104. 13年と6ヶ月目 祝われミノリさんとリラの贈り物。
本編の内容自体には変更は無いのですが、5/16から4、5日ほどかけて9月までに投稿していた1~81回部分の改行や句読点、誤字等の修正をしていく予定です。(※5/16 23時時点で29回部分まで修正完了しました)
(ん……起きて朝ご飯の準備やらないと……)
自分の上で眠るリラを起こさないようにベッドから出てきたミノリが、朝食の準備をする為に寝室を出ると……。
「ママ! おはよう!!」
「おかあさんぐっもー」
待ちかねていたかのようにトーイラとネメが目の前で立っていた。
「へっ!? 2人ともおはよう……? あれ、もしかして私寝坊した!?」
寝過ごしてしまったのかと慌てたミノリが壁掛け時計に視線を向けたが、その針は朝5時を指しており、明らかに普段なら2人がまだ眠っているはずの時間だった。
「えっと……2人とも随分早起きだね……まだ5時だよ?」
「だって今日ママの誕生日だもん!! 待ちきれなくてもう2時間前からこうしてママが起きてくるのを2人で待ってたんだよ!」
「女神誕生祭わっしょいわっしょい!」
「あー、そういう事かぁ……いや待ってそれ夜中3時からだよねやっぱり愛が重いってば2人とも!! それにテンションもなんだかおかしくなってない!?」
ちなみにだが『!』を頻繁に使っているので3人とも朝っぱらから叫んでいるように見えるが実際は小声である。まだ眠っている三女や次女の嫁への配慮もバッチリだ。
前回のトーイラとネメの誕生日の際にうっかり口にしてしまったミノリの誕生日。それをネメたちはしっかりと覚えていたようで今日という日が来る事をずっと待ちわびていたようだ。もうそれだけで2人のテンションがおかしい。
何せミノリの誕生日を祝うのは今日が初めてなのだ。2人がおかしくならないはずがない。
(ひとまず、私は落ち着こう……このままじゃ2人に引っ張られてしまう)
深淵に引き込まれるような感覚になんとか抵抗しながらミノリは一呼吸置いてから2人にお礼を述べた。
「そ、それはそうと……2人とも、祝ってくれてありがとう。これからもみんなの母親として私、がんばるからね」
そう言いながらミノリの誕生日を祝ってくれたネメとトーイラの頭を撫でるミノリ。撫でられた2人もご満悦な表情だ。
「それでね、今日はママの事いっぱいもてなしたいから家事は全部、私たちでやっちゃうね」
「なのでおかあさんはゆっくり鎮座希望」
至れり尽くせりである。しかし、誕生日といっても前世からの通算なだけで、ミノリとしてはあまり意識してないただの日常の一日だ。
その為、そんな日を祝われるのはどうも不思議な気持ちではあったのだが、それほどまでにミノリの誕生日を楽しみにしていたのだろう、とても嬉しそうにする2人の気持ちを無碍にすることも出来ないミノリは……。
「そ、それじゃお言葉に甘えて今日は2人に全部お願いしちゃうね」
折角なので2人の好意に甘える事にした。そしてミノリの承諾を受けた娘たちは……。
「よーし! さあネメ、今日はママの誕生日を盛大に祝っちゃおう! それでパーティーはどうしよっか!? 100年に1度しか手に入らない幻の超高級食材とか必要だよね!!」
「プレゼントもやっぱり豪勢に。一つで城が3つ買えるぐらいの宝石を。資金は潤沢にある」
止まらない暴走機関車へとあっという間に成り果ててしまった。
「!? いやちょっと待って2人ともそんな高いのはいらないからね!? もっとささやかでいいし、ただ家事をしてくれるだけで充分だからね!?」
「「えーっ!!!!」」
2人の親愛はやはり重すぎであった。
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(な、なんで私朝っぱらか疲れてるんだろうなぁ……おっかしいなぁ……)
ミノリの誕生日というブーストがかかってしまった暴走機関車たちをなんとか鎮めたミノリが、椅子に座って、朝から荒げていた呼吸を整えようとしているとどうやらシャルも目を覚ましたようで、ネメとシャルの部屋に通じる扉から顔を出した。
「おはようごらいます……お姉様……」
「シャルおはよう……ってどうしたのその顔」
居間にやってきたシャルの顔は目を開けられないのか半目状態で、さらに目の下には隈まであり、さらに呂律まで回っていない。どう見ても寝不足である。
「えっとちょっと恥ずかしい話なので言いにくいんれすが……ネメお嬢様が昨晩は何故か全然寝かせてくれませんれした……。
いつもなら日付が変わる頃には終わってくれるのに昨日は3時ぐらいまでずっと……流石に疲れが取れないれす……」
「3時まで……あ、あれ?! もしかしてネメは一睡もしていない!?」
ネメはどうやら遠足前日の小学生のように興奮して眠れず、結果的にそのしわ寄せがシャルに及んでしまったようだ。
(いやぁこれ、ネメが寝不足でハイになってるのかわからないぞ……)
「えっと実はね、今日が私の誕生日で……多分わくわくしすぎて寝付けなくてそのしわ寄せが結果的にシャルにいっちゃったみたい……ごめんね、シャル」
「あ、そうらったんれすかぁ、お姉様おめれとうございます。私もネメお嬢様やトーイラお嬢様みたいに盛大に祝いたかったんですけど、ごめんなさい眠たくてそこまで頭回りゃなかったです……」
目をしょぼしょぼとさせながらもなんとかそこまで答えたシャル。シャル自身が言うように明らかに頭が回っていない。
「いいから! シャルまで無理に祝わなくていいからね!? それよりもシャルはゆっくり二度寝していいからね! はい回れ右!」
「えぇ……でも私もお姉様を祝いたぁい……」
「いいから! はい、おやすみ!!」
ミノリに背中を押されながら、最終的にベッドへ突き飛ばされる形でシャルは寝室へと消えていった。
「ぜぇ……ぜぇ……一体何なの今日は……」
落ち着かせようとしたはずの呼吸が再び荒くなるミノリ。
(今まで祝えてこられなかった分の誕生日を取り戻そうとしてるのかな……いや、ホント気にしなくていいのに……というか今日一日この調子が続けば体が保たない……!)
一人心の中で、今日一日耐えることが出来るのかと既に憔悴しきっているミノリなのであった。
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「かーさま、おはよ」
それから暫くすると、リラも目が覚めたようで居間にやってきた。
「うん、おはようリラ……もしかして具合悪い?」
リラを見た瞬間、顔色が優れないのをミノリは見逃さなかった。
「うん、ちょっと……」
「それじゃ無理して起きないで、寝ていた方がいいよ」
リラの寿命については何一つ聞かされていないミノリは、リラはやっぱり体が弱いのかなと思いながら、リラに休むよう伝えた。
「ん……だけどその前にしたいことあるの」
「したいこと……ってリラちょっと待って何処行くの!?」
そう答えたリラがフラフラとした足取りで向かったのは玄関の方向。
「だいじょうぶ、すぐもどってくるね。かーさまは絶対に来ないでね」
「え、でもリラが心配だもの」
過保護にならないと当初ミノリは決めていたのだが、リラの体調がこうも悪いと過保護にならざるを得ない。
「ついてきたらかーさまの事嫌いになっちゃうからね」
「うぐっ、わ、わかった。ここで待ってるね……」
リラの後を追いかけようとしたミノリだったがリラに止められてしまった。
嫌いになるとまで言われてしまった以上ミノリはついて行くことができない。
「ただいまかーさま」
玄関でリラが戻ってくるのをミノリが心配しながら待つ事1分ほど。リラは言葉通りすぐ外から戻ってきた。
「ただいまかーさま、誕生日おめでと。これあげるね」
「お花?」
「うん」
そう言いながらミノリに向けて伸ばしたリラの手には、小さな花が一輪。
それは、庭から少し離れた所で咲いているライラックに似た花だった。
「わぁ、ありがとう、リラ」
ミノリはリラから花を受け取ると、微笑みながらリラの頭を優しく撫でた。
(単なる偶然だけど、ライラックの花ってリラの花とも言うんだよね。そしてこれは紫だから確か花言葉は初恋だっけ……。リラもそのうち誰かに恋したりするのかな)
花を受け取ったミノリがそんな風に考えだしたのも束の間、調子の悪いリラはこれ以上動くことが出来ないようで、辛そうな表情をしたままその場に座り込んでしまった。
「かーさま、あたし、もう部屋で休もうと思うけど……ごめんなさい、動けそうにない……」
「うん、無理はしなくていいよリラ。私が抱っこして寝室まで連れて行くよ」
ミノリは、力を振り絞りながら手を伸ばしてきたリラを抱き上げると、寝室へ連れて行くのであった。
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国の祭事のようにミノリの誕生日を盛大に祝おうとしたネメとトーイラであったが、リラの体調が良くないということもあって中止となり、ミノリの代わりに家事をするだけとなった。
「ママの誕生日を祝うの初めてだから盛大に祝いたかったんだけどー……リラ、体調崩しちゃったもんね」
「うむ。リラもすごく残念そうだった」
「まぁ、それも仕方ないよ。私の誕生日なんて来年もあるわけd……いや2人とも、来年も盛大に祝おうとしなくていいからね?」
「えーっ!!」
「ご無体な」
すぐ暴走する長女と次女に対してしっかり釘を刺すミノリなのであった。
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「リラ、具合はどう?」
昼過ぎになった頃、ミノリは寝室で一人横になるリラに声を掛けた。ミノリが見る限り顔色は朝に比べると幾分良くなったようだ。
「あ、かーさま。……うん、だいぶよくなったよ」
「そっか、よかった。今日の家事はトーイラたちが全部引き受けてくれたから今日は私がリラにつきっきりで看病してあげるよ。何か食べたいものとかしてほしいこととかある?」
「ん……お腹はすいてないから大丈夫」
「だめだよ。何か栄養を取らないと。リラはただでさえ小食なんだし朝も何も食べてなかったでしょ? それじゃ具合良くならないよ」
「それじゃ……かーさまの血、吸わせて」
「うん、いいよ」
ミノリが腕を差し出すとカプリと噛みつくリラ。僅かに走る痛みとともに何かを吸われる感覚。当初は息切れなどもしていたのだが、最近では呼吸が乱れることも無く注射と同じような感覚になっていた。慣れとは恐ろしいものである。
「ぷはっ、もう大丈夫。かーさま、ありがと」
「どういたしまして」
吸血を終えたリラの頭を優しく撫でるミノリ。
「あとは何かしてほしい事ある? 今日はリラが私を独占できるから何をお願いしても大丈夫だよ」
その言葉を聞いてリラは短く逡巡していたが、やがて考えがまとまったのか小さな口を開いてミノリにお願い事をした。
「……かーさまが昔、トーイラおねーちゃんやネメおねーちゃんが風邪引いた時にしてた事、って何かある? あたしも同じ事されたいの」
「同じ事……? あ、そういえば読み聞かせをしたりプリンを食べさせたりしたね。それじゃリラに読み聞かせしてあげよっか。プリンは2人に作ってもらうよ」
「うん、かーさまお願い」
リラにお願いされたミノリは、居間にいる2人にプリンを作るようお願いすると、リラが眠るベッドの脇に腰かけ、リラに読み聞かせを始めることにした。
風邪を引いたネメとトーイラに何度も読み聞かせをしてきた母親歴13年半のミノリにすれば、もう読み聞かせはお手の物だ。
「それじゃ始めるね。えっと……」
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それから数話ほどミノリが読み聞かせていくと、満足したらしいリラはいつの間にか眠りについていた。
(リラはどうやら寝たみたいだし、私もそろそろ居間へ……あ)
リラが眠りについたのを確認したミノリは部屋から移動しようと立ち上がろうとしたが、まるで『そばにいてほしい』と願っているかのようにリラの小さな手が、ミノリのマントを握りしめているのに気がついた。
(……まぁいっか。今日はこのままリラの傍にいてあげよう)
リラの頭をそっと一撫でしたミノリはリラを起こさないよう静かに傍らで本を読み始めたのであった。




