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第47話 有用なアイテムがたくさん

 数十分後。


「結局百六十階層まで来ちゃいましたね……」


「ああ、そうだな」


 俺達は当初予定した階層までやってきた。

 途中、百四十階層あたりで一度バフが心許なくなったのだが、INTを上げてバフをかけるとまた問題なくなったので、ここまで進んできたのだ。


「階層探知」


 魔物の位置を知るためのスキルを発動し、最寄りの「▼」を目指して進む。

 最初に遭遇したのは、全ての吸盤から禍々しいオーラを発する巨大なタコの魔物だった。


「なんだあれ」


 よく分からないが、とりあえず攻撃を入れてみる。

 剣で一刀両断すると……タコの魔物が真っ二つになり、次第に光の粒子と化した。


「おおお、今回はなんか微かにマサトさんが動く残像が見えました! バフさまさまです!」


 ドロップ品が出現するのを待っていると、ヒマリがそう呟いた。

 感動するとこそこか……。

 しばらくすると、光の粒子の代わりにノートパソコンみたいなフォルムのドロップ品が出現した。

 残念ながら、成長促進剤ではなかったようだ。

 まあ、一発で目当ての魔物に遭遇できるとははなから思っていなかったが。


「鑑定」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ●超魔導計算機

 分子レベルのことから宇宙のことまで何でも計算できる汎用超速魔導計算機。

 多種多様なアプリがプリインストールされているため、初心者にも直感的に操作が可能

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 鑑定してみると、なんか頭が痛くなりそうな説明文が現れた。


 なんだこの前世を思い出しそうになるドロップ品は。

 せっかく第二の人生をエンジョイしている最中だというのに。


 しかし……前世のブラック企業への怨念はともかくとして、何かと役に立ちそうな魔道具であることに変わりはなさそうだな。

 積極的に何匹もさっきのタコを狩ろうとまでは思わないが、一応これは冒険者ギルドとかに売るのではなく自分で持っておこうか。

 超魔導計算機をアイテムボックスにしまいつつ、さっきのタコを表す「▼」に色が着くよう念じる。


<この階層にいる間、ギフテッドクトゥルフの所在地を示す「▼」を青色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


「階層探知」の画面上の4割くらいの「▼」が青色に変わったところで、最寄りの色が変わってない「▼」を目指すことに。

 次に現れたのは、頭上に禍々しい輪っかを持つ、漆黒の翼が生えた赤目の男の魔物だった。


 人間型か……。

 でもまあ「▼」のある場所にいるんだし、冒険者ギルドでは最深攻略階層が四十階だか何だかって聞いてるし、あれが人間ってことはないよな。


 とりあえず、一刀両断でいいか。

 斬ってみると、その魔物も光の粒子へと変わりだした。

 うん、問題なかったようだ。

 しばらく待つと、今度はドロップ品として薬瓶のようなものが出現した。


「鑑定」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ●インペリアルエリクサー

 国家元首のみが飲める不老不死の薬。善政を敷く限り永遠に生きられるが、悪政を一度でも意図的に行った途端効果がなくなる。本来の寿命を超えている状態で悪政を行った場合、その瞬間即死する。あらゆる政治形態において有効

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 調べてみると、そんな薬であることが判明した。


 なんかすごい薬だが……あんま自分には縁が無いアイテムだな。

 これはギルドに売却でいいか。

「善政を敷く限り」という条件がついている以上、これが国王とかの手に渡ったからといって何か自分に不利益なことが起こるとは考えられないし。


 てかこれ、飲める対象が「国家元首」ってことは、仮に前世の日本みたいな政治形態の国の場合どうなるんだろうな。

 天皇も厳密には国家元首がどうか意見が分かれるところだし……誰も飲めない、みたいな事態でも発生するのだろうか。


 考えてもしょうがないか。

 これもアイテムボックスにしまいつつ、さっきの羽の生えた男を表す「▼」に青とは別の色が着くよう念じる。


<この階層にいる間、神試九浪のルシファーの所在地を示す「▼」を赤色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


「階層探知」の画面上の2割くらいの「▼」が赤色に変色したので、依然色がついていない「▼」を目指していくことにした。

 しばらく歩くと、色がついていない「▼」の地点に到着した。

 そこにいたのは、全身真っ黒で目が赤く光る半透明の大熊。

 異様な見た目に、俺は少し面食らってしまった。


「なあ、あれ、向こう側のダンジョンの壁が透けて見えてるんだが……」


「ああ、あれは実体を持たないタイプの魔物ですねー。ああいう魔物は、攻撃の瞬間だけ実体化するので、カウンターでしかダメージを入れられないんです」


 聞いてみると、ヒマリがそんな解説をしてくれた。

 実体を持たないタイプの魔物、か。

 最初は不気味だったが、解説が入るとなんか得体の知れない怖さみたいなのも薄れた気がする。

 やっぱりヒマリを連れてきてて正解だったな。


 しかし……「カウンターでしかダメージを入れられない」とはいうが、せっかく物理攻撃無効貫通なんてものを付与したんだ。

 その剣で攻撃しても尚そうなのかは、試してみる価値がありそうだ。


 というわけで、俺はその熊を一刀両断してみた。

 すると……熊は真っ二つになり、断面から次第に光の粒子へと変わりだした。


「……って、なんで斬れるんですか!?」


「物理攻撃無効貫通を付与してれば、実体のない状態でも斬れるかと思ってな。試してみたらいけたってだけだ」


「物理攻撃無効貫通って、物理攻撃だけを無効化する魔物にしか効かないはずでは? さっきのは、実体の無い状態だと全攻撃無効ですよ!?」


「じゃあINTの影響で魔法の概念の範囲が拡張されたんじゃないか?」


「もうなんか無茶苦茶ですね……」


 斬れないと言われた魔物を斬ったことに対して驚かれたので説明すると、ヒマリは若干引き気味にそう呟いた。

 まあ俺も、我ながら「魔法の概念の範囲」って何のこっちゃって感じなので、多分説明の仕方が下手くそだっただけなのだが。


「もうなんかマサトさん、鍛冶師になっても大成功しちゃいそうですね……」


 それはどうだろうか。


「実体を持たない魔物って、何階層くらいから出現するんだ?」


「そうですねー、このダンジョンの感じだと……一番弱い奴でも、六十階層とかじゃないですか?」


「じゃあダメじゃないか」


 最深攻略階層が四十台なのに、六十階層以降にしか出てこない魔物に効果のある剣なんか作っても需要がないのでは。

 などと会話している間に、ドロップ品が出現した。

 現れたのは、アタッシュケースみたいな見た目のアイテムだ。


「鑑定」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ●シュレーディンガーのカードケース

 開けるまで中身が確定しないカードケース。

 開けた瞬間、入っているカードの種類が確定する。

 入っているカードは何のカードの時も「一種類が百枚」であり、一つのケースから複数種類のカードが出現することはない。

 一度中身が確定すると、その後は何度開閉しても中身が変わることはない(次ページ→)

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 現れたのは、そんな説明文だった。


「次ページ→」を押すと、このケースから入手可能なカードの一覧とそれぞれのカードの出現確率の一覧が出てきた。

 俺が知ってるカードは、ワイバーン周遊カードとダビングカード双方が入っていた。

 ちなみにワイバーン周遊カードの出現率は5%、ダビングカードの出現率は1%だ。


 これは……もしかしたら、今後はさっきの熊が今後の主要なターゲットになる可能性が無きにしもあらずだな。

 俺達はより効果の高い成長促進剤を求め、ダンジョン深層に来ているわけだが、そのような成長促進剤が必ずしも存在するとは限らない。


 だがもし見つからなかったとしても、このドロップ品から大量のダビングカードを手に入れ、成長促進剤1HA3Mをひたすらダビングしまくれば、少なくとも八十一階層で蛇の魔物を狩りまくるよりは効率的に成長促進剤を入手できるわけだ。


 まあ、まだほんの少ししか探索していないんだし、その方法が最適だと決めつけるのは時期尚早だがな。

 まずは本命の、より効果の高い成長促進剤を見つけるのが第一優先なのは変わらない。

 仮にそんな成長促進剤があったとしても、このアイテムからはワイバーン周遊カードも大量に手に入れられるので、コールに渡す用に定期的に狩りに来ることにはなるだろう。


「それ、どんなアイテムだったんですか?」


「こんなやつだ」


 ヒマリがアイテムの内容を聞いてきたので、俺は鑑定文を見せることにした。

 鑑定スキルで表示される文章は本人にしか見えないのだが、光魔法を使ってホログラムみたいにすることで、擬似的に鑑定を他人に見える形にできたのだ。

 DEX無量大数さまさまだ。

 画面を見ると……ヒマリは難しそうな顔でこう呟いた。


「へえ……豪華っちゃ豪華なんですけど、なんか不便ですね。目当てのカード百枚組が手に入るまで、ひたすらさっきの熊を倒さないといけないんですよね……」


 ……ああ、そこか。

 実を言うと、その部分に関しては一つ、使えそうな解決策があるんだよな。

 人生リスタートパッケージを眺めていた時に、印象に残っていたスキルが一つあるのだ。

 今までは、使う場面がさっぱり思いつかなかったが、もしや……。


「乱数調整」


 俺はそのスキルを発動しつつ、頭の中で「ダビングカード来い!」と念じながらカードケースを開けた。

 すると……カードケースからは見事、百枚のダビングカードが。


「やっぱりな。そういうスキルだよな」


 どうやらスキル名に対する先入観は合っていたようだ。

「乱数調整」はおそらく、確率的な事象を制御し、狙った結果が得られるスキルだ。

 偶然かもしれないが、1%を的確に引けたということは、スキルの恩恵であった可能性がまあまあ高いだろう。


「『そういうスキルだよな』……? まさかマサトさん、今カードの種類を狙って当てたんですか!?」


「ああ、そうだ」


「え、ええ……」


 ヒマリは目が点になって固まってしまった。

 ……これが実は偶然で、次狙ってみたら全然違うカードが出てきたりしたらちょっと恥ずかしいな。

 とりあえず、もう一体さっきの熊の魔物を倒すか。

 どうせならワイバーン周遊カードも百枚くらい欲しいし、「乱数調整」が本当に狙ったカードを手に入れられるスキルなのかも検証したいからな。


<この階層にいる間、アサシンベアの所在地を示す「▼」を黄色で示します。色を変更したい場合は「オプション」から行ってください>


 脳内アナウンスと共に、残りの「▼」は全て黄色となった。

 この階層には今まで出会った三種類の魔物しかいないようだ。

 俺は黄色の「▼」を一個通るルートで昇降機のところに戻ることにした。

 その「▼」でまた熊を倒し、「乱数調整」を発動しながらカードケースを開いてみると、確かにワイバーン周遊カードを百枚手に入れることができた。


 これが双方偶然だとすると、俺は0.05%を引いた計算になるのだが、流石にそれは有意水準1%で検定しても信頼区間外になりそうなので、「乱数調整」にはちゃんと効果があると結論づけていいだろう。

 昇降機まで帰ってくると、次の階層に行くことに。

 次はお目当ての成長促進剤が見つかるといいな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  神試九浪のルシファーはひどいww まさかこんなところで彼の名前を聞くことになろうとは。金子くんもよもやこんなふうにモンスター名にされているとは夢にも思っておるまい。
[一言] 超魔導計算機予想以上にノートパソコンだったw
2022/04/16 12:05 退会済み
管理
[一言] ダンジョンを鑑定して 求めるものをドロップする魔物が居る階層を 解析したり出来んもんか(明後日の方を見ながら
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