107. 13年と8ヶ月目① 珍しコンビの買い出し紀行。
R15要素があります。苦手な方はご注意ください。
「おかあさんどうしよう、リラが私にしがみついたまま寝ちゃって買い出しに行けない」
「え? あれ、本当だ」
今日はネメが買い出しに行く予定の日。買い出しに出かける時間は大体決まっていたので、それまではリラと遊ぶ事にしたネメがリラと遊んでいたのだが、まだ体力の少ない子供であるリラは、まるでネジの切れたおもちゃみたいにネメに抱きついたままリラが突然寝落ちてしまった為、ネメは身動きが取れなくなってしまった。
あまりにも気持ちよさそうに眠るリラに対して、困った顔をしながらミノリに助けを求めるネメ。
「どうしようかな……ここまで気持ちよさそうに眠っているのをなるべくなら起こしたくないよね。でもこのままじゃネメは買い出しに行けないし……」
ネメと一緒にどうしようかとミノリが悩んでいると、意外な人物から助け船がやってきた。
「それじゃママ、私がネメの代わりにシャルさんと買い出しに行くよー」
今日は手の空いていたトーイラがネメの代わりに買い出しに行くと申し出てくれたのだ。
「え、いいの? トーイラ」
「うん、いいよー。シャルさんさえイヤじゃなければだけどね。私、シャルさんとも時々は2人きりでおしゃべりしたいしー」
もう幼い頃にトーイラがシャルに対して持っていた蟠りもすっかり消え失せ、話す機会こそ少ないものの今では関係も良好の2人。
ネメの姉と嫁という関係なので一般的には義姉妹という関係になるのだが、どうもお互いにそのようには思っておらず、2人とも家族の一人という大きな括りとして捉えているようだ。
「そっかぁ。それで、シャルはどうなの?」
「はい。私も構いませんよ。私もトーイラお嬢様とお話ししたいですし」
シャルもOKならば問題はないだろうと判断したミノリは、ピンチヒッターとしてトーイラに買い出しをお願いすることにした。
「それじゃトーイラ、悪いけどネメの代わりに買い出しお願いね。シャル、トーイラのことよろしくね」
「はーい、それじゃ行こうシャルさん」
「はい。トーイラお嬢様」
ミノリに元気よく返事をしたトーイラは、シャルの手を取るといそいそと玄関へと向かっていった。
というわけで、本日はシャルとトーイラという珍しいコンビが買い出しに出かける事になったのであった。
******
「トーイラお嬢様、すごいですね。前にキャンプ行った時に飛んでから一度も飛んでいないんですよね? 全くブランク感じられないです」
「そう? シャルさんに褒められるとちょっと嬉しいなー」
家を出た2人は飛行魔法を使って空へ飛び立つと目的地へ向かってまっすぐ向かい始めた。買い出し担当でなかったトーイラはシャルに教わってからあまり飛行魔法を使う機会が無かった為、キャンプの時以来本日が3度目の飛行魔法となったのだがそれにも関わらず飛行魔法を難なくこなせている。
その後も暫くは飛行魔法の事であれこれ話していた2人だったが……。
「──ところでシャルさん、今この場にいるのは私とシャルさんだけだからこそ色々聞きたいんだけどー……」
突如トーイラの顔色が妖しく変化した。それはまるで獲物を狙うハンターのような目で、思わずシャルは身動いでしまった。
「ひほっ!? は、はい、なんですか?」
すごく動揺するシャル。
「あ、ごめんシャルさん、驚かすつもりは無かったの。えっとね、シャルさんに聞きたかったのはー……ネメとの夜の事」
「あーなるほどー……って夜!? 夜ってそれはえっと!? つまり!?」
「ふうふとしての夜の事だよ。どうなの?」
「あ! やっぱりそれですよね!?」
聞かれると思っていなかったネメとの夜の営みについて聞かれ、顔を真っ赤にするシャル。
「具体的にはどんな事してたりするの? やっぱり私も気になっちゃうんだよねー」
「え、えーとー……、ネメお嬢様には内緒ですよ? えっと……」
──それから暫くの間、2人の間の空気は桃色一色に染まったような雰囲気であった。
「なるほどねぇー、ありがとうシャルさん」
シャルから話を聞いて満足したらしいトーイラが、笑顔でシャルにお礼を述べた。それに対してシャルはというと……。
「うぅーん……、ついいらない事まで話しちゃった気がする……。ローブを絶対外そうとしない事とか緊縛が好きみたいな性的嗜好まで……」
ちなみにネメの緊縛という性的嗜好は、幼い頃にネメが唱えた植物魔法に絡みつかれて身動きの取れなくなったミノリによってついてしまったものだ。
決してミノリは悪くないはずなのだが、ネメにその性的嗜好を植え付けてしまった事がシャルにまで影響を及ぼしている事などミノリは当然思うはずもないのであった。
「それにしても結構遅くまでイチャイチャしてるんだねー。言われてみれば確かにシャルさん、朝は特に疲れてる感じするよねー。疲れ取れきれないの?」
「まぁ、そう……ですね。私の体内に魔力を注ぐために、ネメお嬢様がなかなか寝かせてくれないことが多いので……」
「ふーん……でも、そんなネメの事好きなんでしょ?」
「勿論です」
流石長年ネメに片思いをし、それを成就させたシャルなだけあって、あまりにも見事な即答であった。
そんなあまりにもまっすぐな視線を向けられたトーイラは、ほんの少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔を見せ……。
「本当にネメは良いお嫁さんをもらったねー。ネメの姉として私も嬉しく思えるよー。シャルさん、これからもネメの事よろしくね」
「は、はい! トーイラお嬢様!!」
先程までの桃色一色状態はどこへやら。和やかな雰囲気になった2人は目的地へと向かうのであった。
******
それから30分ほど飛び続けていると、小さな村が眼下に2つ、2人の視界に入り始めた。このうちの片方が本日の目的地なのだが……一方が栄えているように見えるのに対して、もう一方の村は遠くからでも寂れているのが丸わかりだった。
「シャルさん、町が見えてきたけど、あっちの左に見える方が目的地?」
「はい、そうですよ。あそこが今日の目的地のカツマリカウモです」
トーイラが指さしたのは上空からでも明らかに栄えているとわかる左側の村。そして当然目的地はそちらの方である。ちなみにもう片方の村がワンヘマキアである。
「懐かしいなー。ママたちと一度来た時以来だよ」
トーイラが初めて旅行した日のを懐古していると……。
「それじゃトーイラお嬢様、少し距離はありますけれど手前の森で降りますね。私、変装しなくちゃならないので」
「あ、そういえばそう言ってたね。わかったよー」
目的地であるカツマリカウモが見えてきたところで、シャルとトーイラはその近くの森に降り立った。
「それじゃ少し待っててください。今変装しますから」
シャルがトーイラにそう伝えてから茂みの中に隠れて暫くすると、なにやら衣擦れの音が聞こえてくる。どうやら変装するためにシャルが服を脱いでいるようだ。
「そっかー……シャルさんは毎回こんな風に変装しなくちゃいけないんだねー……ってこんな寒い日でも防寒具を重ね着するわけじゃなくて脱いで別の服を着るの!?」
トーイラが口にしたようにさらに今の季節は秋と冬の境目だ。幸い雪はまだ降ってはいないとはいえ、屋外で着替えるのはかなり大変だろう。
「はい、でも町へ行く度におしゃれができるという風に捉えたら、これはこれで悪くないかなーって最近は思うようになりましたねー。……寒いのはやっぱり辛いから急いで着替えないといけないですが……」
流石、モンスターとはいえおしゃれ系女子のシャルだけあっておしゃれの為なら冬の屋外で着替える事も辞さない。
「すっごいなぁシャルさん……。私、おしゃれ自体興味ないからそんな風に真似できないもの」
「私としてはトーイラお嬢様だけでなく、ネメお嬢様やお姉様もリラちゃんもっとおしゃれをしてほしいと思うんですけどね……本当に勿体ないと思っています……と、お待たせしましたトーイラお嬢様」
その言葉を合図に茂みの中からニットコートとタイトミニスカートに身を包んだ可愛らしい少女が姿を現した。足はタイツを履いた事でセクシーさが加算され、さらに耳を隠すために被った帽子もいいアクセントとなっており、あまりにも素晴らしいコーディネートに思わずトーイラもドキッとしながら少女に釘付けになってしまっている。
「あれ、トーイラお嬢様どうしました……って、そういえばこの格好、トーイラお嬢様が見るのは初めてでしたよね」
「はぁー……シャルさんって、やっぱり美人だよね。昔はあんなに頭の中までピンクで残念キャラそのものだったのに」
「ひどっ、トーイラお嬢様ひどいです!」
「えー、だって昔ママの椅子になるとかおぞましい事言って私たちにお尻蹴られてたじゃん」
「それを言うなら、ネメお嬢様がうっかりを装って私を弓で射ち殺そうとした時にトーイラお嬢様も『惜しい!』とか言った事ありましたよね?」
「あれは本当にごめんなさい!」
「いえいえ昔の私こそすぐに暴走してしまってすみませんでした!」
「「…………クスッ」」
「アハハハハ、ごめんシャルさん」
「いえ、こちらこそすみませんトーイラお嬢様。私こそなんだか面白くなっちゃって……」
何故かお互いに罵り合っていた2人だったが、お互いに謝罪をし合った後に、無言で見つめ合っていると、次第に2人とも笑い出してしまっていた。
もう2人ともそんな思い出もすっかり笑い話に出来るほどに親しい間柄になっていたようだ。
「あー、楽しかった。それじゃ町に入ろっかシャルさん」
「はい、トーイラお嬢様。そしてすみません、念のため手を繋いでもらっていいですか?」
「えっと、別にいいけど……なんで?」
家族という間柄ではあるが手を繋いで町中を歩く、というのはふうふであるネメの役割ではないかと不思議に思うトーイラであったが、その理由をシャルが続けて話した。
「トーイラお嬢様は確かネメお嬢様と同じように『げーむういんどう』とかいう透明な板が見えるんですよね。それを見てもらえればわかると思うんですが、敵一覧で私の名前が薄くなっているのはわかりますよね」
「えっとー……あ、うん、言われてみれば確かに前より薄くなってる」
「そしてもう一つ、トーイラお嬢様の所持品の一覧を見てください」
「うん……あれ? なんで私シャルさんを所持したことになってるの?」
少なくともミノリの名前が敵一覧から消えてからはすっかり意識をすることがなくなっていたゲームウインドウに意識を向けたトーイラが自分の所持品を見てみると、何故かシャルの名前が加わっていた。シャルは『物』ではないのに何故と不思議そうな顔をするトーイラ。
「私はネメお嬢様と結ばれて、そのネメお嬢様の魔力を体内に注がれたことで今はネメお嬢様の装備品という扱いみたいになってるんですよ。トーイラお嬢様の所持品に名前があるのは、ネメお嬢様が貸しているからという扱いになってるからみたいなんです。道具扱いなので周りの人から見たら奴隷というポジションが一番近いかもしれませんね。
そのおかげで私はモンスターであると気づかれなくなったのですが、本来の所持者であるネメお嬢様がここにいない以上、こうして手を繋いで所持した状態を保っていないと、手が離れた瞬間に私がモンスターだとバレてしまう可能性もあるかもしれないんです」
ミノリがネメに聞こうとしてすっかり忘れていた事、それを今シャルがトーイラに話していた。
このゲーム開発時の初期段階でボツとなった『モンスターを仲間にする案』自体はどうやら組み込もうとしていたようで、捕獲魔法ではなくローグライクゲームで時々あるモンスターを道具で捕獲し、召喚して戦わせるという方法を想定していたようだ。
ネメがデバッグモードで捕獲魔法を探そうとして見つけられなかったのはそれが理由だ。まさか捕獲魔法ではなく、道具という扱いにしようとしていた事までは考えが及ばなかったのだ。
「うん、そういう事ならいいよー。はい、シャルさん」
「すみません、それでは失礼いたします、トーイラお嬢様」
トーイラが差し出した手をシャルがしっかりと握ると、2人はカツマリカウモの門をくぐっていったのであった。
16日から行っていた去年9月までに投稿していた81回までの部分の改行や句読点、誤字等の修正ですが見落としが無ければひとまず完了しました。ちょうどその間に該当部分を読んでいた方にはご迷惑おかけしました。




