126. 14年と8ヶ月目② ミノリさん、必死に考える。
「……そ、そんなすごい書物が存在するんですね……」
このゲーム本来の主人公である女性に遭遇してしまったミノリは、彼女の目的が『自分を倒してモンスター図鑑に登録する事』だと気づいてしまった。
しかしミノリはここで死ぬわけにはいかない。リラが大人になるまでは生き抜くと決めたし、さらにネメとシャルとの間にいつか生まれるだろう孫の顔も見ていない。
だから絶対に諦める事はしたくないのだ。
もしかしたらまだこの危機を切り抜けられる抜け道があるかもしれないと、ミノリは自分がその最後の一枠だと気づかれないように話を合わせる事にした。
「ああ、なにせこのモンスター図鑑は我がシャリオンの一族が代々戦って討伐してきた全てのモンスターが載っているんだ。
中には遥か昔、この世界に未曽有の危機が訪れた際に出現して私の先祖が討伐したという『闇で塗り替える者』や『闇の巫女ネメ』という、今ではもう誰も知らないような古のモンスターまで」
(……え? まだ倒されていないはずのラスボスやモンスター化したネメまで載っている? それってつまり、彼女が持っているモンスター図鑑は、個別の各セーブデータ内にあるモンスター図鑑じゃなくて、全セーブデータ共通のゲームオプション内のモンスター図鑑……?)
ミノリが転生したこのゲームには、モンスター図鑑を見る方法が二つある。
一つはゲーム本編プレイ中にモンスター図鑑を使う事で、もう一つはゲームタイトル画面にあるオプション画面からモンスター図鑑を選択する事。
同じように見える二者だが大きな違いがあり、前者はそのプレイ中のセーブデータ内のみに出てきたモンスターが表示されるのに対し、後者は全てのセーブデータ共通でどれかのセーブデータに出てきていれば表示される。
その為、彼女が戦ったはずのないラスボスや闇の巫女ネメが載っており、そのせいで彼女は『闇で塗り替える者』や『闇の巫女ネメ』を先祖が倒した古のモンスターだと思い込んでしまったのだ。
数ヶ月前、『闇の巫女ネメ』になりうる存在のネメに出会った時に、図鑑の顔と印象はまるきり違えど、顔立ちはそのままだというのにその正体に気づかなかったのはその為で、その上ネメは、ゲーム上では本来消えるはずだった仲間フラグがミノリが保護した事で残ったままだったというのも幸いし、二重で彼女に『闇の巫女ネメ』だと気づかれないようになっていたのだ。
(少なくとも、リラとネメが改めて倒される心配がなくなったのは不幸中の幸いかな……)
それがわかったミノリは心の奥で少しだけ安堵したが、危機はまだ続いている。ずっと黙ったままのミノリの様子に困惑したまま彼女が顔色を窺っているのだ。
(だけどどうしよう、このまま黙ったままじゃ怪しまれてしまうかも……)
今はまだ、ミノリが必死に思い出そうと思っているだけのようにも見えるので大丈夫だが、このまま黙り続けていれば流石に不審がられてしまう。
せめて一時しのぎでもいいから、何とかこの事態を切り抜ける方法は無いかとミノリは必死に頭を巡らせた。
(……そういえばリラを【ゲームウインドウの敵一覧】から見た時、名前が『ヴァンパイア(イベント用)』 だったような……。そういったモンスターは図鑑の枠に入ってなかったという事を考えると……)
ミノリの脳裏に過ぎったのは、リラのようなゲーム上での戦闘を想定していないイベント専用のモンスターの存在で、そういった図鑑の枠から除外されるようなモンスターが他にもいるはずだとミノリは考え抜いた。
(例えば動作確認の為のデバッグ用モンスターや、作ったけど色々あってボツになってデータ上存在するだけになっているボツモンスターのような……あ、そういえば確かネメとトーイラが……!!)
その時ミノリは思い出した。
ミノリたちが南東の森へキャンプしに行った日に、ネメとトーイラが金色に光るボア系のモンスターに遭遇したと話していた事を。
(ネメたちが見かけたって言っていた光るボア系のモンスター……多分あれはデバッグ用かボツモンスターだ!!)
周回プレーの末、セーブ出来なかったものの一時的に図鑑コンプを達成した前世のミノリですら『そんなモンスターいたかな』と思ったのだからその光るボア系モンスターこそ、それに該当するモンスターだとミノリは確信した。
(光属性のモンスターが滅多に岀てこない特異体質だからこそリラが贄になったというのに2人が見たというボアは多分光属性……。
表立ってそういう設定でゲームを作っていたかはわからないけど、ストーリー設定的に明らかに矛盾するその光るボアはボツモンスターかデバッグモンスターに違いない!)
そう結論付けたミノリは、彼女に光るボア系モンスターについて話すことにした。
「……あなたが求めているモンスターかはわかりませんが、南東の森に光り輝くボアがいると聞いたことがあります。おそらくそれじゃないんでしょうか……」
「本当か! ありがとう……えーっと……すまない、あなたの名前は何というのだろうか……」
なんとかミノリは危機を切り抜けられたようだ。ミノリの話を信じたらしい彼女はミノリにお礼を述べようとしたが、ミノリの名前を聞いてない事に気づき、名前を尋ねた。
「えっと……ミノリです」
「そうか……ミノリさん、ありがとう!! よーし、ようやく手がかりをつかめた! 見つけたら私がこの手で真っ二つにした上で図鑑の枠を埋めてみせる!」
「すごい逃げ足速いらしいので頑張ってくださいね」
そう彼女は言うと、逸る気持ちを抑えられなかったのか、自分の名前を名乗らないままミノリに背を向けてしまった。
(今だ! 逃げよう!!)
しかし、その瞬間こそチャンスだと判断し、すぐに逃走する事にしたミノリ。
「……あ、そういえばミノリさん。ミノリさんの姿がどことなく、あそこの邪教徒のアジトみたいな町に設置された像に似ているけど何か関係が……あれ、もういない……」
彼女が南東の森へ向けて歩き出して10メートルほど経って、キテタイハの町にある像と似た容姿を持つミノリとの関係について尋ねようと振り向いたのだが、既にミノリの姿はない。
比較的見晴らしのいい場所なのにもう姿が見えなくなったミノリの事を不思議に思う彼女だったが……。
「……まぁいいか。とりあえずミノリさんから有力情報を得る事が出来たし、急ごう」
彼女は再び南東の方へと歩き出し、やがてその姿は見えなくなった。
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「……はぁ、助かった。よかったぁ……なんとか生き延びられたよ……」
そう言いながら、彼女の姿が見えなくなるまで隠れていたミノリ。
さて、ミノリが一体何処へ隠れていたのかというと……ミノリが先程まで佇んでいた木のてっぺん付近だった。
前にシャルに見せたら驚いて感激されてしまったミノリ特有の跳躍力。彼女が振り向いた隙に全力で木のてっぺんまで飛び上がり、姿を隠していたのだ。
(その光るボアが私の代わりにモンスター図鑑に無事登録されれば、私の分は空白でも数字上図鑑コンプ率100%という扱いになれば完全に私は助かる……もしも登録されなくても一時しのぎにはなったはず……)
図鑑のコンプ率の範囲がボツモンスターなども対象としているかは不明だが、もしも含んでいるのならボツモンスターなどを含めれば最終的に100%を超えるはずだ。
取りあえずは命拾いした事に安堵するミノリだったが……ミノリは生き延びる為に自身が高所恐怖症である事を忘れて木の上まで飛び上がった。
それが何を指すかというと……。
「……それで、私はどうやって地上に降りればいいんだろう……誰か助けて……」
そう、怖くて降りられないのだ。
その後、ミノリの帰りが遅い事を心配したトーイラに助け出されるまで、ミノリは高い木の上で、下を見ないように必死に木の幹にしがみつき続けながら、誰かが助けに来るのを待つのであった。
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