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158. 16年と1ヶ月目 忍者ごっこ。

 ノゾミが1歳を迎えたその日に起きたクロムカに関連した騒動がひとまず収まり、ノゾミと同月に誕生日のある娘たち3人も誕生日を迎えてネメとトーイラは22歳になり、リラも12歳となった。


 ネメとトーイラは既に成長期を終えた成人である為、これ以上背が伸びたりすることはおそらく無いのだが、リラはまだまだ成長期真っ盛り。

 といっても吸血鬼であるリラは成長の速度が人間と比較するとゆっくりとしたペースではあったが、それでも徐々に女性らしいプロポーションになりはじめていて、保護したばかりの頃に着ていた服はすっかりサイズが合わなくなっていた。


「うん、リラもちゃんと大きくなっているね。よしよし……。トーイラとネメの時と同じように、リラの事も16歳になるまではちゃんと保護者という立場で私も頑張らなくっちゃ」


 そう口にしながら『着られなくなった服は好きに使っていい』とリラが言ってくれた古着を見つめて、それらを雑巾やタオルにしようとしていたミノリの目の前では、そのリラが先程からトーイラに腕をからませ、まるで恋人つなぎのような状態でピッタリとトーイラにくっついていた。


「リラってば、さっきからどうしたの私にくっついて?」

「えへへー……トーイラおねーちゃんと一緒にいたいんだもの」


 トーイラと恋人になりたいリラが12歳なりにどうやったらトーイラとそういう関係になれるか考えた結果、ほんの少しだけ小悪魔になろうと考えたようで、最近ではこのようにトーイラを誘惑しようとあれこれ画策して行動に移しているのだ。

 また、リラは少しでもトーイラと同じようになりたいという憧れも持っているようで、髪型もトーイラと同じような二つ結びにしてさりげなくそれをアピールしている。


 その作戦が功を奏したのか、トーイラの中ではリラの事が最近では『かわいい妹』から『妹の枠を越えた気になる存在』と意識が徐々に変化してきているのが第三者であるミノリにも感じられ、その上、先程からリラがトーイラの腕に抱きつきながら小さな胸の膨らみを腕に押し当てていることもあって、トーイラは顔をほんのり火照ほてらせていた。


「と、ご、ごめんねリラ。私ちょっと用事があるからまた後でね」


 まんざらでもないという顔をしたのも束の間、言い訳めいた言葉を口にしながらリラの腕をそっと外したトーイラはどこかへと去っていった。おそらく用事があるというのは建前でこのまま抱きつかれたままでは理性が保てなかったからに違いない。


「むー……。やっぱりトーイラおねーちゃん手強てごわい……」


 一人残され、ぷくっと頬を膨らませるリラ。どうやら今日もまた作戦失敗に終わったようだ。

 そんなトーイラとリラのくっつきそうでくっつかない、甘酸あまずっぱい青春のような光景を見ていたミノリは、『リラからライバル視されている以上、ミノリも間接的には当事者である』にもかかわらず、『2人がどうくっつくのか楽しみ』という明らかに野次馬めいた気持ちになっていると、自分の服をくいくいひっぱる小さな存在にミノリは気がついた。


「おばーちゃんおばーちゃん!」

「あれ、お昼寝はもういいのノゾミ?」

「うん! ノゾ、もういっぱい寝た!」


 小さな存在の正体はノゾミで、1歳児らしく先程までお昼寝をしていたノゾミは目覚めると同時にミノリの元へとやってきたらしい。先日のクロムカの件からすっかり立ち直り今では以前と同じように元気が爆発状態だ。


「いっぱい寝たからノゾ遊びたい! おばーちゃん遊んで!」

「うん、いいよ。何して遊ぼっか?」


 ちなみにネメとシャルは買い出しに出かけていて今は不在。午前中にリラからノゾミに読み聞かせをしてもらい済みで、トーイラはどこかへ逃げてしまった。

 一日に連続して同じ相手に遊んでもらうことを避けているらしい事を踏まえるとノゾミに残されていた遊ぶ相手の選択肢はミノリだけだった為、ミノリはそのお願いを承諾してノゾミと一緒に遊ぶ事にした。


「えっとね、忍者ごっこやりたいから忍者が使うような技を教えて!」

「忍者の技……っていうと忍術とかかな?」

「うん! ノゾ、ドロンってする技とか大きなカエルに乗る術とかいっぱい使いたい!」


 ミノリが以前うっかり呟いてしまった事がきっかけですっかり忍者に大ハマりしてしまったノゾミは、時折こうしてミノリに忍者についてあれこれ尋ねるようになっていたのだが、ミノリの記憶には既に話せるような忍者ネタが底をいてしまったため、今度は忍者が使う忍術について知りたくなったようだ。


「そういえば前に忍者についてはあれこれ教えたけれど忍術については名前とかだけで詳しくは説明してなかったね。ほぼ想像になっちゃうけどそれでもいいの?」

「うん!! おばーちゃんがどんな忍術見せてくれるのかとっても楽しみ!」


「え!? どんな技か説明するんじゃなくて実演も必要なの!?」

もちろん(もち)!」


「そ、そっかぁ……うん、それじゃがんばる……お外行こっか……」


 まさか実演まですることになるとは思いもしなかったミノリ。それでもノゾミの期待にはなるべく応えてあげたいという思いからミノリはノゾミを連れて外へ出た。



 *****



「おばーちゃんそれじゃ忍術見せて!!」


 外へ出るなり、早速忍術を披露してくれるようミノリにねだり始めたノゾミ。

一体どんな忍術を見せてくれるのだろうというノゾミの期待の眼差しがミノリに注がれているが、当のミノリはこの期待の眼差しに応えられる気が全くせず、内心困惑しきりだった。


 なにせミノリが知っていて、そしてすぐに使える技はとっても地味なのだから。


「とりあえず私が知っていてすぐにできるのは『狸退たぬきのき』ぐらい……かなぁ。とても地味だよ?」

「いいから見せて!」

「うーん……それじゃあいくよ? ノゾミはそこに立ったままで見ていてね」


 渋々承諾したミノリはノゾミの前を軽く走り始めると、突然地面に丸まるようにしゃがみ込んだ。


「こう……例えばノゾミが私の事を追いかけているときに……ワタシがあと少しでノゾミに捕まりそうだって思ったその瞬間に……地面に伏せる。そうするとノゾミは私につまづいて転ぶからその間に私は起き上がって急いで逃げる。これが『狸退たぬきのき』だよ」

「あははは!! すごい地味!!」


 最初に地味だと断っておくという保険をミノリは作った上で忍術を披露したが、やはりノゾミにとって相当地味だったようだ。


 しかしそれが逆にそれがツボにはまったらしくノゾミは大笑いしている。


「面白いと思ってもらえたならそれはそれでよかったけど……忍術ってのは基本的に地味なものなんだよ。忍者というのは基本的に諜報活動が主だから目立ったことはまず出来ないし」

「えっ!? それじゃ派手な技は!? おっきなカエルに乗ったり、水の上を歩いたり、空を布で飛んだり、ドロンって消えたりとかは?!」


 どうやらノゾミは創作物の忍者が使うような派手な技を使いたいようだ。


「……そういえばドロンって消える技ってそもそも何の意味があるんだろう。転移? 透明化の術? ……まぁ今はいいか。えっと、少なくとも私にはそういった技を使うのは無理だけどノゾミには魔力があるんだよね? まだノゾミは魔法を使えないみたいだけど、今よりも大きくなった時にノゾミは自分の魔力を応用してそういった忍術を使えるようになるかもしれないよ」


「そっかぁ……うん、わかったおばーちゃん! ノゾ頑張って魔力で忍術を使えるようになって、おっきくなったら夢の魔法戦士忍者ペット使いになれるようにがんばる!」

「あはは……まぁがんばってね。……なんか増えてるし」


 瞳に『絶対に忍者になってみせるという強い意志』が込められたノゾミ。既に大人顔負けの身体能力と魔力を有するノゾミなら本当にこのまま魔法戦士忍者になってしまいそうだ。そして突然『ペット使い』という謎の言葉まで加わっていたが……ミノリはひとまずスルーする事にした。


「あ、おばーちゃん。そういえば手裏剣やクナイは? 忍者ってそういった武器使うんだよね? ノゾ使いたい!!」

「手裏剣かぁ……あ、そうだ。それだったら私がいいもの作ってあげるよ。だから一旦家に入ろうか」



 ******



「おばーちゃん何作ってるの?」


 家の中へミノリ達が再び戻ってくると、ミノリは早速とばかりに先程から紙を折って何かを作りはじめた。


「んーと、ちょっと待ってね、もう少しで出来るから……よし完成。はい、手裏剣だよ。といっても紙製だから本物じゃ無いんだけどね」

「手裏剣!!」


 ミノリは作ったばかりの折り紙手裏剣を早速ノゾミに手渡すと、ノゾミは瞳を輝かせて何度もひっくり返したりしながら手裏剣を眺めている。


「わぁこれが手裏剣!? どうやって投げるのおばーちゃん?」

「えっと、こうして投げるんだよ。えいっ」

「わぁ!!! かっこいい! ノゾもやる!!」


 その後、ミノリを真似して折り紙手裏剣を何度も投げて遊ぶノゾミだったが、20回ほど投げては拾ってを繰り返したノゾミは満足げな顔をしながら折り紙の手裏剣をいそいそと自分のポケットに忍ばせた。


「あれ、手裏剣はもういいの?」

「うん! 今度はクーちゃんとザルちゃんのとこに遊びに行きたい! おばーちゃん連れてって!」

「あはは……うん、いいよ。それじゃ行こうか」

「わーい!!」


 驚くほどの変わり身の早さである。口を開けばいっぱいしゃべれるほどに頭も良く、身体能力も常人以上だけれどノゾミはまだ1歳。その歳ならこれぐらい自由奔放でいいのだ。


 そしてノゾミはクロムカの元へ訪ねるようになってから、ザルソバのことを『ザルちゃん』と呼ぶようになっていた。何故いきなり親密そうに呼ぶようになったのかミノリは以前ノゾミに尋ねてみたところ「2人が一緒に揃っているとノゾと波長がびっくりするぐらい合うの!」だとか。


 どういう原理なのかは魔力が見えない上そもそも魔力自体が無いミノリにはわからないが……こうもクロムカたちの元へ頻繁に行きたがると祖母としては内心ちょっとくやしかったりするのだが……。


(あぁなるほど。シャルが感じていた寂しい気持ちってこれかぁ……)


 ほんのちょっとだけシャルの気持ちがわかったような気がしたミノリは、少し湧き出たその寂しい気持ちを抑えながら、ノゾミを連れてクロムカたちに会いに森の外にある小屋へと歩き出したのであった。

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