第69話 浮遊大陸を見学させた
書籍3巻、本日発売開始です!
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次の日。
ミスティナさんが到着すると、俺は今日の研修を始めることにした。
本日の研修内容は、俺の拠点を紹介して回ることだ。
実際にやってもらいたい業務はこれから開く料理店での調理だけだが、俺の活動の全容を知っておくことはその点においてもプラスになるだろうからな。
それにあの子は良い素材を前にするとテンションが上がるタイプだろうから、モチベーションアップの側面も兼ねてそんな研修に一日を費やすことに決めた。
まずは畑から。
「あそこに浮いてる土地が見えるだろう? アレが俺の畑だ」
浮遊大陸を指しつつ、俺はミスティナさんにそう説明する。
「ふ、不思議な土地ですね……。でもなんでそんな場所で農業を?」
「それは入ってみれば分かる」
俺はミスティナさんに浮遊大陸に乗るよう促した。
ミスティナさんは浮遊大陸に乗ると……途端に目が点になった。
「な……なななな何ですかこの土地は……!」
「これは浮遊大陸と言ってな、外から見ると小さいが中は異次元の広大な空間になっているんだ。この土地は魔力を注げば注ぐほど大きくなるから、際限なく農地を広げて大規模農業ができるわけだ」
「べ、便利過ぎませんかね、この土地……」
「便利なのは広さだけじゃないぞ。名の通り浮いてる土地だから、自分の居場所に自由についてこさせられる。だから俺は、農家だけど土地に縛られない」
「ああ、浮いてるってそこに繋がってくるんですか……。もはや反則的ですね……」
ま、そうは言っても農業ギルドとか諸々の関係で当面はここに住み続けるだろうがな。
というか、メインは土地の紹介ではなくここでの作物の育成方法紹介なのでさっさとそちらに移ろう。
「さて、ここで俺がどうやって作物を育てているかだが……」
俺はそう言いつつ、アイテムボックスから400ヘクタール分の種籾を取り出した。
米は日本食の根幹だし、今畑はサトウキビ栽培に適した状態になっているので土壌調整も見せれるため、今回は稲作をするのが一番良いと判断してのことだ。
「昨日言った『米』の場合はまずこうだ。低温の水に漬けて発芽を促し、それをまず狭い面積に蒔いて苗まで育てる。今やっているのは発芽を促す段階だな」
対物理結界で箱を作り、その中に種籾と水を入れながら俺はそう語った。
10度で十日間、30度で12時間「時空調律」で飛ばし、発芽の段階を終えた。
「……これで発芽の済んだ状態になったので、次は育苗だ」
「米の芽って、そんな一瞬で芽生えるものなんですか?」
「いや、十日くらいはかかるな。待っていられないので、『時空調律』という魔法で飛ばした」
「じ、時空調律……。『待っていられないので』なんて理由で使う魔法じゃないですよそれ……」
さあ、次の段階に進むぞ。
発芽した籾を植えるために、土壌の調整をしよう。
「この大陸の土地は、追加で魔力を投じながら念じるだけで簡単に地質を変えられる。たとえばこうすれば……育苗土の完成だ」
「す、凄い……一瞬見間違えかと思いましたけど、本当に土が変わってますね……!」
発芽した籾を蒔いたら、次は恵みの雨の出番だ。
「みんな、いつもの頼む」
「「「は〜い!」」」
「あの……マサトさんが『いつもの頼む』って言ったら雲が出てきたんですけど、これは一体!?」
シルフに指示を出し、恵みの雨雲を用意してもらっていると、ミスティナさんが急に困惑し始めた。
……あ、そうか。俺以外の人間には、シルフたちの姿は見えないんだった。
なんか良い方法はないかな。
「それは……ちょっと待っててくれ」
急ぎ超魔導計算機の百科事典で調べると、「顕現」というスキルに精霊を一時的に可視化する効果があることが分かった。
「顕現」
「こ……この人たちは一体!?」
「シルフという植物の精霊だ。訳あって、今はみんなにお手伝いさんをやってもらっている」
「しょ、植物の精霊……? お伽噺に出てくる『ドライアド』っていうのなら知ってますけど、現実にいるのはシルフって名前なんですね……」
「元々はドライアドだったが、世界樹を育てたらその実を食べてシルフに進化した」
「まさかのお伽噺の上位互換……。マサトさんって伝説製造機なんですか?」
……どういうツッコミなんだそれは。
ともかく、水田に植えられるところまで苗を育てないとな。
成長促進剤を用い、草丈15センチくらいまで苗を伸ばした。
「今のも『時空調律』ですか?」
「いや、今のは成長促進剤だ。そのほうが『時空調律』より品質が上がるからな」
「なるほど……。それにしては促進しすぎな気がしますけど……」
「1缶で最大1年成長させられるタイプだからな。少量でもこのくらいは成長させられる」
「……一年!? そんなの、大抵の作物は成長促進剤促進剤だけで育てきれちゃうじゃないですか……」
「そうだぞ。今日はこれから収穫まで稲を育てる」
「……とりあえず、マサトさんのやっていることが農業を逸脱した何かだということはよく分かりました」
なんでだ。どう見ても農業だろ。
ともかく、俺は大陸全土の地質を水田にすると、稲の苗を田んぼ全体に植え直した。
そして更に成長促進剤を用い、収穫期まで成長段階を飛ばした。
その稲を、自走式のコンバインで刈り取っていく。
「あんなごっついシルフもいるんですね。収穫担当ですか?」
「……いや、あれはシルフではなくて機械だぞ。コンバインといってな」
「あっすみません。見たこともない魔道具ですが……ご自分で作られたんですか?」
「ああ」
「伝説製造機の次は発明王ですか……」
俺別に何もしてないけどな。
コンバインに関しては、工場がひとりでに作っただけだし。
収穫が終わったら、次は見学場所の移動だ。
近いところから回るとすると、油田か工場かのどちらかの離島が候補になるが……流れ的に、まずは精米をしに工場へ行こうか。
「収穫した稲を精米するのが……こっちだ」
遠くにポツンと見える離島を指しながら、俺はそう言って工場まで案内した。
「わああ……近くで見ると巨大な建物ですね……」
「このくらい無いと、収穫物の量に対して加工が間に合わないからな」
「これ普通に建てると何年くらいかかるんでしょうね……。マサトさんなら、1か月とか言われても驚きませんが」
「1時間かかってないぞ。ちなみに最初に来てもらった建物も」
「い……え゛え゛!? そんなの、もうマサトさん一人で国作れるじゃないですか……」
国か……。そういえばドライアドたちがシルフに進化した時、俺国家元首として認められたんだっけか。
結局インペリアルエリクサーは飲んでないけど。
建物に入ると、まずはエレベーターホールに向かい、エレベーターで7階を目指した。
「設備もえげつないですね……。王宮でも多分、自動で階を登り降りできる装置なんて無いですよ……」
ミスティナさんは建物内の様子に結構興奮気味だ。
7階に着くと、俺は投入口からさっき収穫した米を全て入れ、精米にかけた。
しばらくすると、精米口から白米が出てきだす。
「これが米だ。昨日食べたやつは、こうやってできている」
「なるほど……参考になりました!」
工場見学を終えると、もう一つの離島である油田に移動し、「超級錬金術」でのボトルづくりを軽く紹介した。
これにて浮遊大陸関係の見学は全部終了だ。
それじゃ一旦休憩をはさんで、午後からはまた別の場所だな。




