105. 13年と6ヶ月半 飛べないリラ。
それはトーイラが狩りに出かけていて不在だったある日の事。
「リラ、失敗しても私が受け止めるからそこから飛んでみて」
「うん、ネメおねーちゃん」
家の掃除をし終えたミノリが、次はリラの服を縫おうと裁縫道具を取り出していると、家の外からネメとリラの声が聞こえる。
夢で薄々とネメの正体に勘付いてしまったリラがネメの事を怖がってしまった為に、2人の関係に亀裂が入りかけた事もあったが今ではその関係は修復し、すっかりネメとも仲良し姉妹になったようだ。ただ、トーイラがいる時はトーイラについて回る事が多いのは相変わらずだったが……。
そんなリラはミノリたちと生活することにすっかり慣れたようで、今はネメと共に飛ぶ練習をしていた。
キテタイハの町近くまで飛んできたはずのリラが今更飛ぶ練習をしているのには理由がある。
リラはラストダンジョンである北の城から逃げ出した時は、無我夢中だった為になんとかこの辺りまで飛んでくる事ができたのだが、そもそも飛ぶ練習すらしたことが無く、どうやって飛んだのか覚えていなかったのだ。
それから数ヶ月、なんとかもう一度飛べるようになろうと今こうして練習しているのだが……どうもうまくいかないらしい。
羽がある者が近くにいれば、飛び方について指導してもらえたに違いないが、生憎、隠塚一家には空を飛ぶことは出来ても羽があるのはリラだけで、リラを手伝うネメもどうやったらリラが飛べるようになるのか教え方がわからず、難儀してしまっている。
そして先程ネメが飛んでみてと促した結果は……失敗だったようで、地面へ真っ逆さまになりそうだったリラをネメが受け止めたので事なきを得た。
「うぅ……ごめん、ネメおねーちゃん」
「仕方ない。練習していけばそのうち飛べるはず」
幸いにも怪我をしなかったものの、次も怪我をしないとは限らないからと、飛び降りる方法はやめ、今度は地上から上空に飛び上がるように必死に羽を動かしているリラだったが……ただ風が巻き起こるだけで一向に浮かび上がる気配が無い。
「ぐす……やっぱりだめかも……」
あまりにも飛べない事に自信をなくしてしまったのか、リラはその場にしゃがみ込むと泣きべそをかいてしまった。
「リラ……ごめん、私がちゃんと教えられたらよかったのに……」
リラの落ち込みようにネメまで感化されてしまったかのように暗い顔になってしまった。まさに負の連鎖である。ミノリもできることならリラが飛べるように手伝いたいところなのだが、ミノリは、羽はおろか魔力すら無く、役立たずにも程があるので一切手出しが出来ない。
「ネメお嬢様にリラちゃん、どうしたのですか?」
そこへ声を掛けたのは庭掃除をしていたシャル。
「あ、シャル。えっと、リラが飛べるように練習していた。だけどうまく飛べなくて」
「あたし、才能無いのかな……」
シャルに説明するネメと、落ち込みすぎて地面を指でいじるようにいじけているリラ。
そんなリラを見て何か方法は無いかと思案しているのか、シャルが腕を組みながら暫し逡巡していると……。
「えっと、それじゃ私がリラちゃんにまずは飛行を補助する目的として浮遊魔法をかけてみますか?
浮いた状態で羽を動かすことで、浮遊魔法とは異なる浮力に気づくかもしれませんし、その事に一回気がつくと、自ずと飛び方もわかってくるかもしれないです」
飛行魔法のスペシャリストであるシャルからの提案である。
幸いにも浮遊魔法は攻撃魔法ではなく補助魔法なので、ゲーム上の仲間キャラと敵モンスターが混淆している為に、うっかり攻撃魔法なんて使ってしまったら大惨事になってしまう隠塚一家でも問題なく使える事が出来る。
「なるほど……、ありがとシャルおねーちゃん。お願いするね」
「はい、それじゃ浮遊魔法掛けますね」
「うん」
リラの返事を聞くと、シャルがリラに浮遊魔法を教え始めた。すると、横で聞いていたネメは……。
「シャル、後で私にも浮遊魔法教えてもらってもいい? 私、そういえば浮遊魔法使えなかった」
「はい、ネメお嬢様。勿論いいですよ」
シャルから浮遊魔法を習う約束をしていたのであった。
そんなネメのお願いににっこりと笑顔で答えるシャル。相変わらず仲の良いふうふである。
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「──それではリラちゃん、浮き始めたら羽を動かしてください」
「わかった」
「リラ、がんば」
「うん、ありがとネメおねーちゃん」
シャルが詠唱を初めて暫くすると、徐々にリラの体が徐々に浮き始めたので、それに併せてリラは羽も動かしてみたのだが……。
「……」
「……うーん、ダメですね」
特に変化が見られず、この作戦も残念ながら失敗に終わってしまったようだ。
残念な結果に終わったことで肩を落とすリラだったがそんなリラの頭にネメとシャルがポンと優しく手を置くと……、
「今日はダメだったけど、リラはもう一度飛べるようになる。だから次がんばろ、リラ」
「そうですよリラちゃん。あなたならできます」
「……うん、ありがと、ネメおねーちゃん。シャルおねーちゃんも付き合ってくれてありがと」
お礼を述べてから交互に2人へ抱きつくリラであった。その光景を家の中から見ていたミノリ。
(ゲーム本来での2人の関係が嘘みたいに、お互いを慈しみ合っているのが一目でわかるなぁ……。リラが夢で闇の巫女の正体がネメだと気がついた時はどうなるかと思ったけど本当に良かった。
シャルとの関係も良好そうだしこのままいい方向に行けばいいな)
ミノリは目を細めながら3人の仲睦まじい姿を暫く眺めると、縫いかけ中だったリラ用の服に視線を落として、再び作業に戻るのであった。




