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103. 13年と5ヶ月目 お散歩するだけだったはずなのに。


 リラをミノリの三女として迎えてから二ヶ月が経った。


 リラは相変わらず体調に波があるようで、調子がいい時と悪い時を繰り返していた。今日は非常に調子が良いらしく、洗濯物を干すミノリのお手伝いをしてくれている。


「かーさま、この靴下で最後だよ」

「はい、ありがとうリラ」


 リラから受け取った靴下を干し終わったミノリが洗濯籠を持ってリラと一緒に家に戻ろうとしていると……。


「かーさまー、あのね、教えて?」

「ん、どうしたのリラ?」


 リラはミノリに何か聞きたいことがあったようだ。

 ミノリたちと家族として過ごしていくうちに、段々と表情が明るくなってきていたリラは、調子が良い時は今日みたいにハキハキとしゃべるようになってきていた。おそらくこれがリラ本来の性格なのだろう。


「ネメおねーちゃんとシャルおねーちゃん、2人してよく出かけるけど何処に行ってるの?」

「あ、そういえばリラには話してなかったね。2人には買い出しをお願いしてるんだよ」


「ふーん、そうなんだ。かーさまとトーイラおねーちゃんが出かけるのはごはんのお肉を狩ってくるためなんだよね」

「うん、そうだよ」


 そういえばリラはこの家に家族として迎えられてから一度も森の外へ出たことが無い。

 体調が悪い日が多かった為外には連れ出させなかったというのもあるが、一週間の内に何度も出かけるネメとシャル、そして狩りのために森の外へ行くミノリとトーイラの事がうらやましくなったのだろうか。


「……リラもお外にお出かけしてみたい?」

「……いいの?」


 リラはゲーム側の視点から考えると、敵一覧に名前があるように、人間に敵と見なされて襲われるのは間違いない。さらに、イベント用のモブキャラでもあり、虐待を受けていたという話を聞く限り、モンスターにも危害を加えられてしまうという事も考慮すると、安全に移動できる箇所が非常に少ない。


(うーん……ひとまずは森の外に慣れることからかな。それから少しずつ行動範囲を増やしていくようにすればいいかな……、あ)


 そう計画を立てるミノリであったが、ミノリが危惧していたリラが安全な場所について、実は一箇所だけ心当たりがあり、一瞬、その事がミノリの脳裏をかすめた。


(あそこだったらきっとリラを連れて行っても問題ないだろうけど……しかしなぁ……あそこはなぁ……)


 その場所は確かにリラを連れても問題ないと言える、しかしミノリは思い悩む。

 それは、その場所が行くだけで精神的に疲れるから。


(だけどリラのお出かけしたいという気持ちには応えてあげたい……! よし!)


「それじゃリラ、暫くは森の外をお散歩することに挑戦してみて、慣れてきたら一緒に近くの町まで行ってみようか?」

「町?」

「うん、リラが噂で聞いた事のある、モンスターを崇拝する町だよ」


 キテタイハのことである。


「あれって噂だけじゃ無くて、ホントにあったんだ」


 驚くリラだったが、町まで行けると聞いて一瞬、目を輝かせたものの、すぐ目を伏せてしまった。


「だけど、ホントに、あたしが行っても……大丈夫、なのかな?」

「うん、大丈夫。だってね、何を隠そう私がそ、その……崇拝されてる女神様だもの!」


 ミノリは自虐的に答えた。『褐色臍出し女神様』などという不名誉すぎる称号を与えられたり、『臍』と『褐色』の大唱和を喰らって恥ずかしさのあまりその場にうずくまってしまったり、若い娘を贄として百人用意する等と言われたりと、ミノリの斜め上の行動でミノリを崇めてくる非常に迷惑な町で出来ることなら近寄りたくはないのだが、外に出てみたいというリラのためと思えばそれぐらい涙を呑む構えだ。


「すごい……かーさまって、女神様だったんだ!」

「う、うん……。ほら、それじゃお外に出ようね」

「うん!」


 尊敬するような眼差しで見てくるかわいい三女の視線が非常に辛いミノリ。

 ひとまず今日はキテタイハには行かないのでその事については考えないようにしたミノリは、リラに靴を履かせてから外に出て、家の中にいるトーイラに向けて声を掛けた。


「トーイラー、私とリラはお外に出かけてくるねー」

「え、ママ何処に行くの!? 私も一緒に行く!」


 ミノリの答えを家の中から窓越しに聞いたトーイラが、慌てたように外へと出てくる。


「トーイラどうしたの、ただ軽く森の外へお散歩に行くだけだよ?」

「でも、リラとママに何かあったら大変だから!」


 頻繁に体調を崩すリラの事が心配だったのだろう。妹想いのよい姉だ。ミノリも同列に扱われてしまっている気がするけれどミノリは気にしない。


「ありがとね、トーイラ。それじゃトーイラも一緒に森の外行こうか」

「はーい!」



 というわけで、ミノリとトーイラは万が一先にネメたちが帰ってきた時のためにメモを書き残すと、リラを連れて森の外へ初めてお出かけする事になったのであった。



 ******



「女神様ーーー!!! お待ちしておりましたぞー!!!!」


 おかしい、今日は森を出ることだけにしようと考えていたはずなのに、ミノリたち一行が現在いるのはキテタイハの町の中。

 森を出て僅か3秒でミノリたち一行はキテタイハの町長である老婆ことハタメ・イーワックに遭遇してしまうと、キテタイハの町まで連行されてしまい、何故か盛大な歓待を受けていた。

 徐々に慣らしてから最終目的地としてキテタイハにしようと考えていたはずなのに、まるでレベル1冒険者がいきなりラストダンジョンへ連れて行かれたような所業である。


「……私たち、ひょっとして監視されているのでは?」

「やっぱりこの町怖いよママ!!」


 徐々に狂信者っぷりがエスカレートしていくこの老婆を始めとしたキテタイハの町に、段々と恐怖心が芽生えてくるミノリ、そしてトーイラ。


「それで女神様……。そちらにお連れしているのはどなたですかな? 一人は双子神の光神様だとわかるのですが、そちらの羽の生えた者は……」

「この子も私の娘です。私の娘だということは、つまり私の使いだという事なので……わかってますよね? この子にも危害を加えることは絶対に許しません」


 生まれて初めて女神ムーブを決めるミノリ。本当はこんな事したくないのだが、リラを守るためにやむを得ないという苦肉の策であった。


「そんなの百も承知ですぞ女神様。女神様がお連れになる子供は全て神の使い! 我々が危害を加えることなどありますまいて!!! 双子神の闇神様と一緒にいる桃色神様と共にそちらの蝙蝠羽神様も当然我々は奉りますぞ!!! あとで桃色神様と蝙蝠羽神様の彫像も建立させてもらいますぞい!!」


 老婆を始めとしたキテタイハの住民たちはあっさりとリラの事を受け入れたようだ。その代償としてシャルとリラの像も作られることで町の入り口にある邪神像の並木道がより賑やかになるわけだが……。


(ひとまずリラの身の安全は確保されたから一安心だけど……何でいつの間にかシャルの存在まで把握してるのあの町長は!? 絶対監視されてるって!)


 ミノリは思わずめまいを起こしそうになってしまった。


「さあ町の衆、女神様の顕現と新たな神の誕生を祝うのじゃ!! 歌え! 歌うのじゃー!!!!」


 老婆の合図と共に聞こえる地を這うような低音で抑揚の一切無いお経のような歌声。これはかつてネメとトーイラから教えてもらったこの町で祭りの際に歌われる歌。まるで悪魔たちの集会歌だ。


(あー、うん……これはリラが話してたように、邪教徒の集まりだと思われても何もおかしい所は無いや)

(久しぶりに聞くとー……なにこの歌。すっごい怖い! え、この歌とも呼べないやつ昔の私平気で歌ってたの!? ママの歌の方が何万倍もいい!!)


 何故か妙に納得してしまうミノリと、かつてこれを平然と歌っていた事に戦慄わなないてしまうトーイラ。


「かーさま……なにここ、こわい」


 そして、ミノリの腕をつかんでいたリラは、この異様な雰囲気に恐怖を感じてしまったのか、体中がガクガクと震えているのが一目でわかるほどに怯えているのがわかる。


「……ごめんリラ。もうここには来ないようにするから……」


 成り行きで来てしまったとはいえ、まだ9歳のリラにはこの町は流石に荷が重すぎたようだと心から反省するミノリなのであった。



 なお、その後、成長するにつれ、段々とやんちゃでイタズラ好きな側面も出てくるようになったリラなのだが、なにかイタズラをするたびに『あんまりイタズラばかりしてるとキテタイハの老婆がやってくるよ』とミノリが伝えると、途端に静かになったというのは別のお話。


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