頃にはその湧き立つ不安な感情が大きくなりすぎた結果、いつしか居間のソファーにミノリはうずくまってしまった。


「……みんな、いつ帰ってくるんだろ……」


 無意識のうちに、そう口走ってしまったミノリだったがまだ誰も帰ってくる気配は無い。


「……早く帰ってきて欲しいな……」


 再びミノリがそうつぶやき、みんなが帰ってくるのを待ち続けたのだが……トーイラたちもネメたちも帰ってくるのに時間がかかってしまったのか日がすっかり落ちて、夕飯の時間になっても帰ってこなかった。



「……」



 部屋の灯りもつけず、ずっとソファーに座り込んだままのミノリ。


「そっか……考えてみれば今は一緒に住んでいるネメたちだっていつかは独立してこの家から出ていくかもしれないし……トーイラやリラたちだって同じように独り立ちする事も考えられるからこの家には私だけしかいなくなるなんてことも十分あるんだよね……」


 今から6年ぐらい前に、いつかはトーイラやネメも独り立ちしてこの家を出て行くのかな、なんて思ったことはあったがいざそれが現実になる事を考えた途端、ミノリは寂しさが自身への大きなストレスになってしまったのかその場から動けなくなってしまっていたのだ。


「それに部屋の灯りや、貯蔵庫とかお風呂みたいな役立つ生活魔法をみんなが代わりに使ってくれているからなんとかなっているけど、魔法が使えない私一人では、みんなが出て行った後だとどれもそのうちどれも使えなくなるんだね……。なんだ、私も人の事言えないや」


 ミノリは娘たちが自分に依存しすぎている、だなんて思っていたのだが、その実ミノリの方も娘たちに依存していたことにここでようやく気がついてしまった。


「……」


 気づけばミノリは、1年ぐらい前に娘たちが自分の髪を使って作ったミノリ人形をかき集めてきたかと思うと、それらをかたわらに置き、再びソファーにうずくまってしまった。


 人形にすがってしまいたくなる程に寂しさを大きくなりすぎ、なんとか気を紛らわせたかったのだ。



「……みんな、早く帰ってきてほしいな……。やっぱり私、一人じゃ寂しいよ……」



 ******



──それから10分ほど経った頃だろうか。



「ママ、ただいまー、ごめんね遅くなっt……どうしたのママ、灯りもつけないで!?」

「かーさま、なんでうずくまってるの……?」


「おかあさん……どしたの?」

「お姉様、なにがあったんですか!?」

「おばーちゃん、どこか痛いの!?」


 部屋の灯りをつけないままミノリがうずくまりつづけていると、トーイラとリラ、そしてネメたち母娘おやこが同時に帰ってきたらしく、灯りのついていない部屋で蹲るミノリを見つけて慌てた様子でミノリの元へ駆け寄った。


「あ、みんなおかえり。……いや、ちょっと情けない話しなんだけどみんなの帰りが遅かったからつい変な方に考えが及んじゃって……ね。

 いつか、みんながこの家を出て行って、私一人だけになるんだろうなぁ……なんて思っちゃったら寂しくなって動けなくなって。

 少しでも寂しさを紛らわそうとこうして人形を周りに置いたりしてさ……なんだかこの人形が近くにあると不思議とみんなが近くにいる感じがしてそれでなんとか我慢できたんだけど……ダメだなぁ私……。

 もう十何年もみんなの母親やってるから芯は強くなっていると思っていたんだけど……根はやっぱり寂しがりの弱虫で」


 とても弱気そうに笑うミノリ。


「「「「「……」」」」」


 そんな寂しそうな顔をしたミノリを見たあとで、お互いの顔を見ながら何か以心伝心するかのようにめくばせをしたネメ、トーイラ、リラ、シャル、ノゾミの5人。


 そして……。


「よし、おかあさん。今日は私、おかあさんと寝る。シャルもそれでいい?」

「もちろんですネメお嬢様。今日はめいっぱいお姉様を甘やかしましょう!」


「私たちもママと一緒だよ。ね、リラ」

「うん、かーさまに寂しい思いなんて絶対させない」


「ノゾもおばーちゃんと一緒!!」



「みんな……うん、ありがとう」


 この日は、家族みんながミノリを囲むようにして一緒の部屋で眠ることになったのであった。……こんなに家族みんなに想われていて、ミノリは本当に幸せ者だ。



 ちなみにだが、いつかこの家をいつかみんな出て行くかと尋ねたら全員「とんでもない」と言わんばかりの顔で次々に反論したそうな。だからこれからもミノリさんがひとりぼっちになる事は無いのは確実で……よかったねミノリさん。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] えーっと? >……何だか命の危機が及びそうな赴きそうな会話 ちょっと「…?」ってなったのですがどうなんでしょう
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