137. 12年と9ヶ月半 幼い自分にさようなら。【トーイラ視点】
ネメとシャルが結婚した日の夜、
トーイラがミノリに告白してその場でフラれてしまった日から2週間ほど経った日の話で、
活動報告内にある8歳ごろのトーイラと『登場人物&用語等まとめ』内にある18歳時点のトーイラとで衣装が一部変わった事についての話です。
──トーイラが私に恋してたのは昔から知っていたし、そういう風に思ってくれるのも嬉しい。できる事なら応えてあげたい。
──それでもやっぱり私は、トーイラとネメ、2人の母親であり続けたいんだ。だから……ごめんね。
「……うわぁあーん!!! そんなー!! やだぁーーーー!!! ……あ、あれ? 夢?」
ママにフラれてショックのあまり叫んだら目の前にママはいなくて私はベッドの上で横になっていた。どうやらさっきのは夢だったようだ。
「……うぅ、まさかあの日の事を夢に見るなんてぇ……」
窓から見える外の景色はすっきりとした青空だというのに私、トーイラはその夢のせいで気分がドンヨリとしてしまった。
さっきまで私が見ていた夢というのは……ママにフラれる夢。それもただの夢ではなく実際に数週間前に体験した事。
妹のネメが恋人として付き合っていたウィッチのシャルさんと結婚した日の夜に、色々あって私はママにフラれてしまった。
それを振り返るかのような夢を見てしまって、朝からげんなりしてしまったのだ。
ベッドから降りずにそのまま辺りを見回してみるけれど、寝室にいるのは私一人。多分ママは先に起きて朝ごはんを作っているんだと思う。
……良かった、さっきの叫び声はママに聞かれていなかったようだ……ただ聞かなかった振りをしてくれているだけなのかもしれないけれど。
ここ最近、夜になってからママと寝室にいると時々ママがなんとも言えない顔しながら『今日も2人元気だなぁ……』とか言ってるのを聞いた事があるからママの耳って私以上に色々聞こえるだろうし。
ひとまず私は気持ちを落ち着けて、誰にともなくポツリと呟いた。
「……さっき夢に見たように私、フラレたんだったよねー……ママに……うぁぁーーー」
改めてその事を口にすると……やるせない気持ちに再び襲われてしまい、私はベッドの上を一頻り転げ回ってしまっていた。
ママは基本的にのほほんとして優しいけれどこれだと決めたことに関しては頑として譲らない意外と芯の強い面があって、そこがママの魅力でもあるんだけどその頑として譲らない部分に『娘を恋愛対象としては見ない』というのが入っているのは同時に私の悩みの種でもあった。
だって、それはいくら私がママに想いを寄せてもずっと恋人にはなれないって事だから。
「きっと私はこの先もずっとママには娘としてしか扱ってもらえないんじゃないのかなー……」
一体どうやったらママがその『譲れない部分』を少しだけでも譲歩して、私の事を娘としてじゃなくて一人の女性として見てくれるんだろう。そこまで持っていけば、あとはズルズルといくらでも……なんて思うのだけれど未だにそれを瓦解できる方法を思いつけずにいる。
そして実は前にこっそりとネメにもママが少しでも私の事を一人の女性として見てくれる方法は無いか相談してみたけど『おかあさんの恋愛対象緩和計画自体が交渉困難の技であれこれ考えてもオダワラヒョージョー』としか言わなかった。
多分『結論はすぐに出せないし、これは長期戦になるよ』って事を言いたかったんだと思うけど……ネメの言葉遣いは独特だからこれで合っているのか双子の姉である私ですらちょっと自信はない。
……相談する相手を間違ったとかは思ってないよ……ホントだよ。
まぁでもこのままベッドの上でぐだぐだ悩んでも仕方ない。
「起きよう……」
私は転がるのをやめて、ベッドから降りて服を着替え始めた。
……ちなみに。私はファッションにこだわりが全くなくて、持っている服はほぼすべて同じような服だ。これらの服はママが作ってくれたからってのもあるけれど、違う服を着たいともあまり思わないから多分ファッション自体に疎いのだと思う。
そしてこれはどうやらママの影響も大きいと私は思っている。……まぁ、ママは事情があって違う服をずっと着る事が出来なかったというのもあるけれど、その事情が解消されて違う服を着られるようになったはずの今でもずっと同じ服だからやっぱりファッションに興味が無いのはママ譲りなのは間違いない。
ちなみに妹のネメも全くファッションにこだわりが無いので同じような服しか着ていない……それどころか羞恥心が希薄なせいで風呂上りは10日に1回の割合で頭のローブ以外全裸でいる事がある。
流石にそれはどうかと思うけどシャルさんと結婚したわけだし、これで少しはその変な癖が解消されれば……いや、解消するのかな……なんだろう、しない気がする。
「……いけないいけない、つい着替えの手まで止まっていた、着替え着替えっと……」
私は頭を軽く振って考えていたことを頭の中から追い払うと、いつもの服に着替えて、最後に頭にリボンを……つけようとして思いとどまった。
この兎耳みたいなリボン、さっきファッションにこだわりはなくて疎いと言ったけれど……実は大のお気に入りで、幼い頃からずっとつけていたりする。
でもこのリボンがあるから私が子供っぽく見えてしまうのも事実なわけで……。
「もしかして……少しずつ、大人の女性みたいな格好をしていけば……ママは私の事、そのうち娘としてじゃなく、一人の『女性』として対等に見てくれる……かな?」
そう私は考えると手にしていた兎耳みたいなリボンを頭につけるのはやめて衣装棚にしまいこむと、そっと頭を衣装棚にくっつけながらリボンに向けてささやいた。
「……今までありがとうね。私、これから大人になってママが対等に見てくれるようにがんばるよ。だから今日でお別れ」
幼い頃からずっと身につけていた事もあって、すっかり苦楽を共にしてきた戦友みたいに思っていた兎耳みたいなリボン。その日から私はそれをつけるのをやめることにした。
別れを告げるみたいにそう言ったのは、子供だった自分とこの瞬間に決別したような気になったから。そして、今までありがとうという気持ちを込めてお礼が言いたくなったのだ。
「……よし、着替え完了、ママのお手伝いしよう!」
そして着替え終えた私は、髪もおさげにしてママがいる居間へと向かった。
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「ママ、おはよー!」
「おはようトーイラ……あれ、頭のリボンどうしたの?」
朝食の準備をしていたママに元気よく挨拶をすると、私がいつもつけていたリボンをつけていない事にすぐ気がついたようで私に尋ねてきた。
「えーっとね、ちょっとイメチェンしようかなーって思ったんだー」
「そっかー。イメチェンだからおさげ髪にもしたんだね。その姿も似合ってかわいいよ、トーイラ」
ママは素直に私の格好を褒めてくれたので私は心が弾むような気持ちになった。
「えへへ……、ありがと、ママ!」
……見ててねママ。私、絶対ママが惚れてママの方から告白してくるような素敵な女性になってみせるんだから!
そう決意した私は隙を見てママを振り向かせる方策をあれこれ仕掛けるのであった。
……だけどこの数年後、ママが新たに私たちの妹として迎えた吸血鬼の女の子が、結果的に私が命を救った事で私を慕うようになって、ひたすら私に振り向いてもらおうあれこれしてくる小悪魔みたいな存在になるだなんて、この時の私はまだ知らないのであった。
そして私もそんな妹のリラができたことで漸くママの気持ちがわかったよ。
家族として大好きな分、それを超えた関係になりたがるのは嬉しいのと同時に悩みの種になってしまうんだって。
……もちろんリラの事は私もとても大好きだよ。だけどまだ家族としての段階で恋愛対象としての域には達していない。
だけどあんなに猛烈にアタックされちゃうと段々気持ちも揺らいできちゃうよ……でも私はやっぱりママがーー……うーん、どうしたらいいんだろう私……。
──私の悩みはまだまだ続くのであった。




