10. 6日目② 初めて見る魔法。
家から少し移動して、畑を作る予定の場所まで来た3人。
「それじゃネメ、お願いね」
「うんわかった。おね……おかあさんは離れてて。トーイラは大丈夫だけど多分おね……おかあさんは危ないから」
(ん? 私は危ないけど、トーイラは大丈夫ってどういう事だろう……)
ミノリは少し疑問に思ったが言われたとおりにネメから離れることにした。
ネメはミノリが離れたのを確認してから詠唱を始めた。すると、ネメの体が光に包まれ、途端に地面が隆起し、そのまま畝が次々と自動的に作られていった。
「わぁ、すごい。魔法ってこんな風になるんだ……」
ミノリが感心していると……、
「あ!危ない!ママ下がって!」
トーイラが叫んだ。その声に思わずミノリが下がると先程までミノリが立っていた場所まで一直線に畝が出来上がっていた。
「わぁ危なかった……。魔法の範囲ってすごく広いんだね。声を掛けてくれなかったら怪我するところだったかも。教えてくれてありがとうねトーイラ」
その範囲の広さに驚きながらミノリは応えたが、ネメもトーイラもミノリの方を見ながらすごく困った顔をしている。
どうしたんだろう、と、ミノリが首をかしげていると……。
「んと……、お風呂も2人で作るからおね……おかあさんはおうちにいて」
ネメから突然の戦力外通告をされてしまったミノリ。
「え、でもそれじゃなにかあったとき……」
「大丈夫だよー。だからママはおひるごはん作って待ってて!お風呂作り終えたら運ぶのだけ手伝ってー」
トーイラにまでダメ押しをされてしまった。
「ま、まぁ2人がそう言うなら……。それじゃ、腕によりを掛けて昨日獲ってきたヤワニクウルフでおいしいご飯作っちゃうから気をつけて作業をしてね」
「うん、おねがいおね……おかあさん」
「ママのご飯楽しみー。それじゃネメ、早くお風呂の材料探しに行こう」
そう言うなり2人は手を繋ぐとあっという間に森の方へと走っていった。
森の中は不思議なことにモンスターが出てこない。なのでその点は大丈夫だろうとお風呂作りは2人に任せることにしてミノリはお昼ご飯を作ることにしたのだった。
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……一方、森の方へと走っていった2人、家から大分離れた所まで来た2人はそこで浴槽づくりを始めることにした。
「危なかったねトーイラ」
「そうだねネメ」
「畝にするために攻撃魔法使ったんだけど、あそこまで範囲が広いと思わなかった」
「あやうくママに怪我させちゃうとこだったね」
「魔法使う時は気をつけないといけない……」
「ママがかなり離れてる場所じゃないと危ないね」
「おね……お母さん巻き込んじゃって怪我させちゃったら大変」
「これぐらい離れてるなら大丈夫かなー?」
「大分遠くまで来たから多分大丈夫」
「それじゃお風呂作りはじめよー」
「うん」
……2人の意味深な会話は当然ながらミノリに聞こえることはなかった。
その後、浴槽を作り終えて戻ってきた2人と一緒に昼食を食べたミノリは、今度は3人で出来上がったばかりの浴槽を担いで家まで運び、設置を終えた。
「すごいねぇ2人とも、よく作れたね」
ミノリは感心して2人の頭をなでた。
「えへへー」
「にまぁ」
そのなでられる感覚がとても嬉しそうな2人に自分までホッコリとしてしまうミノリなのであった。
その後夕飯を食べてから3人で一緒にできたてのお風呂に入る事に。湯加減もあらかじめネメが使っていた火の魔法のおかげでばっちりだ。
「ふわぁ……気持ちいい……」
「うん……」
「ふにゃぁ……」
3人でゆったり浴槽の中で寛いだのであった。その後、3人はお風呂から出ると……。
「さあて、お風呂にも入ったし、それじゃもう寝ようか」
ミノリからすればまだ早い時間だが、まだ幼いネメとトーイラは十分な睡眠が必要だ。そのように考えたミノリは2人と共に早めの睡眠をとる事にした。
「「はーい」」
「それじゃ、準備してくるから2人はここで待っててね」
2人の返事を聞いたミノリが2人に待つように伝えると、寝室の方へ向かった。
……ミノリが部屋からいなくなるのを見計らってからトーイラがネメに小声で尋ねた。
「ねえ、ネメ」
「どしたの、トーイラ」
「斜め上に見えるあれ、消えた?」
「ううん全然。トーイラは?」
「同じ、消えてないよ。……ママは敵じゃないのにね」
「おね……おかあさんは味方なのに」
「どうしてこの視界に入るよくわかんない透明な板に書かれてる敵一覧からママの名前消えないんだろうね」
──他人には一切見えないのに2人の視界に入っている透明な板、それはミノリがこの世界に転生した当初、くれよ!と叫んでいた【ゲームウインドウ】の事である。
2人にとって、このウインドウは『なんなのかよくわからないけど、体力や所持品などを表示してくれる便利な透明の板』という認識だ。
……そしてこのウインドウには出現している敵の名前も表示されるのだが、その敵一覧には出会った当初からずっと2人の意志と関係なく、ただ機械的に『ミノリは敵』だと示し続けているのであった。




