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147. 11年目のある日⑦ 旅の終わりと……。

「うん、ひとまず顔を上げて、光の使い。私たちもう怒ってないから」

「許す、しかし忘れない」

「ありがとうございますありがとうございます……」


 地面に座り込んだラリルレのかたわらにしゃがんで彼女の背中をさする娘たち。


 光の使いが『ラリルレ』という名前である事がわかってもトーイラは『光の使い』と呼び、ネメが『忘れない』と口にしているのは、おそらく許しはするけど一線は引きたいという心情の現れでこれが娘たちにとって最大限の譲歩なのだろう。

 それでもラリルレの事を許した事こそ『2人が成長した証』に違いないと確信したミノリはその事を一人感慨深く思いながらその光景を眺めていたのだが、実はミノリが聞こえないほどの小声でこっそりとラリルレに対してトーイラとネメが言葉を投げていた事をミノリは知らない。


 それでは一体どんな言葉を投げかけていたのかというと……。


「だけど私たちに迷惑をかけたのは事実なわけだから……私たちがびだしたらすぐにかけつけてくれるかなー? そういった技ぐらい使えるんでしょ? 私たち、それを光の使いの反省の意として受け止めるから」

「今度何かしようものならその時は」

「は、はいいいい!!! それはもちろん!!! お二人に喚びだされましたらすぐに参上しますしもう二度と刃向かいませんので!!」


 ……ちなみにこの時のトーイラとネメが知るすべは当然無いのだが、すぐに参上するなどとほざくこの光の使いことラリルレはこの数年後、光の祝福を授かる為にび出したトーイラの顔を見た途端、血相を変えて全速力で逃げ出してしまうわけだがこうして隠れ住んでいる場所がバレてしまっている以上……まぁ、その、つまり……ラリルレご愁傷様である。


 それは兎も角、そんな会話をしているとはつゆにも思わないまま、ぱっと見で和解したかのように肩を並べる3人の姿を温かく見守っていたミノリだったが、近くで同じようにニコニコしているタガメリアについて一つ気になる事を思い出し、尋ねる事にした。


「そういえば、タガメリアさんはカツマリカウモの入り口近くにある宿の従業員さんのお姉さん……という事でいいんですか?」

「あれ~、もしかしてメーイちゃんに会ったんですかー?」

「あ、あの人メーイさんって言うのか……はい、昨日その宿屋に泊まったんですよ」

「そうだったんですかぁ。あの子巻き込まれ体質なのか頻繁にトラブルに巻き込まれちゃうので心配していたんですけど、少なくとも昨日は何もトラブル起きなかったんですねぇ~」

「いや巻き込まれてましたけど……」


 どうやらタガメリアはカツマリカウモの宿屋従業員さんの姉で間違いなかったようだ。しかしそれにしてもあまり似てない姉妹だなぁなどとミノリが内心思っていると……。


「ところでー、私も褐色エルフ耳さんのあなたにお聞きしたい事があるんですけど~」

「へ? ……私?」


 それ以上特に話題が無いと思っていたミノリに反して、今度はタガメリアがミノリに尋ねたいことがあると言葉を返してきた。初対面であるのに一体ミノリに何をタガメリアは聞きたいのか見当もつかず、若干緊張しかけたミノリに対してタガメリアが投げかけてきたのは思いもよらない言葉であった。


「……もしかしてあなた~……『褐色耳長臍出し女神様』って呼ばれていたりしますか~?」

「!?!?」


 予想外の語句が出てきた事で思わずその場で飛び跳ねてしまったミノリ。


「なななな、なんでタガメリアさんがその言葉知っているんですか!? キテタイハで一部の血迷った人しか言ってない言葉ですよね!?」

「あー、やっぱりあなたが褐色耳長臍出し女神様でしたか~。えぇっとー、私の母がキテタイハの町に住んでいてー、手紙によく書いてあるんですよ~褐色耳長臍出し女神様って」

「!!!?!? 母!? もしかしてあの人!? 知らないうちにどんどん不本意な呼び名が広がっていく……つらい……」


 突然の女神呼ばわりに精神的ににダメージを受けてしまったかのごとく脱力してその場に涙目になりながら膝をついてしまったミノリ。

 せいぜいあの老婆一人の戯言たわごとだと思っていたのに、初めて来たワンヘマキアの村にも自分をその名を呼ぶ者がいたのだ。無理も無い。


「マ、ママ……大丈夫?」

「おかあさん、無理しないでもう旅行切り上げて帰ろう。あとはカツマリカウモで心癒し」


 いきなり崩れ落ちたミノリを心配するように駆け寄ってきた心優しき娘たち。


 ちなみにこの時のミノリはまだあの老婆の本名がハタメ・イーワックである事を知らないのだが、そこから推測すると目の前にいるタガメリアも苗字がイーワックであり、彼女のフルネームはタガメリア・イーワックであると考えられる。

 一見、ハタメ・イーワックのようなゴロ遊び的な要素は無さそうに見える彼女の名前だが、彼女の名前が意味するものは、この後すぐに判明する事になる。


「う……うん。そ、そうだね。2人ともワンヘマキアをそれなりに楽しんだみたいだし……それじゃ馬車の時間まであっちで過ごそうか」

「はーいママ」

「帰るまでが旅行。最後まで身の引き締めは肝心」


 その場に座り込んでしまったミノリが娘たちに促されて立ち上がり、そのまま帰路につこうとしたその時だった。


「あ~、もうお帰りになるんですかぁ、臍神様また来てくださいね~。

 ……あ、そうそう。村の入り口にいっぱいあった案山子かかしはどうでしたかー? 限界集落の寂しさを紛らわすのとこれでにぎわいを創出できるかなーという安直な一時しのぎ作戦でいっぱい、いーーーーっぱい設置したんですけど楽しかったですかー?」

「あなたの仕業しわざだったのあれ!? 楽しいを通り越して不気味だったよあれは!! 夜だったら絶対来たくないしサービスとしてはかなりありがた迷惑だよ!!?」


──タガメリア・イーワック。彼女の名前をアナグラムすると……お察しの通りである。



 ******



「あー……何だろう、何故か旅行後半になってとても疲れた……早くおうちに帰りたい」

「ママお疲れー、そして本当にありがとう! 私たち、とっても楽しく旅行できたよ!!」

「感謝しかない。流石私たちのおかあさん」

「ん……そっか。私は2人がこうして喜んでくれたならそれだけで満足だよ」


 ワンヘマキアをち、乗合馬車の定刻までカツマリカウモで時間をつぶす事にしたミノリ達がいるのは乗合馬車の中。

 時間にはまだ余裕があるのだが、ワンヘマキアで一気に溜まった心労が原因でミノリがぐったりとしてしまった為、早めに乗車手続きをして先に馬車へと乗り込んでいたのであった。


「それに光の使いの所在という思わぬ収穫があって私に良し」

「ネメってば嬉しそうだねー、私もなんだけどねー。……何かあった時はあの光の使いをみっちり……」

「……トーイラモ ネメモ イイ笑顔ダナー。ヨッポド 旅ガ 楽シカッタンダナー」


 ぐったりするミノリの傍らで楽しそうに会話する娘たち。楽しそうに旅の思い出を語り合っているだけにしか思っていないミノリには、娘たちの笑顔に見え隠れしている黒いオーラなど見えない。

 それらは全てミノリの脳内フィルターによって、とてもかわいらしい笑顔に変換されているので、どす黒いオーラが噴出している状況なんて決して見えないのだ、見えないに決まっている。ミノリはそう自分に言い聞かせた。


 しかしそんな楽しく非常に濃い密度であった家族旅行も後はキテタイハに戻れば終わってしまう。ミノリの胸中にも徐々に寂しさが募り始めてきたが仕方ない。それが旅行というものだから。


「……また今日みたいに、こうして家族みんなで家族旅行にいきたいな」


 ミノリがポツリとつぶやくと、そのつぶやきが耳に入ったトーイラとネメもその言葉に同意するように頷いた。


「うん」

「そんな日がまた来るの、とても楽しみ」


定刻を迎え、余韻を噛みしめるようにゆっくりと動き始めた馬車はカツマリカウモをち、ミノリ達の帰る家があるキテタイハの方角へと速度を上げ始めたのであった。



 ******




「──というわけで、ネメとトーイラと3人で行った家族旅行のお話はこれでおしまい」


 時はミノリが転生してから15年目のある日。孫のノゾミと三女のリラに家族で旅行に行ったことはあるのかと尋ねられたミノリが今から4年前に行った旅行での出来事を今まで2人に話して聞かせていたのだ。

 2人ともおとなしくミノリが話し終えるまで静かに聞いていたのだが、話を終えた途端、ノゾミが頬をぷくーっと膨らませたかと思うとその不満をミノリにぶつけだした。


「むー、ネメママもトーイラおねーちゃんもおばーちゃんもずるい! ノゾも旅行に行きたかった!! なんで誘ってくれなかったの!!」

「いやいやいや!? ノゾミは今のノゾミの年齢と今私が話したのは4年前の話だって事を忘れないでね!? ネメとシャルがまだふうふじゃなかったし恋人にもなってなかった頃の話なんだからノゾミはそもそも生まれてもいなかったでしょ!?」


「なんでノゾ生まれてないの!?」

「え、えー……? なんでって言われても……」


 非常に賢く、体格も4歳ほどになっているノゾミだが、そもそもノゾミはまだ母親であるシャルから授乳している1歳にもなっていない乳児であり、不条理な事で癇癪かんしゃくを起こしてしまうのも年相応で仕方のない事だ。

 そしてそんなノゾミとは対照的にうらやましそうな顔をするもう一人の少女。


「いいなぁ……アタシももっとみんなと早く出会っていたら一緒に家族旅行に行く事ができたのかな……あ、でも羽と角と牙……」


 少し暗い声でそうつぶやいたのは三女で吸血鬼ヴァンパイアのリラだ。


 吸血鬼ヴァンパイアなのに日光に耐性があるどころか日光浴が大好きなリラは、吸血鬼ヴァンパイア最大の弱点である日光を考慮する必要が無いので日中出かける事自体はおそらく問題ない。

 しかしそれ以前にリラには吸血鬼ヴァンパイアの特徴である羽や牙、そして角がある。


 ミノリのおかげで顔パス状態のキテタイハと異なり、他の町では魔物だとバレてしまうとリラは危害を加えられる可能性があるだけでなく、ミノリをはじめとした他の家族にまで被害が及ぶ可能性があるのだ。


 その為、旅行に行くとなった場合、吸血鬼の特徴である羽や角を隠すためにリラはローブとフードを身につけ続けなければならないという制約が課せられてしまう。


「大丈夫だよリラ。まだいつ行くかは決まってないけれど、行く事があればリラも必ず一緒に家族旅行へ連れていくよ。勿論ノゾミもだし、今度はシャルも一緒にね」

「かーさま……本当に? 嬉しいな……」

「やった! ノゾ楽しみ!!」


 ノゾミはともかく、リラはもしかしたら口約束だけで終わるかもと思ってしまったかも知れない。

 しかし叶うはずがないと思っていたミノリも無事に家族旅行へ行く事ができたのだ。だから当然ノゾミとシャル、そしてリラとも一緒に旅行へ行けるに決まっている。

 そう確信しているミノリは、片や控えめに、片や大喜びをする三女と孫それぞれの頭を両手で優しく撫でた。


「さて、まだ何も決めてないけど旅行に行くとしたらリラには事前にローブと帽子買ってあげなくちゃね。羽と角だけはどうしても隠す必要があるからそれらが必須になるけれど、一日中それらをまとってないといけない事を考えるとローブは薄手と厚手の両方必要になってくるね。

 夏にローブは暑くてつらいし、冬に薄手のローブだと今度は逆に寒くて風邪引いちゃうし。あ、勿論ノゾミにも帽子を買ってあげるよ。旅行する時もおしゃれはしたいでしょ?」

「そっか両方必要……気づかなかった。流石かーさま」

「やった! ありがとおばーちゃん!!」


「えへへ、あなたたちが快適に過ごせるように準備をする事こそ、親、そして祖母としての役目だからね」


 余程嬉しかったのかミノリに抱き着きそのまま頬ずりをしだす、まだまだ甘えたがりの三女と孫の頭を再び優しく撫でるミノリ。

 いつ旅行へ行くのかはまだ白紙の段階だけれど、それでもリラとノゾミのその夢が叶う日がくるのはそう遠くない。ミノリは心の底からそう思ったのであった。



「……だけどかーさま、旅行へ行くとしても目的地はどこにするの? 多分次は別のとこにするんだよね? イケイーエウ? ズエクゴジ? それともイムサエゲスやイオトルハ?」

「……それらはどこもやだなぁ……だからそれら以外になるかな……」


 前者2箇所はろくでもない祭りが開かれるとシャルから昔聞いた事があったが為に行きたいという意欲が全く湧かず、後者2箇所はこごえる空の旅確定である。

 娘たちや孫のためなら高所恐怖症のミノリでも我慢して空の旅を受け入れようとは思うのだが、それに加えて『寒い』まで加わると話は別でもう地獄以外のなにものでもない為、こっそりとミノリの脳内にある次回の旅行候補先からそれらを除外した。

……リラとノゾミが主役であるというスタンスを取りつつもほんの少しだけ自分の希望も織り込む、ちゃっかりとした面もあるミノリなのであった。

ちなみに過去にシャルが襲われたことがあるという理由からラコカノンヤもミノリの脳内では旅行先の候補から除外されています。


そして次回から元の時間軸である15年目に戻ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] かかしばかりの村が実在するとの事ですが…行くのは…(汗)
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