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112. 14年目① リラの告白。


 ネメとの買い出しや家事などを終えた空き時間、シャルは書庫で、調べ物をしていた。


「この本には……ダメだ、やっぱり載ってない。こっちの本は……こっちも無い……」


 シャルが調べていたのはリラを救う方法。


 10歳を越えて生きることが出来ない特異体質のリラを救うべく、リラが家族となった日から今日までの9ヶ月間、ずっとその方法を探していたのだ。しかし、状況はかんばしくないようだ。


「どうしよう……まだ調べていない本がもう僅かしか無い……このままじゃもう万策尽きちゃいそう……」


 この書庫にある本は、モンスターであるシャルの私物が殆どで、人間社会においては禁書に該当するようなものばかりだ。

 当然ながら人間の町に流通している事はまず無く、モンスターや魔物などの中でも、知性が人間と同等以上ある者たちしか所持していない書物が殆どで、易々(やすやす)と入手できるものではない。


 さらにシャルが調べているのはモンスターたちの間でもにえとして扱う以外では忌避される存在であるリラのような特異体質の存在を延命させる方法だ。

 ただでさえ自己中心的な者が多いモンスターがそもそも毛嫌いする存在である特異体質の持ち主を助けようという事自体、前例が無いのかもしれない。


「この本もダメ……あとはもうこれだけ……これにも載ってなかったらもうお手上げですよ……」


 最後の本を手にしたシャルがひもといていくと……。


「……あっ!! あった!!」


 どうやら過去にも特異体質のモンスターを救おうとした奇特な存在がいたようだ。シャルが期待に胸をおどらせながら読み進めていったが……。


「……あ、ダメだ」


 その方法がわかった途端、シャルは悲しそうな顔をしながら本を閉じた。


「こんな方法ができるのなんて……世界に一人いるかどうかじゃないですか……ってしまった。そろそろお昼の準備しないと」


 本日の昼食担当が自分だったことを思い出したシャルは、諦めた顔をしながら書庫を後にした。



 ******



「そういえばもう三日後かぁ、2人が20歳になるのは」


 ミノリがそう言いながら見ているのは赤丸で囲んだ日付のあるカレンダー。その日はトーイラとネメの誕生日で、双子である2人は20歳になる。


「今までは大人と子供の境界という感じだったけど、流石に20歳になったからには流石に子供扱いするのはやめた方がいいのかなぁ……いや、でもなぁ」


 ミノリは一瞬だけこれからは2人のことを大人として扱おうと考えたのだが、すぐにその考えを引っ込めてしまった。


「多分だけど、トーイラを大人扱い……というか娘としてじゃなく一人の女性という対等な立場として扱った瞬間、猛烈アタックされそう……。気持ちは嬉しいし、娘じゃなかったらその気持ちに応えてあげたいと思う所もあるけどやっぱり私にとってトーイラは娘なのは変わらないし……」


 確実に杞憂で終わるような事をミノリが一人思い悩んでいると……。


「かーさま、カレンダー見ながら変な動きしてどうしたの?」


 ちょっと毒を含んだツッコミをしながらリラがミノリに尋ねてきた。


「ぐっ……え、えっとね、動きは特に関係ないよ。ただ三日後はトーイラとネメの誕生日なんだ」


 純粋だと思っていたリラの鋭いツッコミに若干たじろいでしまったミノリだったが、たまたまだろうと思いながらリラの質問について答えた。


「トーイラおねーちゃんとネメおねーちゃんって、同じ誕生日なんだね」

「そうだよリラ。2人は双子だからね。その日は2人の誕生日のお祝いをするんだけど、リラの誕生日も確か来月だよね。その時はみんな揃ってリラの誕生日をお祝いするから楽しみにしててね」

「あ……」


 その話を聞いた瞬間、リラは言葉を詰まらせた。



 来月、自分は10歳になる。そしてその日を迎えてしまったら、もう僅かしかこの家に自分は留まることができない。


 その理由は勿論……間もなく自分の命が尽きてしまうから。


 今までなるべく考えないようにしていたのに、『ようやく手にすることの出来た幸せな日々に終焉の時が近づいている』という事実を突如として突きつけられ、やっと手にすることの出来た幸せがその手をすり抜け、そのまま深い谷底へと落とされてしまったかのような錯覚に陥ってしまったリラは、その途端その瞳から大粒の涙を流し、嗚咽おえつが止まらなくなってしまった。


「ちょ、どうしたのリラ!?」

「ごめ、ごめんなさいかーさま。あたし、あたしかーさまたちに話してない事、あるの……」



 ******



 慌てたミノリが、ネメたち全員を今に呼び寄せるとリラは嗚咽おえつ混じりに、ミノリたちに話した。

 自分は特異体質の為に、間もなく死んでしまう事、そしてその特異体質こそが、自分がにえとして幽閉され、他のモンスターから虐待とも言えるべき状態になった要因でもあるという事。


「ごめ、ごめんなさい……かーさま、ネメおねーちゃん……。あたし、こわかったの……こんな出来損ないのあたしでも、みんな絶対あたしを見捨てたりしないって、一緒に暮らしてる内に、わかってたのに。それでも、それを口にしちゃうと……もうこんな日々が、終わっちゃうって、こわくて……」


 リラは今の今まで恐怖のあまり言い出せなかったのだ。自分の死について口にした瞬間に、今までの関係が壊れてしまうこと、そして自分の時だけがやがて先に止まってしまい、思い出の中だけの存在になってしまうことが……。


「そんな……もっと早く教えてくれれば良かったのに……私たちは絶対にリラを見捨てたりなんてしないのに……」


 ミノリは言葉を失ってしまった。三女としてリラを迎えて9ヶ月。確かに家族としての付き合いは他の誰よりも短い。しかし既にミノリにとっては……いや、家族全員にとって、既にリラは大切な家族の一員なのだ。


「リラのバカ」


 リラのことを怒りながら抱きしめるネメ。その目には涙が溢れていた。


「私たち、もう家族なんだよ。頼ってくれなかったのは……逆に、辛い」


 ゲーム本来の2人の関係がこちらの世界にも夢という形で噴出した事により、一度、2人は確執になりかねない関係になりかけた事もあったが、それを乗り越え今ではお互い大切な姉妹として今日まで過ごしてきた。それなのに、今日の今日までそんな大事なことを秘密にされていた事がネメはとてもくやしかったのだ。


 ミノリとネメがそのような反応をしながらリラを抱きしめる一方……。


「ごめんなさいお姉様、ネメお嬢様。私はその事をリラちゃんから聞いていたのですが、口止めされていました」

「私も……シャルさんが何か隠し事してるのに気がついて問い詰めたら……」


 シャルとトーイラは今まで黙っていたことを2人に詫びた。2人は今日までの間、なんとかリラを救おうとする方法を調べていたみたいだが状況は好転しなかったようで、特にトーイラはお手上げ状態だったらしい。


「私も色々調べようとしたんだけどそもそも人間側にはそんな資料があるはずは無くて……結局シャルさん頼りになっちゃった。そもそもリラの寿命があと僅かって事に気を取られて、リラがどういう特異体質なのか聞いてなかったってのもあるけど……」


 そもそもリラは本来、にえとして人間と敵対する……どころかこの世界を闇で覆い、人間を滅ぼそうとするラスボスになってしまう存在だ。 

 人間にとって脅威以外の何者でもない存在を救おうとする素っ頓狂な思考を持つ者が人間にいるはずがなく、そんな事をするぐらいなら、闇の祝福を与えられる前ににえである内にリラを殺してしまった方が手っ取り早いのだ。


「私もこの9ヶ月、ずっとどうにかできないか家事の傍ら、文献を読み漁っていました。そのおかげで今日、ようやく手がかりを見つけられたんです。ただ……」


 一方のシャルは、リラを救う手段をなんとか見つけたらしいのだが、そこまで話すと急に黙ってしまった。言いづらい内容だったのだろうか。


「ただ……どうしたの?」


 ミノリは、黙したシャルに話の続きを促すように尋ねた。


「リラちゃんの救う方法はありましたが……実行するのが難しい非現実的な方法だったんです」


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