125. 14年と8ヶ月目① 彼女の目的。
危機というものは突然やってくるもので誰にも予測できるものではない。それを体現するかのように、その日、ミノリに生命の危機が訪れようとしていた。
「うーん……今日もダメだった」
がっかりした様子で臍やエルフ耳を隠した変装姿のミノリが佇んでいたのはキテタイハからの帰り道にある、ミノリたちが住む家のある森との中間付近に生えている木の下。
シャルから『変装してからはモンスターだと気づかれる事が殆どなくなった』と聞いて以来このように変装してキテタイハの町へ買い物に行くという、言わば【キテタイハチャレンジ】を時々しているのだが現在の勝敗は0勝15敗。
どんなに変装をしても瞬時にミノリを見抜くキテタイハの町長老婆ことハタメ・イーワック。視覚情報以外の何かでミノリを検知しているのだろうか。
うなだれたミノリがそろそろ帰ろうかと木の下から歩き出したところ……。
「すまない、そこの方……」
「へ、私です……か……」
振り返ったミノリが声を掛けた相手の姿を視界に入れた瞬間、言葉を失ってしまった。
(え!? なんでこんな所にいるの!?)
ミノリが言葉を失ってしまうのも無理はない。なにせ、ミノリに話しかけてきたのは、このゲーム本来の女主人公だったからだ。
ネメとシャルから聞いた話だと、シャルが『人間を襲う気は無い』と言ったのにも関わらず、その言葉に耳を傾けずに殺意を剥き出しにして腰の剣に手を掛けようとしていたとの事だったので同じモンスターであるミノリも確実に命を狙われると先程からミノリの脳内では赤信号が激しく点灯している……はずなのに何故かその場を一方も動けない。
(あ……あ……まずい、私、ここで、こ、ころ、殺され……)
突然訪れた死への恐怖に対してミノリは声も出せない程に体が硬直してしまったのだが……どうも彼女はミノリに対して剣を向ける様子も殺意も無いようで……。
「……あ、済まない。どうやら驚かせてしまったようだ」
「あ、いえ……、私こそすみません。驚いてしまって」
それどころかいきなり声をかけて驚かせてしまったと思ったようでミノリに謝罪したところから考えるとどうやら彼女はミノリがモンスターだと気がつかなかったらしい。
(あ、そっか……フラグ切り替えの効果で私がモンスターだと気づかなかったのか……あぶなかったぁ……)
女主人公との突然の対面で頭が真っ白になってしまっていたが、現在のミノリはネメがデバッグモードを操作したおかげで仲間キャラという扱いとなっている。その為ミノリがモンスターだという事に彼女は気がつかなかったのだろう。
ひとまずすぐに殺される心配は無いとわかったので九死に一生を得たような気分になったミノリ。しかし、下手に刺激しない方がいいと身のためだとミノリは判断して、平静を保ちながら彼女の話を聞く事にした。
「……と、ところで、一体私に何の用なんでしょうか?」
「実は今捜し物をしていてね……」
一体何を探しているのだろうか。ミノリは続けて彼女に尋ねた。
「えっと……一体何を探しているんでしょうか? といっても私もそんなに詳しいわけではないですけど……」
「実は探しているのは……モンスターなんだ」
「……へ? モンスター……ですか?」
その理由がわからず、つい聞き返してしまったミノリ。
「ああ。この辺りにしか出現せず、さらに滅多にお目にかかれないというとても珍しいモンスターがいるはずなんだ。 目撃談かなにかを聞いた事はないかな?」
「えーっと……なんでまたそんなモンスターを探しているんですか……?」
なぜだかイヤな予感がしだしてきたミノリだったが、それでも平静さを崩さないように続けて尋ねると、彼女は一冊の書物を取り出してミノリに見せた。
「これは私が先祖から受け継いできた『モンスター図鑑』と呼ばれる不思議な書物で、所持している者が、この図鑑に載っていないモンスターに遭遇し、倒したり鑑定する事で空白だったページが埋まるというものなんだ。
私が受け継いだ時点でもう殆ど埋まっていたんだが、その中であと一枠、どうしても埋まらない部分があって……私はそのモンスターを倒してこのモンスター図鑑を全て埋めるべく旅をしているんだ。
前後に載っているモンスターが、今日初めて来たこの辺りに棲息しているのを確認したから、恐らくその最後の一枠にあたるモンスターも同様にここで見つかるとにらんでいるのだが……」
(あと一枠……あれ? そういえば……)
彼女の話を聞いて、ミノリが突然思い出してしまったのは前世のミノリが死ぬ直前の出来事。
前世のミノリは、土砂崩れに巻き込まれて死ぬ直前までモンスター図鑑をコンプしようと周回プレーでこのゲームを遊んでいた。
そして何時間も掛けて、最後の一枠であり、今のミノリの姿である『ダークアーチャー』に遭遇したのにも関わらず、鑑定魔法を唱えただけで倒さずに『逃げる』を選択した。
何時間も掛けてやっと遭遇したのに倒さず逃がしてしまった自分に対して何してるんだろうと呆れながら独り言ちた後、寝る為にセーブをしようとする直前に地震と土砂崩れに巻き込まれ命を落としてしまった。
(私、折角何時間もかけて図鑑を全部埋めたのにセーブする前に死んじゃってる!! ということは待って待って、もしもこの世界がその時の事に影響されているんだとしたら、最後の一枠ってつまり……!!)
ミノリはその事を思い出した事で気がついてしまった。
『彼女の目的が自分である』と。




