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111. 13年と11ヶ月目 だるまさんがころんだ。

「あれ、リラの姿が見えないや。リラー、どこにいるのー?」


 リラに新しい服を作るためにミノリが採寸しようとしたのだが、先程まで部屋にいたはずのリラの姿が見えない。何処に行ったのかなと思いながらミノリはリラの名前を呼んでみた。


「かーさま、呼んだ?」

「わっ!? リラそこにいたの!?」


 するとミノリのすぐ近くのテーブル下からリラが顔を出した。まさかそんなすぐそばに隠れているとは思ってもみなかったミノリは思わず驚いて跳び上がってしまった。


「えへへー。かーさまって驚くと小さくジャンプするんだね」

「あはは……見られちゃった。うん、私、驚くとつい跳び跳ねちゃう癖があるんだよね……」


 ミノリはそう答えながら照れ隠しに頬を掻いた。


 それにしても最近のリラはほんの数ヶ月前まで、体が弱いのではと心配になる程に頻繁に体調を崩していたのが信じられないほどに元気が有り余っている。


 出会った当初は非常におどおどとしていた事もあってミノリはてっきり内向的な性格かと思っていたのだが、この元気で腕白で軽いイタズラまでしたがるのがどうやらリラ本来の性格らしい。


「ま、元気なのはいいことだよね。それじゃリラ、新しい服を作るために体を測らせてね」

「はーい、それが終わったらお外で遊んでもいい? あたし、お外で遊びたい。かーさまも一緒!」


 体力も気力も満タン状態と呼べそうな程にハイになっているリラ。体を動かしたくて仕方ないのだろう。それならば付き合ってあげるのが親の役目だとミノリは考え、一緒に遊ぶことにした。


「うん、採寸が終わったら私も一緒にお外で遊んでいいけどー……リラは何をして遊びたいのかな?」

「わかんない!」


 何か遊びたいけど何で遊びたいかわからない。気持ちはわかる。

 しかしミノリからすれば、たまたま今日は元気……を通り越してハイ状態にリラはなってはいるがそれでもやはりリラの体調には不安要素が多い。

 突然体調が悪くなる可能性を捨てきれない事も考慮すると、やはり家周辺で遊ぶのが妥当だろうとミノリは判断した。


「そっかぁ、それじゃ家の周りで何をして遊ぶか考えようか」

「おかーさん、私も一緒に遊ぶ」

「私も私もー!!」

「あ! ネメおねーちゃんとトーイラおねーちゃん!」


 ひとまず外に出てから何をして遊ぶか考えようかとミノリがリラに話していると、今日は買い出しが休みのネメと洗濯を終えたトーイラも、一緒に遊びたいとミノリたちの元へやってきた。


「それじゃリラ、みんなと遊ぶって事でいいかな?」

「うん!」


 リラの承諾を受けて、ミノリと娘全員で遊ぶことになったのだが……如何いかんせん何で遊ぶかがまだ決まっていない。ミノリは何で遊べばいいかしば逡巡しゅんじゅんすると、この場に最適な遊びを思い出し、みんなに提案してみた。


「うーん、みんなと一緒に遊ぶ……あっそれだったら『だるまさんがころんだ』しようか?」

「ダルマサンガコロンダ?」


 ミノリの口から出た聞き覚えのない言葉を耳にし、リラは右手の人差し指を顎に当てながら首をちょっとかしげた。あざとい。

 トーイラとネメが幼い時にもだるまさんがころんだで遊んだ事は人数の関係上で無かった為、初めて聞いた2人もどんな遊びなのか知らず、不思議そうな顔をしている。


「えっと、だるまさんがころんだという遊びはね……」


 ミノリはリラたちに遊び方を説明した。比較的単純な部類の遊びに入るため、3人ともすんなりとルールを理解したようで、その中でトーイラはというと……。


「つまりゴーゴンみたいな石化能力を持つモンスターが『ダルマサンガコロンダ』って呪文を唱えてる間に討伐隊は近づいていって、ゴーゴンが振り向いたら動かないようにする。

 ゴーゴンが振り向いた時にも動いちゃっていると睨まれてしまって体が石化して動けななくなっちゃう。石化した人はアウトになってゴーゴンに連れていかれちゃう。

 全員が石化して連れ去られないうちに、ゴーゴンの背中に触ると、ゴーゴンを斬りつけて倒したという扱いになって石化も解除されて逃げられる。だけどすぐにゴーゴンは復活して時止めの魔法『ストップ!』を叫ぶと、全員その場で体が硬直してしまう。

 復活したばかりのゴーゴンは10歩しか動けないけど、それに捕まってしまうと今度はその人がゴーゴンになってしまう……みたいな感じだよね?」


 何故かホラー要素の強い独自解釈をしてしまった。


「……うん、一応あってるけど……」


 意味合いとしては大体あってるはずなのだが、何故か子供の遊びが唐突に不穏なものになってしまい、なんとも言えない顔をするミノリ。さらに……。


「ルール把握完璧。 ゴーゴンさんがにらんだ、やろう」


 ネメに至っては新しい呼び名までつけてしまっている。


(ま、まぁ独自解釈しても、名前を変えられてしまっても、遊べればそれでいいか……)


 深くは考えないミノリなのであった。



 ******



 外に出て手頃な場所まで移動したミノリたちは早速だるまさんがころんだで遊ぶことにした。ちなみに遊ぶのは4人だけで、シャルは含まれていない。シャルも家にいるので誘った方がいいのではとミノリは思い、ネメに一緒に遊ばないか尋ねたのだがシャルはシャルで用事があるらしい。


「そういえばシャルは誘わなくて大丈夫だったの?」

「うん、シャルは調べたいことがあるからって朝から書庫に閉じこもってる」

「書庫……って、あぁ、そういえばシャルと結婚してからシャル用に作ったんだったね」


 ミノリ自身はあまり利用しないため印象が薄いのだが、実はミノリたちの家には書庫がある。書庫に保管されている書物の多くはシャルの私物で、かつては北の大陸にある洞窟に住んでいたシャルが、ネメとの結婚を機に持ってきた書物を保管しているのだ。


 人間の世界では禁書と呼ばれたり、焚書ふんしょされたりするような魔導書や禁術書まであるので、魔法の使い手であるネメとトーイラからすると、お宝のような本が多く、よく入り浸っているそうだ。


「まぁシャルがそれでいいのなら別にいいか。それじゃ私が鬼をやるから、みんなはそっちで待機ねー。そしてトーイラとネメは歩き限定でお願いね、あなたたちが本気出して走ったら一瞬で終わっちゃうから」

「はーい」

「合点承知ノ介」


 素直に答えるトーイラと、相変わらず言葉のセンスが謎のネメの返事を受け取ったミノリは、3人に背を向けると……、


「それじゃ……だるまさんがころんだ!!」


 言い切ると同時にミノリは振り向いたが誰も動いている様子は無い。ミノリは再び後ろを向いた。


「……だるまさんが……こ…………ろんだ!!!」


 今度はフェイントを掛けるようにだるまさんがころんだと言いながらミノリが振り向いてみると……。


「……あれ、ちょっと待ってリラ、浮いてるよ!? もしかして飛べるようになったの!?」

「え?」


 なんと飛べなくなってしまっていたはずのリラが自分の羽を懸命に動かして浮遊していたのだ。

 さらにリラ本人も飛べていた事をミノリに指摘されるまで気がついていなかったようで、ミノリと同じように驚いた顔をしながら、動かしている羽を振り向きながら見ている。


「……ホントだ。うっかりつまずいちゃったからジャンプして転ばないようにした時にかーさまがちょうど振り向きそうになってたから、なんとか止まろうと思って急いで羽を動かしたから……」


 驚いた顔をしたままどうして飛べるようになったかを考察するリラ。


「やったねリラちゃん! やっと飛べるようになったんだね!」

「おめでとうリラ」


 横にいた姉2人もまるで自分の事のように顔を弾ませながらリラを祝福した。


「うん、ありがとトーイラおねーちゃん! ネメおねーちゃん!」


 姉2人に祝福されたリラは、飛びながら姉2人の元へ近づき、順番にハグをした。

 そんな、なんとも温かい姉妹愛で包まれる光景を見ていたミノリはというと……。


「……だるまさんがころんだだから、羽が動いてるとアウトになっちゃうんだけど……ここはリラ専用の特別ルールを作った方が良さそう……というか2人にハグするために思いっきり動いちゃっているけどそれも大目に見て……」


 これでリラの羽が動いているからアウトなんてやってしまったら、折角飛べるようになったのに再び飛べなくなってしまうかもしれないと判断したミノリは、リラの飛ぶ練習を兼ねるために、『リラに限り、振り向いた時に羽を動かしたまま飛んでいても羽以外が動いてなければセーフ』という特別ルールで、だるまさんがころんだを続行したのであった。


 そして、これが功を奏したのか、この日を境にリラは再び自分の羽で飛ぶことが出来るようになったのであった。


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