132. 14年と11ヶ月目③ 未来を託して。
本日の更新分は当初1回で投稿する予定でしたが予想以上に長くなってしまったため、急遽2回更新になりました。
「ダ、ダークアーチャー!? な、なんでミノリさんそれを知っているんだ!? 第一ユー・シャリオンって一体いつそれを……」
驚いた顔でミノリの言葉を繰り返す女主人公こと『ユー・シャリオン』だが、図鑑を持っているはずの彼女ですら知らない情報をミノリが知っているのだから驚くのは無理も無い。
その上、名乗っていなかったはずの名前まで知っている事を警戒したらしく、ユー・シャリオンは腰に携えていた剣に手をかけようとしている。
(あー……もしかしたら話し合いでって心のどこかで期待していたけどあの警戒している様子からするとやっぱり戦闘になっちゃうか……仕方ないか)
彼女の仕種を見てミノリは全てを諦め、先程まで平穏だったのに突如として緊張した事態になってしまった事に慌てふためいているネメに、ネメにしかできないある事をお願いをした。
「……ネメ、『デバッグモード』で私の仲間フラグを消して、私を元の状態に戻して」
「え……なんでおかあさん……」
ミノリの言葉を聞いた途端、ネメがショックを受けたように悲しい顔になりながらミノリを見つめた。
今までミノリは仲間フラグを立てていたからこそ今日まで平穏な日々を送る事ができていたというのに、それをわざわざ戻すという事は……ミノリが何かを覚悟した事を意味するからだ。
それも生死に関わる事を。
「きっとあいつが原因だよねおかあさん。それだったら私が自分の仲間フラグ消してあいつを倒……」
「それはダメ!!!」
ミノリが何をしようとしているかわからないネメだったが、それでもミノリのフラグを消したくないネメは、何か代案を出そうとしたが、ミノリはそれを拒むかのように全力で叫んだ。
「あの人はこの世界の危機を救った救世主で、そんな人にネメが危害を加えようとしちゃったら……ネメはお尋ね者になっちゃうか、最悪死んじゃうよ。
……ダメだよそれは。あなたが死んじゃったりお尋ね者になってしまったら……あなたとシャルとの子供の……『ノゾミちゃん』はどうなっちゃうの?」
「……!! お、おかあさん。なんで、なんでそれを今、言っちゃうの……? 名前、生まれた時に話すって……」
ミノリはその時、今まで胸中で温めていた孫の名前を初めて口にした。生まれた時に伝えると言ったはずの孫の名前を今、この場で言ったという事が指し示すのは……孫の顔を見る前に死ぬ覚悟をしたということ。
その事にネメは気づいてしまったようで、悲しい顔のままミノリに何度も問いかけた。しかしミノリはネメの言葉に応えず、そのまま同じように彼女に敵意を剥き出しにしていたトーイラにも話を続けた。
「そして手を出していけないのはトーイラ、あなたもだよ。リラはトーイラの『光の祝福』のおかげで命は助かったわけだけど、光属性であるあなたの血は今後も必要みたいで、きっとあなたの血が無いとリラはまた体調を崩して、空も飛べなくなっちゃうかも。
だからお母さんである私からトーイラへ最期のお願い。リラの事を私の代わりにずっと守ってあげて。あなたは……リラのお姉ちゃんでしょ?」
リラはイベント用モンスターという戦闘を想定していない存在で、実際この辺りのモンスターにも勝てる見込みがほぼ無い程に弱い。
そして自分の羽で飛べなくなってしまった後でトーイラから吸血するようになってからリラは再び飛べるようになった事から推測すると、リラが飛ぶには魔力が必要だ。
リラが魔力を維持するためには光属性であるトーイラの血が必要で、それはつまり、リラは特異体質が原因で死ぬ事は無くなったが、光属性の魔力をトーイラから吸血という行為でもらわなければいずれリラの魔力は再び枯渇し、また体調を崩してしまうだろう。
その上、イベント用モンスターでありながらモブキャラという中途半端な存在でもあるリラは自身がモンスターであるにも関わらずモンスターに襲われるという立場で、トーイラがいない状態で魔力が枯渇し飛べなくなってしまった場合、リラはこの辺りのモンスターから逃げる事もできずただ嬲り殺しにされるだけだ。
ミノリに保護されたのもただ運が良かっただけで、結局トーイラのようなリラを支え、助けてくれる存在がいなけれリラは生きる事ができないのだ。
(15歳で死ぬはずだったネメとトーイラは無事大人になったし、ラスボスになるはずだったリラも救えたし、シャルはネメと結婚して孫のノゾミも間もなく生まれる。
まだリラとシャルには少しの不安が残っているけれどきっと2人が支えてくれる。……それを考えたらこの世界に転生した私の役割はきっとここまでだったんだね)
隠塚一家の大黒柱であるミノリは、家族に未来を託す為、覚悟を決めると、これが母親として自分に出来る最期の役割とばかりにミノリはユー・シャリオンの前に立ち塞がり、そして……。
「……みんな、私幸せだったよ。……ありがとう」
これで永遠の別れだとでもいうかのようにミノリは振り返りながら、せいいっぱいの笑顔を娘たちに向けたのだった。
「おかあさん……どうして……どうして……でもお母さんに言われた事……しなくちゃ……」
ミノリを死なせたくないのにそれをミノリに制されてしまい、何もできない事をネメが心の中で嘆きながらデバッグモードをいじるようにブツブツ呟き、暫くすると、ミノリの身体の奥で何かが切り替わったような感覚があった。
おそらく、仲間フラグが外れ、ただのザコモンスターに戻ってしまったのだろう。
警戒するような態度を見せていたユー・シャリオンの警戒レベルがさらに上昇したように見えたのもそれだろう。
ミノリは手にしていた弓矢を地面に置くと、無抵抗とばかりに両手を横に広げた。
「さあ、ユー・シャリオンさん。あなたが探していたモンスター図鑑最後の一匹であるダークアーチャーは私です。どうぞ、鑑定魔法を掛けて図鑑を埋めてください」
「あ、ありがとう……。それではひとまず鑑定魔法を……」
ユー・シャリオンは困惑しながらもミノリに鑑定魔法をかけると、彼女が手にしていたモンスター図鑑が光に包まれた。おそらくモンスター図鑑にミノリの種族であるダークアーチャーが埋まり、図鑑が完成したという事なのだろう。
しかし彼女の目的はこれだけではなく、最後の一枠を倒す事もそうだったはずだ。ミノリは手を広げたままユー・シャリオンに続けて話した。
「そして……前に話していましたよね。最後の一枠は見つけたら真っ二つに倒すって。……どうぞ。私をその剣で真っ二つにして倒してください。その代わりにお願いです。娘たちには決して手を掛けないでください。鑑定魔法含めてです」
「だ、だが……いや、しかし……ミノリさん……それは……」
しかし、ユー・シャリオンは剣を手にしながら悩んでいるようだ。彼女からすれば図鑑を埋めた後はその最後の一枠を倒したいとは話していたが、まさかその事を話したミノリこそがその一枠だったと思ってもみなかったのだ。
ここ数か月の事ではあったが親しくしていたミノリを、それも彼女に斬り殺されてしまうのを待つばかりというように武器を地面において無抵抗だと顕示しながら家族を守るために両手を広げているのを倒してしまうのは、逆に自分の方が悪人なのではないかと戸惑うのも無理はなく……。
そのままお互いが見つめあいながら微動だにしない状況が続いたその時だった。
「やっぱりやだよママ!!」
「おねがい、おかあさんを殺さないで……」
「かーさまが死んじゃうのイヤ……」
「お姉様……」
後ろからミノリの動向を心配した娘たちが一斉に叫び出したのだ。
なんで急にミノリが殺されなければいけないのかという悲痛な声だった。
みんなの気持ちは痛いほどミノリには伝わったが、彼女の目的を果たすしか、娘たちが平穏に過ごせる方法が残されていない。
「ごめんねみんな……、だけどこうするしかなかったんだ。……私、みんなの事、大好きだよ。今までありがとう」
そう寂しげにつぶやくと一転、まるで前口上を述べるかのようにミノリは一人大声を上げた。
「私はこの娘たちの母親であり隠塚家の大黒柱でもある隠塚ミノリ! この先に未来がある娘たちのためならこの身を犠牲にしてでも守りぬくのが母親である私の役目!! さあ、私を切り捨てなさい!」
手を広げたまま雄々しく叫ぶミノリ。
しかし死ぬ事を覚悟しながらも内心死ぬのはやはり怖いようで、生まれたての仔鹿のようにブルブル震えていて良い場面なのにいまいちしまらない。
斬られるのを覚悟しながらも、だけど痛いのはイヤだなぁと思いながら目を強く閉じるミノリに、いつまで経っても斬撃はやってこない。
恐る恐るミノリが目を開けると……信じられないものがミノリに視界に入った。
なんとユー・シャリオンが折角埋まったモンスター図鑑に火をつけ燃やし始めていたのだ。
「は!?」
思わずミノリは素っ頓狂な声を上げてしまった。
2回目の更新は13時に投稿する予定です。




