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166. 16年と5ヶ月目④ クロムカに会わせるあの人。

「それじゃクロムカさんとザルソバさん、一つ聞きたいことがあるんだけど……」

「は、はいですのミノリさま」

「うん、なんだい?」


 ネメとシャルの2人が家へ戻る為に森の方へ引き返していった後、一人ザルソバたちの住む小屋に残ったミノリはザルソバたちに、キテタイハへ2人で出かけることはあるか、その際クロムカの格好はどうしているのかを尋ねることにした。


「おそらく2人はキテタイハに買い物に行く時、一緒に行く事が多いんですよね?」

「はい、そうですの。というより出かける時は常にザルソバさまと一緒ですの」

「あぁ、クロムカが今言ったように町へ行く時は基本的にクロムカを同伴させているが……それがどうかしたのかい?」


「えっと、その時ってクロムカさんはフードつきのローブで顔を隠したまま……ですよね?」

「そうですの。……前にモンスターだと間違われて以来、ワタシ、人前に顔を出すのが怖くて……」

「私はそのクロムカの気持ちを尊重して顔を誰にも見られないように極力配慮しているよ」


 やはりクロムカは町の中に入る時はフードで顔を隠したままらしい。


 確かにそうする事が現時点では最も危険が及ぶ可能性が少ないのは間違いないのだが、絶対に安全だと言えないのが現状だ。


 たとえばクロムカがキテタイハで買い物をしている際に、強風か何かによってフードが外れて素顔が露わになってしまった場合、クロムカはその瞬間、その命が危険にさらされてしまう可能性が一気に跳ね上がる。それでも同伴しているザルソバが急いでクロムカを連れて逃げ出したりすればいいのだが、如何せんザルソバは世界を救った英雄として知られている存在だ。モンスターと思われているクロムカと一緒にいて何故討伐しないのかと疑われ、最悪ザルソバはお尋ね者になってしまう可能性がある。


 その為ミノリは、そういった危険を事前に排除するべく、2人にある事を提案することにした。そしてその提案はこのあたりで変にあがめられているミノリだからこそできる方法である。


「うん……やっぱり、キテタイハに行ってあそこの町長と話をつけておいた方がよさそうかな。2人ともこれから時間ある? 時間があるならちょっとキテタイハの町長のところまで一緒に来てほしいんだけど……」


「町長のところですの……?」

「ミノリさん、一体何をするつもりだい? まさか、力で脅したりなんてことは……」


 ミノリと町長の関係をよく知らない2人は一体ミノリが何をするのか少し不安に思ってしまったようだがそれは杞憂きゆうである。


 むしろ精神的にダメージを受けるのはミノリの方なのだから。


「それは絶対に無いから安心して。町長に話を通してクロムカさんの事を勘違いで攻撃しないようにしてもらうだけだから。

 そうすればクロムカさんはもう町の中でフードが脱げたとしても襲われることは無くなるし、それどころかフードで顔を隠す必要すら無くなるよ。

 それぐらい私、あそこの町長に顔が利くからね。……かみさまみたいなあつかいうけてるからねあははは……そこはほんっとうにかんべんしてほしいんだけどなー、いやほんとにさぁ……」


 自分のことを神様と呼ぶのに抵抗が少し……イヤ、結構あって……それも違って抵抗がありまくって仕方ないミノリが自分でそれを口にした途端、何故か自分の目がうつろになったような感覚に陥りながらもなんとかそれを伝えると、2人は驚いたように目を丸くしながらミノリの顔を見つめた。


「ほ、本当ですの? そうしてもらえるととてもありがたいのですけど……いいんですの?」

「構わないよクロムカさん。今はザルソバさんの元で暮らしているけど、私はあなたの事も家族の一員として見なしていたんだから。一緒にいたのはほんの少しだけだったけれど私は家族と見なして守ると決めたら二度とその言葉を覆したりしないよ。

 ザルソバさんはどうです? 私としてはそうした方が良いと思うんですけど……」


「あぁ、それは私としても願ったり叶ったりで、喜んでお願いしたいのだが……本当にいいのかい? なんだか表情が死んだ魚みたいになっているのだが……」


「あはは……大丈夫大丈夫、あの町長さんに会う時は基本こうなるだけだから……はぁ……」


 本音で言えば、自分の中の何かが思い切り摩耗する感覚になるので、できることならハタメ・イーワックにはなるべくなら会いたくないミノリだったが、家族と見なした者の為なら自分の身を犠牲にしてでも守りたいと考えるのがミノリだ。


 だからこそミノリは『ある意味自分を生贄のように扱ってでもクロムカの事をなんとかしてあげたい』と考え、こうしてハタメ・イーワックに会わせる事を決意したのだ。それがため息をつく程イヤなことであっても。


 そしてミノリは2人の了解を受けると、そのまま2人を連れてキテタイハへ向かうことにしたのであった。



 ******



「クロムカがおびえずに町の中を行き来できるようになれば、こちらとしても本当に助かるよ。ありがとうミノリさん」

「いえいえ、私は自分ができることをしただけですから」


 キテタイハの町へ3人で向かう最中、改めてザルソバにお礼を述べられたミノリ。しかしミノリにとってはこれが当たり前のことだったので、ちょっと照れくさい。


「ともかく、これで今後はクロムカさんも買い物に来やすくなりますよ。……本当はもっと早めにするべきだったんだけど……」

「それは仕方ないさ、ミノリさんだって一家の大黒柱として忙しい日々を送っているのだから。こうしてクロムカの事まで気にかけてもらえるだけでもこちらとしてはありがたいんだ」

「そうですか……ところで」


クロムカに聞かれないように小声で話すミノリ。


 ちなみにクロムカは現在ミノリ達の後方を歩いているので、耳を澄ませればその声は聞こえるのかもしれなかったが……そのクロムカは町へ行くことに緊張しているのか先程からブツブツと『人に会うの怖い怖いでもここでがんばらないとワタシもうモンスターに間違われて攻撃されるのイヤですのだけどやっぱり怖い怖いですの』などと止めどなくつぶやき続けていたので、おそらくミノリ達の声は聞こえていないだろうとミノリは判断していた。


「ザルソバさんは、クロムカさんがモンスター化してしまっている事、本人にはもう告げていますか……?」

「いや、実はまだ……いつかは言わなくてはいけないと思っているんだが……」


 ミノリがクロムカに言えなかったように、ザルソバもそれを言うのがはばかられていたようでまだそれを告げていなかったらしい。


「実はさっきシャルからそれを言われて私も考えたんですが……その事を伝えられるのはザルソバさんしかいないと思ったんです。

 多かれ少なかれクロムカさんがショックを受けるのは間違いなくて、その時クロムカさんの事を支えてあげられるのは、クロムカさんが心から信頼を寄せているザルソバさんにしかできないと思いましたから……」


「そうだな……うん、確かにシャルさんやミノリさんの言う通りだ。なるべく早めに言うよう心がけるよ」

「はい、私たちもなるべくフォローするようにします」


「すまない、ミノリさん助かるよ……ところで、私も一つミノリさんに聞きたいのだが……」

「へ? なんでしょう?」


 シャルに指摘された、いつクロムカにモンスター化してしまった事について伝えるのか、そして伝えるのは早めにした方がいい事をミノリが伝え、ザルソバもそれに頷くと今度はザルソバの方から何かミノリに尋ねたいことがあったようだ。


「今日、ミノリさんが町長のもとをおとなうことは事前に伝えてあるのかい? なんとなく唐突に決めたような気もするんだが……」


 おそらく、突然の訪問だと不在だったり、追い返されたりする可能性を懸念したのだろう。しかしそれについては全く問題が無い。何故なら……。


「いやぁさ……なんでだか知らないけど、私が近づいただけでその気配に感づくのか事前に準備してたり出迎えたりするんだよね……多分もう何かしらしているはず。

 むしろ私の方があのおばあさんが一体どうやって私たちの動向を把握してるのか微塵もわからなくて、恐怖を感じるんだ……」


 それはハタメ・イーワックが最狂クラスの臍神ミノリ狂信者だからである。


「そ、そうなのか……」


 これには思わずザルソバも顔を引きつらせながら苦笑いしてしまったが、そんな会話をしているうちにミノリ達はいつの間にか町の入り口と目と鼻の先の位置まで来ていた。



 果たして今回は一体どういう結果になるのか。


 既に気づかれて何かしらの準備をしているのか、それとも奇跡的な確率でまだ気づかれていないのか!



 次回、明らかに!



「まあ結果は見えているんだけどね!! だってなんか横断幕みたいなのがチラッと見えたし!! 『歓迎臍神様!』って書いてるのも読めたし!!」

「ミ、ミノリさん?!」

「と、突然どうしたんですのミノリさま……?」


 ……ミノリは近くにザルソバとクロムカがいるにも関わらず、誰にともなくそう叫んでいた。


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