122. 14年と5ヶ月目 リラのファッションショー。
「かーさまかーさま、見て見てー」
居間で本を読んでいたミノリが、嬉しそうに声を上げながらミノリの名を呼ぶリラの声。その声にミノリが顔を上げると、ミノリにとってはとても懐かしいと思えるものがミノリの目の前にあった。
「わぁ、懐かしい! どうしたのリラ、それトーイラが昔着ていた服だよね?」
「うん、トーイラおねーちゃんが着せてくれたの」
ミノリの視界に入ったのは、幼い頃のトーイラが来ていた衣服に身を包んだリラだった。
基本的に今トーイラが来ている服とあまり変わらないのだが、大人になったトーイラが唯一つけなくなった兎耳のような大きなリボンが頭頂部にあり、それが特にミノリには懐かしく感じたのだ。
「えへへ、似合う?」
そう言いながらミノリの前でターンをするリラ。幼いながらもリラは整った顔立ちをしているのでまるでファッションショーのようだ。
「うん、リラとっても似合っててかわいいよ。……だけどトーイラのちっちゃい頃の服は確か一着だけ残して全部捨てたような……?」
「えっとね、探したら出てきたんだよーママ」
ミノリがリラに尋ねると代わりに答えたのは服の元の持ち主であるトーイラ。
「私も一着だけ残してあとは全部捨てたって思っていたんだけど、リラからが私が昔着ていた服を着てみたいと言われて、焦って探してみたら押し入れにまだ何着か残っていたんだよ。ネメのもあったよー」
無事、リラのお願いを叶えてあげる事ができたようだ。
「だけどリラはどうしてトーイラの服を着たくなったの?」
「こないだ、かーさまがおねーちゃんたちがちっちゃかった頃の写真を前に見せてくれたでしょ? あれを見てたらね、あたしも同じ格好したくなったの。次はネメおねーちゃんの服を着るの」
一人だけ年の離れているリラは当然ながら姉たちが過ごしてきた時間を今から一緒に。という事は勿論できるわけがない。
だから、せめて当時姉たちが着ていた服を自分も着て少しでもその感覚を共有したくなったのだろう。
しかし、リラがトーイラの服を着る上で、ミノリにはある疑問が浮かび上がり、確認のため、リラの背後に回ってみた。
「でもリラがトーイラの服を着るためには……あ、やっぱり穴開けたんだね。よかったの? トーイラ」
吸血鬼であるリラの背中には蝙蝠のような羽がある。その為、リラがトーイラの服を着るためには背中の部分に穴を開ける必要があるのだが、ミノリが見る限り既に穴は開けられ、さらに着脱しやすいようにファスナーまでついており、その服は完全にリラ専用になっていた。
「うん。別に構わないよー。もうこの服は私が着る事はできないから、それだったらリラが着てくれる方が嬉しいし。それに昔の私の格好をしたリラ、とってもかわいいから着せて良かったってとっても思うんだー」
トーイラが望んでしたのなら問題は無いだろう。流石妹思いの姉だけある。
「次は私の服の番。リラおいで」
「はーい」
すると今度は別室から手だけを伸ばしてリラを招く腕が一本。その手の主は勿論ネメで、ネメに呼ばれたリラは導かれるように別室へと消えていき、暫くしてから姿を見せたのはネメと同じ格好をしたリラ。
ネメは昔と殆ど変わらないデザインの服しか持っていないので、完全にペアルック状態である。
「ネメの服も似合うね、リラ」
「へへー」
再びミノリの前でターンを決めるリラ。青紫のローブとリラの薄い水色の長髪が同時にふわりと舞い、その姿はまるで妖精のように愛らしいものであった。ちゃんと羽もあるからより妖精らしく……まぁ、蝙蝠みたいな羽だけど……。
「それじゃ次はシャルおねーちゃんの服着てくる!」
「え? シャルの服も着るの?」
どうやら次はシャルの服の番のようだが……ミノリは少しだけ耳を疑ってしまった。なにせシャルはミノリと同じで成長しないタイプのモンスターであり、出会った頃から全く外見が変わっていない。
その為、リラが着てもぶかぶかなのではと思ったからだ。ぶかぶかな服を着るのもそれはそれでかわいくは見えるが……一応リラにミノリは尋ねた。
「シャルの服って、リラは着られるの? 結構大きいと思うんだけど……」
「えっとね、お願いしたらシャルおねーちゃん、服作ってくれたよ」
なんとシャルはこのためにリラ用の服を作ってくれたようだ。しかしいくらリラが小さいといえど服を一着作るのは時間がかかるはず……一体いつ作ったのだろうか。
「はい! 家事の合間に作らせてもらいましたよ!」
「わっ、シャルもそっちにいたの!?」
ミノリが不思議に思う間もなく、別室からシャルが顔を出した。
「ネメお嬢様とふうふになってから今日までの間、元は服のほつれを直す以外できなかった私ですが、お姉様にみっちりと家事の範疇で刺繍の仕方も教わった甲斐がありました!
……ただ、なんというか、普段着を作る感覚がなくて……むしろ仮装とか変装用の衣装を作っている気分だったんですよね。
それなのに作っているもの自分が普段よく着ている衣装を小さくしただけのものですから、普段から自分は仮装とか変装しているのかみたいな変な感覚が……」
ちょっとまとまりのない言葉だったが、シャルの言いたい事がミノリにはなんとなくだが察せられてしまった。
(トーイラとネメの格好はこの世界では普通に普段着の部類だけど、シャルの格好は魔女の格好そのものだから言ってしまえばコスプレ衣装みたいなものだしなぁ……まぁそれは私もだけど)
ミノリはそのように考えながら、改めてファンタジー色の強い自分の姿を近くにあった姿見越しに見つめるのであった。
******
「かーさま、見て見て-。シャルおねーちゃんとお揃いの格好だよ」
シャルと共に別室に引っ込んでから数分後、そこから現れたのはちっちゃい魔女っ子の格好をしたリラであった。
「わぁ、その格好もとってもかわいい!」
普段着とは違う仮装的な雰囲気は合ったが、背中の蝙蝠羽がある事で、リラの魔女っ子姿がより非常に愛らしいものになり、ミノリが考える間もなくかわいいとリラに伝えると、リラは満足げにシャルから借りた箒を振り回すと……。
「あたし、魔女のリラ。みんな石になっちゃえー☆」
……意外と物騒な事を口にする魔女っ子リラではあるが、実はリラは魔法を使う事ができない。イベント用モンスターである立場上、戦闘を想定した存在ではなく、種族上使えるというだけの吸血以外の攻撃手段が一切無い、非常に弱い存在だ。
その為、先程呪文を唱えるようにリラが言った『石になれ』も別に意味は無い。その発言はおそらく、以前みんなと遊んだ『だるまさんがころんだ』でのトーイラの解釈から出てきた石化するという言葉をたまたま思い出しただけなのだろう。
その後、呪文を適当に唱えてみたり、箒で飛ぶ真似をしたりしていたリラだったが、魔女っ子の真似に満足したのか、今度はミノリの元へとやってきた。
「あのねあのねかーさま、あたし、かーさまにもお願いしたい事あるの」
「ん、なーに……ってもしかして……」
ここまでの流れから、なんとなくリラのお願いがミノリにはわかってしまった。
「私が今着ている衣装と同じ格好をしてみたいとか?」
「うん、かーさま正解! あたし、かーさまともお揃いの格好してみたい!」
「うーん……」
お揃いの格好をしたいというリラの言葉を聞いて腕組みしてしまうミノリ。
それもそのはず、ミノリの衣装は、他の3人の衣装と違って布以外の素材を使っている為、作るとなると時間がかかってしまいそうなのだ。
たとえば胸当てには革、ヘッドアクセサリには謎の石、そして髪飾りは羽というように裁縫だけでカバーするのが困難な部分が多くある。
(リラのお願い叶えてあげたいけど……うーん、どうするかなー……)
少しの間、悩んだミノリだったが……。
「えっと、リラ。私の衣装には革とか石みたいに、布じゃない部分が多くあるから、まるっきり同じように作るわけにはいかないけど……できるだけ似た格好でも構わないかな? それだったら明日までに作ってあげるから」
「はーい!」
というわけでミノリは、リラの為に徹夜してリラ用の衣装を作り上げるのであった。
******
──そして翌朝。
「はい、リラ。これを着れば私と同じ格好になるよ。ただ弓は危ないから一緒には渡せないけれど……」
「ありがとかーさま。早速着てみるね」
夜なべしてリラ用の衣装を作ったミノリから、リラがお礼を述べながら衣装を受け取るとと、早速着替える為にいそいそと寝室へと消えていった。それから数分後……。
「見て見てー、トーイラおねーちゃん、ネメおねーちゃん、シャルおねーちゃん」
ミノリの格好によく似た弓使い風のリラが姿を現すと、トーイラとネメはそのかわいらしい姿に歓喜した。
「わぁ、リラとっても似合う!!」
「とても良き哉」
「えへへー」
歓喜する姉2人と、似合うと言われて嬉しそうなリラをよそに、客観的に自分の姿を見たミノリは複雑な顔をしていた。
(第三者視点で見てみると、私の格好って結構露出度高いなこれ……こりゃ臍女神とか言われても仕方な……いや言うのはやっぱおかしいわ。……まぁデフォルトがこの格好だったし、今更すぎるからもうこのままでいいか……)
今になって自分の露出度具合に改めて気がつくが、もう今更なので気にしない事にしたミノリなのであった。
「それにしても今のリラの姿を見ると、もしも私にも幼い時があったらきっとこんな感じだったのかなぁってつい考えちゃうね。まぁ私は元々この大きさでずっと同じ身長だから幼い時なんて無いわけだけど……」
ミノリがそう呟きながら『もしも自分にも3人と同じような子供時代があったらどんな姿なのかな』と想像しようとしていると……先程のミノリが発言した『私にも幼い時があったら』という言葉に反応してしまったのか、ミノリの傍にいた姉2人の様子がどうもおかしい。
「なるほど……さらにちっちゃいママ……危ない危ない、もしもちっちゃいママなんて見つけちゃったら、後先考えず勢いで拐しちゃいそう……」
トーイラがまるで瞳に渦巻を作るように混乱した危ない顔で危険発言をしたような気がするがミノリは何も聞こえない事にしたので何も聞いていない。
さらにその横でネメもまた小さな声で『おかあさんが今のリラぐらいちっちゃかったら監禁しやすいのに……』などと、これまた危険発言を口にしたような気もしたがミノリは聞こえない事にしたから全てミノリの気のせいという事になったのであった。




