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161. 16年と3ヶ月目 好き嫌い。

「おかあさん、同じ母という立場として私の相談に乗って欲しい」

「ん、どうしたのネメ?」


 間もなく夕食になろうかという頃合い。本日の夕食当番であるミノリが夕飯の準備をしていると困った顔をしたネメがミノリの元へやってきた。


「実はノゾミのことなんだけど……好き嫌いが激しいのをなんとかしたい」

「好き嫌い? あー……そういえばノゾミはよくごはんを残すよね。アレルギー……えっと、特定の食べ物を食べると身体に異常が起きる、みたいな事はなかったよね? 蕁麻疹じんましんが出たり、呼吸できなくなったりみたいな……」

「無いはず。どの料理も最初の一回だけは普通に食べてたから単に好き嫌いだと思う」


 まだ手をつけていない段階で誰かがその料理を残した時、代わりにミノリや他の家族が食べるようにしていたし、今まで誰も殆ど残さずに食べていたのであまり気にしていなかったが、ネメが指摘したように確かにノゾミも一緒に同じ食事を摂るようになってからよく料理を残していた。

 あまり目新しい食材を使うことも無く、どれも一度はノゾミも食べたことがあるのでネメが言うように確かに好き嫌いで間違いない。


「リラは種族の特性上、血以外の赤い飲み物が飲めないから仕方ないけど、ノゾミの残しっぷりはただの好き嫌いだからちょっと問題」

「うーん……言われてみれば確かにね。料理を作ってる方としても残されるとちょっと哀しいし」


 リラは吸血鬼なのでにんにくが食べられないと普通は思われそうだが、意外とにんにくはお好みのようでそれを使った料理も問題なく平らげられるのだが、逆に血以外の赤い液体を飲むことができなかった。


 創作物ではよく吸血鬼が血を飲めない時、トマトジュースを代用品にするとえがかれている事があるのだが、この世界の吸血鬼は血と同じ赤い色の液体は似て非なる物として忌避きひするきらいがあるようで、口にすることすらしようとしない。


 一応、野菜や果物などからにじみ出たような少量の汁ぐらいなら問題ないのだが、それらを集めて一つにしたような……それこそトマトジュースのたぐいをリラが口に含んでしまうと、それだけでリラの体は拒絶反応を起こし、すぐに具合が悪くなってしまうそうで、ミノリ達もこれは種族上仕方ない事だと判断してリラにはそういったものは飲ませないように決めていたのだ。


 その姿を見たノゾミは変に悪知恵を働かせて、食べたくない料理には手をつけないようにしたと思われるが、これは確かにただ単にノゾミのわがままである。


「それでおかあさんの知恵を借りて、なんとかノゾミの好き嫌いを無くしたい。……どうすればいいと思う?」

「んー……。あ、そうだ。ちょっと私に考えがあるから任せてもらっていいい?」

「おかあさんに策あり? ならば一任」



 こうして、ミノリによる、ノゾミの好き嫌い克服作戦が始まったのであった。



 *****



──そしてその日の夕食……。


「ごちそうさまー!!」


 ミノリが食事の前と後に『いただきます』と『ごちそうさま』を言うのが当たり前だったため、オンヅカ家の面々にもその習慣が浸透しきっている本日の夕食時、ものすごい早さで離乳食まで卒業し幼児食に突入済みだった生後1歳3ヶ月のノゾミは、今日の夕飯を食べ終えたのだが……目の前には一切、手をつけなかった野菜料理や魚料理が。


 また今日もノゾミは嫌いな食べ物を残そうとしたようだ。


(あー、ノゾミってばまた料理を残しちゃって……作戦実行という事でいいねネメ?)

I COPY(あいこぴ)


 アイコンタクトで会話をするミノリとネメ。ちなみに今日ノゾミがご飯を残した場合、ミノリが何かをすることについてはノゾミ以外の家族全員には説明済みであり、何も知らないのはノゾミだけだ。


「ノゾミー。まだお魚と野菜が残ってるよ?」

「えー、それいらなーい」


 席を立とうとしたノゾミに対してミノリが指摘すると、眉間に皺を寄せて食べたくないアピールをするかのようにノゾミは首を横に振った。

 これはこれで子供らしいかわいい反応ではあるのだが、今だけはミノリも心を鬼にしなければならない。


「そっかー。それじゃこんなにご飯を残すノゾミは忍者には絶対になれないねー。あーあ、おばーちゃん残念だなぁーノゾミが忍者になって活躍するところ見たかったんだけどなー」


「!!? どういうことなのおばーちゃん!! なんでノゾ忍者になれないの!?」


 ノゾミの脳内ホットワードランキング不動の1位である『忍者』。ノゾミは将来忍者になりたいと思っているからこそ不動の地位を得ていたのだが、忍者についてあれこれ教えてくれたミノリからまさかのダメ出しを食らい、ノゾミは思わずテーブルに身を乗り出してその理由をミノリに尋ねた。


「えー、だってノゾミってば好き嫌いばっかりしてるでしょ。それじゃ無理だよ」

「……好き嫌いするとなんでだめなの……?」


「まず忍者になりたいのなら嫌いなものでも食べなきゃダメなんだよ。忍者は誰にも気づかれないようにこっそり活動するから、朝昼晩関係ないし、そうするとご飯はいつ食べられるかわからない。

 それこそとりあえずお腹が膨れて短時間でたべられる携帯しやすい物になっちゃうわけだから味は二の次で、最悪何日も食べられないことだってあるんだよ。それなのに今から好き嫌いばっかりしちゃうようでは、ノゾミは絶対に忍者にはなれないね。あー残念、ノゾミがかっこいい忍者になるの見たかったんだけどなー」

「……」


 自分はこのままじゃ忍者になれない、その現実を突きつけられたノゾミは黙ったまま瞳にうっすらと涙を浮かべながら残された料理を見つめている。


 忍者の食はある意味『腹に入れば皆同じ精神』である。流石にそれを1歳になったばかりのノゾミに実行させようとはミノリも思ってはいないのだが、とりあえず今のミノリの話を聞いて、少しでも好き嫌いが改善されればとミノリは考えたが……ミノリの言葉に耳を傾けていた他の家族もノゾミがどう反応するか固唾を呑んで見守る中、ノゾミは意を決したのか手つかずだった料理にはしをつけ始めた。


(よかった、ちゃんと食べてくれて……)


 ゆっくりと、残していた少しずつ料理を口に運ぶノゾミ。その姿を見たミノリはホッと胸をなで下ろした。


「最初は無理しなくても良いよ。少しずつ食べられるようになっていけばいいからね」

「……ううん、ノゾ、がんばって食べる。それで一番の魔法忍者戦士ペット使い武闘家になる」


 どうやらノゾミが心の決めていた忍者になる夢は、結果的に苦手を克服する良いきっかけとなったようだ。しかしそれにしても……。


(……何だかまた新たな要素増えてない? なに、ペット使い武闘家って……?)


 ノゾミの思い描く将来の方向性がどんどん変な方向へ進んでいく事に、ほんの少し不安になったミノリだったが、それはともかくこうして苦手なものを頑張って食べるノゾミの姿を家族とともに温かく見守っていたのであった……が。


「……」


 家族の中でただ一人、リラは何か想い悩んでいるかのように終始(うつむ)いているのにトーイラが気づいて、声をかけた。


「リラ、どうしたの?」

「あ、トーイラおねーちゃん……えっと……トーイラおねーちゃんも、好き嫌い無くなんでも食べる子が好き……?」

「え? うーん……まぁちゃんと食べてくれた方が嬉しいかなって思うかな?」

「そっか……やっぱりちゃんと食べた方がトーイラおねーちゃんも嬉しいんだ……」


 リラからの問いに答えたトーイラの言葉を反芻はんすうするかのように繰り返し自分に言い聞かせていたリラだったが、やがて、何かを決心したかのように顔を上げた。


「かーさま、あたしにも赤い飲み物ちょうだい。ノゾミちゃんが頑張って好き嫌い克服しようとしているのにあたしも負けていられない……」

「いや待ってリラは無理しないで!? リラは種族柄仕方のない事なんだよ!?」

「出してくれないならあたしが取りに行く」


 どうやらリラは、まだ1歳のノゾミがこうして好き嫌いを克服しようと奮闘しているのに、12歳の自分がそれをできないままでいるのは想い人であるトーイラに悪い印象を持たれてしまうと考えてしまったようだ。

 そして、ミノリが自分で飲む為に保存していた赤い果物のジュースを出し渋っているとそれなら自分で取りに行くと貯蔵庫の方へと向かおうとしたので、家族総出でリラを止めようと説得したもののリラの意思は固く、結局ミノリ達の方が折れてしまった。


「それじゃリラ……まずは一口だけ……絶対に無理しちゃダメだからね?」

「うん、わかってるかーさま。あたし、頑張って克服する」


 ミノリから赤いジュースが入ったコップを手渡されたリラは、意を決してそれを口に含んだ。しかしやはりリラは種族上ダメだったのが一目瞭然いちもくりょうぜんで、口に含んだ途端リラは顔を真っ青させてその場にうずくまってしまった。


「だから言ったでしょ……リラは仕方ないんだよ」

「うー……でもだって……」

「そんな事でトーイラはあなたのことを嫌いになったりしないから安心して。ね、トーイラ」

「うん、そんな事でリラを嫌いになったりしないし、そういった所も含めて私の好きなリラだよ」

「トーイラおねーちゃん……。ごめんかーさま、みんな。あたし、ちょっと焦っちゃってた」


 そんなちょっとしたリラの騒動はあったが、ノゾミはその日を境に嫌いだった料理もきちんと食べているうちにそれらの美味しさに気づいたようで、あんなにあった好き嫌いが無くなりなんでも食べられるようになったのであった。



 そして今日の昼食の時も……。


「ノゾミってば魚の骨や貝の殻まで食べちゃったの!? それは無理して食べなくてもいい……というよりニワトリじゃないから貝の穀は食べない方がいいよ!?」

「え? そうなの? でもノゾの歯丈夫だからガリガリガキガキガチガチ食べられたよ?」

「それ明らかに食べ物を食べる時に出る音じゃないよね!?」



……若干、ミノリとネメが目指していたものとは違う方向に着地してしまったようだが……まぁ歯が丈夫なのはいい事なのだろう、多分……。



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