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145. 11年目のある日⑤ ワンヘマキア。

(2022/2/27 16:45追記 文章が推敲しきれていなかったため修正しました。流れに影響はありません。)

 初めての旅行に初めての宿泊、ミノリ達にとって初めて尽くしとなった旅行の日目の朝。


 睡眠時間は充分にあったはずなのに見た夢が原因なのか睡眠の質がどうも良くなかったミノリは、ベッドの中で目を覚ましたものの体を起こすことも無く、天井を眠たそうな半目で見上げたまま先程まで見ていた夢について考えていた。


「うーん、なんなんだろうなぁ。体中を縛られて身動きが取れなくなる夢を見ていた気がする……まぁ原因はハッキリとわかるんだけどね……今も身動きできないし」


 そう言いながら左右を見やるミノリ。その両サイドにはトーイラとネメがこれでもかという程にミノリに強く抱きついていて、ミノリはこれが原因で身動きが一切取れなかったのだ。そりゃそんな夢ぐらい見るだろう。


「まぁ、まだまだ私に甘えたい年頃なんだろうね。うん、好きにさせてあげよう……」


 困ったような表情を見せながらも悪い気はしないと言うかのように2人が起きるまでそのままでいようと決めたらしいミノリ。

 ちなみに両サイドの娘たちは17歳でこの世界では既に親離れする年齢に達している上、甘えたいという感情を通り越したどす黒い欲望まで渦巻いているような雰囲気もひしひしと感じるのだが……。


(抱きつくこと以上の事をしたい雰囲気を2人から感じるような気がするけど気のせい。絶対気のせい。私は何も見てない知らない聞いてない……)


 どうやらミノリもその妖しい気配に薄々と気がついてはいるようだが、大人の対応として気づかなかった事にしたようだ。彼女なりの超法規的措置であるがあきらかに悪手である。



 ******



 その後、目を覚ましたトーイラとネメと共に朝食を摂りながら本日の予定について相談しあうミノリ。といっても今回の旅行は1泊2日でお昼にはキテタイハへ戻る最終の乗合馬車に乗って帰ることは決まっているのであまり多くのことは出来ない。それもあって、何処に行くか自体は既に決めていた。


「それじゃ2人とも、この後はワンヘマキアに行くけど、そこが今回の旅行で行く最後の場所ってことでいいんだよね?」

「うん、それでいいよー」

「悲願のワンヘマキア」


 ワンヘマキアへ行くのはネメのたっての希望であった。カツマリカウモから近く、徒歩で30分ぐらいの距離にあるのだが、ワンヘマキアは産業や特産品と呼べるものが全く無く、ただ寂れているだけと以前にネメ達が読んでいた観光本にも記載されていて、見所なんてあるはずも無いはずなのにそれでも娘たち、特にネメはどうしてもワンヘマキアに赴きたかったそうだ。


「カツマリカウモと比較した時のあまりにもあんまりな寂れ具合を楽しみたい」


 かつて、家で観光ガイドを見ていた頃から変わらない理由を述べたネメだが……何度でも言うがなんとも悪趣味全開な理由である。



「あのー……お客さんたちワンヘマキアへ行くんですか?」


 そのようにしてミノリ達がこの後の予定を詰めていると、その話が耳に入ったらしい宿兼喫茶店の女性従業員さんが声を掛けてきた。


「はい、そうですけど……」

「ワンヘマキアに行くって事は……最近新しく出来た教会に行くんですか? すごく綺麗なんですよ」

「え、そんなのあるんですか? 初耳です」


 観光ガイドにも載ってない情報を教えてくれた。


「では一度見るのもいいかもしれませんねー。……まぁ実はその教会、私の姉が司祭として働いてるんですけどね」

「あ、そうなんですか? それだったら折角だし行ってみるのも悪くないかも……情報ありがとうございます」



 ******



「──それじゃ今日はワンヘマキアに行って村の中を散策した後、教会に立ち寄ってそれが終わり次第カツマリカウモまで戻ってそのまま馬車に乗って帰路につくということでいいかな2人とも?」

「いいよー」

御意御意ぎょいぎょい


 宿のチェックアウトを済ませ、カツマリカウモを後にした3人は、地図を頼りにワンヘマキアに向けて歩いていた。

 ワンヘマキアはわざわざそんな寂れた場所へ行こうという物好きもあまりいないからなのか直通の乗合馬車は出ていないようで、近場ではあるが徒歩で行くしか手段が存在しない。


 その為、道中はモンスターと戦闘となる事はほぼ必至なのだがそこは恐ろしい強さを身につけたオンヅカ家の娘たち。キテタイハ周辺に比べて数段弱いモンスターなど目じゃなく、談笑しながら襲いかかってきたモンスターを文字通り雑に指で蹴散らすという離れわざまでしてのけながらを進めること30分……。


「あ、あれがワンヘマキアかな?」


 やがて村の外縁部とおぼしき場所に辿り着いたようで、ミノリたちの前にまず現れたのは『ここはワンヘマキア』と書かれた看板、次に荒れ地、そして荒れ地、更に荒れ地、つまり荒れ地だけである。

 よく目を凝らしてみると草に隠れて、倒壊した廃屋の跡がいくつか見えるのだが、当然そこに人の気配は無く、少なくとも村の外縁部には誰も住んでいないようであった。


「うーん……予想通りの寂れ具合……」


 流石、観光ガイドにも産業や特産品と呼べるものが全く無いと記載されていたワンヘマキアである。まさに『寂寥せきりょう』という言葉を体現したかのような村だ。


 そんな廃村寸前限界集落さながらの光景を特に気に留めずに、村の中心部に向かってミノリ達が歩いていくと、やがて人の手が現在も入っている畑がいくつかミノリたちの視界に入るようになってきた。

 そして、その風景の一端に観光ガイドでは記載の無かったある存在がミノリ達の前に姿を現したのでミノリ達は思わずそれに目を引かれてしまった。


 それが一体何なのかというと……。


「ネメ、ママ……なんというか面白くはあるけどそれと同時にちょっと怖いよね、あれ……」

「同意。オワカリイタダケタダロウカ紙一重な世界」

「うん……2人の言うように無数に立っているとやっぱり異質に感じるよね、案山子かかしって……」


 カラスけなどに使われることでおなじみ、案山子かかしである。


 確かに案山子かかしは田舎ではよく見られる代物ではあるので普通なら気にも留めないのだが、この村の案山子はちょっと……いや、かなり異質で尋常ではない数の案山子が、まるで人がいない寂しさを紛らわせようとでもいうかのように畑の真ん中に、道の脇に、作業小屋の前にと、あちこちに立っていたのだ。


「昼間だからまだよかったけどこれが夜だったらすごく怖かったかも……」

「でもしょせんは案山子かかし。人間が作ったただの虚像」

「ネメってばあんまり動揺しなくてすごいねー。私もママもこの光景に呑まれ……」


 ドサッ


 その時だった。ミノリたちの目の前に立っていた案山子かかしの1体がが突然地面に倒れたのだ。


「……」

「……」

「……」


 なんとも思っていないそぶりを見せるネメに対して、まるで警告するかのような案山子かかしの動きに対して言葉が出なくなり、その場で固まってしまった3人。そして……。


「よ、よし。2人とも! 時間も限られているし、村の中心部まで走って行こう!」

「……そ、そうだねママ!」

「う、うけたまわり」


 この異様な雰囲気に飲まれてかけていたもののなんとか我に返ったミノリは、同じく滅多に感じたことのない言いしれぬ恐怖を感じてしまっていたらしい娘たちをかすと、案山子かかしの群れをなるべく見ないようにしながら村の中心部へと駆け抜けていったのであった。



 ******



「ぜー……ぜー……疲れた……」

「ママお疲れー。……やっぱり私たちがおぶればよかった?」

「私とトーイラに掛かれば、おかあさんワッショイワッショイ御輿みこしかつぎしてもまるで息は上がらなかったのに」


息が上がっているミノリをよそに全く呼吸を乱さない体力オバケの娘たち。この距離ならミノリを担いで走るのも余裕でネメに至っては、お御輿みこしを担ぐかのような動作までして体力アピールをミノリに見せている。


「……いや、流石に担がれるのは……勘弁……。それはそうと、ここが村の中心部……かな……」

「だと思うよー」

多分(めいびー)


 ミノリの持久力がそれなりにつぐらいの速度で駆け抜けること十数分。

 畑や案山子が少なっていくのと反比例するかのように家々があちこちに見え始めてきたのでおそらく村の中心部に着いたのだろう。しかし……。


「えーっと……どうしよう。想像以上に何も無い……」

「人もあんまりいないねー……これでどうやって村を維持できているのかそっちの方が不思議……」

「流石というべき寂れ具合、これは文化財もの」


 ここが本当に中心部なのかと疑ってしまいたくなるほどに人影がまばらであった。建物自体はそれなりにあるのだが、空き家も多く、お店らしいお店も特にない。

 せいぜいあるのは野菜の無人直売所のような小屋ぐらいで、今朝まで滞在していたカツマリカウモとの雲泥の差にミノリとトーイラの眼差しに困惑の色が出ているかたわら、ネメだけはカツマリカウモとの歴然とした差に目を輝かせてしまっている。


(稲作でもしているんだったら村の寂れ具合に関係なく米を買いに来るぐらいのリピーターになる事間違いなかったんだけど……見ている限りこの村には田んぼはおろか陸稲すら無さそうだしなぁ。まぁネメが楽しんでいるからいいか……)


 一人楽しんでいる様子のネメの姿を見られただけでも取りあえずは良しとしようとミノリはそう自分に言い聞かせた。


「それでネメ、ここが村の中心部らしいけど……堪能たんのうできた?」

「とても」

「そっかぁ、ネメが満足したなら私はそれだけで嬉しいよ。……それでどうしようかこの後……」


 満足したようにサムズアップをしたネメの頭を優しく撫でたミノリが思案していたのはこの後の予定。  


 もう少し時間は潰せるだろうと心のどこかで期待していたのだがそれはもろくも崩れ去り、予想よりも遥かに短い時間しか潰すことしかミノリたちには出来なかったのだ。


 こうなると、もう宿屋の従業員さんから聞いたあそこへ行くしかもう時間をつぶす手段が残されていない。しかしそれも済んでしまったら……ミノリは念のため2人に確認を取る事にした。


「ワンヘマキアでの予定で残っているのは教会だけになっちゃうか……2人とも、このあと教会に行くわけだけど、そっちもすぐに見終わっちゃってしまったら残りの時間は乗合馬車の時間までカツマリカウモで潰すという事になるけれどそれでいいかな?」

「それでいいよー」

OKおけ


 娘たちの了解も取れた事もあり、ミノリは早速教会へ向けて歩き始めたのだが……。


「それじゃ教会の方へ……といってもまぁさっきから目の前に見えてたんだけどね、教会……」


 徒歩で40歩。あっという間に教会に辿り着いてしまった。


 先程までミノリ達は村の中心部を目指して走っていたわけだが、この教会はそれこそ村の中心部に建てられていて先程までいた場所と目と鼻の先にあったのだ。歩いて時間を潰すこともままならないというのも小さな村ならではである。


「というわけで教会だけど……ここだけ随分立派だよね。むしろここぐらいしか立派なのが無いような……」


 ミノリが辺りを見回して他の建物と見比べるとこの教会だけ異様に立派で、外観の汚れもほとんどど無いことから、話に聞いていたように最近建てられたばかりという事がすぐにわかる。


「ねぇママー。早く中に入ろうよー」

「れっつじょいなす」

「あ、ごめんね2人とも。今行くy……あれ、そういえば……」


 既に教会の扉を開けようとしている娘2人にうながされて教会に近づいたミノリだったが、突如ある疑問が脳内に噴出してミノリはその場に立ち止まった。


「あれ、どうしたのママ、入らないの?」

「ココロ早変わり?」

「いや、ふと気になったんだけど……私ってそもそも教会に入れるの? モンスターって結界で教会に入れない可能性あるよね?」

「「!!」」


 ミノリがその疑問を口にした途端、トーイラもネメも考えていなかったとばかりに目を丸くさせ、掴んでいた扉の取っ手から手を離してしまった。


「そっか……すっかり忘れてたけど、ママってモンスターだったんだよね……今は違うけど……」

「これは私も失念……」


 長年家族として一緒に過ごし、ザコモンスターから仲間キャラへのフラグも切り替える事ができた事で今では誰もミノリをモンスターと思うことすら無くなっていたからこそ3人ともすっかり失念していたのだが、そもそもミノリは人間の敵であるモンスターの一種で、結界で入れない可能性がゼロでは無い事を頭に入れてなかったのだ。


「確かに今はモンスターという扱いじゃないはずだけど、結界がそれを正しく判定するかもわからないし、運が悪いと私が教会に入ろうとした瞬間に結界が反応して私が消滅しちゃう可能性もなきにしもあらず……だよね」

「うん……。そう考えると教会に入らない……いや、近づく事自体避けた方が無難だと思う。ママが消滅しちゃうなんて私たち絶対イヤだもの。入るのやめてカツマリカウモに戻ろうよママ」

「耐えられない。断固阻止。トーイラに同意で引き返すべき」


「うーん……でもそれだと……」


 ミノリ想いの娘たちが揃って教会に入るのをやめると口にしているのだが、当のミノリは腕を組んで考え込んでしまった。

 何せ自分の出自が原因で教会の中を見るという目的を2人からも奪ってしまう事になるのだ。自分のために娘たちにまで教会に入らない事を強いてしまうのはなるべく避けたいミノリは短く逡巡しゅんじゅんし……。


「えっと……私はここで待っているから2人は教会の中に入ってきて。私はここで待っているから。私が原因で2人の楽しみを奪っちゃうのは私もちょっと哀しいもの」

「「えー」」


 折角だから2人だけでも中には言ってほしいと思いそうトーイラとネメに告げるミノリだったが、娘たちは娘たちでそれに不満そうだ。


「ママをここで一人にさせちゃうのはヤダよ。昨日だってママに対して悪巧みしようと視線を向けてる輩がいっぱいいたからママにバレないように全部この手で……あっ」

「トーイラ、失言」

「え、ちょっと待って2人とも昨日何かしていたの!? もしかして時々不自然に名前を呼ばれて視線を誘導させられていたのってそれ!?

 そっかぁ……私ってば全然気づかないうちに2人にいっぱい守られていたんだね……」


 トーイラの失言によって、ここでようやくミノリは自分が何度も危険な目に遭いかけていたことに気がついたのである。


「しまったなー。ママには最後まで言わないつもりだったのに」

「こればかりは致し方ないトーイラ。黙っておくのも時間の問題だった」

「ま、まぁ私のためだから悪い気はしないけれど……できたら一言でいいから言ってね? 私もいきなりそんな事言われたら驚くから……」


 できる事なら自分から犯罪に巻き込まれるような真似を娘たちにはしてもらいたくないミノリなのだが、娘たちの思考回路が常にミノリ第一である事はミノリ自身もわかっていた上、娘たちからも露出度が高いから危ないと出発前に娘たちから指摘された手前どうにも叱るに叱れず、やんわりと釘を刺すしか出来なかったのであった。


「はーいママ。……それで教会に入る件なんだけど、私とネメが交互に入るってのはどう? そうしたらママを一人にすることはないから私たちも心配が無くなって安心して入れるよ」

「トーイラに同意。それにおかあさんと一緒に待つのも好きだから一向に構わない」

「あ、そっか。何も2人が一緒にはいる必要は無いもんね。……うん、それならいいかな。それじゃ悪いけど2人とも順番にね。ということで最初はトーイラでいいのかな?」

「うん! それじゃママの言葉に甘えて私が先に……ってあれ?」


 それならば構わないとミノリが承諾した事でまずはトーイラから教会に入ることになった……のだが、トーイラは扉の取っ手を掴んだまま一人困ったような表情を見せた。


「どしたのトーイラ?」

「鍵かかってる……」


 トーイラが困っている様子に気づいたらしいネメが尋ねるとどうやら日中であるにもかかわらず、どういうわけか教会の扉に鍵がかかっていて中に入ることが出来ないらしい。


「へ? どういうわけなんだろう……礼拝が普通に行われているとしたらもうこの時間には開いているはず……だよね? もしかして、教会の中で何か良くないことが起きていたりする……?」



 中で何かが起きているのではないかと、ミノリの胸中がざわつき始めた。

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