108. 13年と8ヶ月目② ある疑惑と隠し事。
「ここに来たの、ママとネメと一緒に旅行できた時以来だけど相変わらずの盛況っぷりだねー」
非常に珍しい組み合わせでカツマリカウモまで買い出しにやってきたシャルとトーイラの2人。
トーイラは初めて旅行に来た日のことを思い返しながら、町の中をあちこち見回している。
さて、本日2人がやってきたカツマリカウモは商業が盛んで物資も豊富な町だ。
キテタイハのような田舎町でさらに邪教徒集団のアジトと思われているような町とは大違いで見て回るだけでもトーイラにとっては楽しく、暫くの間2人はウインドウショッピングをしながら町の中を散策していたのだが……。
「ねぇシャルさん、なんだか私たちさっきから見られてない?」
先程から町の人が何度も2人の姿をチラチラと見てくる事がトーイラは気になり、シャルに尋ねた。
「あー、これはネメお嬢様と来た時でも同じように見られるのでで仕方ない事だと割り切った方がいいです。
自分で言うと自意識過剰みたいになるのであれなんですが、ネメお嬢様と私はどうやら人間からすると美形の部類に入るみたいで目立ちまくってるんです。
トーイラお嬢様も整った顔立ちをしていますから同じように思われてるかもしれません」
この大陸で一番栄えている場所なので、シャルとネメはここへ買い出しに来ることが一番多いのだが、モデルのような美少女2人が突然やってきたかと思うとイチャイチャしながら町中を練り歩くものだから、シャルとネメはこの町では割と有名だったりするのだ。
「なるほど、そういう事かー……。私、ママ以外興味ないからそんな視線向けられても困るんだけどなー」
そして明らかに迷惑そうな顔をするトーイラ。ミノリ一筋なのは相変わらずのようだ。
「ちなみにだけどシャルさん、ナンパされたりなんて事もあったりするの?」
「あー……ありますね。ただその度にネメお嬢様が殺気を振りまいてすぐに追い払ってくれていました。
中にはそれでもめげずに自分の権力を振りかざしてまで、脅しながら私とネメお嬢様を連れて行こうとするしつこい方もいましたが……ネメお嬢様によって空高く舞い上げられていましたね」
「あはは……ネメならやりそう。ネメってシャルさんを守るためとなると人が変わるもん。それだけシャルさんが愛されているって証拠だね」
「は、はい……改めてトーイラお嬢様に言われるとちょっと恥ずかしいです……」
照れくさそうに笑うシャルだったが……。
「……ただ、今日はいつもと雰囲気が微妙に違うんですよね」
「え? そうなの?」
「はい、いつもは羨望とかなんですが……困惑した雰囲気も混じっているんです」
「……言われてみれば」
確かに2人を見つめる視線は見惚れていると感じるものだけではなく、明らかに戸惑っているような気配もあるのを2人は感じていた。
「……もしかして、私がモンスターだって気づかれたんでしょうか?」
「いや、それだったら殺気立つはずだから多分違うんじゃないかなー」
2人が不思議に思いながら辺りを見回していると……町の人が何か小声で話している。その声に耳を澄ませてみると……困惑した雰囲気が混じっている理由がすぐにわかってしまった。
(あのピンク髪の子、いつも黒髪の子と一緒なのに今日は違う相手……)
(三角関係かな……あっちの金髪の子も美人だし……)
(なるほど浮気……痴情のもつれ……愛憎劇のはじまりか)
不貞を疑われてしまった。
戸惑いの気配が混じっていた理由を理解したトーイラだったが、あまりにも不本意である。その為『違うから!普段来てるのは妹で、この子は妹のお嫁さんだから!』とトーイラは声を大にして否定したかったのだが、こんな事で一悶着起こすのも面倒だと思い、終始我慢しながらシャルと共に買い出しを済ませるのであった。
******
──夕暮れ時。カツマリカウモの町から出たシャルとトーイラは人目につかない近くの森まで歩いてきた。
「今日はありがとうございました、トーイラお嬢様」
「ううん、いいよー。なんだかんだ楽しかったし……不貞を疑われたのはカチンと来たけど」
「あははは……」
明らかに苛立つ様子のトーイラに、シャルは苦笑いを返すことしか出来ない。
「それじゃシャルさん、ママたち待ってるから急いで帰ろっか-」
「そうですね、そうしましょう。それじゃちょっと待ってください。魔法で隠してたほうきを持ってきますので……」
そう言いながらシャルが森の中へ向かおうとしたのだが……。
「でも帰る前に一つだけ聞きたい事があるんだ私」
「? 一体なんでしょうかトーイラお嬢様」
突然のトーイラの問いかけに、シャルは振り返った。
「……シャルさん、何か私たちに隠してるでしょ?」
「ふへっ!? 何でそう思ったんですか?」
思わずドキリとするシャルは、それでも平静を装いながら言葉を返した……が、トーイラはシャルのその僅かな感情の機微を見逃さなかった。
「あ、やっぱりそうなんだねー。だって、何かずっと調べ物してたもん……リラが来てから。一体何を隠しているの?」
そこまで気づかれていたのなら仕方がないと、観念したようにシャルは重い口を開いた。
「もう言うしかないんですよね……ごめんなさい、リラちゃんに口止めされていたんですが……」
「……リラに?」
「はい、実はリラちゃんは特異体質の持ち主で……長く生きられないんです」
「えっ!? ウソッ、リラが!?」
どうせしょうもない事を隠しているのだろうと思っていたトーイラだったが、まさかその隠し事がリラの寿命についてだとは思ってもいなかったようで、大きな声で叫んでしまった。
「はい、それで私はなんとかリラちゃんを延命させる方法がないか調べているんです……」
「もしかして、リラの体調が悪い日が多いのは……」
「はい、関係しています」
「そんな……」
動揺を隠せないトーイラ。家族として迎えられて幸せいっぱいの顔をしたあの幼い少女の寿命が刻一刻と迫っているのだから……。
「リラちゃんは怖かったんだそうです……。折角受け入れてもらえたのに、自分が欠陥品みたいな存在だとわかってしまった途端に捨てられてしまうのが……」
「そんなことしないのに! 私もママもネメも!」
「私もそう思うのですが……それだけリラちゃんの心の傷が深いという事なんでしょうね……」
「……そっか」
これ以上はシャルを問い詰めても仕方ないと判断したトーイラはこの話題を終える事にした。
「でも、解決できないと思ったらすぐに相談してね。私たち、家族なんだから」
「はい……すみません」
「それじゃ帰ろうか、シャルさん」
「はい、行きましょうトーイラお嬢様」
2人は荷物を分担すると飛行魔法で飛び立ち、ミノリたちの待つ家へ針路を向けた。
その帰り道、トーイラは飛びながらあれこれと考えを巡らせていた。それはリラの隠し事についてだ。
(……私、リラのおねえちゃんなんだよ。だから怖がらずに正直に話してくれてもよかったのに……絶対にリラの事、見捨てたりしないのに……)
トーイラは、リラが一人重い悩みを抱えていた事に対し、今まで頼ってくれなかった事に少しやきもきしながらシャルと共に家路へと急ぐのであった。




