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100. 13年と3ヶ月目翌朝 翌朝の事と……。


──リラを家族に迎えて初めての朝。


「かーさま、おはよ」


 目覚めたミノリが目を開けると、まるでミノリが起きてくるのを待っていたようにミノリの上に折り重なりながら笑顔で挨拶をする三女リラの顔が目の前にあった。


「おはようリラちゃん。眠れた?」

「うん、あたし、今まで生きてきた中でこんなにぐっすり寝たの、生まれて初めて。ありがと、かーさま」


 そう応えながら再び満面の笑顔になるリラと、そんなリラの頭を優しく撫でるミノリ。

 夢で見たあの悲痛そうな姿からは想像できないほどに、リラの無垢な笑顔があまりにもまぶしい。


「リラちゃん、みんなまだ眠ってるから別の部屋に行こうか」

「うん」


 ミノリとリラは、横で眠ったままのトーイラたちを起こさないようにベッドから降りて着替えると、手を繋ぎながら居間へ移動した。



 ******



「さて、朝ご飯の準備始めるけど、血は必要?」

「ううん、昨日いっぱいかーさまからもらったから、今日はいいの」

「それじゃ、みんなと同じご飯で大丈夫だね」

「うん」


 昨日リラを連れ帰る時にも聞いていたが、どうやら血は一週間に一度程度で本当に充分なようだ。それならミノリも血を吸われすぎて貧血になる、なんていう心配をする必要も無用そうだ。

 ミノリがそのように考えながら、朝食に使う野菜などを収穫しに行こうとすると、リラも後ろからついてきた。


「かーさま、どこ行くの?」

「ん? 庭にある畑に行って、野菜や果物を取ってくるんだよ」

「あたしも行きたい。ついていってもいい?」

「うん、別に構わないよ」


 リラはその後、庭に行って野菜などを収穫する際も、食料の貯蔵庫へ食材を取りに行く時も、ミノリの後ろをついてきた。

 目にする全てのものが新鮮なようで楽しくて仕方ないという雰囲気がミノリにも伝わってくる。



 ちなみにだが、リラを保護し育てるにあたってミノリはある決め事を秘めており、それは何かというと過保護になりすぎないことだ。


(トーイラとネメを育てた時、私しかあの子たちを守れる人がいないって思っていたからつい過保護になっちゃったんだよね……そのせいで2人とも潜在的にヤンデレになってしまったし、私に対して恋愛感情を持ってしまったというのも……)


 娘たちのヤンデレ化と母親である自分への恋慕、その2つがトーイラとネメを育てた事における失敗だとミノリは考えている。


(だけど今回は私だけじゃなくてトーイラとネメ、それにシャルもいるから全員でリラを大切にしていけばきっと大丈夫!)


 失敗経験を今度の子育てでは生かそうと考えるミノリ。流石母親歴13年目に突入したベテランである。


(……多分)


 断言できず、いまいち格好のつかないミノリなのであった。



 ******



 その後、畑から野菜を収穫して家の中へと戻ってきたミノリとリラ。


「それじゃ、急いでご飯つくっちゃうからリラはそこで待っててね」

「うん」


 相槌を打ったリラが食卓に新しく用意されたリラ専用の椅子に座ると、うきうきしたようにミノリが調理する姿を楽しそうに眺めている。


(リラちゃん、嬉しそう。それにしてもこの感覚、懐かしいなぁ……。確かネメとトーイラを娘に迎えた時もこんな反応してくれたっけ)


 ネメとトーイラを娘としたばかりの頃は、畑もお風呂もできあがっておらず、生活環境でいえば確実に今の方が上だが、嬉しそうに家事を見つめるリラの姿に懐かしい感覚が蘇り、ついついミノリの顔にも笑みがこぼれる。


「昨日、2人ともリラともっとおしゃべりしたがっていたから今日はおしゃべりしてあげようね、リラ」

「うんっ」

「いい返事だね、リラ。あ、先にトーイラが起きてきたみたいだよ」

「足音でわかるの? かーさま」

「うん、わかるよ」


 今までで一番大きく返事をしたリラの声を聞いたと同時に聞こえてくる、居間へと向かってくる足音。

 その足音だけで誰なのか、ミノリは長くみんなで過ごすうちにわかってしまうようになっていた。


「おはよーママ、リラちゃん」

「おはようトーイラ」

「トーイラおねーちゃん、おはよ」


 ミノリの言葉通りに、居間へ入ってくると同時に挨拶をしたトーイラに対して、ミノリとリラに挨拶を返すと、トーイラは座っていたリラの横へとやってくると、リラを抱きしめながら頬ずりを始めた。

それに対してリラは「きゃー」と声を上げたが、トーイラのその行為を嫌がっている素振そぶりは無く、くすぐったかっただけのようだ。

 なお、この後遅れて居間へやってきたネメも同じ事をリラにした。流石双子、考えることまで一緒である。


「2人とも、リラの事大切に思ってくれてるんだね」

「当たり前だよー。だって私たちにとって妹だもん」

「おかあさんの元で暮らす以上、大切にしないはずもなく」


 それにしても、まだ出会って一日も経っていないというのに、リラはすっかりトーイラとネメからも寵愛を受けている。

 きっと2人からすると、リラが自分たちと同じかそれ以上に劣悪な境遇にいたという事から大切にしてあげたいという気持ちが強いのだろう。


(きっとこの調子なら、リラはすぐに私たちと生活することに慣れていきそう。よかった)


  そんな仲睦まじくしだす3人姉妹を見ながら、ミノリは朝食の準備をするのであった。


 その後、最後に起きてきたシャルと共に全員で揃って朝食を済ませてからはミノリはリラのための眼帯を作ったり、シャルと共に家事をしたりするかたわら、ネメとトーイラがリラに家の中や庭を案内したり、一緒に遊んだりしていたのだが……。


「ママ大変! リラ、具合悪くしちゃったみたい」

「え!?」


 昼食の準備をしていたミノリの元へ、慌てたように家へ駆け込んできたトーイラの背中には、顔を真っ青にして、息づかいも荒いリラの姿があった。

 後からついてきたネメも心配そうにリラを見ている。


「えっと、すぐに寝室に寝かせてあげて!」

「わかった!」


 ミノリの指示に従ってトーイラはすぐに寝室へ向かった。


「大丈夫かな、リラ」


 トーイラに背負われたまま寝室に消えるリラの背中を不安そうに見送るミノリ。


「……」


 そしてミノリの傍にいるシャルも、何も言わずにリラたちの姿を見送った。


「……シャルも不安?」

「え、あ、はい……心配……ですね」


 シャルは何か考え事をしていたような顔をしながらミノリに言葉を返した。


 リラの体調が何故悪いのか理由を知っているのでミノリに説明したかったのだが、リラから『自分の寿命が短い事は言わないでほしい』とお願いされていたシャル。

 言うべきか言わないべきかという気持ちの板挟みにあってしまい一人葛藤していたが、その姿は、リラの体調が悪くなったために心配しているだけだとミノリから思われるだけなのであった。



 ******



──夕方。


 リラの様子を見に来たミノリが、寝室へとやってきた。


「リラちゃん、具合はどう?」


「……うん、少し良くなった。ごめんね。かーさま……」

「ううん、謝る必要はないよ、大丈夫だよ」


 ベッドで横になるリラの頭を優しく撫でるミノリ。ミノリが見る限り、心なしか顔色も良くなってきたようだ。


「私は居間にいるから、何かあったら呼んでね」

「うん……わかった……」



 ミノリが寝室を後にしたのをリラは見計ると、リラは布団を頭まですっぽりとかぶり、声を押し殺すように泣き出した。



「……どうして、かなぁ……かーさまに初めて優しくされた時に、もう死んじゃっていいって思ってたのに……家族として迎えてもらって、みんなと過ごしてたら……あたし、やっぱり死ぬの、いやになっちゃったなぁ……しぬの、こわい……」



 寝室で嗚咽を漏らしながらつぶやくリラの悲痛な言葉は、誰の耳にも入ることはなかった。


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