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123. 14年と6ヶ月目 誕生日と供養とおんぶ。

「ママ、お誕生日おめでとー!!」

「祝  かあさん生誕祭」


「うん、2人ともありがとう」


 今日はミノリの誕生日。


 ミノリに誕生日があるとトーイラたちが知ったのが昨年だったが、昨年の誕生日当日はリラの体調が優れずパーティーは中止となった為、実質、今日が初めてのミノリの誕生日パーティーとなった。


 今年こそは盛大に祝いたかった2人だったが、ミノリから既に『ちゃんと前日は寝る事』『過剰にしない事』と釘を刺されてしまったため、比較的おとなしめのお祝いの言葉から始まり、その甲斐もあって昨年に比べミノリのココロは非常に穏やかだった。


「かーさま、おめでと」

「お姉様、おめでとうございます!」


 続けてリラとシャルのお祝いの言葉。昨年は寝付けなかったネメに散々な目に遭わされてしまったシャルだったが今回はちゃんと眠らせてもらえたようだ。


「今日は料理は一部ネメお嬢様やトーイラお嬢様やリラちゃんに手伝ってもらいましたが、殆どは私が作りました。皆さんいっぱい食べてくださいね!」

「わぁ……、シャル、本当に料理上手になったよね。スライム食べて戻してたのが嘘みたい……」


「ちょ! お姉様それは言わない約束です!!」

「あはは、ごめんごめん。それじゃ早速いただくとしようかな」


 そう言うと、すぐさまシャルの料理を口に運んだミノリ。既に家事はお手の物となったシャルの料理は見た目通り、非常に美味であった。


 そしてそのまま、和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気に包まれながら、みんなでシャルの作ってくれた料理に舌鼓したつづみを打っていくと、やがてすべての皿の上から料理が無くなり、そろそろパーティーがお開きにしようかとミノリが思い始めた頃、席を立ったリラが何かを手にしながらミノリの傍へとやってきた。


「かーさま、お誕生日おめでと。……これ、あたしからかーさまにプレゼント」


 もじもじしながらミノリにリラが渡したのは一枚の絵。


 絵に描かれていたのは、褐色の肌とエルフのように長い耳を持つ似顔絵で、それがミノリなのは誰の目にも明らかであった。


「わぁ! これ私かな?」」


「うん。それでね……あたしが描いたこの絵もあそこのおねーちゃんたちの絵のように一緒に飾ってほしいの」


 そう言いながらリラが指さしたのは壁に貼ってあった2枚のミノリの似顔絵。


 貼ってから既に十数年が経過している為、色褪せの度合いが以前よりも強くなってしまっており、作者であるネメもトーイラからすれば幼い時に描いたつたない絵なので恥ずかしいという思いから前々からミノリに外してほしいと訴えている代物なのだが、ミノリは決して外そうとはせず、それどころかシャルに色を直す方法は無いかと尋ねるほどに大事な宝物だった。


「うん、一緒に飾らせてもらうね。ありがとう、リラ」

「えへへー」


 プレゼントを受け取ったミノリからお礼を言われながら、頭を優しく撫でられたリラの顔に笑みが溢れた。


 そして次はトーイラとネメからのプレゼントのようだったが、2人は何も手にしていない。一体何をプレゼントするのだろうかとミノリが考え始めていると……。


「最後は私たちのプレゼントだよー! ママ、外に行こ!」

「私たちのプレゼントはとてもでかい」


「え゛? そんなにでかいの!? 一体何を……」


 どうやら2人のプレゼントは大きすぎて家の中に入らないらしい。


 一体何をプレゼントするのかミノリは見当もつかず、もしもキテタイハの町にある邪神像のようなものだったらどうしようかと、ひきつりそうになる表情筋をなんとか抑えながら何をプレゼントするのかミノリは2人に尋ねたが、その答えは返ってこない。


 それどころか……。



「というわけでママ、外に行こ!」

「森の外へ」


「森の外!? って、ちょっとそんな慌てないでトーイラ、ネメ!」


「あ、待っておねーちゃん。あたしも行くー」

「私も行きます、ちょっと待ってください2人ともー!!」


 ミノリは2人に手を引かれながら家から連れ出され、リラとシャルも3人の後を追いかけたのであった。



 ******



「えっとトーイラ、何処まで行くの? もう森を抜けちゃったんだけど……」


 トーイラを先頭に、暗い森の中を小さな灯りだけを頼りにミノリたちが歩いていくと、やがて森を抜け、近くの丘まで来たところでトーイラが足を止めた。今日は雲一つ無い夜で、満天の星が上空でまたたいている。


 どうやらここが目的地らしい。


「ちょっと待ってておかあさん、私すぐ準備してくるから」

「準備……? それって一体……ってもういない……」


 みんなを守るように最後尾にいたネメはそう言うと、ミノリが何を準備するのか尋ようとする前にミノリたちから離れ、あっという間に姿を消してしまった。


「準備完了」

「わっ、早い!?」


 ……と思う間もなくネメはすぐに戻ってきた……ヤワニクウルフを始めとした数匹の獣型モンスターを引きずりながら。


 しかしこの段階ではまだ2人が何をプレゼントするのか皆目見当もつかず、ネメにミノリは尋ねた。


「えっと……そのモンスターは? 多分これがプレゼントじゃないってのはわかるけど……」

「これはおかあさんへのプレゼントの為に必要な代物」

「うーん……?」


 チラリとミノリが横目で獣型モンスターを見る限りではまだ生きているようだったが、どうやらネメに麻痺魔法を掛けられているようで、一切抵抗する様子を見せない。


 しかしこれで一体何をするのだろうか? ミノリの疑問は積もるばかり。


「それで、そのモンスター……一体どうするの?」


 首をかしげたまま、再度疑問を口にするミノリ。


「それはすぐにわかるよー。それじゃママ、私たちから少し離れた場所から空を見ててー。リラとシャルさんもね」


「え、うん……」

「よーし、ネメお願いねー!」


 トーイラに言われるがまま、ミノリたちが無数の星が宝石のようにちりばめられた夜空を上げると、トーイラの合図の後で聞こえてきたのはネメの気の抜けたかけ声だった。


「わかった、それじゃトーイラいくよ。うおりゃー」


 気の抜けたかけ声とともにヤワニクウルをつかむと、力の限り上空へ投げ飛ばしたネメ。暗くてよく見えないが三百メートルは飛んだだろうか。


 一体その細腕にどれだけの腕力があるのか想像できないが……。



「いっくよー! 光花ひかりばなー!!」


 一番高い位置までヤワニクウルフが飛ばされたタイミングで、そう叫んだトーイラは上空に投げ出されたモンスターに向けて光魔法を放った。


 そしておそらく光魔法がモンスターに当たったと思しき瞬間、上空に鮮やかな光の花が咲いた。


 それはまるで……。



「花火だ……」



 この世界に転生して以来、もう二度と見る事は叶わないだろうとミノリが思っていた鮮やかな光の花が闇に包まれた夜空に鮮やかに咲いたのだ。


「わぁ……すっごい綺麗ですねお姉様!」

「とってもきれい!!」


 シャルやリラにも好評なようで、感動したような表情で2人も花火を見上げている。


 その後もネメがモンスターを掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返し、それに怖じてトーイラが光魔法を当てて花火を咲かせ続けていると……。



「……」



 綺麗な花火を見上げながらいつの間にかミノリは目から大粒の涙を流していた。


 ミノリが前世を過ごした日本では、花火には弔いの意味が含まれている。


 ミノリが前世で死んでしまったのは今から14年半前という中途半端な時期なので十三回忌とも十七回忌とも重ならず、法事とは呼べるかは怪しいが、それでもミノリは前世の自分への供養だと感じたのだ。


「光の攻撃魔法は夜に使うとこんな風に明るくて綺麗だから、こうして光の花みたいにさせればもっときれいになるんじゃないかなって思ったんだー。

 本当は全部一気に投げちゃってから光の全体魔法かけたかったんだけど、それをやってしまうとシャルさんやリラに被害が出ちゃうかもしれないと思って……って、マ、ママ!? ……どうして泣いてるの!?」


「私たちの誕生日プレゼント……ダメだった……?」


 喜ぶだろうと思っていたのにまさかミノリが大泣きしてしまうとは思ってもみなかったようで、顔を青ざめさせながら、何かとんでもないことをしでかしてしまったのではないかという面持ちで、トーイラとネメはおろおろとしだしてしまった。


「ううん、嬉しくて泣いてるんだよ……みんな、ありがとう……」


 2人からの最高のプレゼントに、ミノリは一人感激し、涙を流したのであった。



 ******



 その後、花火を見終わった帰り道、ミノリは眠い目をこすっていたリラをおんぶしながら自宅へ向けて歩き出していた。


 最近のリラはトーイラやネメといる事が多いが、ミノリといる時はおんぶしてもらうのが定位置となりはじめていた。


「それにしてもリラ、飛ぶのが上手になったよね。今も加減して体を浮かしているんだよね」

「うん、あたしの重さあまり感じないでしょ」


 そしてミノリにおんぶをしてもらう際は、羽を動かして体を浮かす練習も兼ねているらしく、現にミノリはリラの体重をあまり感じておらず、むしろ本当に抱っこしているのか疑問に思う程だった。


「まだ飛びながら重たいものを持てないけれど、そのうちかーさまにおんぶしたままかーさまと一緒に空を飛びたいなー」

「え゛っ、それってつまりカニばさみってことだよね……」


 リラの言葉から『猛禽類に捕まって、後は食べられてしまうまでの短い間、最期の空の旅をするように宙を舞う小動物』を想像するミノリ。


 高所恐怖症の上、さらに足でわき腹を強く挟まれてしまうなんて目に遭ってしまったらおそらくミノリは上空で気絶してしまう。


「それは流石に遠慮したいかなー……」

「えー、そんなー」


 残念がるリラだったがこればかりは仕方ない。リラの気持ちに応えてあげたいのは山々だが命の方が大事なのだ。


 背中越しにしゅんとした気配を感じていると……何かを思い出したらしいリラが続けてミノリに小声で尋ねた。


「ところでかーさま。ネメおねーちゃんとシャルおねーちゃんは結婚してるんだよね?」

「うん? そうだけど……」


「それじゃ、かーさまは誰と結婚したの? トーイラおねーちゃん?」

「えっと……私は誰とも結婚してないよ」


「ということは……トーイラおねーちゃんも誰の恋人でもないって事……?」


 リラの口から飛び出したのは隠塚家みんなの結婚や恋愛方面での人間関係。どうやら、トーイラと恋人になりたいという想いから、まずはトーイラがフリーなのか探りを入れたかったようだ。


「うん、そうだよ。……もしかしてリラは、トーイラおねーちゃんに恋しちゃった?」


 勿論ミノリは、リラがトーイラに恋をしている事は既に把握済みだが敢えて知らないふりをした。そうした方が、都合がいいと判断したからだ。


 ミノリがトーイラに聞こえないように小声でリラにそう尋ねたが、リラからは答えが返ってこない。突然背中にあたるリラの体温が上がったような気がしたので、おそらく顔を真っ赤にしているのだろう。


「……うん。だって、あたしの事、光の祝福で助けてくれたもん。助けてくれてから、トーイラおねーちゃんを好きって気持ちがどんどん大きくなってきて……」


 暫くの無言の後で、リラは小さく、とても小さくそうミノリに答えたのであった。


「そっか……その恋、叶うといいね、リラ」

「……うん」


(がんばって、リラ。私はあなたの恋を応援するよ)


 ミノリは心の中でそうつぶやき、まだ幼き三女の恋を温かく見守る事にしたのであった。

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