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133. 14年と11ヶ月目④ ミノリさんアイリスアウト。

本日2回目の更新です。

前回未見の方は1回前からお読みください。

 折角コンプリートしたばかりのモンスター図鑑を目の前で燃やし始めるユー・シャリオンの行動の意味がわからず困惑するミノリ。あんなに固執こしゅうしていたのにあっさり破り捨てて燃やすだなんて意味がわからない。


「な、なんで燃やしたんですか!? それ目的だったんですよね!!?」


 混乱しながらもミノリは彼女に尋ねた。


「いや、確かにそうだったんだが……考えを改めたよミノリさん、いや、ミノリ様!」

「は!?」


 二度目の『は!?』である


 ミノリが当惑しながらユー・シャリオンを見直すと、何故か目を潤ませながら祈るように手を握り合わせている姿が目に入った。


「先程からもしやと考えていたのだが、これで私は確信した! やはりミノリ様は女神だったのだな……モンスターに身を落としてしまった事を自覚しながらも娘たちのためにその身を投げ出す、しかも娘は人間と魔物で分け隔てなく愛を与えている姿……私は感動した。

 ミノリ様が娘としたその者たちは、私が世界を救う中で取りこぼしてしまう者たちで、特にそちらの吸血鬼ヴァンパイアの少女は図鑑に載ってしまうと非常に不都合な事が書かれているのだろうな……。それでもミノリ様は彼女を救いたいと願い手を差し伸べた。私は感謝してもしきれない」


「え、えーと……?」


 ミノリの顔にハッキリと『拡大解釈しすぎでは?』という意思が見て取れるが、ユー・シャリオンは気がつかない。それどころかミノリが女神だと考える理由を続けて述べだした。


「そしてミノリ様が女神だと私が確信したのはもう一つ理由があって……先程ミノリさんは『オンヅカ』と名乗ったが……その名前は我がシャリオンの一族がどう行動すればいいのか迷った際に道を指し示していた女神の名前と同じなんだ」


「へ!? なにそれ!?」


 ユー・シャリオンが信奉する神の名前が自分の苗字である隠塚おんづかと同じという意味の分からない事態にただ困惑するしかないミノリ。そんなミノリをよそに感動した顔のままユー・シャリオンは言葉を続ける。


「シャリオン一族が最初に世界の危機を救った時も、二度目の時も、オンヅカ神が世界を救うために導いたと聞いていて、三度目の世界の危機に立ち上がった私にも途中まではオンヅカ神の声に導かれていたんだが……途中から神の声が聞こえなくなってしまって。

 ……それでもなんとか世界を救う事は出来たんだ。それで正解だったのかはわからないが……」


「え、ちなみにそれはどのあたり……?」

「カツマリカウモだ」


 ここから南へ歩いて3日ほどの距離にある村の名前を言ったユー・シャリオンの言葉を聞いたミノリは前世でのある行動を思い出した。


(あれ、そのあたりって確か……うわ、待って待って。前世で私が最後にセーブした場所……そこだ)


 前世、ミノリがこのゲームを遊んでいた時に最後にセーブをした場所がまさにそこだったのだ。そしてその村からキテタイハの町の方へ向かい、ダークアーチャーと遭遇するために何時間もフィールド上をうろついていた。


(あ、あれ? そこから導きが無くなったって事とモンスター図鑑がダークアーチャー以外が埋まっていたって事は……オンヅカ神ってやっぱり私なの? セーブする前に死んじゃったし、死んじゃったから当然その先はプレイできていないわけで……。

 ……というかよく考えたらさっきまでのユー・シャリオンの行動って、前世で死ぬ直前にゲームでダークアーチャーと遭遇した私の行動とほぼ一緒じゃん!!)


 ミノリも段々気がついてきたようだが、この世界はミノリが前世死ぬ直前まで遊んでいたゲームの世界だ。だが、図鑑などの情報まで反映されているように『ただ単にゲームの世界』ではなく、『ミノリが前世、【ゲームプレイヤーという名の神】として主人公をエンディングまで導いてきた世界』というミノリの意思が思い切り反映された世界なのだ。


 そしてゲーム自体はダークアーチャー遭遇後、セーブが出来なかったためにモンスター図鑑には記録されなかったのだが、ミノリの思考回路は引き継がれたままだという事を示すかのように、ミノリが死ぬ直前に取った行動はそのままユー・シャリオンに反映されていた。


 前世、ミノリが死ぬ直前、出現したダークアーチャーに対しておこなった操作は『鑑定魔法、鑑定魔法、守る、逃げる』である。


 まずはリラに掛けられようとして阻止し仲間フラグが立ったままのミノリに掛けられた鑑定魔法、次に仲間フラグが外れたミノリに掛けられた鑑定魔法。


 そして切りかかろうとせずにその場に立ち尽くし行動しなかった、これは『守る』に置き換えられ、最後の『逃げる』はもうユー・シャリオンに戦う意志のないこの状況がまさにそれだ。


 ちなみにだが、ゲーム上のダークアーチャーも一切攻撃せずに身を守り続けていたが先程までのミノリの行動も家族をひたすら守り続ける行動をしており、実は同じことをしていたわけなのだが、ミノリは今その事にまで考えが及ぶ余裕が無かった為、気がついていない。


 一人そのように考えているミノリだったが……この後ミノリは精神的に地獄のどん底へと突然落とされてしまう。


「……ただ先程からミノリさんが話している言葉の中で、一つ気になった事があって……私の名前はユー・シャリオンではないんだ。ユー・シャリオンというのは私の先祖である初代シャリオン家当首の名前で、この世界に訪れた危機を救った者の名として我が一族では伝えられている」


「え゛……」


そう彼女から聞かされた途端、嫌な汗が噴き出すミノリ。


(図鑑の内容やセーブ場所まで影響を受けただけじゃなくて……もしかして、名前も!? あれ、ちょっと待って、私主人公になんて名前つけた!? やばいやばい! 今なんだかすっごいイヤな汗が流れている!)



「初代の次に世界に異変が訪れた時、世界を救ったのが第七代当主『スシネタ・シャリオン』で、そして現当主である私の名前は……」


 彼女が名前を名乗りかけたその刹那せつな、ミノリは前世の記憶が突如として甦った。それはモンスター図鑑最後の一枠を埋めるために三回目の周回プレイに入ろうかという時の事。


──あー、流石に三回目の周回プレーとなると名前考えるの面倒だなー。一回目はデフォルトネームで、二回目の時はシャリオンのシャリ部分にかけて『寿司ネタ』から『スシネタ』ってつけたけど……あぁ、今日のお昼ご飯だったあれでいいや。えーっと、今度の名前は……。


 前世のミノリが適当につけた名前。それは……。


「「ザルソバ・シャリオン」」


 ミノリが呟くと、彼女の声がミノリの声と綺麗にハモった。


「わ、私の名前もちゃんとわかっていたのかミノリさん……いやミノリ様!! ……やっぱりあなたはシャリオンの一族を導いてきた女神様だった……『勇敢な女性』を意味する『ザルソバ』と名付けられたこの……」


「ぅわああああああああ!!!!!」


 感激に打ち震えて涙を流す女主人公こと『ザルソバ・シャリオン』をよそに突然その場にしゃがみ、顔を手で覆いながら叫んでしまったミノリ。


 例えるなら大きくなってから見返してみたら恥ずかしくて悶える事必至の『小中学生の頃に描いた漫画の主人公が目の前に現れた』ような心境に陥ってしまったのだ。それも耳まで真っ赤になってしまう程に。


 これこそが、ミノリが前世でしでかした取り返しのつかない後悔である。


「それでミノリ様……私は、あなたの綺麗な心にほれてしまいました。ネメさんとシャルさんが人間とモンスターという関係でありながら恋に落ち、愛を育んだと聞いて訝しげに思っていましたが、わかりました。私は、あなたと結ばれたい! 生涯をミノリ様に捧げると誓おう!! だからミノリ様、私と付」

「 なんというかごめんなさい全部私のせいですだから私責任取ります!!!!」


「「「えー!!!!!」」」


 リラを除く家族3人が共鳴するかのように驚いた。


「おかあさんどゆこと!?」

「ママ!!? なんで!!? その人さっき会ったばかりじゃん!!」

「お姉様!? 狂乱でもしましたか!?!」


 3人が驚くのもそりゃ無理はない。何せ出会ったばかりのザルソバ・シャリオンの求愛に対しまるで『責任を取って彼女と付き合う』とも取れるような発言をしたわけなのだから。


「だ、だってぇ……なまえがぁ……なまえがぁ……」


 先程までの威勢は何処へやら……。しかしミノリの後悔はシャリオンの名前が『ユー』ではなく『ザルソバ』である限り逃れる事は出来ず、責任は取らないとという気持ちでいっぱいなのだ。

 そして先程ザルソバが言いかけたようにこの世界で『ザルソバ』とは『勇敢な女性』という意味になる。

 ゲームプレイ時に主人公につけた名前はどんな名前でも必ず『勇敢な女性』という意味を持たされてしまうからというシステム上の都合からなのだが当然ミノリ以外の誰にもミノリのこの恥ずかしく思う気持ちが理解できるはずもなく……。


「おかあさんが何でそんな反応するのか理解不能…」

「『ザルソバ』なんてありふれた名前だよママ……?」


 娘たちは混乱したようにミノリに対して次々口にする中……。


「かーさま、結婚するの?」


 三女のリラがのんきそうにつぶやいた。リラからすれば『かーさまがあの人とくっつけばそれだけでトーイラおねーちゃんと恋人になるのが一歩近づける』というただその気持ちから出た発言だったのだが……それが引き金となってしまったようだ。


「そ、そうだ……マ……ママが……け、結婚しちゃう……? あんな、ぽっと出の奴……と?」


 ぶつぶつつぶやきながらおんぶしていたリラを下ろしたトーイラの目は焦点が合っていない。


「奴はとんび……おかあさんがかっさらわれてしまう……」


 ハイライトのない瞳でミノリを見つめるネメ。


 二人をまとっていた空気が明らかに変わってしまった。


(あ、あれ……私、何か地雷踏んじゃった……ってしまった!!! ネメもトーイラもヤンデレの気質があったんだった!!)


 ネメはシャルと何年もいい関係だったし、トーイラも最近はリラと仲が良いのですっかり失念していたが、二人は以前ミノリが『私を殺してほしい』とお願いした時、態度が豹変してミノリを生かす為にたがが外れたように暴走してしまった。


 その時はミノリが謝罪する事でなんとかその場を収められたが今回は2度目だ。

今度はもうミノリが謝ってもだめかもしれないとなんとなく悟ってしまったミノリは考えることをやめ、そして……。



「うわあああああああ!!! なんだか私失言しちゃっただからさっきの無しーー!!! みんなごめんなさあああああああい!!!! 私少し頭冷やしてくるからぁーーーー!!!」



 逃げた。


 この場から。


 全速力で。



(動揺してあんな風に言っちゃったと後で説明すれば……って、ヒィィイッ!!!!? みんな追いかけてくるーー!!?)


 涙目で自分含め娘たちの頭が冷めるまでその場から走り出してしまったミノリが走りながら後ろを振り返ると、すごい形相でミノリを手中に収めようとするゲーム本来の主人公と死ぬはずだったサブキャラで現ミノリの娘2人、さらには娘の嫁が追いかけてきていたのであった。


「ママがあんな突然現れた奴にかっさらわれるのはやだー!!! やっぱりママを堕とす!! 待ってママ! 今すぐこの場で堕とさせて!! 私と気持ちいい事しようよ!!」

「おかあさんはやっぱりシャルと一緒に監禁首輪! ついでに緊縛!!」

「いいですねネメお嬢様!! 私もお姉様と一緒に首輪をつけられた犬になりたいです!!」

「ま、待ってくれミノリ様!!! 私と一緒に愛について語り合わせてほしい! そして夜明けのコーヒーを共に!!」


「あはははは、かーさま楽しー」


「ひぃーーっ!!!!! 全っ然楽しくないよリラーー!!! というかそこのふうふ! 何恐ろしい性的嗜好暴露大会始めちゃってるの!? というかシャルは身重なんだから少しは自重して!! あと『監禁首輪ついでに緊縛』って声に出すと心なしか妙にリズミカルなの一体何!!?」


 長女と次女、次女の嫁、さらにゲーム本来の女主人公に追いかけられるミノリの姿を見ながらキャッキャと無邪気にはしゃぐ三女リラ。



「今は状況がよくわかんなくてただはしゃいでるだけに違いないけど、きっとこの後大きくなってこの状況を理解してしまったらリラ絶対ドン引きしちゃうって!

 絶対教育上良くないってこれ!! 一体何なのこの結末はーーーーッ!!!???」



 全速力でみんなから必死に逃げるように走りながら、まるで古いアニメのような、画面の端から丸く真っ黒に閉じられていく中、最後に残った丸の中から叫んだ気分のミノリ。




──最終的にミノリが誰の手を取るのかまだ誰にもわからない。しかし誰の手を選んでも、ミノリに訪れるのは幸せな日々である事には変わらない。

 そんなミノリのこれからの日々は、意外と悪いものでは無く、輝かしいものなのかもしれない……多分。



「いや監禁首輪犬扱いさらに緊縛で堕とされて夜明け前のコーヒーとか最悪以外の何物でもないからね!? 絶対輝かしくないって! いかわがわしいものだって!!! 綺麗に落としましたよと言わんばかりに勝手なモノローグ入れないで!!!」



……地の文に最後の最後でツッコむミノリなのであった。


今回予定していたお話は番外編を除いて次回が最後となります。


ちなみに前世のミノリさんが前世でゲームプレイ時にダークアーチャーに遭遇した時の行動は

「72. 12年と3ヶ月目 ミノリさん、考察する。」

に出てきます。

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