113. 14年目② あれー……?【挿絵あり】
今回、本文中に挿絵がありますのでご注意ください。
リラから『もう寿命があと僅かしか残されていない』と聞かされたミノリたち。既にその事を把握し、リラを救う方法を調べていたシャルが今日、ようやく手がかりを見つけたようだが……シャルは眉間に皺を寄せたままだ。
「ひとまずはリラちゃんの特異体質を説明する前に、基本的な事の説明から……」
そう言いながらシャルが話したのはこの世界における、魔力と肉体の属性についての事。シャルはウィッチという種族の特性上、相手を1分程見続ければ魔力と肉体の属性を特定する事が出来るそうなので、リラの特異体質にもすぐに気がついたという事らしい。
「この世界に住む誰もが魔力を持っていますが、この魔力に属性があるように、その魔力の受け皿となる肉体にもそれぞれ属性があります。
人間の場合、その人自身が得意な魔法は肉体もその属性である事が基本です。たとえば風属性の魔法が得意な人の場合、肉体も風属性となるようにネメお嬢様は魔力も肉体も闇属性、トーイラお嬢様は魔力も肉体も光属性です。
その一方、モンスターや魔物といった存在は得意魔法に関わらず肉体は必ず闇属性になります。たとえば私の場合、得意魔法は火なので魔力の属性は火ですが肉体は闇属性になります」
シャルの話を娘たちと共に聞いていたミノリは、そこまで聞いてある疑問がふと湧き上がった。
(あれ……もしかしてキテタイハの町にいた頃のネメって、トーイラ以上に差別を受けていたんじゃ……モンスターと同じ闇属性だったわけだし……)
ミノリに保護される前は奴隷のような扱いを受けていたネメとトーイラ。シャルのその話を踏まえるとネメの方がより酷い扱いを受けていたのではミノリは一瞬思ってしまったが、次に出たシャルの言葉で、どうやらそれは関係ないと納得した。
「ちなみにですが、これだけ聞くと闇属性を持つ人間はそれだけでモンスターと同一視され、人間たちの間で差別を受けてしまうように聞こえますが、人間とモンスターとでは魔力の性質が大きく異なっていて、私とネメお嬢様はどちらも闇属性ではありますが全くの別物なので、それだけで差別を受けてしまう事は無いです。
それどころか闇属性は光属性と同様に他の属性よりも魔力が高い上に、覚える魔法の種類も多いので、希少な存在としてとても重宝されます」
シャルから説明された魔力や属性に耳を傾けていたミノリは、なるほどという顔をしながらこの世界をゲームで遊んでいた時の事を思い返した。
(あ、そうなんだ……。確かこの世界を前世にゲームとして遊んだ時も闇魔法の使い手だった仲間キャラも別に差別されていた様子無かったし、それどころか人気者だったもんなぁ。
……ところで、モンスターは全て闇属性って事は私も闇属性なのかな? 魔法全く使えないけど)
フラグを書き換えたことで今は仲間キャラという扱いにはなっているが本来はモンスターであるミノリがそのように考えていると……。
「……ちなみに今までの話から考えるとお姉様も少なくとも肉体は闇属性になるはずなんですが……どういうわけか今も昔もお姉様は魔力を全く感じられないせいなのか肉体もまるで属性が無いような感じなんですよね。
人間でもモンスターでも、果ては植物ですら魔法は使えなくても魔力自体は備わっているはずですしその本体にも何かしらの属性があるはずなのに……今更ですけどお姉様って一体なんなんでしょうかね……」
「存在すら疑問視された!? わ、私の事は兎も角……それで、リラの特異体質っていうのは……?」
突然のシャルからミノリへの疑義の念あり発言である。
謎の存在扱いされてしまったミノリは色々ツッコみたい気持ちになったのだが、今はそれよりもリラの方が大事だからとシャルに続きを話すよう再び促した。
シャルはひとまずリラを救う方法を話す前に、リラの特異体質について説明を始めた。
「あ、ごめんない、話が反れましたね。先程までに話したように、モンスターや魔物の部類であるリラちゃんは本来なら肉体は闇属性になるはずなのですが、リラちゃんの肉体はモンスターや魔物といった存在では有り得ない光属性という特異体質の持ち主なんです。
ただしそれでも、魔力の属性が水とか土とか火みたいな属性だったら問題なかったのですが……リラちゃんの魔力は闇属性でよりによって光属性と最も相性が悪い属性で……」
「……肉体は光で魔力は闇……そうするとリラはどうなっちゃうの?」
言いづらそうにしているシャルに対して、ネメは疑問を呈すようにシャルに続きを話すよう促した。
「……肉体が光属性というモンスターや魔物では特異体質になるリラちゃんは日光に対して完全耐性をもつ等の恩恵がある一方、魔力自体は闇属性なので、光と闇という互いに干渉し合う属性が一つの体に併存する事で常に肉体が拒否反応を示している状態になり、負荷もかかったままになります。
やがてその負荷によって頻繁に体調を崩すようになり、最終的に10歳になる頃には命を落としてしまいます」
(有毒ガスが発生するから混ぜてはいけない酸性洗剤の容器に塩素系洗剤を入れてしまったような状態……なのかなこれ……って、あれ?)
そのように独自解釈していたミノリだったが、今までのリラの行動の中で既に光属性である片鱗は見えていた事をシャルの説明を聞いて今更気がついた。
「もしかしてリラがひなたぼっこを好んで時折していたり、日中外に出歩いても平気なのって……」
「その体質が関係していますね。普通の吸血鬼なら日光に当たったら灰になる性質がありますから……って、え? お姉様もしかしてその事について今まで何も不思議に思わなかったんですか?
リラちゃんがいくら体質のことを秘密にしていたとはいえ、変わってるなーぐらいには流石に思っていると私は思ったんですが……」
「ゔっ……」
まるで『本気で気づいてなかったんですか?』と言わんばかりのシャルが発したトゲだらけの言葉の節々に、次々と心を刺されるような気分になるミノリ。
(どうしよう、多分今のシャル、マジかよって顔してるに違いない、恥ずかしくてシャルの顔見られない!!)
ミノリがシャルの顔を見ないように視線を泳がせていると……。
「こらシャル、おかあさんは全てを受け入れるスタンス。だから日光が平気なリラを全く不思議に思わずにありのまま受け止めたおかあさんを責めるのはお門違い」
「ネメの言うとおりだよシャルさん、でないとそもそもシャルさんとネメの結婚自体受け入れるはずないじゃないもの。人間とモンスターで、さらに同性なんて普通の人なら簡単には受け入れられないはずだし……ママだからこそだよ」
ネメとトーイラの言うように、この世界でも基本的に男女で結ばれるのが普通であり、ネメとシャルのような女性同士が結ばれる事は少ない。その上人間とモンスターでの同性カップルとなると、この世界にはネメとシャルしか存在していない可能性が非常に高いのだ。
そんな、娘たちという名の助け船がミノリに出た事で、シャルも言い過ぎてしまったと気づいたようでミノリに謝罪した。
「あ……そうですよね。ごめんなさいお姉様。自分の悪い癖が出ました」
「あー……いいよシャル、私はなんとも思ってないから。……ただ、本当に全っ然気がついてなかったなぁ…………日光が平気だったのってそういう理由だったの、リラ?」
「う、うん……だけどあたしも、かーさまと初めて会ったのも夕方だったからそれが普通なんだと思わせちゃったのかも」
確かに最初にリラと会った時は夕方で、リラには思い切り西日が当たっていた。てっきりそれが当たり前だとミノリは思っていたがそれこそリラの特性だったようだ。
「ち、ちなみににんにくとか流水とか十字架は……?」
「んーと……それはどの吸血鬼も平気だよ。そんなのに弱かったらすぐ死んじゃう」
一方、日光以外はどの吸血鬼も平気らしい。確かにそんなので死んでいたら命がいくつあっても足りない。
「それで、話を戻しますが……」
随分脱線してしまっていたが、話を戻そうとシャルは言葉を繋げた。
「一つ、リラちゃんの寿命に関して、気になっている事があるんですよね……」
「気になる事?」
「はい。私が調べた限り、リラちゃんのような特異体質を持つ者は命が尽きる半年前ぐらいになると、自力で動くことも出来ない程に衰弱して最期には寝たきり状態になってしまうそうなんですが……リラちゃんは全くその気配が無いんですよね」
確かにシャルの言うように、体調を崩してばかりいた半年前ならいざ知らず、最近のリラは体調がすこぶる良いのが誰の目から見ても明らかで、突然死や事故死でもない限り今のリラには死ぬ要素が全く見えない。
「むしろ元気が有り余っているよね……こないだはだるまさんがころんだして庭を駆け回っていたし……。ちなみにリラはここ最近の自分の体調について何か思い当たることはある?
一瞬だけ心臓が痛くなったとか、激しい頭痛が突然襲ったみたいな事とかそれ以外にも些細な事でもいいから……」
「え、うーん……」
一応リラ本人にも尋ねてみるが、考え込んで思い出さなければならない時点で思い当たる節は無いようだ。一体どういう事なのかと全員が首を傾げていたが、ここでシャルはリラの体にある変化が起きている事に気がついたらしい。
「というか、リラちゃんを今改めて見直したら魔力に光属性が混ざり出しているんですけど!?
意図的にやらない限り有り得ない状態なんですが!?」
「え!? そうなの!?」
シャルが驚いて大きな声を上げたのにつられるように大声を上げて驚くミノリ。
「はい……ですがそのおかげで命拾いしたとも考えられますね。肉体に最適な属性の魔力を宿す事で応急的な延命措置が執られている状態ですので……でも一体どうやって?」
シャルは顎に手を当てると、リラがそのような状態になっている理由を声に出しながら考え始めた。
「今日見た文献には魔力と肉体が相反しあう属性の場合、肉体と同じ属性のものを外部から魔力として体内に取り込んで魔力の属性を肉体の属性に近づける事である程度延命出来ると書いてあったからリラちゃんは光属性の何かを定期的に取り込んでいる状態で……。
魔力に置き換わりやすいものなので、例えば光属性の人物の体液とか……ん? 光属性の体液?」
「それってもしかして……!?」
そこまで話したシャルは自分の言葉で何かに気づき、また、シャルの言葉を聞いたミノリもある人物に視線を向けた。
それは隠塚家に一人だけ存在する光属性の魔力を持つ人物で、その人物もまたミノリの視線とシャルの言葉で何か気がついたのか『あ、あれー……?』と、なんともいえない表情を見せた。そして……。
「えっと、ママ……もしかしたら、私、かも?」
片方の手で頬を掻き、もう片方の手を小さく手を上げたトーイラが、困ったように笑みを浮かべながら答えた。




