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第74話 特級リフォーム!

「こちらがこの物件のオーナーのフランク様です」


 受付嬢はそう言って、お爺さんを俺に紹介した。

 ここのオーナー――フランクさん、わざわざ挨拶に出てきてくれたのか。

 別に話ができる日程さえ伝えてくれれば良かったんだが、なんだか申し訳ないな。


「はじめまして、マサトだ。わざわざ出てきてもらって申し訳ない。一つお話したいことがあるんだが……都合の良い日を教えてもらえないか?」


 とりあえず俺はそんな感じで自己紹介してみた。

 するとフランクさんは、にこやかな笑顔でこう口にする。


「ほっほっほ、今で構わんよ。どうせ暇な身じゃからのう。久々に若いもんと話ができて、良い気分転換になるわい」


 まさかのアポどころか、即交渉に入れるようだ。

 しかもこの人なら、交渉もしやすそうだ。


「で、ではありがたく。単刀直入に言うが……このアパート、リフォームさせてもらってもいいか?」


 聞いてみると……フランクさんは目を丸くした。


「リフォームのう……。このアパートは見ての通りの有様じゃからのう、お願いしたいのはやまやまじゃ。じゃが……申し訳ないが、儂にはそんな金は無い。せっかく訪ねてもらったのに申し訳ないが、無い袖は振れないんじゃ」


 そして彼はそう言いつつ、悲しげに首を横に振った。

 うん。これはほぼ交渉成立と見て良さそうだ。

 完全にこちらの都合で建築物に介入するのだから、元よりリフォーム代など取る気は無い。

 つまりフランクさんがリフォームを断念する理由は何もないのだ。

 あとは、こちらの条件さえ受け入れてもらえれば――。


「その点については気にしなくていい。リフォームはタダでやるからな。ただし、2点だけお願いがある」


「り、リフォームをタダでしてもらえるじゃと!? なんと畏れ多いことか……。して、その条件とは?」


「まず一個目は、元々2階建てのこの建物を4階建てにすること。ここに住んでる人には3階と4階に住んでもらいたいんで、全員の了承を得てほしい。そして二個目は……そうして空いた1階、2階部分を俺たちの料理店のスペースとして欲しい、というものだ」


 そんな感じで、俺は条件を伝えてみた。


「もちろん、もともとある部屋の間取りとかは変えないように作り変える。階が変わること以外は純粋なアップグレードにしかならないようにするから、そこは安心してくれ」


 更に念押しとして、そう付け加える。


「な、なるほど……飲食店を開きたくて、立地だけは良いこのアパートに目をつけたというわけじゃな。それなら確かに、お主が言う破格の条件も納得じゃわい」


 フランクさんはうんうんと頷きながらそう呟いた。


「儂にとっても、特に不利益になる点は無い。あとは住人次第じゃが、そちらも可及的速やかに話をつけよう」


 そして、快く了承してくれた。


「ありがとうな。良い返事を待ってる」


「礼を言うのは儂の方じゃ。住人の了承は何とかするから、楽しみにしておるぞ」


 仮契約書だけササッと交わすと、フランクさんはアパートに戻っていった。

 フランクさんの姿が見えなくなると、受付嬢がこう呟く。


「なるほど……あの建物を建ててしまわれるような方なら、そういう選択肢があるんですね……」


 彼女が指差す先には、俺が建てた例のビルがあった。


「でも……ありがとうございます! 今住んでいる人の賃料は流石に据え置きじゃないとダメでしょうけど、今後新しい人が入る時には共益費を上げれそうですから!」


 そう続けると、彼女は深く頭を下げた。

 そう言えば……オーナーさんと直で交渉しちゃったから、俺から不動産屋に入るお金は結局1イーサも無いのか。

 それでも不動産屋側にも利益があるなら、案内してもらった分のお返しはできてると言えるか。



 次の日は、種を買った作物及び残りの300ヘクタールで米を育てた後、焼酎や料理酒、酢、味噌、醤油、ビールなどを加工して開店のための材料準備を進めた。


 更にその次の日のこと。

 不動産屋から連絡をもらったので、俺はミスティナさんと共にフランクさんのアパートに赴いた。

 アパートの前では……フランクさんの他に数人の男女が屯していた。


「おお、マサト殿、来てくださったか。楽しみにしておったぞ」


「こちらこそ、全員の了承を取ってもらえて何よりだ」


 そんな風に挨拶を交わしつつ、握手をする。


「ところで……この人達は?」


「儂のアパートの住人じゃ。仕事のある者もおるから全員ではないが……リフォームが楽しみで、是非現場を見たいという者がここに集まっておる」


 聞いてみると、フランクさんは屯している人々の正体をそう語った。


「はじめまして。あの塔を建てた方がこのアパートをリフォームしてくださるんですって? 楽しみだわ!」


「住めば都とはいうものの……夏は虫が入るわ冬は吹雪が入るわで、なかなか大変ではあったからなあ。住心地が良くなると思うとワクワクするよ」


 どうやらみんな、リフォームに前向きなようだ。


 別にあのビルほど高くするつもりはないので、あまり期待されてもプレッシャーになるのだが……それでも、利害が一致しているだけ良いに越したことはないな。

 早速改築に入るとしよう。


「特級建築術」


 一昨日フランクさんから図面を貰っているので今の各部屋の間取りは頭に入ってるし、肝心の1〜2階部分の設計も昨日考えてある。

 そんなわけで、俺はすぐに「特級建築術」の発動に入った。

 スキルを発動すると……まずは建物全体がせり上がり、4階建てになる。


「な……! 一気に高さが……!」


「こんなことが可能だなんて……信じられないわ!」


 その様子を見て、住人たちは大興奮の様子だ。

 などとみんなの様子を見ているうちにも、建築は進んでいく。

 程なくして、1〜2階部分の外観及び間取り、内装が完成した。


「ここが私の職場……見てるだけでワクワクします!」


 隣では、ミスティナさんがキラキラと目を輝かせていた。

 そして最後は、建物の元々の部分であった、3・4階の居住部分だ。

 みるみるうちに、朽ちた木でできや屋根や壁が鉄筋コンクリートに変わり……日本の新築の家と比べても遜色無いような立派な建物へと変貌した。


「こ、これが私たちの住む所……」


「まるで貴族みたいだな」


「いえ、ひょっとしたら、貴族でもここまで凄い建物には住んでないんじゃ……?」


 住人たちは皆、口が半開きのまま新アパートに目が釘付けになっている。


「わ、儂のアパートがここまで立派な建物になるとは……。条件付きとはいえ、タダでやってもらったのが申し訳無さすぎるわい……」


 フランクさんもまた、目を見開いたまま固まってしまっていた。


「気にしないでくれ。経費はかかってないし」


 何なら物件の購入代金が浮いたくらいだしな。

 そんなことより、内部の紹介に移るとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 地面からせり上がり四階建てに・・・ いや、そうはならんやろ(なっとるやろがい
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