117. 14年目夜② まだ見ぬ孫と過保護なネメの愛情と。
ミノリの孫にあたる、ネメとシャルの娘の話と言ってもまだネメとシャルの間には子を授かったような気配は無く、前にシャルが話していた『女性同士で子供を授かれる体質だが、時間がかかる』と話していたのはどうやら事実のようだ。
だからこそ2人は頻繁に体を重ねているわけだが……。
「前も言ったけど私は2人が幸せである事が私にとっても幸せだから無理はしないでね……って言っても今更か」
「あはは……ご迷惑おかけしますお姉様……。お姉様に指摘されたように、今後私としては寝不足にならない程度にとは思っていますが全てネメお嬢様次第なので……」
「まぁ……確かにネメ次第かもね」
そう答えながら苦笑いを浮かべるミノリ。
ネメとシャルの関係はふうふで間違いないのだが、それと同時にネメが主導権を握っている主従関係でもあるようにミノリは感じている。
2人がふうふとなるよりも前、シャルの気持ちにトーイラが感づいて、ネメにシャルの事をどう思うか尋ねた際に『大きいペット』と答えた過去があるのである意味妥当と言えば妥当だが……。
「ネメはちょっと押しが強くて、私に早く孫の顔を見せたいという気持ちが強いあまりにあなたに無理させちゃっているけれど、あなたを大切に想って守りたいという気持ちも非常に強いから、あなたが本当に疲れている時とかは無理強いはしないぐらいの線引きはするはずだよ。……多分。……私が絡まなければ」
線引きは出来るとミノリは断言したかったのだが、シャルに話している最中に数ヶ月前のミノリの誕生日前夜、まるで遠足前日の小学生のように興奮して寝付けなかったらしいネメはシャルを相手に一晩中……というとんでもない事をしでかしてシャルの目に隈を作らせてしまった事を思い出してしまい、言い切れずについ言葉をボカしてしまった。
「あとは、2人が買い出しに出かけた日の翌日は特にシャルが寝不足のような顔をしている事が多いから、多分買い出しの時にあなたを守るためにネメは気を張りすぎていて、夜に2人きりなるとその反動で行為の時間が長く……というのもあるかもね。私もネメほどではないにせよ、あなたの事が非常に心配だった時もあったし」
「え、私ってばお姉様に知らず知らずのうちに心配をかけてしまっていたんですか!?」
気づかぬうちにミノリを心配させていたとミノリの言葉で初めて知ったシャルは驚いた反応を見せた。
「うん、実は……。だってあなたは人間に襲われるリスクが一番高いし、現にネメと結婚する前に人間に襲われた事あるじゃない。それにシャルはそれ以上強くなる事もできないから、身の安全を優先させて宅配をやめようって私が話したのに頑として拒否したんだもの。顔には出さなかったけど宅配の当日になる度不安だったよ。
まぁ、もう今のあなたはネメという守護神がそばにいるわけだから昔程心配はしていないけどね。ネメからたくさん補助魔法もかけてもらっているんだよね?」
「はい、守備力強化に魔封じ無効、打撃攻撃強化、攻撃魔法強化、あとそれから……もう覚えきれないほどかけられていますね。ネメお嬢様とお揃いの指輪には致死性の攻撃を一度だけ防ぐ効果もありますし……。
というかネメお嬢様の打撃攻撃強化の補助魔法は特に効果が異常すぎて恐ろしいです……非力な私のへなちょこ箒攻撃で地面が大きく抉れるんですよ?」
「え、そんなに!?」
「はい、先日ネメお嬢様を襲おうとしたムスヤクニルドリがいたので私が退治しようと箒で叩いたら……食材に再利用できないぐらいに原形を留めず爆発四散しました。それぐらいの異常さです」
魔法が専門の完全後衛型であるシャルの打撃攻撃は、シャル自身が言うように本当にへなちょこで、相手にかすり傷がつくかつかないかぐらいのショボいものなのだが……その話を聞く限り打撃攻撃強化で何百倍も増幅されていると考えられる。それだけシャルがネメに溺愛されている証拠でもあるのだが……。
(トーイラもだけど、どうしてうちの娘たちはこうも保護対象と認めた相手に対して異常な程に過保護になっちゃうんだろう……って多分私が駆除されそうになったのが引き金だよね。うーん、シャルごめん……)
ミノリは心の中でシャルに謝罪した事を顔に出さないようにしながら言葉を続けた。
「ま、まぁ……それだけネメに愛されているって事だよね。言葉のセンスが独特だし、表情が乏しくて時々何考えているかわからない事もあるけれど、あの子がシャルの事を愛している気持ちは本物だよ」
「……はい」
ネメに愛されているとミノリに言われた途端、シャルは顔を真っ赤に火照らせた。結婚してもう1年以上経っているのに未だに初々しい反応でそんなシャルを見ているミノリも思わずニヨニヨしてしまう。
「私に孫の顔見せてくれるんでしょ? 私もがんばって生きて、生まれるまでにちゃんと孫の名前を考えるからシャルもネメと一緒にふうふとしてこれからも幸せに生きてね。あなたを大切な妹分として見ている私からのお願いだよ」
「はい、お姉様! ……やっぱりお姉様はすごいですね。私みたいなモンスターでも妹分として分け隔てなく受け入れて今日まで家族の一員として大切に扱ってくれたんですから……キテタイハの町でお姉様が女神扱いなのも頷けます」
「んぐっ……」
キテタイハという単語が出た瞬間、変な声と共に苦虫を噛み潰したように顔を曇らせるミノリ。
「女神扱いなのは私としてはすごく困っているからやめてほしいんだけどね……って今更気づいたんだけどあそこの町長をやっているおばあさんも私がいなかったら死んでいたかも。モンスターに襲われていたのを助けたのも私だし……って、うわぁ……」
この世界へ転生して2日目に、モンスターに襲われていたキテタイハの現町長であるハタメ・イーワックを助けてしまっていたミノリ。
ミノリが関わった事で失われるはずだった命を救えたと思っていたのはてっきり娘3人とおそらく、誰かに倒されて既に経験値となっていたに違いないシャルぐらいだと思っていたのだが、実はあの老婆もその中に入っている事にここで漸く気がついてしまった。
「もしかしてあの時、あのおばあさんを助けなければ私は今みたいに女神扱いされずに済んだんじゃないかなぁ……あ、でも助けなかったら町から私を殺そうとする人たちが続々やってきたかもと思うと……うわぁ……消去法の選択肢じゃん……」
「つまり、お姉様が女神扱いになってしまったのは……運命でもあって自業自得でもあると」
「言わないでシャル! 私も今その事実に気づいてすっごく愕然としてるんだから!!」
「大丈夫ですよお姉様!! お姉様は女神様なのは間違いないんですから愕然とする理由なんか何一つありません!!」
「全っ然フォローになってないよ!!」
そんな風に、まるで本当の姉妹のように仲良く話しているミノリとシャルだったが……。
「……ってしまった、もう日付回っていたわ……」
つい夢中になって話していた2人だったが、いつの間にか時計の短針が真上を過ぎている事にここでミノリは気がついた。
「あ、本当だ……それじゃお姉様すみません、私は先に眠らせてもらいますね」
「うん、私もそろそろ眠ることにするよ」
流石に翌朝響くだろうからとおしゃべりを切り上げて眠る事にしたミノリとシャル。先にシャルが寝室へ向かおうと立ち上がって扉のノブに手を掛けようとすると……。
「……あ、でもその前に、ちょっと待ってシャル」
シャルを呼び止めるミノリの声。
「へ? あ、はい、なんでしょうか……って、え!? お姉様!?」
シャルがミノリの言葉に振り向いたと同時に、いつの間にか傍まで近づいてたミノリはシャルを優しく抱きしめた。
「……ありがとうね。本当なら母親である私がリラの事を真っ先に気づかなくちゃいけない事だったのに、この9ヶ月間、私の代わりにリラを助ける方法をずっと調べてくれていたんだよね。
ネメとトーイラが全て持っていった感があるけれど、シャルがいたからこそリラは助かったんだよ。私は本当にあなたのような素敵な妹分を持てて本当に幸せだよ。……でも次からはちゃんと話してね」
「あ……はい、こちらこそありがとうございます、お姉様。そして次からはちゃんと相談しますね。……それではおやすみなさい」
シャルが返した言葉を聞いたミノリはがゆっくりシャルから離れると、シャルは軽くミノリに頭を下げながら寝室へと戻っていった。
「……さて私も寝ようかな……って思ったけど私のベッドは娘たちに使われてるんだった。無理にベッドに入って起こすのも悪いしネメとシャルの寝室に寝るのもちょっと……まぁ今日はここで寝てもいいかな」
ミノリは娘たちを起こさないように寝室から自分の掛け布団と枕を持ち出すとテーブルに枕を置き、掛け布団を羽織るように座り、そのまま目を閉じたのであった。
……ちなみにその翌朝、ミノリは娘たちに『私たちが眠るベッドにこっそり入ってくれて、母娘4人一緒に寝られるのを楽しみにしていたのに』と文句を言われてしまうのは別のお話。




