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99. 13年と3ヶ月目夜② 5人家族となった初めての夜。


「お待たせー、お風呂あがったよー。着替えありがとうね、トーイラ、ネメ」

「ううん、別に大丈夫だよー」

「着替えもリラのサイズピッタリみたいで一安心。下着以外の服もあったから明日着る服も問題なし」


 まるでこうなる事を見越していたかのようにあるリラにちょうどいいサイズの着替え。

 ネメとトーイラ、そしてミノリと同じサイズの下着や衣服も最初からこの家にあった為、ゲーム上で3人に関わるイベントをこの家に用意するつもりだったのではとミノリは考えていたのだが……。


(リラと同じサイズの服まであるとなると、まるでこうなる事を予想していたみたいでそれが若干恐ろしく思えてしまうのは私の気のせいなのかな……?)


 心の隅でミノリがそのように思っていると、初めてのお風呂があまりに心地よかったのか、ミノリに手を繋がれたリラがねぶかけを始めている姿が見えた。


「リラちゃん、眠い?」

「うん……」

「それじゃ、寝る準備してくるからリラちゃんはここで待っててね」


 そうリラに伝えたミノリが、リラの手を離して寝室へ向かおうとすると……。


「あ、おかあさん、私も今日は一緒に寝たい。リラと親睦深めたい」


 普段は違う部屋でシャルと寝ているネメも一緒に寝たいと挙手した。

 まだ顔を合わせてから数時間しか経っていないから色々話してみたい事があるのだろう。


「私は構わないけど……リラちゃんも問題ない?」

「ん……、いいよ」


 眠たそうにしながらもリラは頭を縦に振った。


「それじゃネメ、寝室の準備手伝ってくれる? 多分寝室のベッドをくっつけないとみんなで寝られないから」

「仰せのまま」


 リラはまだ体が小さいので、それだけならミノリと一緒のベッドで大丈夫だろうと考えていたが、ネメも一緒に寝たいとなると、トーイラのベッドをくっつける必要があると判断したミノリが、ベッドを移動する手伝いをネメにお願いすると、すぐにネメは応じてくれた。


「それじゃ私はその間にお風呂入っちゃってくるねー」


 そしてミノリとネメが寝る準備をしている間にトーイラは先にお風呂へ入りに脱衣場へと、向かった為、現在居間にいるのはリラとシャルだけとなった。


「……」

「……」


 まだ距離感をつかみかねているのか、お互い黙り合ったままのリラとシャル。

 先程まで眠たそうにしていたはずのリラだったが、シャルと2人きりという場に緊張して眠気が一時的に飛んでしまったのか、目をきちんと開けてシャルの事をチラチラと見ている。


 やがてこの沈黙の空気のままではいけないと思ったのかシャルが口を開いた。


「えっと、リラ……ちゃん? さっきネメお嬢様が代わりに説明してくれましたが、改めて自己紹介しますね。えっと、私はネメお嬢様の嫁でシャルといいます」

「うん」


「……」

「……」


 すぐに会話が途切れてしまい、再び気まずい空気が2人の間を流れる。それでもなんとかシャルは言葉を繋げた。


「えっと……気づいていると思いますが、私は人間ではなくモンスターで、恐らくリラちゃんを迫害してきたモンスターの中には私と似たような姿の者がいたかもしれません。

 でも、私はリラちゃんをいじめる事は絶対にしないと誓います」


 この世界は現実であると同時に、ゲームの世界でもある。そしてゲームに出てくるザコキャラといえば、姿は同じで色だけが違うモンスターが存在する場合が多く、シャルと色違いのウィッチ系モンスターも勿論この世界に存在する。それをシャルは気にしていたのだろう。


 ちなみにミノリの種族であるダークアーチャーは色違いが存在しない。


「……うん。……よかった、シャル……さんはいいひとそうで。あのね、私、ちょっと怖かったの。シャル……さんは私の事、嫌いなんじゃないかって。だって、あたし……」

「普通のモンスターでは有り得ない性質を持っている特異体質で、その性質を持っていると他のモンスターが不快に感じて毛嫌いするから……ですか?」


 それは、ミノリがリラを連れてきた直後に聞いた話の中でシャルが気づいてしまった、リラの今後に関わる重要な事だった。


「気づいていたの?」

「はい、だって私、知的好奇心が非常に強い種族であるウィッチですし基本的にモンスターはその特異体質に対して敏感なんですよ。

 人間であるネメお嬢様たちはそれに気づく事は無いでしょうし、お姉様……ミノリさんは誰でも微量は有しているはずの魔力を全く持っていないという特殊すぎる方なので同様にリラちゃんの特異体質に対して何も気がついていないと思います」

「……そっか」


 シャルの指摘で、その事についてお見通しだったのかという様子を見せたリラは、一言つぶやくだけで再び口をつぐんだ。


「……一つ聞いていいですかリラちゃん。……リラちゃんみたいな、『にえ』にされるモンスターは、その特異体質が原因で非常に短命だと聞いているんですが……リラちゃんはあと何年自分の寿命が残っているかわかっていますか?」


「……その事も知ってたのねシャル……さん。……えっとね、あと1年ぐらい……かな。私みたいな特異体質のモンスターは10歳で命が尽きるって聞いた事あるからその前に闇の祝福を与えて贄の役目をさせるのが普通なんだって」


「たったそれしか生きられないんですか……」


 悲痛そうに顔を歪ませるシャル。


「うん……でもお願い。その事はかーさまたちにはまだ言わないでほしいの」


 哀願するようにシャルに頭を下げるリラ。


「えっと、リラちゃんが言いたくないのなら言わないですが……どうしてですか?

 私としてはすぐにでも皆さんに相談して解決策を考えてもらった方がいいかと思うのですが……」


「……怖いの」

「怖い?」

「うん、あたしが長く生きられないってわかった途端、かーさまたちに見捨てられるのが怖いの」


 リラがつぶやいたのは、まだ家族の一員になったばかりなのに『すぐに死んでしまう欠陥品』だという事がわかった途端、すぐに捨てられてしまうのでは無いかという不安。

 勿論、ミノリたちがそんな事をするはずがないのだが、今日は家族として迎えられてまだ初日。不安に思うのも仕方ない。


「みなさんすっかりリラちゃんの事を大切な家族だと思っているようですから大丈夫だと思うんですが……わかりました。リラちゃんがそう思っているのなら」

「うん、みんなに言う勇気が出た時にちゃんと話すね。ありがと、シャルおねーちゃん」

「!?!」


 ネメの嫁という立場上、義理という扱いにはなるが、シャルもまたリラの姉となる。なのでシャルの事も姉とリラが呼んだ瞬間、シャルの顔がまるで紅葉のように赤く火照ほてった。

 どうやらそう呼ばれるとは思ってもいなかったようで初めての感覚に戸惑ってしまったようだ。


「シャルおねーちゃん、顔真っ赤?」

「へっ、あっいや、なんでもないですよ!?」


 なんでもないと否定しながら、慌てたように手と顔を横に激しく振るシャル。


「……そっか」


 明らかに動揺しているシャルだったが、リラはそれについて疑おともせずに素直に納得してくれたようだ。


(あーまずい……なんだか呼ばれ慣れていない『おねーちゃん』という響きが新鮮すぎて何か目覚めそう……いや、今はひとまず落ち着こう)


 新たな属性が目覚めようとしている心を一呼吸置いて落ち着かせてから、天井を見上げながら何か考え事を始めたシャル。


(……多分、私ではあまり力になれないとは思うけど、自分なりに解決方法を調べようかな。私もリラちゃんの事、なんとかしてあげたいし。

 ……それにしても、私もすっかりお姉様たちの考えに感化されちゃったなぁ。昔の私だったら他人の事なんて基本的にどうでもいいはずだったのに)


 普通のモンスターは自分中心に物事を考えるため、他人の生死についてはわりとどうでもいいものだ。しかし今のシャルはリラのために解決策を考えている。


 シャルもまた、ミノリたちと共に過ごしていく内に段々と物事の考え方までミノリたちの影響を受けて段々と人間くさくなってきていると気づき、知らずの内に笑みがこぼれるのであった。



 ******



 その後、寝室の支度を終えたミノリとネメが居間へ戻ってくると、リラが舟をこいでいた。どうやらこの家で過ごすことへの緊張感も無くなったのだろう。


「ほらリラちゃん、そこで寝ちゃうと風邪引いちゃうよ。一緒にお布団で寝ようね」

「うみゅ……」


 今にも寝落ちしてしまいそうなリラを抱っこしたミノリ。


「それじゃネメ、シャル。私とリラは先に寝るから後はお願いね」

「承知」

「あ、わかりましたー」


 今日最後に入浴する予定のネメとシャルにお風呂の片付け等をお願いしたミノリはリラを抱っこしたまま寝室へと向かった。


「リラちゃん、どこで寝る? 好きな所でいいよ」

「ふみゅぅ……。かーさまの上がいい……」

「私の上? 構わないけれど……本当にそこでいいの?」


 リラが寝たいと言った場所はミノリの上で、ミノリに覆いかぶさるように寝たいとの事だった。


「みんなで寝る時、あたし……背中の羽、邪魔になっちゃうから」

「あ、なるほど……別に構わないよ」

「かーさま、苦しかったらごめんね」

「ううん、私は平気だよ」


 リラを不安にさせないため、ミノリは先に横になると後からミノリの上に覆い被さってきたリラの頭を優しく撫でた。

 普通に考えれば、リラの体重がかかるので下になるミノリは息苦しくなるものなのだが、リラがあまりにも軽かったため、重みを全く感じなかった。


 また、羽が邪魔だからと言ったものの、リラの羽は閉じればそこまで邪魔になるサイズだとはミノリは思えず、きっとまだ我が家に完全には慣れておらず、自分の落ち着ける寝場所を決められないという気持ちもあったに違いないとミノリは判断した。


「あ……いいなぁリラちゃん。でも私お姉ちゃんだもん。我慢我慢……」


 暫くするとお風呂から上がったトーイラが寝室へとやってきて、ミノリの上という特等席にいるリラを見るなり小声で羨ましそうにつぶやいたが、新しくできた妹にその権利を譲ることにしたようだ。よくできたお姉ちゃんだ。


 そんなトーイラを見た後で再びミノリがリラに視線を向けると、いつの間にかリラは静かに寝息を立てていた。


「もう寝ちゃってる。……よっぽど疲れていたんだね」


 小声で囁きながらミノリが眠っているリラの頭を優しく撫でていると、お風呂から上がってきたらしいネメとシャルも寝室へやってきた。


「むぅ……リラとお話ししたかったのに」


 お風呂上がりにリラとおしゃべりしたかったらしいネメだったが、既に寝入っているリラを見ると残念そうな顔をした。


「残念だったねネメ。でも朝になったらいっぱいリラちゃんと遊んであげようね」

「いえっさ」


 ミノリ越しにそう言葉を交わすネメとトーイラを交互に見たミノリは、目をつむる事にしたのだったが……その前に一つ疑問が湧いてきた。

 それは一緒に寝るとは聞いていなかったシャルの事で、シャルはネメの隣で布団に入っていたので、ついミノリは尋ねてしまった。


「……あれ、そういえばシャルも今日は私たちと一緒に寝るの?」


 するとシャルは心外だと言わんばかりに眉を八の字にしながら口を開いた。


「ひどいですお姉様! あのですね。皆さんが一緒に楽しく寝てる中、一人別室で寝かされるとですね……寂しすぎるんですよ!!」


「……ってことはこないだの夜は……」

「つらかったです!!」


「えぇっと……ごめんね、シャル」

「ごめんシャル」

「シャルさんごめんなさい」


 別にミノリが悪いわけではないのだが、ミノリは思わずシャルに謝ってしまった。そしてミノリが謝った後に続けてネメとトーイラもまたシャルに謝罪してしまっていた。


(うーん、シャルには悪いことしたなぁ……家族仲良くでいる為に、これから色々気をつけていかないと……)



 まだまだ試行錯誤していかなくてはならないけれど、これからも家族全員が仲良く過ごせるよう頑張ろうという誓いを新たにしたミノリは、リラを胸の上で寝かせたまま、やがてまぶたを閉じるのであった。


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